第 3 章 全節巻 SRM の高出力駆動
3.3 高速駆動領域の出力特性と課題
全節巻SRMの特性を把握するために,図3-4に示す量産ハイブリッド車用モータの トルク特性を要求値としてモータ回転速度毎の発生トルクと必要電流値についてシミ ュレーションを実施する.図3-15に量産ハイブリッド車用モータのトルク特性を満た す時のモータ回転速度毎の発生トルク,および必要電流量のシミュレーション結果を示 す.表3-2に回転速度毎の平均トルク,相電流実効値,および相電流の励磁角のシミュ レーション結果を示す.各巻線への通電開始タイミングは,1000 rpmと同様に,発生 するトルクに対して必要電流が最小となるように電流位相を調整している.表3-2に示 すように,必要電流量は基底回転数である2500 rpmにおいて186.2 Armsであった.
全節巻 SRM の解析結果において,最大トルクを発生するために必要な電流は 186.2 Armsである.基底回転数を超える出力領域においては,発生トルクが減少するが,必 要電流量は,最大トルクの発生時の電流量186.2 Armsを上まわる.
図3-16に基底回転数を超える領域の駆動点として,144 Nm, 4000 rpmの時の電流,
およびトルク波形の計算値を示す.平均トルクの計算値は143.8 Nm,相電流実効値は
230.6 Armsとなった.なお,各巻線への通電開始タイミングである相電流の励磁角は,
励磁開始角,および電流振幅指令値を変更し,発生する平均トルクに対して必要電流が 最小となるように電流位相,および電流振幅の指令値を選定した.ここで励磁開始角は 理想値に対して電気角で-115 deg.としている.通電幅は240 deg.である.全節巻SRM における各相の駆動電流は,電流が減少する消磁区間においてゼロまで減少していない.
各相の巻線電圧は,式(2-3)から式(2-5)で示した全節巻SRMの電圧方程式により表現さ れる.巻線電圧は,モータ回転速度の増加にともない誘起電圧成分が増加する.このた め,各相巻線の電流変化に供給される電圧成分が相対的に減少する.したがって,制御 巻線への電流変化量が制限される.全節巻SRMにおけるトルク式は,式(2-2)で表され ることを第2章第2節で述べた.全節巻SRMにおけるインダクタンス特性は,図3-2 のように示されることを述べた.全節巻SRMにおける発生トルクは,相互インダクタ ンス M におけるロータ位置の変化が正の区間において,対応する巻線へ電流を通電 することにより正のトルクを発生する.また,相互インダクタンスM におけるロータ 位置の変化が負の区間においては,対応する巻線電流により負のトルクを発生する.
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したがって,相互インダクタンス Mのロータ位置 の変化が負の区間において,消磁 相の電流を低減させることにより負のトルクの発生を抑制できる.しかしながら,全節 巻SRMにおいて,図3-16に示すように常に3相の電流が流れる場合,正・負の両方 のトルクを発生する.このため,発生トルクは負のトルク成分の影響を受けて低下する.
したがって,発生トルクに対する必要電流量が増加する.
ここで,残留電流による発生トルクへの影響について分析する.全節巻SRMにおけ るトルクは,式(2-2)で表される.図3-17に各相の相互インダクタンスMについてのロ ータ位置 に対する変化量を示す.図3-3の理想電流パターンにおいて,各ロータ位置
に対するトルク発生のために通電する相を主励磁相と定義する.図3-17に示すよう に,各ロータ位置 において,dM/dが正となる主励磁相の相互インダクタンスに対 して,同ロータ位置のとき,主励磁相以外の相を含む相互インダクタンスは,必ず負 の dM/dを有することが確認できる.トルク式(2-2)より,前記負の dM/dに対して,
残留電流と主励磁相のうちの1つの相電流との積が負の発生トルクとして作用する.し たがって,全節巻SRMの高速駆動領域における必要電流量を低減するためには,負の 発生トルクを生じる電流を低減することが有効である.すなわち,相電流の残留電流を 低減することが必要である.
