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ここで、フォレットの捉える相互浸透の過程とは、より具体的にはどのような過程とし て捉えられるのであろうか。相互浸透・相互作用の過程とは、個々人が相異を歓迎し、自 らの専門性や経験をお互いに語り合うことによって、生き生きとした各人の個性の提供と 受容が起こり、それぞれの相異が影響し合い交織し合って変化と成長が生み出される過程 で あ る 。 こ こ で 重 要 な 役 割 を 果 た す の が 、 個 と 個 、 個 と 全 体 と の 円 環 的 反 応 (circular

response)である。円環的反応は、単なる作用・反作用の過程ではない。円環的反応にお

いて重要なことは、自分が今反応しようとしている相手から返ってきた反応には、以前の 自分の反応も織り込まれて入ってきているということである。

フォレットはテニスのゲームを例として取り上げて、次のように説明している。A が

B

にボールをサーブする。Bはそのサーブをリターンするが、この

B

のサーブを返すプレイ には

B

自身のリターンの方法と同じ程度に、Aのサーブが大きく影響を与えている。A は

B

のリターンに対してさらにボールを返すが、この

A

のボールを返すプレイは、A自身の プレイと、一番はじめの

A

のサーブとそれに対して

B

が行ったリターンの行為によるもの となっている。ここでは、単にプレイが続いていくのではなく、相手からのボールを受け 取りそのボールの方向や強さ等に影響を受けつつ、さらにそこに自らの考えや行為が結合 されてプレイが継続していく過程が示されている。

このように、相互浸透の過程は、相手の考えや行為を受け容れ、影響を受けて変わりつ つ、そこに自らの考えや行為を結合していくという、お互いの思考や活動の限りない交織 の過程として捉えられるのである18。フォレットの捉える組織は、こうした相互浸透の過 程に基づく集団についての考え方に表れているといえるであろう。すなわち、フォレット における組織とは、固定的、静態的なものではなく、相異するものが相互に作用し、交織 し、相異性が統一体化されていく過程として捉えられるのである。

このようにして、お互いの相異する意見や考え方が作用し合い、交織し合って、一つの 新しい考え方が生み出されていく。そして、この円環的反応の過程でなされる変化と成長 が、組織を固定的なものから解き放ち、動的な過程、ダイナミズムをもつものに変えてい くとフォレットは説く。すなわち、相互作用の過程において他の相異性と結びつくことで、

個人は組織としての全体の中での役割を自覚するようになり、自己のもつ能力を全体に対 して積極的、建設的に貢献していくようになる。それは、個人が、「自我としての私」(the

self-I)から、諸力の1単位ではなく諸力の1中心である「全体を現す私」( the group-I)

へと成長していくことを示す。こうした全体への貢献は、個人的な達成よりもより大きな 全体としての満足感を得ることにつながり、個人のもつ潜在的能力が最も発揮されていく こととなる。組織がこのようなダイナミズムとなっていくときに、組織を構成する個々人 が、全体の中の存在としてその能力を最大限に発揮し、人間的に成長していくことを通じ て、組織も最大限の機能性を得て、大きな成果をもたらすこととなるのである。

フォレットの捉える組織は、あくまでも現実存在としての人間を捉えることに基づいて、

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個性として自律した個々人が変化と成長を成し遂げながら動いていく過程としての組織で ある。そこでは、人間的成長と組織の機能性は、結びついて共に実現していくこととなる19。 以上のフォレットの個人の捉え方、組織の捉え方を、背景とする哲学や思考、また管理 のあり方と共にまとめれば、以下の図表

2-2-1

のようになると考えられる。

図表

2-2-1 フォレットの個人の捉え方、組織の捉え方

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個を中心とする哲学や思考を基礎におく 実存するものとして全体の存在を認め、全体から個を 捉えなおす視点の哲学や思考を基礎におく

individualism(個人主義) new individualism

・孤立したばらばらな個として人間を捉える ・人間を抽象的なものではなく、必ず何らかの具体的な

・自己と他者は切り離された関係  組織に所属し、組織と繋がり他者と関わることで意味を

・個人と組織は「個人 対 組織」として分離し、  持つ存在と捉える

 対立する ・一人ひとりが異なる考え方、異なる能力をもち、その  相違性の関係の中で、自ら個性を持つものとして自律  した存在となるものと捉える

・組織の目的を支配者が決定し、その固定的 ・全体との関係にある個々人の相違性を組織の形成要因とする  な所与の目的に合わせて組織化が行われ ・相違性を前提とした自律した個々人の、相互に作用する  るときに、組織が最も機能すると捉える  過程=相互浸透の過程として、組織を捉える

