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今後の課題

ドキュメント内 STM:JMLS:JMLS2k:4_JMLS:jmls.dvi (ページ 42-45)

3.今後の予定及び研究計画

7. 今後の課題

まず,分析対象の人数やデータ数が少ないので,こ れを増やす予定である.被験者の数は,個性の違い と熟練による違いを明らかにする上でクリティカル な問題である.今回得た実験結果は,熟練者と初心 者とで,このような傾向があると示唆されたにすぎ ない.今後,本格的な実験を行い,分析を行う予定 である.

門田さんからのコメント

熟練したパフォーマンスにどんな動きが潜んでい るのか,という問題には私も非常に興味をもってい ます.楽器演奏の動作分析は,体育畑で育った私に とっては新鮮です.非常な熟練を要する楽器演奏は 我々では思いもしないようなデータが山ほど 眠って いる大鉱脈かもしれませんね.  動作分析の技術的 なことは別の機会に譲って,今回は「動きの質をど うやって評価するか」という大問題について,私自 身が直面している問題も含めながらコメントします.

動作分析から得られる身体各部の空間座標データ は,料理の仕方で種々の有益な情報に化ける可能性 があります.その反面,処理の方法によっていくら でも変数を増やすことができます.何らかの見通し をもって分析を行わないと,変数の山に埋もれて身

8: 熟練者Aのα・β・γの変化

9: 熟練者Bのα・β・γの変化

動きがとれなくなる可能性が高い.では動きに対し て本質的な変数を探し当てるのにはど うしたら良い のでし ょうか?

絶対座標系における各関節や身体部位の軌跡デー タのプロットが直接身体の動きを表しているように 思いがちですが,身体各部の関係性を捉えるには不 十分でしょう.先ずは肩関節を中心とした座標系に おける肘や手,弓の動き,肘座標系から見た手,弓 の動きなどを見てみては如何でしょうか?絶対座標 系では比較的直線的な動きをする弓元も,上肢の関 節中心から見ると意外に複雑に動いているかも知れ ません.さらに各関節における角度変位を時系列だ けでなく,角度vs角度や角度vs角速度といった プロットをすることで,関節間の協応性を或る程度 視覚的に捉えることができると思います.特に速度

10: 初心者Cのα・β・γの変化

熟練者のチェロ演奏動作の分析 43 データをプロットに入れることで軌跡だけでは把握

しにくい速度変化の情報がクリアになります.関節 の変位速度は,熟練した動作の動きの「滑らかさ」や

「 効率の良さ」を特徴的に表現すことのできる良い 指標だと思います.ここまでの分析で出てくるデー タの評価を如何に定量化するかが問題です.種々の プロットのパターンを丁寧に描写して解釈するのが 基本なのでし ょうが,さらに一歩進んで,何らかの 形で定量的な指標を作る必要があると考えています.

これには今の所私自身答えを持っていません.なに か良いアイデ ィアがありましたら教えてください?

門田さんへのリプライ

評価の指標という点は非常におもし ろく,かつ難 しい問題です.音楽,特に器楽の場合,うまく弾けて いれば,身体の使い方についてど うこう言われるこ とはあまりないと思いますが,実は,身体に負担を かけて演奏していると,負傷率が高くなったり,オー バユースシンド ロームになりやすくなるという危険 をはらんでいます.この点から,力学的にも,音楽 的にも最適な身体の使い方を探す必要性がでてきま す.ここに個性や個人差が入ってきますので,この 問題はそう単純ではありませんね.

しかしながら,データを分析していると,ある種 の規則性が浮かび上がってきます.これを自動的に 分析する手法があります.データベースや機械学習 の分野で,ここ10年程メジャーになってきたデー タマイニングという手法です.テラ級の大量データ から,いかにして一般的な規則性を自動的に導くか というものなのですが,クラスタリング的手法,ア ソシエーションルールを用いた一般化や,様々な評 価を与えて,各試行の成功・失敗の要因を探るよう な教師付き学習の手法を用いて,機械的に知識処理 するというのがよいと感じています.いくつかの評 価の指標をラフにセットで与えて,その中で目的に 適したものを選択するのは中々よい手法だと考えら れるのです.

その他に,定量的分析手法と定性的分析手法を統 合して使用するという方法も考えられます.分析の 際に自分達人間がどのような情報処理をしているか をメタ的に分析し ,アルゴ リズム化することで解析 がさらにすすむと考えられます.実際の動作の評価 は要求されるタスクに依存しますので,結局はどの ような分析のアイデアの候補を分析者がどれだけ持っ ているかがポイントになります.モデルの抽象度をう まく操作するのも一つの案であるのではと思います.

山西さんからのコメント

チェロ演奏という動作課題を用いて,熟練者と初 心者で異なる身体知( 身体動作のコツ )について,

動作学的な観点からアプローチし ている.確かに,

動作スキルが熟練していく過程では,四肢の協応パ ターンが時空間的に柔軟に,そして多様なかたちで 発展することが想像できます.しかし熟練者の動き は,一つのまとまりある合理的な運動に収束してお り,そして,熟練者が自らの身体に対して持つ個人 的知識を「コツ」という言葉で表現する以上,我々 もそれを信じる他ないと思います.ところが,その 熟練者の報告が実際の運動と整合性があるかど うか は検討してみないと分からないことだと思いますし , 又熟練者本人が「コツと言われても,わからない」

という状況下では,あらゆる可能性に対応できる研 究方法が選択されるべきだとも感じました.そこで,

当該の研究では,モーションキャプチャを使って主 要な動作部位の動きを捉える手法と実際の筋の活動 量を得るための筋電図だったと思います.このよう な観点での研究方法は,モルホロギー的アプローチ とでもいうのでしょうか?間違っていたらごめんな さい.発表時の意見のやり取りを思い出したり,配 布された資料を見直したりしながら,数日思いを廻 らしていました.そして,ひとつ気になることがあ りましたので,それに焦点を絞りコメントさせてい ただきます.

