急速な高齢化が進む中国の都市部では、集合住宅ストックの多くを占める単元式住宅 において高齢者世帯の増加が著しく、その居住環境の改善が重要な課題になっている。
一方、中国では、家族の責任で老親を扶養することが社会原則であり、公共の福祉サー ビスは立ち遅れ、高齢者のニーズに対応しきれない状況にある。1979 年に始まった一 人っ子政策によって「421 家庭(両親 4 人・夫婦 2 人・子供 1 人)」と呼ばれる家族構 成が増加し、高齢者の扶養問題さらに深刻になる。このため、自宅で住み続けられる環 境をいかにつくるかが重要な課題であり、中でも配慮が求められる高齢単身・夫婦世帯 への対策は急を要する。
第 3 章では、CS 団地での調査をもとに、単元式住宅における高齢者世帯の改修実態につい て、高齢者の約 3 割がプラン変更につながる住戸の壁の改修を行っており、特に水回り空間 の改修が多い。改修率は前期高齢者の方が後期高齢者より高く、職員住宅と老職員住宅との 差はない。また、半分以上の住戸は壁の撤去や更新に及ぶ改修を行っている。住宅の自主改 修を行った高齢者は、未改修の高齢者に比べて定住意識が高い。プランの変更がある 22 戸 について、変更箇所を「厨房と前室の一体化」「庁と前室の一体化」「トイレの改造と庁の 拡張」「屋 ( 大屋・小屋・客庁 ) と陽台の一体化」「その他 ( 増築や庁・客庁の一体化 )」
の 5 項目に分けて整理した。さらに、I 型の水回り空間の改修による庁の改善方法 (「壁 面の確保」「採光の改善」「面積の拡大」) の特徴を明らかにした。
本章では、高齢者の住まい方や子世帯との交流と住戸改修との関係を解明することで、高 齢期の在宅生活における住要求を捉え、中国の都市住宅の環境整備のあり方を考察すること を目的とし、高齢単身・夫婦世帯の住まい方について寝室と生活拠点および子との交流時の 部屋利用を捉えた後、住まい方の変化と住戸改修との関係について事例考察を行う。
4-2. 寝室と生活拠点の利用
戸別調査を行った 26 世帯について、居室利用及び子との交流の概要を表 4-1、4-2 に、
また、住戸プランタイプ別の寝室、生活拠点の利用状況を図 4-1 に示す。夫婦世帯の就 寝形態は、別室就寝(以下、別寝)が 10 戸、同室就寝(以下、同寝)が 8 戸である。
寝室は大屋か小屋が充てられ、別寝ではすべて夫が大屋、妻が小屋(うち北側 8 戸)で 寝ており、同寝では大屋 5 戸、小屋 3 戸(うち北側 2 戸)である。また、生活拠点は、
同室 15 戸、別室 3 戸である。同室は大屋や客庁、庁を拠点として夫婦でお喋りや TV を 見て過ごしており、別室は妻が庁や寝室で裁縫などの趣味を楽しんでいる。ところで、
同寝 8 戸のうち後期高齢の 3 戸(「I3C2」、「II1C1」、「Ⅲ C2」)は以前に別寝してお り、また、別寝 10 戸のうち 70 代の 5 戸は別寝に不安を持ち、今後同寝に変えたいと考 えている。
単身世帯では、7 戸が寝室と拠点室を分け、そのうち 6 戸が寝室を北向きの小屋とし、
さらに 5 戸が南向きの居室に子のための寝台を置いている。特に、Ⅲ型の住戸は客庁と
表 4-1 戸別調査世帯の居室利用・子との交流の概要 (I 型 )
図 4-1 戸別調査世帯の住戸プランタイプ別の寝室・生活拠点の利用状況
表 4-2 戸別調査世帯の居室利用・子との交流の概要 (II・III・ IV 型 )
大屋が南向きで、小屋は唯一北向きだが、単身世帯の事例はすべて小屋に寝室を取り、
