• 検索結果がありません。

5-1. 序

ドキュメント内 平成 30 年 7 月 (ページ 95-150)

中国では、建国後から 1990 年代まで国が都市住宅の計画、建設、分配、管理の主体 となり、単元式住宅と呼ばれるユニット設計の中層集合住宅が大量に建設され、公有住 宅として単位を通じて職員に分配された。特に、1980 〜 1990 年代に建設されたものが 多いが、1990 年代の都市住宅制度改革によって居住者に払下げられ、私有化が進んだ。

しかし、住宅性能は高くなく、住民による住戸の自主改修も多い。

 第 3 章において、単元式住宅の大量建設期に形成された北京市の社宅団地(CS 団地)

での調査をもとに、単元式住宅における高齢単身・夫婦世帯の住戸改修実態を分析した。

その結果、住戸プラン変更につながる住戸の壁の改修が行われ、特に水回り空間の改修 が多いこと、また、小方庁住宅 (I 型 ) では水回り空間の改修によって、子世帯との交 流や趣味活動を高めていることが明らかになった。また、第 4 章では、高齢者世帯の住 まい方と住戸改修との関係について、子との交流や依存の度合いをともに世帯のタイプ を「依存型」「独立型」「中間型」に分けて、各型の在宅生活を支える住戸改修のあり 方を考察した。その結果、厨房・前室・トイレ・庁の一体的な改修が見られ、高齢者の 生活利便や子世帯等との交流時の快適性を高め、在宅生活を支える有効な改修手法と言 えること、また、こうした改修には水回り設備の全面的な更新が必要であり、適切な技 術開発・普及が求められることを指摘できた。

 本章では、第 3 章で分析した CS 団地の高齢者世帯 26 世帯について、住戸改修工事に おける団地管理会社のルールとの対応、内装工事業者と施主高齢者世帯との役割分担に 注目し、改修工事のプロセスの実態と課題を明らかにすることを目的とする。さらに、

今後必要とされる高齢者世帯の住戸改修を支援する組織、プロセス、連携手法の可能性 について検討を行う。

5-2.研究対象と方法

(1) 研究の対象

本章は、CS 団地の高齢者世帯の住戸改修について、改修工事の内容とプロセス、関 係者の役割分担、改修規定・監督行為等に注目し、分析を行なう。

 研究資料は、① CS 団地の住戸改修工事の調査記録、②周辺工務店の業務情報、③高 齢世帯 (I3C3) 工事記録、④ CS社第三物業管理ステーションが定めた改修工事に関する 規定等の資料である。

①は、第 4 章で分析した 26 戸世帯に補充調査を行い、工事の依頼経緯、工事内容、

住 戸 の 工 事 へ の 評 価 を 把 握 し た も の で あ る (2015 年 9 月 ∼ 2016 年 1 月、2017 年 3 月、

2018 年 5 月 )。②は①の調査で把握した工事を請け負った工務店 (3 店 ) の訪問または 電話インタビューを行い、業務内容、施工プラン等の情報をまとめたものである (2017 年 3 月 )。③は 2014 年に改修を行った高齢者夫婦世帯 I3C3 が工事前に工務店と打ち合 わせた際に記録した工事プロセスに関するメモである (2016 年 1 月 )。④は CS 社第三物 業管理ステーションを訪問収集した改修規定と監督責任に関連する資料である (2018 年 1 月 )。

(2) 研究の方法

まず、住宅改修経験のある高齢者世帯 26 戸の調査結果にもとづき、住戸改修工事の 概況を把握する。次に、業者情報を把握できた工務店(A・B・C 店)を利用した 11 戸 の世帯について、利用した工務店の業態と工事内容を明らかにする。特に、そのうち、

住戸プラン I 型(小方庁 + 南面 1・北面 1 屋)5 戸を取り上げ、水回り空間の改修工事 の実態を捉える。さらに、I3C3 の世帯主が記録した工事メモをもとに、直営型の改修工 事プロセスの実態と課題を明らかにする。最後に、住戸改修における住民・工務店・業者・

