• 検索結果がありません。

図表9-1 ベンチャーキャピタルの協創関係の構築仮説

全体戦略の構想

件となっており、極めてカバー率が低い調査結果であると推定される。

米国においては、National Venture Capital Associationが中心となり、Pricewaterhouse CoopersとThomson Venture Economicsが業務の一環としてMoney Tree Surveyとして調査を実 施している。データはNational Venture Capital Associationの会員ベンチャーキャピタル のようにプロフェッショナルとして活動しているベンチャーキャピタル(2005 年 12 月末で 448社)からだけでなく、中小企業庁、コーポレートベンチャー、投資銀行、証券会社、

M&A仲介会社、および投資を受けたベンチャー企業からも常時、情報収集している。従っ て、日本のように一定の時期のみにアンケートをかけるのではなく、常に最新のベンチャー キャピタル活動をフォローアップしている。また、Dow Jones

VentureOne(www.ventureone.com)なども独自のデータベースを作成し、会員に公表している。

欧州においては、The European Private Equity and Venture Capital Association(EV CA)があり、36カ国、931社の会員がいる。統計については Thomson Venture Economics(European Head of Research)がEベンチャーキャピタルAと協力して、米国と同 様な手法で常時データを更新している。

日本においては、2002 年 11 月に有限責任中間法人日本ベンチャーキャピタル協会(Jベ ンチャーキャピタルA)が発足している。2005 年 10 月末現在 110 社の会員が入会している が、ジャフコ、SBIホールディングスなどの大手ベンチャーキャピタルが入会しておらず、

日本ベンチャーキャピタル協会として統計も取っていない。

日本においてプライベイトエクイティの統計が充実していない理由として、これまで日本 のベンチャーキャピタルは銀行系、証券系、生損保系ベンチャーキャピタルが主流なため、

ファンド資金募集に際して投資実績や投資パフォーマンスを開示する必要性が低かったため と考えられる。むしろ投資情報開示をすることは、先行するベンチャーキャピタルの投資先 に対して、追随するベンチャーキャピタルが投資営業をかけるきっかけになるというデメリ ットが大きかった。2005 年現在でも投資内容、投資パフォーマンスを積極的に開示している ベンチャーキャピタルは一部に留まっているが、今後、ベンチャーキャピタルが外部投資家、

特に年金資金をベンチャーキャピタル・ファンドに取り入れるようになるに従い、ベンチマ ークとしてのベンチャーキャピタル全体のパフォーマンス統計を必要とする機運が高まり、

開示に積極的なベンチャーキャピタルが増加してゆくことであろう。

課題の第二は、行動の基準があくまで「ベンチャーキャピタル」であり、「ベンチャーキ ャピタリスト」としての行動をしている人が少ないということである。

今回のベンチャーキャピタリストアンケート調査及びケーススタディを実施するに当たっ ては、調査対象を特定し、有効な回答率を得ることに苦労した。現時点の日本においては 1000 人から 2000 人のベンチャーキャピタリストがいる中で、ベンチャーキャピタリストとして自 分の投資理念と投資方針を持ち、自信をもって利害関係者との関係を構築している者が極め て少ないことが明確になった。ただ、第 7 章のケーススタディで取り上げた 5 人のベンチャ

ーキャピタリストはどれも独自の価値判断で行動しており、投資したベンチャー企業に対す る付加価値創造に持てる全エネルギーを投入している「ベンチャーキャピタリスト」として 活動している。このようにベンチャーキャピタリストとして活動していると胸を張って言え る者が、未だ数は少ないものの、増加していることは重要である。今後、独立系ベンチャー キャピタルに属していいようが組織型ベンチャーキャピタルに属していようが、ベンチャー キャピタリスト一人ひとりがプロフェッショナルとして責任と権限を持ち、自分の関わった ベンチャー企業への投資のIRRを高めることに全エネルギーを投入することが日本におい ても重要になると思われる。

次に、筆者の研究課題について述べたい。第一は、利害関係者とベンチャーキャピタリス トとの関係性の深堀りである。特に、ベンチャーキャピタルと出資者、株式市場との協創関 係の構築手法について、今後、自信をもって活動するベンチャーキャピタリストが増加する ことと、外部へのディスクローズが増加することに伴って、更に検討してゆきたい。本論文 では、データの制約の理由から、ベンチャー企業との関係性を中心とした議論となっている が、特に出資者との関係、市場及び顧客との関係性についての分析が足りず、今後の課題に したい。

研究課題の第二は、未成熟な日本のベンチャーキャピタル業界が、今後、どのような方向 に進展してゆくかについてである。特にベンチャーキャピタルのベンチャー企業を支援する機 能や手法は欧米のものと同じで、単に欧米の数年遅れで同じ過程を辿るものなのか、それとも日 本の置かれている環境や風土から、異なる過程を辿るかについての研究を進めていきたい。1990 年代後半に日本に進出してきた有名なアメリカのベンチャーキャピタルがわずか数年で行き詰ま り、日本から撤退している事実からしても、必ずしもアメリカ流の支援機能をそのまま適用して も日本のベンチャー企業に対してはうまくいかないことを示唆している。日本のベンチャー企業の 後進性だけではなく、日本の各種風土や税制・人事制度などの違いがもたらすベンチャーキャピタルの 付加価値活動の独自性が必要となるためであると考える。その理由としては、1)何らかのイノベーション を伴って急成長するベンチャー企業の絶対数が少ないこと、2)未公開株式に対する資本市場や制度の 歴史が浅く、未だ発達していないこと、3)ベンチャー企業の成長を支援する法律事務所、会計事務所、