↓ ↓

 固定的な組織観  ダイナミズムとしての組織観

・孤立した個人という対象を、いかにして最も ・組織を構成する個々人の相違性が、影響し合い交織し  有効に支配しコントロールするかを中心とす  合う相互作用の過程から、3つの組織原理の生成  る考え方や方法に基づいて組織化し、  を導き出し、それによって、個々人の人間的成長と

 管理する  組織の最大限の機能性を共に実現する

管理

従来の捉え方 フォレットの捉え方

個人

組織 背景とする 哲学・思考

出所)西村香織(2009)「『経験』とマネジメント-M. P. フォレットの創造的経験を通して」『経営行動 研究学会年報』第18号,127頁。

2-2

集団過程

これまで、フォレットの捉える個人と組織について理解を試みてきたが、では、フォレ ットは、個人と組織や社会はどのように結びつき動いていくと捉えていたのであろうか。

このことはまさに、本論文の研究テーマである経験と統合の考えにつながっていくもので ある。フォレットの経験と統合の考えについては、第

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章において詳しく述べていくが、

ここでは、その基礎とも捉えられる集団過程について見ていきたい。

フォレットは、個人が組織または社会との結びつきにおいて生かされながら成長し、組 織や社会も前進していくことは可能であると考えて、実際にはいかにして可能となるのか を、集団過程として説いている21。集団過程は、三つの組織原理によって動いていくもの として把握される。その三つとは、「集合的アイディア(collective idea)」の生成、「集合

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的フィーリング(collective feeling)」の生成、「集合的ウィル(

collective will)」の生成

である。この三つの原理によって、個人が全体における自らの存在の意味を理解し、自ら 意思決定してその役割を果たし、全体のために貢献していく過程を、解き明かしていくの である。

「集合的アイディア」とは、相互作用の過程を通して相異性が統合されて創り出されて くる、組織としての共通の考え方である。「集合的アイディア」は、個々の考え方を合わせ た単なる総和ではない。フォレットは、この集合的アイディアの本質的特徴は、「一つの同 じ考えが共有されているということからくるのではなくて、共同で生み出されたものから くる」ということであると説く22。組織は、共通の考え方から形成されるのではなく、そ の本質は、全体の中の相異性を相互浸透させていく過程から、集合的思考を共同で生み出 していく統一化の過程なのである。そして、こうした相互浸透の過程、交織の過程から集 合的思考が生み出されていくということ、これがフォレットの捉えるアソシエーションの 原理となる。

しかし、このような相互浸透や交織の過程から集合的思考を生み出すことは、簡単に行 われることではない。フォレットは、真の集合的考え方を得るためには、自分の中にある ものを提供して貢献することが求められると唱えている23。いかなるメンバーも、受動的 ではありえず、全員が積極的でなければならない。しかも建設的な意味で積極的でなけれ ば、集合的思考を生み出すことはできないとフォレットはいう。つまりそれは、自分の役 割を果たすためだけに参加するということではない。個人の捉え方のところで見たように、

もともと、自分の果たすべき役割は、全体の中での自分の占める位置を発見することであ る。したがって、建設的な意味で積極的であることとは、他のすべての人々と関係をもち、

他の人々の意見を受け容れ、自らもまた積極的に意見を出して交織を行い、過程において 結合していくために必要な役割を果たしていくということである。一人ひとりのメンバー が建設的な意味で積極的になって交織するとき、「包括的に考える見方」が生じる。この包 括的に考える見方によって、相異性が統合され、集合的思考が生み出されていく。集合的 思考の生成は、特殊なものから統合された全体的なものへの見方の前進によっているとい える。同時に、その前進においては、人々の潜在的な力の解放が生じている。統合された 考え方として生成される集合的思考は、確かに共通の考え方として生じてくるが、それは また、新しい相異性の柱となり、人々をますます広範な活動領域に導いていくことになる。

より広められ高められた活動領域において、人々は潜在的な力を発揮して相異性はさらに 充実していくことになる。フォレットが集団として捉える組織では、統一化によって相異 性はなくなるのではなく、個々人も常に変化し成長し、人々の相異性はますます充実して いくのである。

「集合的フィーリング」と「集合的ウィル」は、この「集合的アイディア」の生成過程 から生み出されてくる。「集合的フィーリング」とは、共にあるという感情、すなわち「真 の共感(true sympathy)」を意味している。真の共感の起源は、「集合的アイディア」の

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