核融合力学分野 特定研究2
必然的に高空間・時間分解能かつ非接触なセンシング技術を必要とし、十分に把握されてい るとは言い難い。ヘリコンプラズマは比較的容易に生成する事が可能であり、磁化プラズマ 乱流やプロセスプラズマの基礎過程の研究に利用されてきた。応用力学研究所の直線プラ ズマ乱流装置PANTAでは、ヘリコンプラズマ中に乱流を励起し、乱流が輸送に与える影響 を多数のプローブや発光観測により進めている。ミクロな構造を定量的に評価するために は、プラズマの電子温度と電子密度の径方向分布の時間変化(ゆらぎの位相に対応した変化)
を高精度に計測し、勾配と流束を評価する事が必須である。レーザートムソン散乱法はプラ ズマに与える擾乱が小さく、かつ高い空間(~0.1 mm)・時間(~10ns)分解能での計測が可 能である。本研究ではトムソン散乱法を主軸として、プラズマ中のミクロな電子密度・温度 構造を、揺らぎの位相情報を含めた時間・空間多次元計測として達成することを目指す。今 年度は電子密度・温度の実空間(プラズマの径方向)分布を、磁場強度・ガス圧力を変えつ つ、多点計測により、詳細に明らかにした。その結果について報告する。
はじめに
プラズマの応用研究は、核融合を目指した磁場閉じ込めや半導体プロセス、高出力光源や 農業・バイオ応用など、広範に渡っている。ヘリコンプラズマは比較的容易に生成する事が 可能であり、磁化プラズマ乱流やプロセスプラズマの基礎過程の研究に利用されてきた。応 用力学研究所の直線プラズマ乱流装置 PANTA においてヘリコンプラズマ中に乱流を励起 し、乱流が輸送に与える影響を観察している。PANTAではプラズマの計測にはプローブ法 や分光法が用いられてきたが、乱流駆動輸送のより定量的な評価を行うためにはプラズマ の温度と密度の径方向分布を高精度に計測し、勾配と流束を評価する事が必須である。さら
にPANTAでは運転条件により、特定の周波数でのプラズマ揺らぎが増大することが観測さ
れており、その場合のne, Teを得ることも求められている。
トムソン散乱計測はプラズマに与える擾乱が小さく、かつ高精度に温度と密度が計測可 能である。すでに行われているプローブ計測の結果から、電子密度・電子温度の範囲はそれ ぞれ10 m 、数eVと予想された。このようなプラズマに対しては、0.1 Jクラスの小規模 な可視光レーザーをプローブとした、比較的簡易なシステムでトムソン散乱計測が可能で あると予想された。これまでにPANTAプラズマに可視プローブを用いたトムソン散乱計測 システムを構築し、プラズマ中心位置における電子密度・電子温度計測の実証を行った[1]。 さらにプラズマ揺らぎに対応したne, Te計測まで拡張可能であることを、これまでに示して きた。本年度は、プラズマ径方向分布の詳細な計測・解析を行ったので、その結果について 報告する。
子温度領域にあるプラズマに対して、すでに適用されている。PANTAプラズマで予想され る電子密度・電子温度からのトムソン散乱信号は微弱であることが予想される。また、数eV 程度の電子温度であるため、可視波長(波長532 nmを想定)プローブの場合、トムソン散 乱スペクトル広がりは、レーザー波長を中心に、2, 3 nm程度であると予想される。このと き、計測レーザーの一部がチャンバー窓表面などで乱反射し、迷光として分光器内に侵入し て微弱なトムソン散乱スペクトルを覆い隠す恐れがある。まず、微弱な散乱信号に対しては、
多くのレーザーショットからの散乱信号を、検出器側で積算計測することで対処した。また、
迷光の除去に関しては、高い迷光除去性能が確認されている差分散型三回折格子分光器(以 下トリプル分光器と呼ぶ)を構築・使用することで対処した。
実験装置
トムソン散乱計測に向けて、次のような実験装置を構築した。全体の装置配置を図1に示 す。
図1. PANTA用可視トムソン散乱計測システムの配置図(図中スケールはすべてmm)
計測に必要な主な装置は、レーザー(QスイッチNd:YAGレーザー)、分光器である。分 光器は実験用光学台の上に、各種光学部品を組み込んで自作した。分光器内の概要を図2に 示す。図2には併せて、散乱光の受光光学系の概略を示した。1stレンズはできる限り大き な受光立体角が望ましいが、チャンバー外に配置せざるを得ないことや、保有するレンズ種
類の制限から、焦点距離400 mmで、有効直径46 mmのアクロマートレンズを使用した。