大屋は主に子の予備室としている。夫婦世帯の頃に別寝し、小屋を寝室としていたこと が単身になった後も固定化している。( 図 4-1、表 4-1・4-2)
4-3. 子との交流と部屋利用
調査対象世帯のうち一人っ子政策を受けた世帯が 8 戸あり、他の 19 戸は 2 人以上の 子がいる。最も近い子の居住地は、1 戸を除いて市内である。うち 12 戸は子が社区ま たは街道内に住み、ほぼ毎日訪問している。他の世帯も月数回以上は子が訪れている。
訪問時に家事の援助をしているものが 17 戸あり、うち 6 戸はほぼ毎日訪問し家事全般 を手伝っている。また、子の宿泊は訪問に比べて少ないが、先に触れたように、訪問時 の午睡用も兼ねて子の寝台を決めている世帯が 20 戸あり、うち 8 戸では子のための予 備室として大屋や小屋を充てている。
住戸型別に見ると、老職員住宅(Ⅲ型・Ⅳ型)はすべて 2 人以上の子がおり、子は社 区または周辺の街道内に住み、訪問頻度も 1 戸を除いてほぼ毎日訪問している。これに 対し、職員住宅(Ⅰ型・Ⅱ型)は世代がやや若く、一人っ子世帯 8 戸が属し、子が社区 または街道内に住むのは 3 戸のみで、訪問頻度も高くない。( 表 4-1・4-2)
4-4. 住まい方と住戸改修との変化
ここで、子との交流や依存の度合いに着目し、事例を選んで高齢者の住まい方の変化 と住戸改修との関係を考察する。調査対象世帯を、子の援助に強く依存して生活を送る タイプ(依存型)、子の援助を期待せず自立した生活を送るタイプ(独立型)、両者の 中間のタイプ(中間型)に分け、単身世帯と夫婦世帯からそれぞれ 1 事例、計 6 事例を 取り上げる ( 図 4-2 ∼ 4-7)。タイプ分けの方法は、「依存型」について、子供の訪問が 週 1 回以上で家事の全般的な援助を受け、かつ子供との交流を重視している場合とし、
「I3C2」「II1C2」「IIIS3」「IVS1」 の 4 戸 が 該 当 す る。 ま た、「 独 立 型」 は、 子 供 の 訪問が週 1 回未満で家事の援助は受けず、かつ子供との交流に重きを置かない場合で、
「I1C3」「I1S3」「II1C4」「II1C5」の 4 戸である。そして、これら以外の 18 戸を「中間型」
とする。
(1) 依存型の事例
・単身世帯 Ⅳ S1[F78( 病弱 )]( 図 4-2)
社宅払い下げの時は夫婦 2 人暮らしで、2004 年に夫が亡くなった。その翌年 2005 年 (F63) に住戸の改修を行っている。主な改修内容は、庁と客庁の間の壁を撤去して一体 化し、庁側を食事空間、客庁側を居間・接客空間とするとともに、大屋と小屋のドア位 置を客庁に直接向くように変更している。ただし、耐力壁の撤去について構造安全性の 確認は行われていない。
住まい方の変化を見ると、夫婦時は別寝で、夫は大屋、本人は小屋で寝ていた。食事 は庁で取り、ふだんの居場所はともに客庁であった。夫の死後、大屋は娘の訪問時の予 備室とし、本人は変わらず小屋で就寝している。食事は居場所である客庁で行うように なり、さらに改修後は庁側に食事空間を設けている。
本人は病弱なため、娘が毎日昼夜 2 回訪れて家事全般を行っている。娘は孫を連れて 来ることも多く、休日には孫がよくひとりで遊びに来る。大屋は昼寝の時に使い、泊ま ることはほとんどない。南面する大屋を子の予備室に充て、本人は北寝室としているこ とから、援助者である子世帯に強く配慮していることがうかがえる。
・夫婦世帯 I3C2[M80 歳 ( 健常 )・F78( 健常 )]( 図 4-3)