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Fig.3-15 Simulation results of full pitch winding SRM
Table.3-2 Simulation results of full pitch winding SRM
Target spec. Calculation
Speed [rpm]
Torque [Nm]
Ave. Torque [Nm]
Current [Arms]
ON-angle [deg.]
1000 207 207.1 148.4
-45
2000 207 207.3 162.9
-70
2500 207 206.6 186.2
-85
3000 190 190.0 205.5
-100
4000 144 143.8 230.6
-115
6000 82 81.6 258.6
-115
8000 56 56.3 190.7
-115
10000 42 41.5 166.1
-120
12000 32 32.1 144.5
-120
14000 27 26.6 136.3
-120
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Fig.3-16 Simulation results of full pitch winding SRM (@144 Nm, 4000 rpm)
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Fig.3-17 Differential angle due to mutual inductance
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3.4 高速駆動領域における銅損低減手法の検討
3.4.1 高速駆動領域における駆動電流
高速駆動領域において発生する全節巻SRMの各相の残留電流の低減方法について検 討する.本節では,全節巻SRMを自動車駆動用途に適用していくために,高速駆動領 域における通電パターンを明らかにする.第3章第3節において,全節巻SRMにおけ る残留電流を低減することが必要であると述べた.本節では,この残留電流の低減方法 について検討する.
全節巻SRMにおける巻線電流は,式(2-3)から式(2-5)に示す全節巻SRMの電圧方程 式から,各項のインダクタンス成分により電流応答性が制限される.一般的にSRMの 駆動電流は,発生トルクを確保するために上記インダクタンス成分を考慮して励磁角を 早める.これにより発生トルクあたりの駆動電流量を適正化できる.ここで,全節巻 SRM の高速駆動時において,電流応答性の視点で有効となる励磁角についての分析す る.式(3-1)に全節巻SRMの電圧方程式のうち,1つの相であるA相についての電圧方 程式を示す.
a a a a ab b ac c a a b ab c ac
a
i M i M
i L dt M di dt M di dt L di i R
V (3-1)
全節巻SRMの電圧方程式から巻線電圧は,巻線抵抗への通電による電圧降下を表す 第1項,電流変化に対するインダクタンスとの電圧を示す第2項から第4項,そして,
モータの回転速度に対する誘起電圧を表す第5項で表される.全節巻SRMの高速駆動 時における巻線電圧は,回転速度に比例して,第5項の誘起電圧成分が大きくなり,自 己相の電流変化に必要となる電圧が不足する.その結果,電流応答性が低下する.全節 巻SRMの高速駆動域において,自己相の電流応答を改善する適正な励磁角を検討する.
高速駆動域における巻線電圧は,式(3-1)の第 5 項の誘起電圧項の影響が相対的に大き くなる.この誘起電圧項において,回転速度と各相の電流 ia,ib,icは正である.自己イ ンダクタンスLaは,ロータ位置 によらず一定値であるため,
Laはゼロと見なせる.
