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数ベクトル空間の間の線形写像

ドキュメント内 線形代数学入門 この (ページ 76-98)

1 行列で定められる写像

行列は単に数値を縦横に並べたものというだけではない.行列のn 乗の応用の節でも述べたように,行 列をベクトルをベクトルに移すものと見ることは重要である.

例えば平面のベクトルを平面ベクトルに変換するものとして

f x

y

=

a b c d p q

x y

=

ax+by cx+dy px+qy

のように行列をかけることを考える.このように,数ベクトルを代入するとまた数ベクトルが出てくるも のは写像と呼び,この場合は2次元数ベクトルを3次元数ベクトルへ移しているから

f :R2 −→R3

のような記号で表し,定義域をR2 とする写像という.正確な写像の定義は第9章で扱うことにする.この 章では「数ベクトルを1つ代入すると,1つの数ベクトルが出てくるもの」を写像と呼んでいると考えれば よい.

定義 1.1. (行列から定まる写像)

A∈Mm,n(R) に対して,写像TA:Rn−→Rm

TA(x) =Ax (xRn)

で定義する.この TA を行列A が定める Rn から Rm への線形写像という.

特に n=m の場合には,TA をRn の線形変換という.

1.2.A= 1 2

3 4

とおくと,TA:R2 −→R2 であり,x= x1

x2

に対して

TA(x) =Ax= 1 2

3 4 x1 x2

=

x1+ 2x2 x1+ 2x2

となる.つまり,TA は2次元数ベクトルを代入すると,2次元数ベクトルが出てくる.

B =

1 2 3 4 5 6

とおくと,TB :R3−→R2 であり,x=

x1

x2 x3

 に対して

TB(x) =Bx=

1 2 3 4 5 6

x1

x2

x3

=

x1+ 2x2+ 3x3

4x1+ 5x2+ 6x3

となる.つまり,TB 3次元数ベクトルを代入すると,2次元数ベクトルが出てくる.

行列から定まる写像については,次の性質が代表的である.

定理 1.3. (線形性)

A∈Mm,n(R) とすると,任意の x,yRn α∈Rに対して

TA(x+y) =TA(x) +TA(y), TA(αx) =α TA(x) が成り立つ.この2つの性質を線形性という.

証明. TA の定義式から

TA(x+y) =A(x+y) =Ax+Ay=TA(x) +TA(y) TA(αx) =A(αx) =αAx=α TA(x)

となる.

これは,1次関数y=axがみたす性質

a(x1+x2) =ax1+ax2, a(αx) =α(ax)

と似ている.そのため,2次正方行列や3次正方行列で表される変換は高校数学旧課程で「1次変換」と呼 ばれ,入試問題でもよく出題されていた.

この線形性を利用すると,計算や論証が簡単に行えることがある.それについては後の例題を参照する こと.

2 平面内および空間内における線形変換

2.1 平面内の回転移動

高校数学の複素数平面の分野において点の回転を学習した.座標平面上の点 (a, b) を原点を中心に正の 向きに角度θ 回転した点を (x, y) とおくと,複素数平面で考えれば

x+iy= (a+ib)(cosθ+isinθ) となる.これを計算すれば

x+iy= (acosθ−bsinθ) +i(asinθ+bcosθ) であるから

(x, y) = (acosθ−bsinθ, asinθ+bcosθ) となる.

ここで,座標と位置ベクトルを同一視して縦ベクトルで書くことにすると x

y

=

acosθ−bsinθ asinθ+bcosθ

=

cosθ sinθ sinθ cosθ

a b

が成り立つ.よって,行列を

R(θ) =

cosθ sinθ sinθ cosθ

とおけば

x y

=R(θ) a

b

より,点の回転移動はその位置ベクトルに R(θ)をかけることで実現できる.この行列R(θ) を回転行列と いう.

すでに例題4.12で見たように,回転行列の積について

R(α)R(β) =R(α+β)

が成り立つ.これは『β 回転移動してからさらにα 回転移動すること』と『一度にα+β 回転移動するこ と』が同じであることを意味しており,その意味で当然のことである.

また

∆(R(θ)) = cos2θ+ sin2θ= 1= 0\

であるから,R(θ)は正則で,その逆行列は R(θ)1 =

cosθ sinθ

sinθ cosθ

=

cos(−θ) sin(−θ) sin(−θ) cos(−θ)

=R(−θ) となる.これは θ回転の逆変換は −θ回転することを意味しており,自然な結果である.

2.2 平面内の座標軸に関する対称移動

座標平面内で x 軸に関する対称移動f を考える.この変換f により,点 (x, y) (x,−y) に移るから,

位置ベクトルで表せば

f x

y

= x

−y

=

1 0 0 1

x y

となる.よって,x 軸に関する対称移動は行列 Jx=

1 0 0 1

で表される変換である.このJx を反転ということもある.

