(参考値)
実質GDP 2.4 3.0 3.8 3.4 3.1 3.1 3.0 3.3 3.0
民間最終消費支出 3.1 3.1 3.6 4.2 3.8 3.7 3.7 3.8 3.7
民間住宅投資 3.9 8.2 1.5 2.6 1.3 1.5 1.7 1.7 1.9
民間企業設備投資 -5.7 2.5 7.7 6.6 5.6 5.2 4.7 6.0 4.0
輸出 -1.6 1.5 6.8 7.5 7.0 7.0 7.0 7.1 7.0
輸入 3.7 3.7 6.9 8.9 7.9 7.4 7.2 7.7 7.0
消費者物価指数 1.6 2.3 1.6 2.2 2.0 2.1 2.1 2.0 2.1
経常収支/名目GDP比 -4.6 -5.4 -5.3 -5.3 -5.2 -5.2 -5.1 -5.2 -5.0 長期金利
(財務省証券10年物)4.6 3.9 3.8 3.7 3.8 3.8 3.9 3.8 4.0
世界貿易数量 4.4 3.0 7.6 7.5 6.4 6.1 6.0 6.7 5.9
(図表36) 米国経済:マドルスルーシナリオ
ものにも大きな影響を与える。そこで、米国実効為替と世界貿易価格の弾性値を推計 し、その弾性値を用いて試算すると20%の米ドルの減価によって世界貿易価格は5〜
6%も上昇すると推計される(補論2参照)。
米国が以上のようなドル調整による経常赤字削減策を選択するとすれば、それは、
まさに米国中心の「近隣窮乏化」シナリオといえる。中国については、人民元が切り 上るため、米国の対中輸入数量の減少と輸入価格の上昇が起こる。しかし、中国から の輸入数量が減少した分は、他のアジア諸国からの輸入増へと振り替わるため、米国 の貿易赤字を大幅に減少するには至らない。加えて、全面的なドル安の進行が輸入物 価の上昇をもたらすことから、消費者物価(コア)が上昇傾向を辿り始める。モデル シミュレーションによれば、10%のドル安は米国の消費者物価を1年目で0.5%、2 年目で0.8%押し上げると試算される。
こうした状況のもと、FRBは低金利政策を維持し続けることが徐々に困難になってく る。そこで、70年代以降、オイルショック期と90‑91年以外に実質マイナス金利を維 持し続けた例がないことを勘案して、FRBは少なくとも実質金利ゼロにまで戻すという 政策変更を行うと想定した。その結果、FFレートは2008年に3%強まで上昇し、短期 金利の上昇に伴い長期金利も6%程度まで上昇する(ここでは実質金利ゼロを目標に FRBの政策変更を想定したが、仮に、インフレ率、マネーサプライ、失業率で政策反応 関数を推計し、金融政策を内生化したモデルを用いて試算しても、トレンドに大きな 違いは見られなかった)。
こうした状況下、ドル安により輸出が瞬間的に大きく伸びるため、米国の実質GDPは 05年には04年を上回る4%以上の成長を達成する。しかし、FRBの金融政策の変更に より国内金利が上昇することから、金利感応度の高い住宅投資や設備投資を中心に内 需の伸びが抑制され、輸入が減少し経常赤字は縮小に向かう。従って、06年以降は実 質GDP成長率が押さえられ、2%台の成長が続くことになる。
ただ、ここで注目すべき点は、経常収支の赤字縮小がもっぱら輸入の減少によるも ので輸出の増加によるものではないという点である。米国が「小国の仮定」が成り立 たない「大国」だということを無視してはならない。ここにシナリオ1との大きな違 いがある。米国内需の低迷、輸入の減少は、そのまま世界経済の需要減少につなが る。その影響を推計すると、2 0 %のドル安が起きれば米国の輸入が3%程度抑制さ れ、世界貿易量がマドルスルーシナリオに比べて1.5〜2.0%程度低下してしまう。
特にアジアにおいては、人民元の大幅引き上げによる中国経済の低迷が周辺国に与 える影響が大きい。中国およびN I E S の地域別輸出特化係数の推移をみると(図表 38)、アジアにおいて貿易構造が大きく変化していることがわかる。中国の地域別特 化係数を見ると、中国は米国に対して競争力を大幅に上昇させた一方で、NIESに対す る競争力を大幅に低下させている。一方、NIESは米国に対する競争力の若干の低下 を、中国への輸出競争力の上昇で補っている。すなわちNIESは、賃金の上昇による競 争力の低下を、中国への直接投資の増大を通じて、つまり中国を先進国への輸出の窓 口とすることで補ってきたといえる。実際に、中国への直接投資の7割がNIESからの ものである。そのため、人民元切り上げによる中国経済の低迷は、NIESに予想外の打 撃を与える。
