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21世紀型組織に関する一考察 第1節 ネットワーク型組織の発展

ドキュメント内 論文要旨 (ページ 33-51)

1.ネットワークとインターネットの歴史

ソニーの出井仲之社長(当時)の言葉をお借りすれば、 「インターネットは現代に落ちた 限石」であり、 「このインパクトの大きさを認識し、すばやく変革を起こせない企業は恐竜 のように絶滅の運命をたどってしまう」という。多くの衝撃をもたらすインターネットは

どのようにして生まれ、発展し、活用されてきたのだろうか。

インターネットを利用したネットワークの最初の形は1969年、軍事研究の支援を目的と したARPANET (ア‑バネット 軍事用ネット)である。これはアメリカの国防総省が国 防用のコンピュータネットワークとして開発したものである。 ARPANETは長距離ネット

ワークであり、その後短距離ネットワークとしてのローカルネットワークが整備されてい った。この二つが次第に結び付いていくことでネットワークの集合としてのインターネッ トの仕組み‑と発展していった。その後1980年代後半には、 ARPANETの通信技術を基盤 としたNFSネットワークが構築され、学術研究用ネットワークとして利用され始めた。こ れがさらに範囲を拡大して行く中で、地球規模の巨大なコンピュータネットワークにまで 成長し、地理的制限の克服を可能にしたのである。

反対に日本は、アメリカとは逆の形で発展してきた。 1960年代にはすでにコンピュータ と通信の結合の利用は組織内の情報システムを中心として始まっていたが、法律の規制等 により、まだ組織内レベルにしか過ぎなかった。 1971年の法改正による第一次電気通信開 放でようやく電電公社(当時)の回線にコンピュータをつないで仕事をしてもよいという 法的基盤が整備された。しかし、これにはまだ「同じ会社同士なら」という制約が残って いた.制約はまだまだあったものの、第一次電気通信開放は様々な変化をもたらした.合 理化とオンライン化が進んだ結果、銀行のキャッシュディスペンサーシステムが動き始め たのは代表的な例だろう。

その後1970年代後半から1980年代初めにかけて短距離ネットワークが小規模ながらも 整備され始めた。しかし、長距離ネットワークはアメリカと比べて大幅に遅れているのが 現状だった。その後1985年の第二次電気通信開放により、 NTTの回線につないで企業間 で仕事をしても良いとの法律改正が行なわれ、ついに企業間ネットワークが可能となった。

ちなみにこの年に電電公社はNTT‑と切り替わっている。この頃には遅れていた長距離ネ ットワークの整備が進み、 1993年にはMosaic (モザイク)と名付けられたブラウザが開発 された。日本語などの英語以外の言語にも対応したMosaicがトリガーとなって、日本では インターネット元年と呼ばれる年が到来し、さらに1995年にはインターネット上でのビジ ネスが始まるようにさえなった。インターネットは急速に普及した。これは様々なことを 可能にすると同時に分業構造の変化をもたらした。 HRMに限って考えると、人的資源を離 れていても管理することができるようになったことなどはその顕著な例であると考えられ

る。

しかし, 2000年前後にITバブルが崩壊し、 IT革命がぼやけてしまったことは世間のIT への関心の低下を引き起こした。 IT革命の動きが見えにくく、混沌としていたためかもし れないが、理論がぼやけてきている時こそ、現実では動きがある1。インターネットは確実

に変化し、進化してきている。 2004年から2005年にかけてシリコンバレーが復活する中 で、ネットワークの普及期とは異なる概念が生まれた。 「Web2.0」である。 Web2.0はイン ターネットの変化を受け、アメリカのIT系出版社、オライリー社のCEOティム・オライ

リーによって提唱されたものである。 1995年頃からITバブル崩壊までのインターネット 普及期をWebl.0と呼ぶのに対し、次世代のウェブの意味を込めて命名された。 Web2.0は Webl・0よりもさらにインターネットの特質を推し進めたものであると言われる.インター ネットやネットワークの特徴を踏まえた上で、 Web2.0によって生み出された新しい組織の 形を見ていきたい。

2.ネットワークとインターネットの概念 (1)デジタルとしての言語とネットワーク

ネットワークはしばしば言語にたとえられる。言語はデジタルなものであり、ネットワ ークもまたデジタルなものである。デジタルとは離散的なものの組み合わせである。アナ ログのような連続的な変化とは異なり、デジタルは不連続な変化を生み出している。言語 は音声が音節に分解され、組み替えられた不連続なものであり、無限の表現が絶えず生み 出される。言語学者A.N.チョムスキーによると、言語は意味を決定する際の構造としての 深層構造が文法の操作により、発音を決定する際の構造としての表層構造となる。これが 発音される形としての文となる。具体例としては「ジョンは何を買ったの?」という事柄

を伝えたい場合、深層構造では「Jhondidbuywbat」となり、文法による移動のメカニズ

ムを経て、表層構造の「what did Jbon buy t (発音はされないが目的語がここにあった という印)」となる。これが「WもatdidJbonbuy?」として具体的に発話される。

また、一つの事柄を伝える場合、深層構造からすでに多様な表現方法がある。つまり文 として一つの事柄を伝える場合、何通りかの表現方法があり、それを選択することで言語 が目に見える(耳に聞こえる)形として表すことができると解釈できる。