社宅払い下げの時から夫婦 2 人暮らしである。住戸の内装や設備の老朽化のため、
2000 年(M65・F63)に改修を行った。主な改修内容は、トイレの形状を変えてドアも前 室側に向け、庁の面積を広げた。前室はその分狭くなり、通路機能に特化した。庁には 円卓を置き、子供たちと大勢で食事ができる空間とした。
図 4-2 典型事例の住宅改修と住まい方の変化 ( 依存型 1-IVS1)
図 4-3 典型事例の住宅改修と住まい方の変化 ( 依存型 2-I3C2)
図 4-4 典型事例の住宅改修と住まい方の変化 ( 中間型 1-IIIS4)
図 4-5 典型事例の住宅改修と住まい方の変化 ( 中間型 2-II1C1)
図 4-6 典型事例の住宅改修と住まい方の変化 ( 独立型 1-I1S3)
図 4-7 典型事例の住宅改修と住まい方の変化 ( 独立型 2-I1C3)
住まい方の変化を見ると、改修以前は夫婦別寝で、夫は大屋、妻は小屋で就寝した。
食事やふだんの居場所はともに客庁であった。改修後、広くなった庁に食事空間を移し た。また、2008 年に妻が就寝中に急に体調を崩したことをきっかけに夫婦は小屋で同 寝するようになり、大屋はふだんの居場所として使うようになった。
夫婦はともに後期高齢者だが、自立生活を送っている。子は 4 人おり、市内に住む息 子や娘が週 1 回ほど訪れ、家事全般を行って夜も泊まる。妻は料理が得意で、改修で広 げた庁で子の家族との食事を楽しんでいる。夫はふだん大屋でテレビを楽しみ、外出は 少ない。
(2) 中間型の事例
・単身世帯 Ⅲ S4[F70 ( 健常 )]( 図 4-4)
社 宅 払 い 下 げ の 時 は 夫 婦 2 人 暮 ら し で、2007 年 に 夫 が 亡 く な り、2009 年 (F63) に 住 戸を改修した。改修内容は、厨房・前室・庁の仕切り・ドアを撤去して DK 空間とし、
客庁を陽台と一体化して面積を広げた。また、トイレの床を下げて庁との段差 150 ㎜を 無くした。
住まい方の変化を見ると、「Ⅳ S1」と同じく夫婦時は別寝で、夫は大屋、本人は小 屋で就寝した。食事やふだんの居場所はともに客庁であった。夫の死後も本人の室利用 は変わらず、大屋は子の訪問時の予備室とした。改修後は、ひとりの食事は DK の小卓 で済ませ、子の訪問時の食事は客庁に折畳みテーブルを広げて行っている。
本人は元気で、日中は散歩や麻雀によく出かける。住宅改修では子供と一緒に料理や 食事を楽しむことができるよう工夫した。子供 3 人のうち 2 人が同じ街道に住んでおり、
祝祭日は家族全員が集まって過ごす。特に、娘はほぼ毎日訪れて昼・夕食づくりを一緒 にする。娘は大屋でよく昼寝をするが、泊まることはほとんどない。
・夫婦世帯 Ⅱ1C1[M79( 健常 )・F78 ( 健常 )]( 図 4-5)
2010 年に結婚した高齢夫婦である。住戸はもともと夫の住まいであり、払い下げら れた 2 年後 (2000 年 ) に先妻が亡くなった。再婚後の 2014 年(M78・M77)に改修工事を 行い、内装や設備を一新した。主な改修内容は、トイレを全面更新してドアも前室側に 変えるとともに、厨房・前室・庁の間仕切りを撤去して庁を明るくした。また、小屋を 陽台と一体化し、厨房と陽台の間に壁を立てて仕切った。
住まい方の変化を見ると、改修前には大屋を子供の予備室とし、庁は夫婦のふだんの 居場所と食事空間としていた。夫婦寝室は小屋でそれぞれのベッドに別寝した。改修後 は、夫婦寝室を大屋に移して同寝するようになった。「I3C2」と同じく、加齢に伴いお