Z群Y群
3. 結果及び考察
現在,実験継続中のため,今回は中級者(平均年齢 20.2±0.63歳,平均競技歴3.15±1.29年)のコー
y = 0.0602x - 137.27 R2 = 0.62
y = 0.0609x - 148.82 R2 = 0.7223
0 20 40 60 80 100
2500 2750 3000 3250 3500 3750 4000 平均反応時間(msec)
正 答 数
基本的なフォーム 応用的なフォーム 基本的 応用的 インパクト
図1: 予測時期と正確性の関係
ス&球種予測における結果についてのみ行なうこと とする.
予測の正確性と時期の関係
図1に示したように,予測時期が早ければ正確性は 低く,時期が遅ければ正確性は高いという有意な相 関が認められ,予測時期と正確性のトレード オフが 成立していた.
被験者ごとに見ると,正答誤答に関わらずほぼ一定 の時期に予測してボタンを押すことが伺えた.なお,
予測時期が早い被験者は,中級者群の中でも競技レ ベルが上位の者であった.このことから,上級者群 はより予測時期が早いと推察できる.
フォームによる違いは,基本的なフォームの方が応 用的なフォームより,平均正答数で5.6高く,平均 反応時間で62.2msec早いという結果であった.
予測手掛かりと予測時期について
図2に示したように,基本的なフォームに対する予 測正答数は,ボールがラケット,下半身,上半身より も有意に低い結果を示した.しかし ,ボールは遮蔽 なしとの間に有意差が認められなかったため,ボー ルからの情報はラケット,下半身,上半身よりも有 効な予測手掛かりであったということである.また,
平均反応時間については,ラケットと腕が遮蔽され た条件が最も遅い値を示した.したがって,ラケッ トと腕も有効な予測手掛かりであったといえる.
一方,図3に示したように,応用的なフォームに対 する正答数は,ボールが他の条件すべてより有意に 低い結果を示したため,ボールからの情報は最も有 効な予測手掛かりであったといえる.また,平均反 応時間については,全ての条件とも大きな差はない ようであった.
0 20 40 60 80 100 120 140 160 180
遮蔽なし ボール ラケット ラケットと腕 下半身 上半身 被
験 者 の 全 正 答 数
1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000
平 均 反 応 時 間 m s e c 正答数
平均時間
**
** **
**:p<.01
図 2: 遮蔽条件別に見た予測時期と正確性 (基本的な フォーム)
0 20 40 60 80 100 120 140 160 180
遮蔽なし ボール ラケット ラケットと腕 下半身 上半身 被
験 者 の 全 正 答 数
1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000
平 均 反 応 時 間 m s e c 正答数 平均時間
*
** **
** **
*:p<.05,**:p<.01
図 3: 遮蔽条件別に見た予測時期と正確性 (応用的な フォーム)
さらに,各遮蔽条件間について基本的なフォームと 応用的なフォームで比較すると,正答数は応用的な フォームのボール,ラケット,下半身が基本的なフ ォームのそれらより有意に低かった.また,平均反応 時間はラケットと腕を除く5条件で応用的なフォー ムの方が基本的なフォームより遅かった.
以上をまとめると,ボールからの情報はフォームに 関わらず有効な予測手掛かりであったといえる.ま た,トスの位置を一定にする応用的なフォームでは,
球種やコースを打ち分けるためのフォームの違いが 基本的なフォームほど現れず,インパクト時のラケッ トの向きやボールの捉え方などで行われることが多 いため,予測時期が遅くなるのではないかと考えら れる.
参考文献
Abernethy,B. and Russell,D.G. (1987) Expert-novice differences in an applied selective attention task.
テニスのサービ ス予測における手掛かりが反応の早さと正確性に及ぼす影響 87 Journal of Sports Psychology 9: 326–345.
河原正昭ら (1989)運動学習における時間的適応に 関する研究(その2)―テニスのサーブレシーブにお けるコースおよび 球種の認知過程について―. 日本 大学松戸歯学部一般教育紀要15: 94–103.
奥村基生さんのコメント と武田のリプライ
武田さんの発表は,競技を取り上げた研究であり,
私が着手している研究課題に近いと感じましたの でコメントを希望いたし ました.指導を行うとい う観点からは,このような研究を行い,重要な情 報を抽出し ,さらに競技現場へ還元することでパ フォーマンスの円滑化,あるいは学習を促進させ ることに繋がると考えられるため,有意義である と感銘を受けました.そこで,感じたことと,私 が抱えている問題をふまえてコメントをさせてい ただきたいと思います.
