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3.臨界ゆらぎと相転移現象の発生機序に対 する動作学的アプローチ

ドキュメント内 STM:JMLS:JMLS2k:4_JMLS:jmls.dvi (ページ 72-80)

実験3:リズミカルな上肢の反復運動における一般

的な制御特性

目的 これまでの実験では,臨界ゆらぎや相転移な どの協応ダ イナミクスが,「いつ・どのように生じる

か」ということを明らかにしたが,その発生機序に ついて考察できるものではなかった.そこで本実験 では,本研究で一貫して採用しているリズミカルな 上肢の反復運動の制御特性を運動の速さと大きさ,

つまり動作周波数と動作振幅の変動性( 変動係数 ) から検討し ,個人間の協応事態で観察された臨界ゆ らぎや相転移の発生機序について,動作学的にアプ ローチする.

方法 12名の被験者それぞれに,個人が最も快適と 感じるセルフペース(sP)と,可能な限り速く反復 運動を行う最速ペース(maxP),さらには,被験者 がセルフペースから任意に3回のペースアップ(Pu)

を行う3条件を要求した.

結果と考察 図5には,sPとmaxP条件における周 波数と振幅の変動性をプロットした(この図で,変 動性の指標である各変動係数は,逆正弦角度変換し た値を用いた ).sP条件における周波数変動と振幅 変動の分布はいずれも同等なレンジに分布している ことが分かる一方で,maxP条件では,周波数変動 はsP条件時と同等な変動レベルを示すものの,振幅 変動は明らかに周波数より高い変動値を示した.こ の結果から,両ペーシング条件における制御様相に ついて言及すると,sP時は運動の速さと大きさを一 つのまとまりとして制御しているのに対し ,maxP 時は,運動の速さに運動の大きさが従属する形で制 御されていることを示唆していると考えられる.つ まり,同一動作課題内にあっても,sP条件とmaxP 条件下では,その運動を制御する様相に違いがある ことを示している.又maxP条件で示された振幅変 動の増加は,協応主体となる個人の振幅が不安定に なることを意味しており,これがペア間の協応関係 が不安定なる臨界ゆらぎの一因であるとも考えられ る.そこでsP条件とmaxP条件で示された異なる 制御様相がど の周波数帯から生じ始めるかを検討す るため,Pu条件のペーシング課題から,その周波数 帯を特定することとし た.

5: (a)セルフペース条件と(b)最速ペース条件 における動作周波数と振幅の変動性.変動性 の指標である各CVの値は,逆正弦角度変換 した値を用いた.

個人間の協応特性 73 図6には,Pu条件における周波数と振幅の変動性

をプロットした.この分布様相から振幅変動が増加 傾向に転じる周波数を見い出すひとつの方法として,

両変数に関する近似曲線を求め,両曲線が交わる周 波数を算出した.その結果,振幅変動が増加傾向に 転じる周波数は約1.23Hzと推測された.そして,こ の値の妥当性を検討するため,χ2検定を行い検証し たところ( 表2).前述の約1.23Hzよりも比較的速

い1.0Hz帯から「振幅変動が周波数変動より大きい」

事例が多数であることが示された.

6: ペースアップ 条件におけ る動作周波数と振幅 の変動性

以上の結果から,個人間で観察された臨界ゆらぎや 相転移の発生機序について考察すると,高い動作周 波数帯で観察された個人間の協応事態における臨界 ゆらぎは,ペア間の協応関係が不安定になることを 意味しており,動作学的に,その要因は振幅変動が増 加することによって生じることが考えられる.つま り,この振幅変動の累積が臨界ゆらぎと考えられ,ひ いては相転移を誘発する引き金になると考えられた.

4.おわりに

本研究は,共振と主従という日常で観察される個人間 の協応形態に配慮し ,それらの協応特性の比較から,

逆説として,人間における基本的な協応ダ イナミク スの枠組みを体系的に捉えようとするものであった.

本研究も含め,従来の協応研究で採用された協応位 相は,RPが0と180という比較的単純な位相で あるため,これまでに協応研究で明らかにされた知 見を複雑なスポーツ運動に適用するには,「未だ慎重 になるべきだ 」とする指摘もある.しかし強いて述 べるなら,複雑なスポーツ運動の場面においてさえ,

一連の動作に時間的な拘束( 時間圧)を与えること で,他の協応主体の動きを引き込んだり,方向づけ たりすることができると考えられる.例えば,コン ビネーション・プレイやフェイント動作など ,これら の運動事態には認知レベルが深く関与していること は疑う余地はないものの,その根底には,人間の基 本的な協応ダ イナミクスが機能している事実も否定 できない.この考えがゆるされるなら,動作系列や フォームの獲得などの運動学習事態( 主従)や,人 間の最も高度な情報処理過程である予測能力の獲得

( 共振とするが,ある程度時間圧が高い状況に限定)

するためには,この人間の基本的な協応ダ イナミク スを意図的に機能させるような場面や状況を設定す ることなどの配慮が必要となるだろう.

植野さんのコメント

最初の実験結果で,1.8Hzでanti-mirrorモードが破 綻してmirrorモード に相転移してし まうとの結果 が出ていますが,これは,リゾラッティのミラー・

ニューロンと,その後( 前)処理に関係しているの ではないかと思います.ミラー・ニューロンという のは,要は物まねニューロンです.マカクザルの実 験で,サルの目の前でえさをとる動作をすると,こ のニューロンが活動するという結果が出ています.

Anti-mirrorモード だと,このニューロンの後か前 に,位相を180遅らせる(早くする)処理が入るわ けですよね.研究会でも,先生方がちょこっとおっ しゃっていたのですが,そうすると,処理としては 一つ処理モジュールが増えるわけで,これで時間的 に( 後)前処理が間に合わなくなって,ある一定以 上の周波数の動作では,まねっ子しかできなくなっ てしまうのではと思うのですが,いかがでしょうか?