-0.4 -0.3 -0.2 -0.1 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6
1990 1995 2000 2001
対米国
対東アジア (輸出−輸入)/(輸出+輸入)
対NIES
-0.2 -0.1 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4
1990 1995 2000 2001
対中国
対東アジア 対米国
(輸出−輸入)/(輸出+輸入)
中国:地域別輸出特化係数 NIES:地域別輸出特化係数
(図表38) NIES、 中国、 米国の貿易関係
(注) 1. NIESは韓国、台湾、香港、シンガポール。
ASEANはタイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン。東アジアはNIES+ASEAN+中国+日本。
2. データは名目貿易額。
(出所) IMF「Direction of Trade Statistics YearBook」よりNRI作成
米国のドル安政策は、結局、米国の輸入減少による世界経済の成長鈍化という犠牲 を払いながら、米国経常赤字を削減することにほかならない(図表39)。
米国および世界経済の状況変化は、世界貿易数量の減少という形で日本経済にマイ ナスの影響をもたらす。NRI中期経済モデルによると、世界貿易数量1%の減少は、
輸出減少を通じて日本の実質GDPを0.1〜0.2%低下させる。従って、米国「近隣窮乏 化」により生じる世界貿易数量の1.5〜2.0%の減少は、それだけで日本の実質GDPを 0.2〜0.4%押し下げるインパクトがある。更に、構造調整下の日本経済は外需依存の 度合いが高まっており、数字以上に企業家・消費者マインドを冷やす可能性が高い。
為替レートについては、人民元切り上げにより、日本とアジアでのドルベースで見 た賃金コストの差が急速に縮小し、日本の対世界での輸出競争力が短期的に上昇す る。仮に、中国の人民元が対ドル・対円で同時に均衡為替レートに変更されると、円 ドルレートは120円程度まで瞬間的に修正されると試算される。そこから、ドルが2 割程度減価するとすれば、結果的に95〜100円程度の円ドルレートが想定できる。
モデルシミュレーションによれば、10円相当分の実効為替レート上昇は日本の実質 GDPを1年間で0.2〜0.3%程度押し下げる効果がある。従って、米国「近隣窮乏化」
シナリオにおける日本経済への影響は、世界貿易数量(世界需要)の大幅下落と若干 の円レート上昇との総合的効果となる。需要項目別に見ていくと、物価の低下に支え られ個人消費は比較的底固い推移を示すものの、米国を中心に世界経済が低迷し輸出 の伸びが抑制される。その結果、設備投資が大幅に抑制され2010 年頃にはマドルス ルーシナリオに比べ2%ポイントの差がでる。国内景気の低迷により、デフレ圧力は なかなか解消せず、向こう5年間ではデフレ解消にはいたらない(図表40)。
もちろん、日本がゼロ金利政策を維持するなど、世界的な金余り現象を前提とする 限り、すぐに「ドル安→資本流出→ファイナンス懸念」には結びつかない。即ち、
マーケットが理性的に反応すること、基軸通貨としてのドルの価値が揺らがないことを 前提とすれば、いわゆる「ドル不安」「ドル暴落」は起こりにくい。ただ、この前提を
はずしても、シミュレーションの方向性は大きく変わらない。ドルの切り下げが「ドル 不安」に結びつく場合には、インフレ率、長期金利が、モデルによる試算値以上に上 昇し、世界経済・米国経済の低迷がより深くなる。