このレンズで一度平行光にした散乱光の一部を、f 220 mmのレンズで入口スリットに集 光し、分光器内に導いた。分光器内の回折格子は、トムソン散乱で使用する偏向方向に高い 回折効率を持つ、サインカーブ形状の反射型回折格子(刻線本数2400本/mm)を用いた。
スリット幅、焦点距離、回折格子条件などで決まる波長分解能は、0.2 nm程度であった。検 出器にはICCDカメラ(米国Princeton Instruments社製 PIMAX4, 波長532 nmにおける量
子効率は 45%程度)を用いた。使用したプローブレーザーは移設が容易な小型のレーザー
(米国Continuums社製 Surelite)を用いた。今回使用した第2高調波(波長532 nm)の出 力は130 mJ程度であり、レーザーの繰り返し周波数は10 Hzであった。
図2. トムソン散乱用トリプル分光器の概要図(図中スケールはmm)
図3に計測システム導入後の装置周辺の写真を示す。計測時、分光器やレーザー光軸は、
背景光を除去するために完全に遮光した。図4には自作したトリプル分光器の写真を示す。
分光器および受光系の光軸調整は、PANTAチャンバー側面の反対側の窓から、波長532 nm の半導体レーザーを入射し、行った。
ーに導かれる。トムソン散乱光の一部は、PANTAチャンバー横の窓からレンズで受光さ れ、分光器内に導かれた。
図4. 自作したトリプル分光器の内部写真。
本年度の計測では、ne, Teの詳細な径方向分布の計測を目指した。例えば温度勾配の変化を 計測するには、10点以上の多点計測が必要となる。また、1eV程度の温度領域で、±0.1eV の温度決定精度は、実験環境上、困難を伴う。そこで計測点を増やすことで、温度決定精度 を高めることとした。温度の検出下限として0.1eVの分光システムで、100点超の多点計測 を行い、温度の径方向分布の計測を行った。
図5. 電子密度・温度の位相データ取得のための同期系統図
・ プ ラ ズ マ 生 成 時 の Ar ガ ス 圧 は 1mTorr, 3mTorr, 5mTorr, 磁 場 強 度 は 600 Gauss, 1200Gauss, 1500 Gaussとし、合計9条件での計測を行った。
図6. トムソン散乱計測例
計測レーザーの繰り返し周波数は10Hzで、3000ショットの積算計測を行った。プラズマと の同期は取らず、Duty比1:1より、半数の1500ショットが実際の積算回数と考えた。計測 データの例を図6に示す。横軸はICCDカメラのピクセル(1ピクセル=13 μm)である。分 光器の仕様で決まる逆線分散は1.35nm/mmであり、1ピクセルあたり0.0176nmの波長幅と なる。装置関数は0.27nmであった。計測レーザー波長(波長532 nm, Δλ=0)付近の信号 は、迷光除去のために差分散型分光器に設置したレーザー波長ストップ(逆スリット)によ りカットされており、正しい計測値ではない。グラフ縦軸は信号強度であり、単位は
Analog-to-digital unitである。画像の縦方向は空間分布そのものであり、空間幅 0.5mmの散乱スペ
クトルを抜き出したもの、そのフィッティングを例として示した。
図7. 径方向分布解析例
空間幅を0.5 mmとして、全データを解析した例を示す。それぞれにフィッテイング、絶対
値較正を行うことで、径方向の12mm幅の空間分布が得られることがわかる。
50mmである。そこで、空間方向視野は、計測位置を変化させることで補った。
図9. 電子密度の径方向分布の磁場強度依存性
電子密度の径方向分布を示す。ガス圧は5 mTorrで固定した場合である。磁場強度の上昇に 伴い、電子密度は増加していくことがわかる。また、プラズマ中心から周辺部に行くにつれ、
密度は減少していることがわかる。一方で、密度勾配は単調でない。密度勾配の変化位置も、
磁場圧力により変化していくように思われる。
ガス圧力を低下させると、単調に電子密度は低下した。この場合も、密度勾配は一定ではな く、プラズマ条件により、勾配変化点も移動しているように感じられる。
図11. 電子温度の径方向分布の磁場強度依存性
電子温度の径方向分布について示す。圧力が5mTorr固定、磁場強度による電子温度の違い を示す。電子密度とは異なり、中心部での電子温度は、磁場強度の増加と共に低下していっ た。周辺部に行くにつれ電子温度は減少した。温度勾配の変化は、どの磁場圧力でも中心か
ら30mm(r=30mm)で共通して見られた。この点も電子密度とは異なる傾向を示した。