管理部局の役割を見直し、高齢者世帯の住戸改修を支援する仕組みについて検討する。

5-3.改修工事の発注形態と工務店の概要

中国都市部では近年、内装工事を手がける大手の「装修公司」(内装会社)が増加し ている。対象物件は主に新築の住宅や団地であり、複数の建材メーカーと連携し、設計・

施工を一貫して行う。高仕様で工事費は高いが、新築物件の内装工事の主流となってい る。

 これに対し、高経年団地の高齢者世帯の住戸改修では、小規模な物件と工事費の節約 から、改修工事の請負を「施工隊」と呼ばれる工務店と専門業者に発注することが多い。

CS 団地に出入りする工務店 3 店 (A 店、B 店、C 店 ) へのヒアリングから、工事の発注形 態について、「一括発注型」、「一部分離発注型」、「直営型」の 3 タイプが確認でき

工務店

a

b

c

...

工務店

a

b

c

.. .

d

d

工務店

a

b

c

...

一括発注 一部分離発注 直営型

発注

発注

協力 協力

発注

発注

業者名(仮称) 開業年 業務内容 従業員数

A店 2000 建築金物の販売をしながら、内装工事の

業務も請け負う。 12名

B店 2004 小さな工房を持つ内装工事の専門店であ り、ソファーや収納棚等の木工事も請け

負う。 8名

C店 2010 店を持たない小工務店である。経営者は 地元民でない。毎年3月∼10月に営業して

いる。 4名

発注形態工事の

取扱い業

請負業務

標準費用(円/㎡) 家具・家電の手配

と設置

物・水回内装金 り資材の手配

その他の内装資材 の手配

施工工事

一括発注型 A,B 1.2万円

一部分離発注型(1) A,B 8千円

一部分離発注型(2) A,B,C 4千円

直営型 A,B,C 3千円

図 5-1 住戸改修工事の発注形態 表 5-1 CS 団地周辺の内装工事業者の概要

表 5-2 工事発注形態的の取扱い業者と請負業務

た。( 図 5-1)。「一括発注型」は、工務店が施主の全注文を受け、各専門業者への発注 も取り仕切る。費用は 3 つの発注形態で最も高いが施主の手間は最も少ない。「一部分 離発注型」は、一部の工事を施主が専門業者に直接発注するもので、施主が発注する工 事の範囲について家具・家電のみ施主発注の場合と、家具・家電と内装金物・水回り資 材にまで及ぶ場合が見られた。「直営型」は、工務店に本体工事を頼み、専門業者には 施主が直接発注するもので、施主の手間負担が最も大きいが、改修費用は最も少ない。

なお、「一部分離発注型」と「直営型」でも工務店は施主発注の専門業者の工事に協力 し、配管や配線の調整などを行っている。

次に、業務情報を把握できた工務店 (A 店・B 店・C 店 ) の概要と発注形態を表 5-1、

5-2 に示す。A 店は相対的に規模が大きく、2000 年に開業してから、建築金物の販売を しながら内装工事の業務を請け負っている。B 店はソファーや収納棚等の家具工事も取

表 5-3 訪問調査対象の改修工事の概要

I2 IV

単身 I1CI I1C2 I1C3 I1C4 I1C5 I2C1 I3CI I3C2 I3C3 I1S1 I1S2 I1S3 1C1 1C2 1C3 1C4 1C5 ⅢC1 ⅢC2 ⅢC3 ⅢC4 IIIS1 IIIS2 IIIS3 IIIS4 ⅣS1

M74 M72 M70 M65 M63 M62 M81 M80 M65 M79 M78 M74 M62 M61 M84 M77 M76 M70

F71 F67 F72 F63 F61 F60 F76 F78 F62 F72 F65 F63 F78 F78 F71 F60 F60 F83 F76 F76 F70 F78 F78 F76 F70 F78

中間 中間 *独立 中間 中間 中間 中間 *依存 中間 中間 中間 *独立 *中間 依存 中間 独立 独立 中間 中間 中間 中間 中間 中間 依存 *中間 *依存

