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2 3 次行列式

ドキュメント内 線形代数学入門 この (ページ 145-186)

2.2 サラスの方法

次に,3次行列式について具体的な公式を導くことを試みる.これから先の議論を理解すれば,後でn 行列式について同様の議論を行う際の見通しがよくなる.やや抽象的な部分であるが頑張ってほしい.

行列

A=

a11 a12 a13

a21 a22 a23 a31 a32 a33

の行列式を命題1.2の証明のように求めてみる.まず抽象的な定義2.1の多重線形性を用いるために

a11

a21 a31

=a11

1 0 0

+a21

0 1 0

+a31

0 0 1

=a11e1+a21e2+a31e3

a12 a22

a32

=a12e1+a22e2+a32e3

a13

a23 a33

=a13e1+a23e2+a33e3

のように各列を基本ベクトルe1,e2,e3 の1次結合で表しておく.

このとき,Aの行列式は多重線形性より

detA=a11e1+a21e2+a31e3 a12e1+a22e2+a32e3 a13e1+a23e2+a33e3

= P3

i=1

ai1ei P3 j=1

aj2ej P3 k=1

ak3ek

= X3

i=1

X3 j=1

X3 k=1

ai1aj2ak3ei ej ek

と33 = 27個の項が現れる.これらをすべて書き下すと大変だが, 実際には3本の列ベクトルのうち同じ ベクトルが並んでいると,その項は行列式の退化性より0になる.例えば,i=j=k= 1 の項は

ei ej ek=e1 e1 e1= 0 となる.他にも例えば

e1 e1 e2=e3 e2 e2=e2 e1 e2= 0 のようになる.

結局,多重線形性で展開した後は

detA=a11a22a33e1 e2 e3+a11a32a23e1 e3 e2+a21a12a33e2 e1 e3

+a21a32a13e2 e3 e1+a31a12a23e3 e1 e2+a31a22a13e3 e2 e1 のように6個の項のみが残る.これは添字の(i, j, k) に1,2,3 を並べる順列分だけ項が残るため3! = 6 個 現れると理解することができる.一度各自で手を動かして確認してみるとよい.

後は基本ベクトルを並べた行列の行列式の値がわかればよい.まずは正規化条件より e1 e2 e3=

1 0 0 0 1 0 0 0 1 = 1

となる.他の項については列ベクトルを入れ替えて単位行列に変形すればよい.見やすくするために,こ こでは隣りどうしの列ベクトルの入れ替えのみを行うことにすると,1回の入れ替えで(1)倍されること に注意して

e1 e3 e2=e1 e2 e3=−1 e2 e1 e3=e1 e2 e3=1

e2 e3 e1=e2 e1 e3=e1 e2 e3= 1 e3 e1 e2=e1 e3 e2=e1 e2 e3= 1

e3 e2 e1=e3 e1 e2=e1 e3 e2=e1 e2 e3=1

となる(入れ替えた番号を赤字で記載した).2回入れ替えた場合にはマイナスが2回現れて結局プラスに なることに注意すること.結局のところ,基本ベクトルを重複なく並べた行列式の値について,隣りどう しの列ベクトルを入れ替えて単位行列へ変形する際の操作が偶数回なら1,奇数回なら 1 となる.

まとめると,3次行列式は

|A|=a11a22a33e1 e2 e3+a11a32a23e1 e3 e2+a21a12a33e2 e1 e3

+a21a32a13e2 e3 e1+a31a12a23e3 e1 e2+a31a22a13e3 e2 e1

=a11a22a33·1 +a11a32a23·(−1) +a21a12a33·(−1)

+a21a32a13·1 +a31a12a23·1 +a31a22a13·(1)

=a11a22a33+a21a32a13+a31a12a23−a11a32a23−a21a12a33−a31a22a13

となる.これは行列の左上から斜めに成分をかけたものと右上から斜めに成分をかけたものに符号をつけ たものの和となっている.このような計算法はサラスの方法と呼ばれる.

定理 2.2. (3次行列式の形)

 3次行列式について,以下が成り立つ.

a11 a12 a13

a21 a22 a23 a31 a32 a33

=a11a22a33+a21a32a13+a31a12a23−a11a32a23−a21a12a33−a31a22a13

この公式の有効な場面は多いが,具体的な行列式の計算では大変なこともある.例えば,計算例を1 挙げると

8 1 6 3 5 7 4 9 2

= 8·5·2 + 3·9·6 + 4·7·14·5·61·3·28·7·9 =360

となるが,このように計算するとミスが起こりやすい.また,もし成分の値が大きいと掛け算をとってか ら足し引きするのも大変である.

さらに,後で4次行列式を同様の方法で計算しようとすると,4個の数字の積からなる24項の足し算・

引き算を計算しなければならない(なぜ24項となるかを考えてみよ).5次行列式ならば120項を考えな ければならず,もはやこれは手計算で実行するには現実的な方法ではない.

ここでサラスの公式を振り返ると,行列の成分に0が多ければ計算は簡単そうである.そこで,行列の 基本変形を用いて成分に0が多い行列に変形することで,簡単に行列式を計算する方法も次に考察したい.