同様に,座標平面内でy 軸に関する対称移動g を考える.この変換gにより,点 (x, y) (−x, y) に移 るから,位置ベクトルで表せば

f x

y

= −x

y

=

1 0 0 1

x y

となる.よって,y 軸に関する対称移動は行列 Jy =

−1 0 0 1

で表される変換である.このJy も反転ということもある.

2.3 平面内の原点を通る直線に関する対称移動

原点を通る直線l :y=mx に関する対称移動を f とする.位置ベクトルがx= x

y

の点Pを対称移 動した点をQとすれば,f(x) が点Qの位置ベクトルである.

直線l の方向ベクトルとしてv = 1

m

がとれる.まず,線分PQの中点は直線 l上にあるから,ある 実数 k を用いて

x+f(x) 2 =kv と表せる.よって

f(x) = 2kv−x である.

次に,直線PQlは垂直だから,−→

PQ =f(x)xv の内積は0となる.ゆえに 0 = (f(x)x,v) = (2kv2x,v) = 2kkvk22(x,v) より

k= (x,v)

kvk2 = x+my 1 +m2 となる.よって

f(x) = 2kv−x= 2(x+my) 1 +m2

1 m

x

y

= 1

m2+ 1

2(x+my)−(m2+ 1)x 2(x+my)m−(m2+ 1)y

= 1

m2+ 1

(1−m2)x+ 2my 2mx+ (m21)y

= 1

m2+ 1

1−m2 2m 2m m21

x y

であるから,f は行列 1 m2+ 1

1−m2 2m 2m m21

で表される変換である.

2.4 平面内の原点を通る直線に関する正射影

原点を通る直線を l:y=mxとする.平面上の点PPから直線 l に下した垂線の足Qに対応させる 変換を,Pの直線 lへの正射影という.

直線l への正射影を g とし,点Pの位置ベクトルを x= x

y

とすれば,g(x) が点Qの位置ベクトル である.

ここで,f を直線 lに関する対称移動とすれば,正射影の定義から x+f(x)

2 =g(x) が成り立つ.よって,前節の計算より

g(x) = x+f(x)

2 = x+ (2kvx)

2 =kv = x+my 1 +m2

1 m

= 1

m2+ 1

x+my mx+m2y

=

1 m m m2

x y

であるから,gは行列 1 m2+ 1

1 m m m2

で表される変換である.

今回は先に対称移動を表す変換f を求めていたので,それを利用して簡単に正射影の行列を求められた.

対称移動の場合と同様にすれば,正射影を表す行列を直接求めることもできる.もし原点を通る直線l の 方向ベクトルを長さ1で

v= a

b

(a2+b2 = 1) とすれば,直線 l への正射影を表す行列は

a2 ab ab b2

と見やすくなる.よい練習問題なので,直線 l によ る対称移動を経由せずに,直接これを求めてみよ.

2.5 空間内の原点を通る平面に関する鏡映変換 原点Oを通り,長さ1の法線ベクトルが n=

a b c

 (a2+b2+c2 = 1)で与えられる平面をH とすると き,H に関する対称移動を,平面H に関する鏡映変換という.

平面H に関する鏡映変換をf とする.このとき,点Pの位置ベクトルを x=

x y z

とすれば,f(x) 点PのH に関する対称点Qの位置ベクトルである.このとき,n−→

PQ =f(x)xは平行であるから f(x)x=kn

となる実数k が存在する.よって

f(x) =x+kn と表せる.

また,線分PQの中点Mは平面 H 上にあるから,−−→

OM = f(x) +x

2 nは垂直であるので 0 =

f(x) +x 2 ,n

=

2x+kn 2 ,n

= (x,n) + k

2 knk2 = (x,n) + k 2 より,k=2 (x,n) となる.

ゆえに

f(x) =x2 (x,n)n=

x y z

2(ax+by+cz)

a b c

=



(12a2)x2aby2acz

2abx+ (12b2)y2bcz

2acx2bcy+ (12c2)z



となる.従って,f は行列

12a2 2ab 2ac

−2ab 12b2 −2bc

2ac 2bc 12c2

 で表される空間の変換である.

WebMath:平面の線形変換,空間の線形変換の全問題

3 行列の積の意味

ここまで行列の計算法について説明してきたが,行列の積の意味を振り返ってみる.前の節で見たよう に,行列をかけることは何らかの変換規則であることを見た.

このように,平面ベクトルを平面ベクトルにうつす規則のうち,行列をかけることで実現できるものを 考える.つまり

x= x

y

, A=

p q r s

, B =

a b c d

とおくとき

f(x) =Ax, g(x) =Bx

という変換について考える.このような変換は前に述べた『回転移動』や『原点を通る直線に関する折り 返し』など重要な例を多数含む.