話は反れますが,私はテニスが好きで,この1年 半の間に,特性の異なるラケットを5本あまり購入 し ,自分に合ったラケットを選ぶことに時間をつぎ 込みました.その特性というのは,ラケット自体が 重かったり軽かったり,又ラケットの重心が比較的 手元にあったり,幾分遠かったり,そして,ガット を張るフレームが厚かったり( 通称アツラケ )いう ものです.そして,いろいろと試行錯誤している間 に気が付いたのですが,結果として同じような球が 打てるのですが,打球フォームの協応パターンや打 球のタイミングが微妙に異なることに気づきました

(私だけだろうか?).思いど おりの球を打つにも,5 本のラケットそれぞれに微妙なコツみたいなものが あることを体験しました.私はもう,初めてラケット を握る初心者には戻れないので分かりませんが,お そらく,この感覚は初心者には分からないものだと 思います.この体験を通して,私が改めて気づかさ れたことは,人は操作する対象によってコントロー ルされる部分があるんだなあということでした(「全 てがそうだ」とか,末梢の優位性を主張しようとい うものではないのですけど‥).

私の体験談もふまえて,植野さんの実験結果を思

い出してみると,確か,熟練者と初心者の違いが顕 著に見られた胸鎖関節の軌跡と背部左下の筋電図な どがあったと思います.私は,そのデータを操作対 象であるチェロの傾斜角などと照合されると,熟練 者と初心者のチェロの扱い方に違いが見られるので はないか,と思いました.実際にチェロ演奏の場面 を観察したことが無いので,無知を承知で書きます が,例えば,初心者のデータで胸鎖関節の軌跡が右 に4cm程度ずれると共に楽器にも幾分の傾斜角がつ いた場合,倒れようとする楽器自体の重さを支える ために,背部左下の筋群が活動したと考えることも でき,その繰り返しが山なりのiEMGの結果,と理 解できなくもありません.一方,熟練者は楽器に傾 斜角をつけないようにチェロ本体と弦を弾くスティッ ク( 何ていうのでしょうか?)を共に前方で回し込 むことで,初心者より安定した状態から音を奏でて いると考えることもできます.もちろん,熟練者が 意識しているか,意識していないかは分かりません.

長年の経験で見出したテクニックなのかもしれませ ん.それこそ暗黙知の領域なのかも知れません.こ れは余談です.

市川浩の「精神としての身体」の中には,視覚障 害者( 盲人)の方が使用する杖は,それが手・足の 延長であるかのように機能し ,我々が車で細い路地 にはいるとき,身を屈めたりと,ある道具を使って それを上手に操作する熟練者の身体知は自分の身体 に関するものに留まらず,その操作する対象までも を己の身体の一部のように扱うことなどが述べられ いたと思います.そうすると,もし 動作スキルを分 析する場合に,身体以外に操作する対象があるのな らば,その動きも含めた動作分析が必要だと思いま した.

山西さんへのリプライ

非常に興味深いコメント,ありがとうございます.

チェロの場合でも,やはり,弓は腕の一部という感 覚があります.また,チェロ本体にも身体との一体 感があります.これが,吸い付くような感覚に当た ります.ぼくも色々な楽器を演奏しますが,吸い付 くような感覚がある時は,非常に調子良く演奏に没 頭でき,感情の伝達がしやすくなります.今回の分 析では,チェロと身体両者を分析対象にする事はで きませんでしたが,両者のデータはきちんと取って います.山西さんのおっしゃる点に気を払いながら,

今後の分析を進めようかと思います.

道具が変わると身体の協応パターンが微妙に変わ るのはよく理解できます.通常のチェロ演奏では,体 幹部分のちょっとした動きが手先のスキルにうまく

作用しますが,もしチェロの弓が短くなったとした ら,体幹部分の動きは,末梢に悪い形で作用してし まうでしょう.また,要求されるスピード に対して も,コーデ ィネーションを変化させているというこ とも考えられます.ここでは,このような道具の違 いが動作に影響を及ぼさないように,チェロと弓は,

各被験者ともに同一のものをしようして頂きました.

今後,身体的な特徴に応じて楽器をかえるとど う動 作が変化するかという点にも着目すべきであると感 じました.

謝辞

本研究の率直な意見をくださった大阪大学の門田 さん,橋詰先生,広島大学の山西さん,ならびに広 島での運動学習研究会の参加メンバーのみなさんに 感謝致します.また,著者の遅筆を待って下さいま した筑波大学の平田さんに,この場を借りて感謝致 します.ありがとうございました.

文献

Turner-Strokes, L. and Reid, K. “Threedimensional Motion Analysis of Upper Limb Movement in the Bowing Arm of String-playing Musicians”. Clinical Biomechanics 14:(6) pp.426–433, 1999.

Ueno, K., Furukawa, K., Nagano, M., Asami, T., Yoshida, R., Yoshida, F., and Saoto, I. “Good Pos-ture Improve Cello Performance”. Proc. of the 20th Annual International Conference of the IEEE En-gineering in Medicine and Biology Society, Vol.20, pp.2386–2389, 1998.

渋谷恒司,菅野重樹,加藤一郎. “バイオリン右腕ボーイ ング動作におけるスキルの分析”. 人間工学, Vol.30, No.6, pp.395–403, 1994.

植野研,古川康一. “チェロ演奏時の動作分析”.バイオメ カニズム学会講演会予稿集, 2000 (to be appeared).

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