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一方,相互インダクタンスMは,ロータ位置 に対して変化するため,
Mab,および
Mac は,正,および負どちらかの値を取る.ここで,式(3-1)の電圧方程式における誘
起電圧項に着目した A 相電流の制御性を改善する励磁角について分析する.分析は,
励磁開始時と励磁終了時の2点についてそれぞれ行う.A相巻線への励磁開始時は,図 2-2の駆動回路において,巻線両端のスイッチをONすることにより巻線へ電圧を供給 する.この時,巻線両端には正の電圧が印加される.式(3-1)の電圧方程式における誘起 電圧項のうち,
Mab,および
Mac が正負の値を有する.励磁開始時においては,誘起
電圧項の
Mab,および
Mac が巻線への印加電圧と同符号を取るときに,巻線への印加
電圧のうち,誘起電圧が占める割合が増加するため,自己相の電流増加を妨げる.一方,
誘起電圧項の
Mab,および
Mac が巻線への印加電圧と異符号を取るときには,巻線へ
の印加電圧のうち,誘起電圧が占める割合が低減するため,自己相の電流増加に用いる ことができる電圧量が増加する.結果,電流応答が改善する.次に,励磁終了時は,図 2-2の駆動回路において,巻線両端のスイッチSw1, Sw2をOFFする.ここで,巻線 内には磁気エネルギーが残留する.この磁気エネルギーは,巻線両端のダイオード
D1,D2 を介して電源に流れる.この時,巻線両端には励磁時とは逆向きの負電圧が印
加される.これにより巻線電流が減少する.励磁終了時においては,誘起電圧項の
Mab,
および
Mac が巻線への印加電圧と同符号を取るときに,巻線への印加電圧のうち,誘
起電圧が占める割合が増加するため,自己相の電流減少を妨げる.一方,誘起電圧項の
Mab,および
Mac が巻線への印加電圧と異符号を取るときには,巻線への印加電圧の
うち,誘起電圧が占める割合が低減するため,自己相の電流減少に用いることができる 電圧量が増加する.結果,電流応答が改善する.以上の現象を踏まえ,全節巻SRMの インダクタンス特性をもとに,励磁開始時,および励磁終了時のそれぞれにおいて,電 流応答性を改善する励磁角について検討する.図3-2に全節巻SRMのインダクタンス 波形を示す.図3-3に全節巻SRMの理想電流パターンを示す.Gallegos-Lopezらの研
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究事例によれば,A相巻線に対する励磁開始角は,高速駆動になるに連れて,電流応答 性を考慮し励磁角を早める.式(3-1)から誘起電圧項の
Mab,および
Mac が取る符号が
電流応答性に影響することを述べた.ここで励磁開始時において,高速駆動時における 誘起電圧の影響を低減する励磁角について分析する.A相励磁開始時は,A相巻線への 印加電圧は正である.この時,誘起電圧項の
Mab,および
Mac がゼロ,ないしは負の
値を取るときに誘起電圧の影響を低減できる.ここで,図3-2のインダクタンス特性よ り,
Mab がゼロないしは負の値を取る励磁角は,理想励磁開始角に対して-120 deg.
から+60 deg.の区間である.
Mac がゼロないしは負の値を取る励磁角は,理想励磁開
始角に対して-120 deg.から-60 deg.の区間である.したがって,
Mab,および
Mac の
双方がA相巻線への印加電圧に対してゼロないしは異符号を取る励磁角は,-120 deg.
から-60 deg.の区間である.すなわち,励磁開始角において高速駆動時における誘起電
圧の影響を低減する励磁角は-120 deg.から-60 deg.の区間である.一方,A相励磁終 了時は,A相巻線への印加電圧は負である.この時,誘起電圧項の
Mab,および
Mac が
ゼロ,ないしは正の値を取るときに誘起電圧の影響を低減できる.ここで,図3-2のイ ンダクタンス特性より,
Mabがゼロないしは正の値を取る励磁角は,理想励磁終了角
に対して-180 deg.から0 deg.の区間である.
Mac がゼロないしは正の値を取る励磁角
は,理想励磁開始角に対して-180 deg.から-120 deg.の区間である.したがって,
Mab,
および
Mac の双方が A相巻線への印加電圧に対してゼロないしは異符号を取る励磁角
は-180 deg.から-120 deg.の区間である.全節巻SRMの駆動方法においては通電幅が
240 deg.である.以上より,全節巻SRMの基底回転数を上まわる回転速度領域におい
て,電流応答性を最も改善する励磁角は,理想励磁角に対して-120 deg.となる.表3-2 各回転速度における励磁角を早めた時のシミュレーション結果を示す.シミュレーショ ンは,通電幅240 deg.の条件において発生トルクあたりの相電流が最小となるように励