三石 玲子氏 M&M研究所 代表
2000年はEC本格化元年
99年後半頃から日本のEC市場もようやく本格化して きた。2000年が事実上のEC元年といえる。とはいえ、
日本のEC市場は、米国に比べ3年遅れ、マーケット規 模で30分の1というのが私の実感である。
インターネットの商用利用が始まったのは1994年暮 れであり、日米ともスタートは同時期であった。これほ どに差がついた原因は、日本の企業が、役所などの後押 しもあって実験をしてしまったからだ。インターネット とは一度、立ち上げたら即本番に移るものである。本番 に入るべきところを決済や技術などの実験を繰り返した ことが3年も遅らせてしまった理由である。
過去5年間で成果を上げたのは、中小企業、それも電 子個人商店である。大企業では、典型的な日本企業では ない「変わり者の企業」がECで成果を上げた。
大きなECプロジェクトが目白押し
日本ではインターネット生まれの企業は非常に少なか ったが、昨年秋口から大きなプロジェクトが目白押しで、
外資の参入も盛んだ。昨年までは、「投資規模は」と聞く と、「300万円です」という答えが返ってきたが、今年 は2桁違うという感じである。
特にオンライン・トレーディングの衝撃は大きく、私 自身、株取引などこれまでやったことがなかったが、や るならネット生まれの企業でオンライン・トレーディン グをしてみようかと思うようになった。それがネット ユーザの贔屓目である。ネットユーザはネット生まれの 企業を好むということである。オンライン・トレーディ ングは、新しい主婦トレーダーや学生トレーダーを生み 出している。今までのように投資のプロを相手に営業し ていた証券会社は通用しなくなる。
ネット・ビジネスの基本は、壮烈な消費者志向の戦い である。オンライン・トレーディングに関しても同じこ とが当てはまる。消費者志向でないと生き残れない。業 界自体が大きく変わってくる。
ECビジネスの市場規模
通産省は、1月に99年のEC消費者市場規模は3,360 億円と発表した。これは 反則 の数字である。なぜな ら、住宅、自動車関連が1,700億円を占めている。EC の定義には広義と狭義がある。狭義は、消費者がWeb 上で直接購買意思を伝えるものである。それに対し、広 義にはWebで情報を流し、それを覗いた見込み客を集 めて、既存の販売チャネルで販売するものまで含んでい る。通産省の数字は後者の広義の立場に立っており、純 粋なECに絞り込むと99年の市場規模は2,000億円弱が 妥当であろう。
インターネットを空気のように使いこなす人、これを ウェブ・ライフ・スタイラーと呼んでいる。要するに生活 の中で当たり前に使いこなしている人達である。アメリ カでは、ウェブ・ライフ・スタイラーの比率が人口の 20%を超すとマーケットがブレークすると初期からい われてきた。そして98年に20%に達している。日本は
約8%程度である。 (図1)
米国に3年遅れという感じだが問題は空気である。空 気とは、値段の抵抗感がなく使えることである。今は一 酸化炭素を吸っているような抵抗感だらけの値段であ る。この抵抗感をなくすプロジェクトが進行すれば空気 になっていくスピードが早まり、8%、20%の差が1年 半に縮まる可能性が出てくるだろう。
インターネットを空気のように利用する人が 2割を越すと、市場は飛躍する
米国 日本
1.市場規模は通産省ベース 2.EC化比率は民間最終消費対比 3.人口は米はNielsen,日本は郵政省
4.アクティブユーザ数(週1回以上、かつ週2時間以上ウェブ利用:米国 eStats)
日本はウェブ利用者比率(日経マーケットアクセス62.6%から)
2.25兆円 650億円 市場規模
(98)
インター ネット人口
アクティブ ユーザ数
全人口 対比 EC化比率
0.40%
0.02%
20%
8.3%
7,800万人 1,700万人
5,400万人 1,000万人?