このとき,2つの変換は具体的には f

x y

=

px+qy rx+sy

, g

x y

=

ax+by cx+dy

となる.これらの変換の合成(続けて変換すること)を考えてみると,計算すれば (g◦f)(x) =g f(x)

=g

px+qy rx+sy

=

a(px+qy) +b(rx+sy) c(px+qy) +d(rx+sy)

=

(ap+br)x+ (ap+bs)y (cp+dr)x+ (cq+ds)y

となる.

一方,g f を表す行列の積”を考えるならば,合成変換g◦f を表す行列BA (g◦f)(x) = (BA)x · · · 1

をみたすものと考えられる.一方,上の成分計算の結果を行列で表せば (g◦f)(x) =

(ap+br)x+ (ap+bs)y (cp+dr)x+ (cq+ds)y

=

ap+br ap+bs cp+dr cq+ds

x y

· · · 2 である.ここで,1 2 は同じものを計算しているので一致するべきだから

BA=

ap+br ap+bs cp+dr cq+ds

となる.これは定義3.1で述べた行列の積の定義そのものである.

ゆえに,行列の積は行列をベクトルをベクトルに写す変換とみたときに,変換の合成と両立するように 定義されている.例えば,回転行列についてはきちんと回転操作がみたすべき様々な性質をきちんと表現 できている.

しかしそのために,行列の積の定義はやや複雑な形となってしまっている.なおここでは2次正方行列に ついて説明したが,一般次数の積の場合も同様である.

この視点からは,変換の合成について(h◦g)◦f =h◦(g◦f) が成り立つから,行列の積で (AB)C =A(BC)

が成り立つことは自然である.また,一般にg◦f =\ f◦g なので,行列の積でAB=\ BAとなることも自 然なことである.

4 数ベクトル空間における線形写像の形

行列によって定められる写像が線形性をもつことは当然だが,逆に線形性をもつ写像とは具体的にはど のようなものなのだろうか.

そこで,次のように線形写像を定め,その形について調べてみる.

定義 4.1. (線形写像)

 写像 f :Rn−→Rm が任意の x,yRn と任意のα∈Rに対して f(x+y) =f(x) +f(y), f(αx) =αf(x)

をみたすとき,f Rnから Rm への線形写像という.また,この性質を線形性という.

特に m=nのときは,Rn 上の線形変換という.

線形写像については,常にf(0) =0 が成り立つ.実際

f(0) =f(0+0) =f(0) +f(0) より,求める結果が得られる.

また,f :Rn−→Rm が線形性をもつ条件は『任意の x,yRnと任意の α, β∈Rに対して f(αx+βy) =αf(x) +βf(y)

が成り立つこと』と1つの式で表すこともできる.

まずは線形変換f :R−→Rの具体例を求めてみる.ここで,f がR上の線形変換であることの定義は f(x+y) =f(x) +f(y), f(cx) =cf(x)

がすべての実数 x, y, cに対して成り立つことである.

まず簡単にわかることは,aを定数として

f(x) =ax という原点を通る1次関数はこの条件をみたす.実際

f(x+y) =a(x+y) =ax+ay=f(x) +f(y) f(cx) =a(cx) =c(ax) =cf(x)

となる.

そこで,他の例を探すために代表的な初等関数を考えてみると

f(x) = 2x+ 1とすると

f(x+y) = 2(x+y) + 1 = 2x+ 2y+ 1 f(x) +f(y) = (2x+ 1) + (2y+ 1) = 2x+ 2y+ 2

f(x) =x2 とすると

f(x+y) = (x+y)2=x2+ 2xy+y2 f(x) +f(y) =x2+y2

f(x) =ex とすると

f(x+y) =ex+y =exey f(x) +f(y) =ex+ey

f(x) = sinxとすると

f(x+y) = sin(x+y) = sinxcosy+ cosxsiny f(x) +f(y) = sinx+ siny

f(x) = logxとすると,x >0 しか代入できないうえに f(x+y) = log(x+y)

f(x) +f(y) = logx+ logy = logxy

のように,2つある条件のうちの f(x+y) =f(x) +f(y) をみたす例すらなかなか見つからない.実はR 上の線形変換は1次関数の他には存在しないことが知られている.

例題 4.2. (R 上の線形変換)

 線形変換f :R−→Rf(1) =aとなるものをすべて求めよ.

(解答) 任意の実数 x∈Rに対して,x=1 と見れば,線形性の2番目の条件より f(x) =f(x·1) =xf(1) =ax

が成り立つ(今回は x がベクトルではなくスカラーであることに注意).よって,これが線形変換である ことはすでに示したから,条件をみたす線形変換は f(x) =ax のみである.

(解答終)

このように R上の線形変換は原点を通る1次関数しかない.これが 1次 変換とも呼ばれる理由であ る.また,上の解答からわかるように,f(1)の値を指定するだけで R上の線形変換はただ1つに定まって しまう. 線形変換 という条件を外せばf(1) =aとなる関数はいくらでもある(y=f(x) のグラフが点

(1, a)を通ればよいので)から,このことからも線形性をみたすという条件はかなり強いことがわかる.

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