経営コンサルティング、ヘッドハンティング会社などの周辺サービスが不足していること、4)エンジェルや ベンチャーキャピタルなどの直接金融の仕組みが未だに不十分で、成長初期段階での資金が調達しに くいこと、などが考えられる。それに加えて、日本のベンチャーキャピタルは欧米に比べて歴史も経験も浅 く、ベンチャー企業に対して適切な経営指導などの付加価値活動ができていないからパフォーマンスが 悪い、という見方もある。

現時点での筆者の見方は以下の通りである。

日本の従来型企業に対する支援においては、欧米の支援に比べて営業支援機能がより重視され るべきである。これは、日本のベンチャー企業の製品を積極的に購入する意識が、大企業や政府 自治体に加えて個人消費者も欧米と比べて低いためである。商品の選別眼・評価能力がまだ低く、

同じ製品、サービスを購入するのであれば、知名度の高い大企業の製品・サービスを購入する傾

向が欧米に比べて高い。系列企業のグループ内取引比率も依然として高い。いくら品質・価格・

サービスの点で優位性のある商品でも、ベンチャー企業と取引を始めるにあたっての「口座開設」

が難しく、取引が開始できないことが多い。そのため、欧米では考えられないほどの「暗黙的な 取引規制」が実際には打ち破れずに伸び悩むベンチャー企業が多いのが実態である。これを打破 する意味で、ベンチャーキャピタルが大手企業や主要な個人消費者へのアプローチを支援し、「口 座開設」を容易にするという営業支援機能が、日本のベンチャーキャピタルには欧米よりも大き く期待されていると言える。実際に筆者の経験でも、ベンチャー企業を大企業の経営陣と引き合 わせてベンチャー企業の自社商品を説明する機会を設定すると同時に、熱心に採用を推奨するこ とで営業提携、共同研究提携、資本提携などが実現した事例が多くある。それまで「門前払い」

の取り扱いをされていたベンチャー企業がよみがえった例もある。

加えて日本のハイテク型ベンチャー企業の場合には、人材機能が欧米に比べて重要である。欧 米の場合にはベンチャー企業に対する社会的な尊敬、理解が進んでいる。欧米では、多くの優秀な 人材が自分の能力を存分に発揮できる場所を求めて大企業や政府自治体からベンチャー企業に飛 び込み、自己実現を図り、さらに株式公開した暁には億万長者になり、また次のベンチャー企業 を創業・転職していくという好循環が生じている。日本の場合には、このような人材の好循環が 働いておらず、人材調達は非常に困難である。特にバイオテクノロジー、ナノテクノロジー、IT などのハイテク産業の場合、専門的な技能をもった専門家の採用が不可欠であるが、日本のベン チャー企業にはヘッドハンティング会社に依頼しても専門家の調達は最先端領域ほど難しい。そ こでベンチャーキャピタルが業界での人脈を生かして適切な人材の紹介をするとともに、ベンチ ャー企業で働くことのリスクとリターンを整理して示すことで人材調達のハードルを低くするこ とができる。また、時には会社幹部の適任性を判断し、幹部の入れ替えなどを取締役会に進言する ことも日本では重要である。ベンチャー企業においては、社長の独断で人事および組織の編成が 行われていることが多く、能力の伴わない配置をする場合も散見される。外部者でありながらベ ンチャー企業の成長に貢献するベンチャーキャピタルは、中立的な立場で人事面の発言ができる。

今後、日本でもベンチャー企業の活動がますます広がりを見せるなかで、ベンチャーキャピタル の人材機能はますます必要な機能となろう。

また、精神的支援機能については、日本のレイターステージだけでなくアーリーステージにお いても、欧米に比べてはるかに重要性が高い。これは欧米においては起業家が創業する前に、大 学や大学院でベンチャービジネスやビジネスプランの作成教育を受けたり、実体験としても大企 業のなかで新規事業運営や子会社経営を経験したりするのに比べて、日本では事前準備もそこそ こに、いきなり創業してしまう傾向が高いことに起因すると思われる。例えば、創業・ベンチャ ー国民フォーラムが2004年に行った起業家の国際比較調査でも、大学院進学者の起業割合は日本

(技術ベンチャー企業のみ)が17%であるのに対し、アメリカで33%、ドイツで41%、韓国で

も23%と格差がある。日本を除けば、高学歴になるほど自己の能力が高く、自主独立意識が高ま

っているので、起業家になる確率が高くなると言える。また、欧米では起業スキルを学べる経営 大学院(MBA)が多く、理工系の学部を卒業し、勤務経験後に大学院で起業スキルをさらに高め

関連したドキュメント