第一に,リアリティーの問題です.発表当日に 挙げられていたのは,山本先生が言われた「本当 に見えるのか?」,あるいは加藤さんが言われた
「視角」,その他にも「現実vsスクリーン 」など の視覚の問題.そして,聴覚刺激がない場合には,
スキルが下降したという報告が示唆する聴覚の問 題.また,競技を対象とした実験室調査全般に言 えることかも知れませんが,プレッシャーやモチ ベーションなど の状況設定の問題.さらには,選 択反応をど のように測定するのかという実験機材 の問題(ボタンが6つというのは難しいと感じま した)などが挙げられます.私も,修士論文を実 験室調査で行い苦労しましたので,この問題に対 してどのように対処したのかを教えて下さい.
武田>このようなシミュレーション映像を呈示し て行なう実験においては,その映像のリアリティー の問題が常につきまとうと思います.特に,私も奥 村さんと同様に研究結果を競技場面に役立てること を目標にしていますので,映像の問題は最も重要な ポイントであると考えています.まず,視覚の問題 についてですが,今回の呈示映像は,自陣のサービ スラインとサイド ラインを含むようにして撮影しま した.実際場面では,サービスが打たれた後は,顔を 少し動かしてボールを追いますが,映像ではそれが 出来ないため,サービ スコート全体をカバーするよ う撮影したのです.先日,レシーバーの目線にカメ ラをセットし ,実際にサーバーを見ているような状 況で撮影したVTRを見せていただいたところ,確 かにサイド ラインは映っていませんでしたが,サー バーの大きさとしてはそれほど 変わりないように感
じられました.今回の発表で「視野角」についての 意見を頂きましたので機材を用いて(橋詰先生よろ しくお願いします)今後参考にするつもりです.「現実 vsスクリーン 」の問題は,Isaacs and Finch (1983) も報告してるように,奥行き知覚に影響すると思わ れます.そのため,本実験では最も影響を受けそう な落下地点の「深さ」予測については予測課題とし ていません.球種やコースも影響を少なからず受け るとは思いますが.サーバー,レシーバーの統制,予 測とパフォーマンスの関係(早く予測が完了しても 自分の限界まで確認する)など の問題を解決し ,最 終的には「現実」で実験したいと思います.聴覚の 問題は,聴覚情報がないとスキルが下降するという Takeuchi(1993)の報告もあり,同様に予測に関して も負の影響を受けると推察できます.今回の実験で 考えられる聴覚刺激はサービ スインパクトの音だけ であり,きちんと刺激を獲得できますので問題ない と思います.状況設定の問題もこれもまた難しい問 題ですね.実験終了後アンケートでも取るべきなの でしょうが,実験前に予測の重要性をきちんと説明 し ,自発的に参加してくれる者を被験者としました のでモチベーションは高かったと思います.また私 が被験者の先輩であることからのプレッシャーも考 えられますが,くだらないことなど をたくさん会話
したり(時には悩み相談も受けました),「今の自分を
調査するだけで他人との比較ではないよ」と,コミュ ニケーションをし っかり取りながら行なったつもり です.最後に,反応ボタンの数は6つと確かに多い かもしれませんが,球種予測3やコース予測2との
関係(コースを予測してから球種を予測するなど)を
調査したかったので6つで行ないました.
参考文献
Isaacs,L.D. and Finch,A.E. (1983) Anticipatory timing of beginning and intermediate tennis play-ers. Perceptual and Motor Skills 57: 451–454.
Takeuchi,T(1993) Auditory information in play-ing tennis. Perceptual and Motor Skills 76: 1323–
1328.
第二に,実験における課題遂行に伴う被験者の 学習の問題です.モニターに映し出されるプレ イ ヤーが単一である場合,どのようなプレイ・スタイ ルであっても,その人の動作自体を学習すること はあり得ないのでしょうか.例えば,試行が進む に連れて選択反応時間が速く正確になるという現 象が見られた場合,テニスのサーブの予測にとっ て普遍的で重要な情報を学習したのか,サーバー の癖を学習したのかがわからないように感じまし
た.そうなると,レシーバーの正確な選択反応時 間や,普遍的で重要な情報を抽出することができ なくなる可能性があります.したがって,複数の プレ イヤーを撮影したビデオを用いるべきである と考えられます.