図1 ECビジネスの市場規模
過去5年間でわかったこと
日本のインターネット・ショップは約2万店である。
この2万店のほとんどは中小企業であり、それもパパマ マ・ストアの電子個人商店である。そのうち9割はとり たてた特徴はないが、その中のトップクラスが年商1億 円になってきた。夫婦とアルバイト1名を抱えての1億 円である。この1億円は日本におけるECのハッピー・モ デルである。そして、本家といわれる通販会社あるいは 百貨店での年商規模は、数億円に届き始めたといった状 況にある。2人で1億、片や組織を挙げて数億であるか ら、ネットでは企業規模による差はほとんど表われてい ないのが現状である。
また、技術・決済志向で向かった企業は全滅した。同 時に実験をしたところも全滅した。インターネット・ビ ジネスで成功する秘訣は、「ネットらしさをどう生かす か」ということである。
過去5年間の教訓は、これまでは金・技術よりもセン スと起業家精神がものをいうという正論がまかり通って いた。しかし、今年からはネット・ビジネスは身軽で金 がかからないという常識は通用しなくなる。ネット・ビ ジネスをきちんとやるためには金もかかるし、技術もセ ンスも起業家精神もすべて必要とされる。それだけ難易 度は非常に高くなるが、やりがいのある分野であること は間違いない。
オフラインとオンラインの融合
これまでネット・ビジネスはネットで完結するから地 上のインタフェースは必要としないといわれてきたが、
今やネット企業には地上のインタフェースが必要とされ るようになってきた。例えば、アマゾン・ドットコムが スターバックスと提携し、返品拠点として利用し始めた。
また物流センターも設けた。これは、情報操作だけで、
ネット・ビジネスができるという考えは通用しなくなっ てきたことを意味している。
その逆も言える。アメリカの金融機関にはレンガとセ
メントというスタイルの店舗が多い。それらを象徴して、
レンガとセメント(Brick & Mortar)企業と呼んでいる。
Brick & Mortar企業は、ネットのインタフェースを持 たないと生き残れない。したがって、オンラインだけ、
オフラインだけの商売は今後、成り立たない。それが日 本では一層顕著になってくる。
今、コンビニECが話題になっている。ネット店舗は 2万店あるが、コンビニは3万7,000店あり、ECプロジェ クトに手を上げているのは3万店弱もある。ネットとの 接点を持つ企業が一気に倍増することなる。この影響は 大きい。
ビジネス・モデルの転換
日本のインターネット・ビジネスは、リアル店舗のネ ット版に過ぎず、専門店やモールが中心であった。いわ ば小学生でも考えられるモデルだった。オンライン書店 が好調といっても、それは新市場を創出しているわけで はない。
売り手や買い手が蜘蛛の巣状態にあるWebでは、こ の蜘蛛の巣を仕切る人、マッチングする人の役割が重要 となる。これがマッチング・ビジネスで、これはインタ ーネットらしいビジネス・モデルである。例えば、旅行 のジャンルではホテル・旅館を会員として組織化する。
一方、ユーザは、「来週火曜日に大阪の心斎橋周辺に、
1泊1万円で泊まりたい」と仲介業のホームページを見て 依頼する。仲介業者は、自分のデータベースからユーザ が希望するホテルを選ぶ。そこで需要と供給を結合する。
こうしたマッチング・モデルという新しいビジネス・モデ ルが出てきた。
それに次のような変化も現れてきた。例えば、書籍販 売のマーケットが300億円市場とする。ネット・ビジネ スが生まれたことで、300億円市場が350億円市場に なったわけではない。既存のパイを食ったにすぎない。
ところが、オークションやマッチング・ビジネスは、新 しく生まれてきたマーケットであり、市場の純増へと転 じさせている。したがって、ネット・ビジネスがマーケ
ットの開発・拡大に寄与する形になってきた。
さらに、より生活密着型になってくる。インターネッ トはワールド・ワイドな商圏であり、距離や国の障壁を 取り除けると当初は言われていた。それが日常商圏にな り便利なものに変わってきた。例えば、ECでは、ロー カル、グローサリー(生鮮食品)といったジャンルでの成 長ビジネスが目立ってきた。これが今年はさらに加速す るだろう。
Winner takes allのルール
インターネットの世界では「Winner takes all」(勝者が すべてを取ってしまう)ということがいわれてきた。ネ ット・ビジネスは「早く始めて売りまくれ」これが秘訣で ある。
日本ではWinnerと呼ばれるほどのビジネスはまだ存 在しない。ネット上の本屋や花屋の1番手はどこもどん ぐりの背比べである。売上規模もそれほど大きくはない。
ただし、1人勝ちが起こり始めているジャンルがある。
それが楽天市場というモールである。ビジネス・モデル と し て は 斬 新 な も の で は な く 、 食 べ 物 を 中 心 に 約 2 , 0 0 0店が集中しているモールである。他の同種の モールは300〜800店の規模だから1人勝ちの状況にあ る。モールも2,000店規模になるとインターネットら しいメリットが生まれてくる。例えば、季節外れのある 食べ物を食べたいと思ったとき、以前はそれを探し出す のに大変な苦労が伴ったが、楽天市場にアクセスすれば 即、該当の食品を扱っているところを探し出し、今日中 または明日届けてもらうことができる。商業集積がある 一定規模に達すると、そういう効果をもたらす。また、
2,000店規模になると収益源が多面化してくる。テナ ント料のほかにアクセス量の多さから広告料が入ってく る。オークションも始めているので手数料収入も入る。
店の数が売上げを伸ばすのである。
そもそもモールとはブランド力のない者が、例えば、
「さくらえび」と入力してもらって、そこから見つけても らう場所である。本来はブランド力がない者が出店する
場所である。力のある人は力をつけてそこから出て行き、
力のない人はモールに残ってしまう。だから1店当たり の月商規模は平均して30万円程度である。
Winner takes allの現象は、オンライン・トレーディン グ、オークション、自動車などのジャンルでも起きてこ よう。
マルチチャネル企業vs.
ネットジェネ企業の戦争
日本では、まだ大きな戦争は起きていないが、その芽 は出ている。1つは、マルチチャネル企業対ネットジェ ネレーション(以下、ネットジェネ)企業の争いである。
マルチチャネル企業とは実店舗を持ち、オンラインでも 販売を始めた企業のことである。ほとんどの企業はこれ
マルチチャネル 企業
リピーター比率
オンライン 専業
26%
17%
29%
90%
14ドル 27ドル 売上対比
マーケティング コスト比率
1オーダー当たり マーケティング 費用
出所:Direct Marketing 99.5
図2 効率比較(オンライン専用vs.マルチチャネル企業)