2.3 3次行列式のみたす性質

まず,行列式はその定義から列基本変形との相性が良いことがわかる.

定理 2.3. (列基本変形と行列式の関係)

 3次正方行列に対して,列基本変形と行列式について以下が成り立つ.

(1) ある列に別の列のスカラー倍を加えても行列式は変わらない (2) ある列を α 倍すると行列式も α 倍される(α がくくり出される)

(3) 列を入れ替えると行列式は 1 倍される

特にスカラー倍で α= 0 とすれば,すべて成分が0である列があれば行列式の値は0となる.

証明. 3次正方行列を A= a1 a2 a3

と列ベクトル分解する.

(1)  例えば Aの第1列に第2列の α倍を加えた行列をB とすると,行列式の多重線形性と退化性より detB =a1+αa2 a2 a3

=a1 a2 a3+αa2 a2 a3

= detA+α·0

= detA となる.他の列の場合も同様である.

(2)  これは多重線形性の一部であるが繰り返しておく.例えば A の第1列をα 倍した行列を B とお くと

detB =αa1 a2 a3=αa1 a2 a3=αdetA となる.他の列の場合も同様である.

(3)  例えばA の第1列と第2列を入れ替えた行列を B とおく.まず,行列式の退化性より a1+a2 a1+a2 a3= 0

である.一方,この左辺を多重線形性で展開すれば

a1+a2 a1+a2 a3=a1 a1 a3+a1 a2 a3+a2 a1 a3+a2 a2 a3

= 0 + detA+ detB+ 0

である.よって,detA+ detB = 0 より,detB =detAが成り立つ.

これより,行列を列基本変形すれば行列式の値がどのように変化するかがわかった.しかし,前章までは 行列の基本変形といえば行基本変形のみであった.その計算には慣れているから,行列式の計算に行基本 変形も使えるようにしたい.それを可能にするのが,次の定理である.

定理 2.4. (転置行列の行列式)

 3次正方行列 A について

detA= det(tA) が成り立つ.つまり,転置をとっても行列式の値は変わらない.

証明.  3次正方行列の成分を

A=

a11 a12 a13

a21 a22 a23 a31 a32 a33

, tA=

b11 b12 b13

b21 b22 b23 b31 b32 b33

とおけば,転置行列の定義より

tA=

b11 b12 b13

b21 b22 b23

b31 b32 b33

=

a11 a21 a31

a12 a22 a32

a13 a23 a33

が成り立つ.よって,定理2.2(サラスの方法)より

det(tA) =b11b22b33+b21b32b13+b31b12b23−b11b32b23−b21b12b33−b31b22b13

=a11a22a33+a12a23a31+a13a21a32−a11a23a32−a12a21a33−a13a22a31

=a11a22a33+a21a32a13+a31a12a23−a11a32a23−a21a12a33−a31a22a13= detA であるから,転置をとっても行列式の値は変わらない.

行列A に対して行基本変形を行うことは,転置をとって考えると縦と横が入れ替わるためにtA におい て列基本変形を行うことに対応する.よって,列基本変形に関する性質は定理2.4を通して,行基本変形で も成り立つことになる.既に列基本変形について調べた性質を行基本変形版に翻訳してまとめると,次の ようになる.

定理 2.5. (行基本変形と行列式の関係)

 3次正方行列に対して,行基本変形と行列式について以下が成り立つ.

(1) ある行に別の行のスカラー倍を加えても行列式は変わらない (2) ある行を α 倍すると行列式も α 倍される(α がくくり出される)

(3) 行を入れ替えると行列式は 1 倍される

特にスカラー倍で α= 0 とすれば,すべて成分が0である行があれば行列式の値は0となる.

これより,行列式の値を計算する場合には行基本変形や列基本変形を用いて行列を簡単な形に変形すれ ばよいことがわかった.

注意2.6.  連立1次方程式における拡大係数行列や逆行列の計算では行基本変形のみが許されていた.行 列式の計算練習に慣れると,いつでも列基本変形をしてよいと勘違いしやすいので注意すること.混乱を 避けるために行列式の計算を行基本変形だけで行ってもよいが,列基本変形を利用した方が圧倒的に速い 場合もある.どの基本変形が許されるかを理解したうえで,場合に応じて適切に計算できるようになるこ とが望ましい.

さらに行列式の計算を簡単にできないか考えてみると,3次正方行列A において(1,1)成分で第1列を

掃き出せば 

a11 a12 a13

0 a22 a23 0 a32 a33

という形に変形できる.これはブロック分けされた行列の形となっており,サラスの方法を用いて計算す

ると

a11 a12 a13

0 a22 a23

0 a32 a33

=a11a22a33−a11a23a32=a11(a22a33−a23a32) =a11

a22 a23

a32 a33

となる.これを公式の形としてまとめると次のようになる.