植野さんへのリプライ

「なるほど ,そんなニューロンがあったのか!」と,

ご指摘に感激しました.また,メールでリゾラッティ の文献をお知らせ頂きありがとうございました.慣 れない領域に苦慮しながら読んでいます.ここでは 私の実験結果から,ミラー・ニューロンが介在して いるとして説明ができるものと,少々慎重になるべ

きところについて述べたいと思います.

まずミラー・ニューロンの介在を肯定できるところ から—.それは実験2の意図的な位相転換課題の 結果が当てはまると思います. Mirrorモード から Antimirrorモード に転換するMAパターンと,その 逆方向へのAMパターンでは,ど の周波数帯にお いてもAMパターンの方が短時間で完了していま す.この結果は,Antimirrorモード に合わせるより

Mirrorモード に合わせる方が位相を合わせ易いこと

を示唆させるものですが,現在のところ,協応ダ イ ナミクスが機能したという抽象度の高い説明に終わ ることが常でした.しかし ,Aモード では位相を合 わせるために,もう一つの処理モジュールを必要と する考えを適用すると,Mモード からAモード への 位相転換が遅くなることも理論整然と解釈できると 思いますし ,逆への位相転換では,もう一つの処理 モジュールを介さなくてよくなるぶん位相転換が早 く完了したと考えられると思います.

しかし,少々慎重にならざるおえない結果は,実験1 で表にまとめた相転移の出現状況の結果を,どのよう に理解するかです.観ての通り相転移はAntimirror モード を要求した被験者のみに生じることが分かり ます.ここまではミラー・ニューロンの介在を肯定で きると思います.ところが,そのAntimirrorモード を要求したグループで,相転移が生じない被験者や 生じたり生じなかったりする被験者が存在するとい うことです.相転移が生じなかった被験者は,元々 アンチミラー・ニューロン(こんな使い方をしてい いのだろうか)を介した回路の活性レベルが高かっ たと解釈できますが,相転移が生じたり生じなかっ たりする被験者は,数十分の実験時間で活性レベル が高くなったり,低くなったりするのか,という疑 問が出てきます.しかし,ここでの疑問は,ミラー・

ニューロンの介在を否定するのではなく,むしろ,そ の処理モジュールを考慮した上で,相転移を引き起 こす要因が四肢の末梢レベルにも起因するところを 示唆してみたいと思います.

植野さんがご指摘下さったミラー・ニューロンに関 するサルの実験は,餌を捕る動作という単発な運動 だったと思います.ところが,私が採用した動作課 題は,連続するリズミカルな反復運動であったとい うことで幾分考慮すべき事項が必要になると考えま す.それは,この課題では,視覚情報からペアの位 相関係を同呈することと同時に,先行動作が適切で あったかど うかという照合プロセスも行われると考 えます.動作周波数が低いときは,照合する時間と アンチミラー・ニューロンを介する時間にそれぞれ 余裕があり,正確に位相を維持できるも,周波数が 高くなると,Aモード では,視覚的な位相関係を同

呈する処理モジュールを介さなくてはならない上に,

動作結果を照合する筋感覚からのフィード バック情 報が絶え間なく入力させるため,照合プロセスでの 間違いや遅延(あるのかど うか?)がアンチミラー の処理モジュールを介するに必要な知覚容量を浸食 し,結果的にAモードが破錠し,Mモード へと相転 移が引き起こされると推測してみるのも面白いと思 います.コンピュータのバッファメモリ的な発想な のですが.そう考えると,照合プロセスが正確に円 滑に進めば,相転移は生じないでしょうし ,何らか の不都合が照合プロセスに生じた場合には,アンチ ミラー・ニューロンの処理モジュールを介するに必 要な容量が浸食されるため相転移が生じると考えら れます.特に,「位相を正確に合わせなければならな い!」という意図レベルが高い者ほど ,後者の筋感 覚情報の照合プロセスの方が優先されると考えます.

試論というか憶測の域を脱しないレベルですが,こ れで何とか,相転移が生じたり,生じなかったりす る被験者のことも,ミラー・ニューロンの介在をも とにして,人間の個人間の協応ダ イナミクスをより 具体的に解釈できると思います.

山西さんへのコメント :平田智秋

運動学習研究会での発表,とても面白く聞かせてい ただきました.思えば数年前,Kelsoの本でSchmidt, Carello, & Turvey (1990)の2人で足を動かす課題 が紹介されていて,「こういうことを考える人もいる のか 」と興奮しました.そのときに個人間協応への 興味が湧いたのですが,深く自分で調べることもな く,山西さんの発表がまとまったお話を聞くはじめ ての良い機会となりました.また,実際に実験装置 を見て「いい(大工)仕事」にも頭が下がりました.

以下に分からなかったところ,そして知りたいとこ ろを書きます.

一連の実験がうまく整理されていて,理解しやすい お話だったのですが,分からなかった所が一箇所あ ります.それは総合考察の部分,資料8ページ中段 の「ある一連の協応動作に時間圧をかけることが,

ある意味,その後に出現するであろう動作を方向づ けるばかりでなく,次の動作を予測することが可能 になることを意味している」というところです.予 測し うる動作とはどんな動きでし ょうか.高い時間 圧により引き込みの強い動作(たとえば Mモード など )に落ち着いてし まう,ということでしょうか.

そうすると予測し うる次の動作というのは,動作者 にとって最も自然な( 容易な?)動きですか?そう ではなく,別の予測が可能ならば,その点について 詳しく教えて下さい.

ドキュメント内 STM:JMLS:JMLS2k:4_JMLS:jmls.dvi (ページ 72-80)

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