1.2 2次行列式の幾何学的意味 2次正方行列 A=
a b c d
に対して,a= a
c
, b= b
d
とおき,行列式の意味を幾何学的な視点から 考察してみる.
行列Aの定めるR2の線形変換TAをTA(x) =Axとおくと,R2 の基本ベクトルe1 = 1
0
, e2 = 0
1
に対して
TA(e1) =Ae1 = a b
c d 1 0
= a
c
=a, TA(e2) =Ae2 = a b
c d 0 1
= b
d
=b となる.
TA
y
x 0
0 1 D
1
E
→b
→a
detA=ad−bc= 0\ のときには,a とbはともに0 でなく平行でもないから1次独立である.よって,この 2本のベクトルから作られる平行四辺形E の面積S は
S = 2· 1 2
p|a|2|b|2−(a·b)2 = ad−bc =|detA|
となる.また,e1,e2 がつくる正方形D に属する点の 位置ベクトルは se1+te2 (s, t∈[0,1]) と表せるから
TA(se1+te2) =s TA(e1) +t TA(e2) =sa+tb∈E (s, t∈[0,1])
であり,正方形 Dは線形変換TA により平行四辺形E に移ることがわかる.正方形 Dの面積は1,平行 四辺形 E の面積は|detA|であるから,線形変換 TA により図形の面積は|detA| 倍されていることにな る.同様にして,1辺の長さが1以外の正方形でも,移された平行四辺形の面積は元の正方形の |detA|倍 である.正確には微分積分学の重積分の単元で扱うことであるが,一般の図形でも(小学校で円の面積を方 眼紙で考えたように)小さな正方形を敷き詰めて考えることにより,TAで移された図形の面積は |detA| 倍されることがわかる.
TA y
0 x 1 D
1 0
l
→a
detA=ad−bc= 0のときを考える.もしa=b=0 ならば,A=O となりTA により平面内のすべての点 は原点に写る.そこで,a =\ 0 の場合を考えることに する.このとき,a とbは平行であるから,b=kaと なる実数 kが存在する(b=0 でも k= 0 とすればよ い).よって,R2 の任意のベクトル xe1+ye2 を TA
で写すと
TA(xe1+ye2) =x TA(e1) +y TA(e2) =xa+yb= (x+ky)a
となる.よって,平面の任意の点は原点を通り a を方向ベクトルとする直線l 上の点に写ることになる.
このときは正方形や円など有界などんな図形を移しても線分となり潰れてしまう.便宜上,この場合は線分 の面積が0であると約束すれば,線形変換 TA により図形の面積は|detA|= 0 倍されていることになる.
また,このときは線分に潰れた図形だけの情報から元の図形を復元することはできない(どのように潰 れたかわからないため.円でも楕円でも正方形でも直線上に同じ影となることはある).このことからも,
逆行列 A−1 が存在しないことがわかる.実際,もし逆行列で移せばTA で移す前の図形に戻るはずである が,それは不可能である.
行列Aによる変換の面積変換倍率が|detA|であることがわかった.次に,行列式detAの正負が何によっ て決まるかを考えてみる.そのヒントとなるものは2個のベクトルaとbのなす角である.ただし,ベクト ルaを原点を中心とする回転でbと同じ方向に重ね合わせるときの反時計回りの回転角をθ(−π < θ ≦π) とする.このとき,bはa を原点中心に θだけ回転して,さらに kbk
kak 倍したものであるから b= kbk
kakR(θ)a と表せる.これを計算すれば
b= kbk
kakR(θ)a= kbk kak
cosθ −sinθ sinθ cosθ
a1 a2
= kbk kak
a1cosθ−a2sinθ a1sinθ+a2cosθ
であるから
b1 = kbk
kak (a1cosθ−a2sinθ), b2 = kbk
kak (a1sinθ+a2cosθ) がとなる.よって
a1b2−a2b1 =a1 kbk
kak (a1sinθ+a2cosθ)
−a2 kbk
kak (a1cosθ−a2sinθ)
= kbk
kak (a21+a22) sinθ
=kak kbksinθ が成り立つ.