定理 2.7. (ブロック分けされた行列式)

 3次行列式について

a11 a12 a13 0 a22 a23

0 a32 a33

=a11

a22 a23 a32 a33

,

a11 0 0 a21 a22 a23

a31 a32 a33

=a11

a22 a23 a32 a33

が成り立つ.

この公式によって,3次行列式は行または列について掃き出せば,行列式のサイズを2次に減らすことが できる.2次行列式の公式は簡単なので,これにより具体的な行列式の値が容易に計算可能となる.

他には,三角行列と呼ばれる行列の行列式も,サラスの方法より簡単に計算できる.

定理 2.8. (三角行列の行列式)

 3次行列式について

a11 a12 a13

0 a22 a23 0 0 a33

=a11a22a33,

a11 0 0 a21 a22 0 a31 a32 a33

=a11a22a33 が成り立つ.

これより,左下半分や右上半分の成分を0にすれば,行列式は対角成分の積であることがわかる.特別な 形の行列の場合にはこれが便利なことも多い.もっとも,改めて定理として暗記しなくても,サラスの方 法を用いればすぐに得られる公式ではある.

また,ここでは3次行列式に対しての定理

定理2.3(行基本変形と行列式の関係)

定理2.4(転置行列の行列式)

定理2.5(行基本変形と行列式の関係)

定理2.7(ブロック分けされた行列式)

定理2.8(三角行列の行列式)

を説明したが,実はこれらはすべてn 次行列式についても成り立つことが後の節でわかる.

2.4 3次行列式の計算例

さまざまな計算法を紹介してきたので,再度計算法をまとめれば次のようになる.

行基本変形や列基本変形を利用して(値がどのように変わるかは注意),三角行列に変形するか2 行列式にサイズを小さくする.

サラスの方法を適用する.

例題 2.9.  行列式

1 2 3 8 9 4 7 6 5

の値を求めよ.

(解答) 計算法は複数考えられる.最初なので複数の解答を紹介する.

(i)  基本変形で三角行列に変形すれば

1 2 3 8 9 4 7 6 5 =

1 2 3

0 −7 −20 0 8 16

((1,1)成分による第1列の掃き出し)

=8

1 2 3

0 7 20

0 1 2

(3行から(8)をくくりだす)

=8

1 2 3 0 0 6 0 1 2

(第3行の7倍を第2行に加える)

= 8

1 2 3 0 1 2 0 0 6

(2行と第3行の入れ替え)

= 8·1·1· (6) =48 (ii)  行列式のサイズを小さくする方針で計算すれば

1 2 3 8 9 4 7 6 5 =

1 2 3

0 7 20 0 8 16

((1,1)成分による第1列の掃き出し)

= 1·

7 20

8 16

= (1)(8) 7 20

1 2

= 8(1420) =48

(iii)  サラスの方法を使えば

1 2 3 8 9 4 7 6 5

= 1·9·5 + 8·6·3 + 7·4·23·9·74·6·15·8·2

= 45 + 144 + 561892480 =48

(解答終)

上の解法(i)において,三角行列にするために行を入れ替える部分は,後で学習する余因子展開を用いれ ば実は省略できる.解法(ii)できれいにブロック分けされた形にするための行や列の入れ替えも省略可能で ある.ただし,最初は行や列を1回入れ替える度に1倍されることを意識するために丁寧に計算した方が よい.

例題 2.10.  次の行列式の値を求めよ.

(1)

3 1 2

5 0 6

1 4 2

(2)

1 1 2 4 2 3

2 5 1

(3)

2 5 0 3 1 2 1 4 6

(解答) 計算法は複数考えられるので,以下では一例を挙げる.

(1)  基本変形で下三角行列に変形すれば

3 1 2

5 0 6

1 4 2 =

0 1 0

5 0 6

13 4 6

((1,2)成分による第1行の掃き出し)

=

−1 0 0

0 5 6

4 13 6

(1列と第2列の入れ替え)

=

1 0 0

4 8 0 4 13 6

(第2行に第3行の(1)倍を加える)

=−(−1)·(−8)·6 =−48 (2)  掃き出してサイズを小さくすれば

1 1 2 4 2 3

2 5 1 =

1 0 0

4 6 11

2 3 5

((1,1)成分による第1行の掃き出し)

= 1·

6 −11

3 5

(ブロック分けされた行列式の性質)

= 30(−33) = 63 (3)  掃き出してサイズを小さくすれば

2 5 0 3 1 2 1 4 6 =

2 5 0 3 1 2

8 1 0

(3行に第2行の(−3)倍を加える)

=

3 1 2 2 5 0

8 1 0

(第1行と第2行の入れ替え)

=

2 1 3 0 5 2 0 1 8

(第1列と第3列の入れ替え)

= 2· 5 2

1 8

(ブロック分けされた行列式の性質)

= 2(−402) =−84

(解答終)

サイズを小さくする方法は入れ替えの操作が手間なように見える.しかし,後で学習する余因子展開を 用いれば入れ替えが不要となり,掃き出した後すぐにサイスを小さくできるようになる.そのため,どの 方法が最適かは場合によるので,あまり方法にこだわらずに正確に計算できるようにすること.

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