5 4 2 3 1 3 1 2 1 4 1 1 8 3 2 1 1 4 4 3 4 2 2 3 3 3

3m2f 1m3f 2f 3f m 1m2f m 1m1f f 1m3f m f 3m5f 1m2f 2m m f 2m2f 2m2f 3f 1m3f 2f 1m1f 3f 1m2f 1m2f 2009 2000 2008 2004 2006 2007 2010 2000 2014 2000 2010 2006 2014 2007 2008 1998 2008 2010 2009 2015 2012 2000 2013 1998 2009 2005 M68 M57 M63 M54 M52 M54 M76 M65 M64 F56 F59 F53 M78 M70 M68 M45 M54 M79 M71 M76 M67 F62 F75 F58 F63 F67

夫婦 同居

部2 部2 部2 部2 部2 部2

A B C C C A C C B C

あり あり あり あり あり あり あり あり あり なし あり あり あり あり あり あり あり あり あり あり あり あり あり あり あり

4 1.5 4 2 3 3 3 3 5 3 3 3 5 5 3 2 5 3 3 5 5 5 5 4 3

2 2 2 2 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 2 3 3 3 3 2 3 3 1 3 3

なし なし なし なし なし 兄+子 なし なし なし 子+近 子+近 子+兄

B B

B B

増築

なし なし なし なし なし なし なし なし なし

中間 中間 中間

やや

満足 満足 やや 満足 やや

満足 満足 やや

満足 満足 満足 やや満足 やや満足 やや不満 やや満足 やや満足 やや満足 やや満足 やや満足 満足 やや満足 満足 やや 満足 やや

満足 やや 満足 やや

満足 やや満足 業者への

発注概要

工務店へ の発注

発注形態

紹介者の有無 発注先

d 防水の新設

e′ 収納櫃の新設 f ′ 天井・壁・床の模様替 e 厨房食器棚の新設

a′ 壁の撤去・新設 b′ 配管・線の新設 c′ 設備・部品の更新 d′ 防水の新設

(無表記は現世帯型と同じ) 改修時の世帯主年齢と世帯型改修年 改修歴

子どもの人数

単身 世帯型

プラン型

住戸タイプ(*第4章の分析事例)

夫婦のみ

単身I1 II1

世帯記号 高齢者の年齢

II I1

家具業者 への依頼 水回り空 間の改修

(網掛け 部分は負 担を感じ た工事)

改修費用(千円/㎡)

改修期間(月)

施主以外の監督者の有無

f 天井・壁・床の模様替え g 増築

a 壁の撤去・新設 b 配管・線の新設 c 設備・部品の更新 収納戸棚 ソファー

凡例: ●該当あり  〇一部該当があり ー該当なし  △壁の撤去はあるが、新設はない  A・B・C:工務店 部2:一部分離発注型(2)   直:直営型   子:子世帯 兄:兄弟   近:近隣(団地内) 友:友人(団地内) 夫婦のみ

I3 夫婦のみ

屋の改修

工事への評価

工事の不安感 工事の疲労感 内装の質への満足度 厨櫃家具

改修 内容

A B C C C B A C C B C

I2 IV

単身 I1CI I1C2 I1C3 I1C4 I1C5 I2C1 I3CI I3C2 I3C3 I1S1 I1S2 I1S3 1C1 1C2 1C3 1C4 1C5 ⅢC1 ⅢC2 ⅢC3 ⅢC4 IIIS1 IIIS2 IIIS3 IIIS4 ⅣS1 M74 M72 M70 M65 M63 M62 M81 M80 M65 M79 M78 M74 M62 M61 M84 M77 M76 M70