従って,sinθの符号で
detA=kak kbksinθ の符号が決まるので
0< θ < π =⇒ detA >0
−π < θ <0 =⇒ detA <0 θ= 0, π =⇒ detA= 0
が得られる.つまり簡単にまとめれば,a とbが平行ならばdetA= 0 で,そうでないときは aを反時計 回りに回して bに重なる方が近ければ正,時計回りの方なら負となる.
これを図形的に説明すれば,移した後に図形が裏返しになるときがdetA <0であり,そのまま伸縮・回 転などした場合にはdetA >0となっている.
まとめると,A= a b
の行列式は『a とbの張る平行四辺形の符号付き面積』である.
1.3 2次行列式の性質と特徴づけ
次に行列式の重要な性質を調べていくことにする.いずれの性質も,成分計算により直接証明できるの で各自で証明を試みてみよ.
(1) (多重線形性)
任意の平面ベクトル a,a′,b,b′ に対して
a+a′ b=a b+a′ b a b+b′=a b+a b′ が成り立つ.また,任意のスカラーα に対して
αa b=αa b=a αb
が成り立つ.このように列ベクトルの和を分けたり,スカラー倍を前に出せることを多重線形性と いう.
これらの等式は,α1, α2, β1, β2 を実数として
α1a+α2a′ b=α1a b+α2a′ b, a β1b+β2b′=β1a b+β2a b′ とまとめることができ,さらに1本の式で表せば
α1a+α2a′ β1b+β2b′=α1β1a b+α1β2a b′+α2β1a′ b+α2β2a′ b′ となる.多重線形性はこの形で用いることも多いが,まずは最初に述べた和と実数倍との関係を理解 しておくこと.
(2) (退化性)
任意の平面ベクトル a に対して
a a= 0
が成り立つ.この性質を退化性という.これは図形的には2本の同じベクトルから平行四辺形を作ろ うとしても線分となってしまい,その面積が0であることを意味している.
(3) (正規化条件)
基本ベクトル e1= 1
0
, e2 = 0
1
に対して
e1 e2= 1
が成り立つ.この性質は|E2|= 1と表せて,正規化条件という.これは図形的には1辺の長さが1の 正方形の面積が1であることを意味している.
(4) (交代性)
任意の平面ベクトル a,bに対して
a b=−b a
が成り立つ.このようにベクトルを入れ替えると符号が変わることを交代性という.成分計算でも示 せるが,行列式の符号の決まり方からもこの事実が成り立つことを確認できる.
ここまで2次行列式がみたす性質を調べてきた.逆に,2次正方行列 A を代入すると実数が出てくる関 数f(A) (A∈M2(R)) で,多重線形性,退化性,正規化条件の3つをすべてみたすものは,行列式に限る ことがわかる.なお,本来はA= a b
に対して
f(A) =f( a b ) と書くべきであるが,かっこが多く見にくいため簡単に
f(A) =f a b と表すことにする.
命題 1.2. (2次行列式の特徴づけ)
2次正方行列A に実数を対応させる関数 f(A) で,多重線形性,退化性,正規化条件の3つをすべてみ たすならば
f(A) = detA が成り立つ.
証明. 任意の平面ベクトル a,bに対して,多重線形性より f a+b a+b
=f a a
+f a b
+f b a
+f b b となる.ここで,退化性より2本の列ベクトルが同じだと0になるので
f a+b a+b
=f a a
=f b b
= 0 である.よって
f a b
+f b a
= 0 となり,交代性
f a b
=−f b a が成り立つ.
ゆえに,任意の2次正方行列 A= a b
c d
に対して a
c
=ae1+ce2,
b d
=be1+de2 と見れば,多重線形性より
f(A) =f ae1+ce2 be1+de2
=ab f e1 e1
+ad f e1 e2
+bc f e2 e1
+cd f e2 e2 となる.ここで,退化性より
f e1 e1
= 0, f e2 e2
= 0 である.また,正規化条件と交代性より
f e1 e2
= 1, f e2 e1
=−f e1 e2
=−1 だから
f(A) =ab·0 +ad·1 +bc·(−1) +cd·0 =ad−bc
が得られる.よって,条件をすべてみたす関数は2次行列式f(A) = detA に限られる.