また、両シナリオともに、2010年ごろには米国の実質GDP成長率が3%前後に回帰 してくる。しかし、その内容には大きな違いがある。マドルスルーシナリオでは、設 備投資等の内需が3%成長の原動力となっているのに対し、ドル安容認シナリオで は、むしろ内需を弱めて輸入を減少させることで3%成長に回帰してきている。即 ち、前者が世界経済の拡大均衡であるとすれば、後者が縮小均衡といえる。従って、
この両シナリオは2010年頃のアメリカの成長率は同じ程度でも、世界経済に与える影 響が大きく異なることになる。
第五節 プラザ合意との違い
シミュレーション上、ドル安によるかなりの悪影響が試算されたとしても、それは 現実には起こりにくいと主張することもできないわけではない。特に、プラザ合意の 場合には、ドル安政策の実施が世界経済に大きな影響を与えずに済んでいる。
しかし、プラザ合意時点の世界経済の状況と現在とでは大きな違いが2つある。ま ず、第一に、プラザ合意時点では、通貨切り上げを迫られる側の国、具体的にはドイ
(図表40) 日本経済:近隣窮乏化シナリオ
(注)1.2002 年は実績値、2003‑2004 年は NRI 短期経済見通し(2003 年11 月時点)の予測値、データは暦年 2.2005 年以降は JMAP による推計値。2010 年頃は 2009‑2011 年の推計値の平均値
(注)1.2002年は実績値、2003‑2004年はNRI‑A短期経済見通し(2003年11月時点)の予測値、データは暦年 2.2005年以降はNRI米国経済中期モデルによる推計値。2010年頃は2009‑2010年の推計値の平均値 3.世界貿易数量は2003年以降NRI米国経済中期モデルによる推計値
単位:%
2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008
2004-2008 2010頃 (参考値)
実質GDP 0.1 2.8 2.6 0.0 0.3 0.5 0.6 0.8 1.0
民間最終消費支出 1.4 0.9 1.0 0.4 0.6 1.1 1.2 0.9 1.9
民間企業設備投資 -4.9 11.7 10.4 0.9 0.9 0.6 1.4 2.8 1.0
公的固定資本形成 -4.9 -10.6 -7.0 -6.0 -6.0 -6.0 -6.0 -6.2 -6.0
名目GDP -1.5 0.0 0.1 -0.9 -0.1 0.3 0.6 0.0 1.0
GDPデフレータ -1.7 -2.8 -2.4 -0.9 -0.4 -0.2 0.0 -0.8 0.0
経常収支(対GDP比) 2.8 3.1 3.4 2.9 2.7 2.5 2.3 2.7 1.5
消費者物価 -0.9 -0.2 -0.2 -0.9 -0.7 -0.6 -0.4 -0.6 -0.3
完全失業率 5.4 5.3 5.3 5.5 5.6 5.4 5.4 5.4 5.0
国債10年金利 1.2 1.0 1.1 0.8 0.9 1.2 1.2 1.1 2.2
単位:%
2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2004 -2008
2010頃
(参考値)
実質GDP 2.4 3.0 3.8 4.1 2.6 2.3 2.7 3.1 3.0
民間最終消費支出 3.1 3.1 3.6 3.3 2.3 2.6 3.0 3.0 3.5
民間住宅投資 3.9 8.2 1.5 -1.1 -6.6 0.3 2.4 -0.8 2.8 民間企業設備投資 -5.7 2.5 7.7 8.2 6.5 2.9 2.5 5.5 2.8
輸出 -1.6 1.5 6.8 12.8 8.4 5.6 6.1 7.9 6.6
輸入 3.7 3.7 6.9 5.5 4.5 4.7 5.4 5.4 6.3
消費者物価指数 1.6 2.3 1.6 4.8 3.8 2.9 2.6 3.1 2.3
経常収支/名目GDP比 -4.6 -5.4 -5.3 -5.3 -4.5 -4.1 -3.8 -4.6 -3.5
長期金利(財務省証券10年物) 4.6 3.9 3.8 5.1 6.1 6.1 6.2 5.5 6.3
世界貿易数量 4.4 3.0 7.6 7.2 4.9 3.8 4.5 5.6 5.3