これをネットワークに当てはめると、経営目標や経営戦略が現実の組織構造や経営活動 の背後にあり、ネットワークを介して連携の形として現れる。連携方法は一つではない。

地球規模で結びつくインターネットが連携のあり方をほぼ無限の数にまで押し上げる。多 数のパートナー候補の中から選択することで、これまでになかった連携が生み出される。

この意味では深層構造が様々な表現方法を持つことと、ネットワークが可能にする多様な 連携は、同じ意味を持つ。

言語の構造をさらに詳しく見ていくと、ネットワークの連携はいよいよ言語と同様の構 造を備えていると理解できる。言語は単語が文法を媒介として文になり、文脈を媒介とし 1三重大学・渡透明教授、講義メモに拠る。

て文章になることで構成されている。単語とは個々の部分であり、文法は単語をどのよう に組み立てて文を作るのかという決まりである。文法があるために意味の通る正しい文が

作られる。決して単語の羅列ではない。そこで作られた文が現れる環境が文脈であり、文 章は文の羅列を意味する。文章は完成品としての言語となる。

ネットワーク上では自律分散した個々が単語に当たる。これらを連携させるツールがネ ットワークである。しかし、これは手段にしか過ぎない。連携方法は経営戦略が決定し、

実際に連携させるのはネットワークである。言語では組み立て方を決めるのも実際に組み 立てるのも文法であるため、この点に関しては異なっている。ネットワークによる連携が 作り上げ、それが標準化されたインターフェースを持つものはモジュールと呼ばれる。モ ジュールはそれ自体が完成品の構成要素となる価値を持っていて、単にくっつけただけの 複合部品とは異なる。文法によって意味の通る文として作られた「私はアメリカに行く」

という言語がモジュールに相当するとすれば、文法を用いずに単語を羅列しただけの「私 行く アメリカ」は複合部品に例えることができる。出来上がったモジュールを経営戦略 の達成というゴールに結びつけるのは基本設計である。ここでの設計は目的を達成する価 値のあるものとして最終的な形に組み合わせていく働きをするという点ではコーディネー

トの意味を持つのかもしれない。経営戦略の達成が経営目標の達成につながっていく2。

【図表2・1】言語とネットワークの概念

(出所)杉崎鉱司氏の講義を基に筆者作成。

2言語学の知識に関しては、三重大学・杉崎鉱司助教授の講義に依拠するところが大きい。

(2)インターネットのデザイン

インタ‑ネットとネットワークの世界はほぼイコールである。インターネットとは世界 中のすべてのコンピュータをつなぐコンピュータネットワークであり、その目指すものは 世界中のコンピュータが自由につながる環境である。この環境が実現すると知識や情報を いつでも自由に他のコンピュータや人間と共有し、交換することができる。この時には国 境などの地理的な制約はない。双方向で対等な、個々で直接コミュニケーションが可能と なるのである。また、インターネットは個々に直接つながるという点でパソコン通信とは 異なっている。パソコン通信は中心の大型ホストコンピュータに接続する集中型の中央集 権的なっながりである。このような形を必要とせず、個々に自律し、分散しているインタ ーネットは大規模な発展を可能とした。なぜならば分散しているもの同士が連携すること で運用される仕組みは、統一的な制御や支配が必要とならないため、自発的にどんどんつ ながっていってその範囲を広げてくことができるからである。

\.

しかし、自由に連携合い、コミュニケーションを図るインターネットにも最小限の約束 事はある。インターネットプロトコルである。これにより自律した個々はゆるやかなコン センサスで動いていく。リーダーや支配者は必要ない。管理や制御の仕組みがなくても動 いていく。インターネットは皆のものである。ただ、まったく階層性がないというわけで はない。視点を変えれば、インターネットはドメイン名という形で非常に強い階層性を持 った一面も備えているのである3.

ドメイン名とは、インターネットにおけるネットワークの組織を区別するためのもので、

世界で一つだけの文字列のことである。ドメイン名はドメインツリー(図表2・2)にも表さ れるように、強い階層構造を持ち、階層化された空間の中で管理を分散させている。リー

ダーや支配者の必要がないインターネット上でのこのような強い階層性は、一見矛盾して いるようにも感じられるが、逆にこうした最低限の階層性が広範囲なネットワークを実現 しているとも考えられる。自律し、分散する個々がこのような一定の範囲内に階層付けら れることで、小分けされた小規模な、ゆるやかな管理が可能となる。この小分けの管理方 法がインターネットプロトコルを機能させ、あらゆるところとつながりながら偏在するネ

ットワークの世界を可能にしているのではないだろうか。

このようにして可能となっている自律分散的な協調で動かされるインターネットは、連 携相手を柔軟に組み替えて発展することができる。それが企業同士であっても同様である。

そのため、ビジネスに浸透し、組織や管理、経営方法に影響を与え、変化をもたらすのは 自然な流れであろう。インターネットなどのネットワークが可能にする新しい組織のタイ プとしてネットワーク型組織がある。

3村井純、 『インターネット』、岩波書店、1995年、 『インターネットⅡ一次世代‑の扉‑』、

岩波書店、 1998年

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