武田>ご指摘通り,複数のプレ イヤーを撮影した ビデオを用いるべきだと思います.サービ スに限ら ずフォームには個人差がありますので,できるだけ 多くのモデルを使うか,サーバーの動作を解析して,
アニメーション映像でも面白いと思います.しかし , 今回は回転量や速さを少し犠牲にしてまでも予測さ れにくいフォームと,そうでない一般的なフォーム の比較を行いましたので同一人物の映像になりまし た.これを数人増やせればいいのですが,そうなる と試行数も倍増してし まいますので.
また,学習の効果を分析してみました.各被験者 108試行行なっていますので,最初の8試行は反応ボ タンに慣れていないのではないかという観点から分 析の対象に入れず,残った100試行を10試行の10 セットとして捉え,分析しました.KRを与えてい るため学習が起こっていると仮定したのですが,両 フォームの正答数,反応時間いずれにも有意な学習 効果は認められませんでした.この結果が中級者で あるからなのか,それとも試行数が足りないからな のか,これについては今後の課題とします.
最後に,どのような方法で競技現場に還元する のかということです.テニスの研究では,「戦術だ け vs 技術だけ 」教育においては学習効果が変わ らないという報告があります.一方では,サーブ 予測において重要な情報を教育すると,予測能力 が向上するという報告もあります.最初から問題 を収束させて教育し ,学習させればパフォーマン スを部分的に向上させることは可能であるのかも 知れませんが,実際に競技全般に渡るパフォーマ ンスを向上させるためには,どのような認知的教 育の手法が効果的なのか,あるいは,実験室課題 で行った結果をど のようにして現場に役立てるの か,その問題点は何処にあるか・・・関与している 問題が多く,適切な質問になっていないかも知れ ませんが考えをお聞かせ下さい.
勝手なことをダ ラダ ラと書いてし まいまし た.
これらのことは,私も問題視していることです.
今後の参考にしたいと思っておりますので,ご返 答のほどよろし くお願いし ます.
武田>効果的な認知教育の手法としては,今回の
研究会で関矢先生が発表されたように潜在顕在の教 示方法などが考えられますが,私にも教えていただ きたいと思います.しかし ,個人的な意見を書かせ ていただきますと,教育方法を考えることも必要で すが,何に注意を向ければいいのか,いつその情報 を獲得すべきなのかなど ,もう少し基礎的な部分を 明らかにしなければと思っています.科学的な裏付 けなしに,効果的な方法はあり得ないと考えている からです.現在,メンタルトレーニング,筋力トレー ニング,スキルトレーニングが広く行われている一 方で,知覚トレーニングがあまり行われていないの は,そういう基礎的な部分が明らかにされていない からだと思います.今後は必ずスポーツビジョント レーニングを含む知覚トレーニングが必要であると 言えます.特に世界を目指す選手であればあるほど です.最後にもう一つだけ加えますと,トレーニン グを行なう人のスキル(予測能力向上には競技につ いての知識が必要であるといわれている),体力,メ ンタルレベルを考慮して,個人に合ったトレーニン グプログラムを考えていかなければならないと思い ます.なぜなら,認知面に着目するまでに,その人 の過去の経験に基づいた認知方略が形成されてくる ため,それを生かす方法をとったほうがよいと考え られるからです.それが万人に効果的であればいっ そうよいのですが.
コメントありがとうございました.是非とも研究 成果を実戦場面に応用できるようお互い頑張りまし ょう.
加藤貴昭さんのコメント と武田のリプライ
まず,武田さんの研究されている内容と,自分が 研究している内容とが非常に近いものであったこ とに驚くと同時に心強く思いました.特に「新・テ ニスの科学」という本におけるテニスのサーブ時 の眼球運動の結果や,Abernethyのバド ミントン の実験など ,私にとっても興味深い研究があると いうことをはじめて知り,大変勉強になりました.
そこでまず質問なのですが,Event Occlusion実 験の有効性について,特にボール,ラケット,ラ ケットと腕,下半身,上半身といったようなセグ メント(?)に分ける意味というのはど ういった ところにあるのでしょうか.私の眼球運動実験の 結果や「新・テニスの科学」の中でのテニスの眼球 運動実験の結果のように,レシーバーおよびバッ ターは,サーバーおよびピッチャーがリリースす る瞬間,その身体とボールとの中間あたりを注視 しているという結果をもとにすると,視覚情報と して重要なのは,身体の一部やボールといった各