F71 F67 F72 F63 F61 F60 F76 F78 F62 F72 F65 F63 F78 F78 F71 F60 F60 F83 F76 F76 F70 F78 F78 F76 F70 F78

中間 中間 *独立 中間 中間 中間 中間 *依存 中間 中間 中間 *独立 *中間 依存 中間 独立 独立 中間 中間 中間 中間 中間 中間 依存 *中間 *依存

5 4 2 3 1 3 1 2 1 4 1 1 8 3 2 1 1 4 4 3 4 2 2 3 3 3

3m2f 1m3f 2f 3f m 1m2f m 1m1f f 1m3f m f 3m5f 1m2f 2m m f 2m2f 2m2f 3f 1m3f 2f 1m1f 3f 1m2f 1m2f 2009 2000 2008 2004 2006 2007 2010 2000 2014 2000 2010 2006 2014 2007 2008 1998 2008 2010 2009 2015 2012 2000 2013 1998 2009 2005 M68 M57 M63 M54 M52 M54 M76 M65 M64 F56 F59 F53 M78 M70 M68 M45 M54 M79 M71 M76 M67 F62 F75 F58 F63 F67

夫婦 同居

部2 部2 部2 部2 部2 部2

A B C C C A C C B C

あり あり あり あり あり あり あり あり あり なし あり あり あり あり あり あり あり あり あり あり あり あり あり あり あり

4 1.5 4 2 3 3 3 3 5 3 3 3 5 5 3 2 5 3 3 5 5 5 5 4 3

2 2 2 2 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 2 3 3 3 3 2 3 3 1 3 3

なし なし なし なし なし 兄+子 なし なし なし 子+近 子+近 子+兄

B B

B B

増築

なし なし なし なし なし なし なし なし なし

中間 中間 中間

やや

満足 満足 やや 満足 やや

満足 満足 やや

満足 満足 満足 やや満足 やや満足 やや不満 やや満足 やや満足 やや満足 やや満足 やや満足 満足 やや満足 満足 やや 満足 やや

満足 やや 満足 やや

満足 やや満足 業者への

発注概要

工務店へ の発注

発注形態

紹介者の有無 発注先

d 防水の新設

e′ 収納櫃の新設 f ′ 天井・壁・床の模様替 e 厨房食器棚の新設

a′ 壁の撤去・新設 b′ 配管・線の新設 c′ 設備・部品の更新 d′ 防水の新設

(無表記は現世帯型と同じ) 改修時の世帯主年齢と世帯型改修年 改修歴

子どもの人数

単身 世帯型

プラン型

住戸タイプ(*第4章の分析事例)

夫婦のみ

単身I1 II1

世帯記号 高齢者の年齢

II I1

家具業者 への依頼 水回り空 間の改修

(網掛け 部分は負 担を感じ た工事)

改修費用(千円/㎡)

改修期間(月)

施主以外の監督者の有無

f 天井・壁・床の模様替え g 増築

a 壁の撤去・新設 b 配管・線の新設 c 設備・部品の更新 収納戸棚 ソファー

凡例: ●該当あり  〇一部該当があり ー該当なし  △壁の撤去はあるが、新設はない A・B・C:工務店 部2:一部分離発注型(2)   直:直営型   子:子世帯   兄:兄弟   近:近隣(団地内)   友:友人(団地内) 夫婦のみ

I3 夫婦のみ

屋の改修

工事への評価

工事の不安感 工事の疲労感 内装の質への満足度 厨櫃家具

改修 内容

A B C C C B A C C B C

り扱う内装工事の専門店である。C 店は従業員 4 名の小工務店である。4 つの発注形態 への店の対応は、A・B 店は全ての発注形態を請け負え、家具の製作・設置を別工事と して頼めるが、C 店は「一部分離発注型 (2)」と「直営型」しか行えず、他の専門業者 にも頼まなければならない。CS 団地の調査世帯では、A・B 店に発注した世帯は「一部 分離発注型 (2)」のみ、C 店に発注した世帯は「直営型」のみである。

ドキュメント内 平成 30 年 7 月 (ページ 95-150)