第 4 章 全節巻 SRM における実用効率の向上
4.3.1 全節巻 SRM の効率分析
第2章第3節で本研究における全節巻SRMの検討は,60 kWクラスの自動車駆動用 モータを想定することを述べた.検討する全節巻SRMは,現在量産されているハイブ リッド車両用の駆動モータを対象として設計した.設計した全節巻SRMにおける駆動 効率を分析する.全節巻SRMの駆動効率は,機械出力と発生損失との和を入力値とし て機械出力を入力値で除したものと定義する.発生損失は,銅損と鉄損との和で表す.
銅損は,全節巻SRMの駆動電流が巻線に流れた時に生じるジュール損であり,(相電流)2
×巻線抵抗×3 相により求める.鉄損は,株式会社 JSOL の電磁界解析ソフト JMAG
Designerを用いて算出した.図4-8に全節巻SRMの試作機における効率マップの計算
値を示す.全節巻 SRM の試作機における最高効率の計算値は,94 %近傍である.一 方,実用駆動域として,軽負荷トルク(10 %負荷点)となる20 Nm付近,かつ5000 rpm 以下の効率は,約80 %から90 %である.駆動効率は低回転域ほど低い.図4-9に全 節巻SRMの試作機における相電流マップの計算値を示す.全節巻SRMの駆動電流は,
回転領域によらず高負荷トルクほど大きい.図4-10 に全節巻SRM の試作機における 銅損マップの計算値を示す.ここで,銅損はモータ巻線の電流 I [Arms]と抵抗成分 R [Ω]により発生する損失である.各相の銅損をWcuとすると,Wcu= (I [Arms])2×R [Ω]
で表される.全節巻SRMにおける銅損は,駆動電流の2乗に比例する.したがって,
回転領域によらず高負荷トルクほど大きい.図4-11 に全節巻 SRM の試作機における 鉄損マップの計算値を示す.鉄損は,駆動周波数とモータ磁束量に比例して大きくなる.
そのため,鉄損は駆動周波数とモータ磁束量が相対的に大きくなる高出力領域ほど大き い.SRM における実際の損失は,銅損と鉄損,機械損,風損が挙げられる.そのうち 銅損と鉄損が大半を占める.一般的に高負荷トルク領域においては,全損失のうち銅損 が占める割合が大きい.また,高速駆動領域においては,鉄損が占める割合が大きい.
ここで,各駆動点における損失の割合を分析する.分析指標として,銅損を鉄損で除し た値を用いる.図4-12 に全節巻 SRMの試作機における銅損と鉄損の構成比率の計算 値を示す.図4-12 から,高負荷トルク時は,銅損の比率が大きい.また,高速駆動領 域においては鉄損の比率が大きい.一方,実用駆動域である 10%負荷トルク周辺の損
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失比率は鉄損が大きい.したがって,実用駆動域における効率向上には,鉄損の低減が 重要である.
4.3.2 全節巻 SRM の効率における問題点
全節巻SRMにおける軽負荷トルク駆動点について駆動効率を検討する.駆動点は,実 用駆動域のうち10 %負荷トルクとなる20 Nm, 2000rpmとする.図4-13に駆動点20
Nm, 2000 rpmにおける相電流,および発生トルクのシミュレーション結果を示す.平
均トルクの計算値は20.1 Nm,相電流実効値は29.4 Armsとなった.励磁角条件は,
第3章で述べたように発生トルクに対して相電流が最小となるように励磁角位相,およ び電流振幅の指令値を調整した.ここで励磁角は理想値に対して30 deg.早めている.
通電幅は220 deg.である.表4-3に駆動条件20 Nm, 2000 rpmにおける損失の計算結 果を示す.駆動効率の計算値は88.6 %である.発生損失の計算値は,銅損217.8 W,
鉄損324.1 Wである.鉄損のうち渦電流損失は271.25 W,ヒステリシス損失は52.95 W である.
鉄損Wfeは,
(4-1)
で表される(4-8).k1,k2は,鉄損定数を表す.f Nは磁束の周波数の第N次成分を表す.φN
はモータ内部を流れる磁束量の第 N 次成分を表す.式(4-1)から,鉄損は,磁束φの大 きさと周波数成分とに相関があると言える.鉄損の周波数特性について検討する.図 4-14に駆動条件20 Nm, 2000 rpmにおける全節巻SRMステータ鉄損の周波数分析結 果を示す.図4-15に駆動条件20 Nm, 2000 rpmにおける全節巻SRMロータ鉄損の周 波数分析結果を示す.図4-14に示すステータ鉄損の周波数分析結果から,ステータ鉄 損の周波数成分毎の鉄損は基本波鉄損成分に加えて 2 次以上の高次の鉄損周波数成分 を含むことが確認できる.図4-15に示すロータ鉄損の周波数分析結果から,ロータ鉄 損の周波数成分毎の鉄損は基本周波数成分に加えて3,5,7,9次の鉄損周波数成分を含む ことが確認できる.なお,検討した全節巻 SRM の磁極数はステータが 24,ロータが 16である.回転速度2000 rpmにおける各磁極の基本周波数は,ステータが533Hz,
NmN
N N N
N
fe
k f k f
W
1
2 2 2
1
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ロータが400Hz である.全節巻 SRMにおける鉄損計算は,基本周波数がステータと
ロータとで異なるため個別に行う.駆動条件20 Nm, 2000 rpmにおけるステータ鉄損 の計算値は215.8 Wである.そのうち鉄損の基本波成分は,68.0 Wである.したがっ て,2次以上の高調波鉄損成分が約68.5%を占める.駆動条件20 Nm, 2000 rpmにお けるロータ鉄損の計算値は92.2 Wである.そのうち鉄損の基本波成分は,28.2 Wで ある.したがって,2次以上の高調波鉄損成分が約69.4 %を占める.
次に,全節巻SRMにおける高調波鉄損の発生要因について分析する.図 4-16 に駆 動条件20 Nm, 2000 rpmにおける全節巻SRMの駆動電圧波形を示す.図4-17に駆動 条件20 Nm, 2000 rpmにおける全節巻SRMの駆動電流波形を示す.全節巻SRMは,
第2章で述べたように駆動電流波形は矩形波状である.ここで,全節巻SRMにおける 駆動電流によるモータ内部の磁束波形について分析する.図 4-18 に全節巻SRM にお ける発生磁束の模式図を示す.全節巻SRMは,2つの相の巻線に通電することにより トルク発生に必要な磁束を生成する.この時,全節巻SRMの主磁束は,通電相の巻線 の間の鉄心を通る.図4-19に全節巻SRMの基本動作を示す.全節巻SRMは,図4-19(a) のステータ磁極とロータ磁極が非対向状態において,通電を開始する.次に図 4-19(b) のステータ磁極とロータ磁極が部分対向状態に推移する.この時,ロータが反時計方向 に回転することによりステータ磁極とロータ磁極との対向面積が増加する.これにとも ない,全節巻 SRM のモータ内部の磁束は増加する.その後,図 4-19(c)のステータ磁 極とロータ磁極が完全対向状態に推移する.この時磁極の対向面積が最大となる.ここ で,トルク発生のための通電パターンを切り替える.これにより,ステータ,およびロ ータ内部の磁束は減少する.図4-20に駆動条件20 Nm, 2000 rpmにおけるステータ鉄 心の磁束波形を示す.ヒステリシス制御による全節巻SRMの鉄心内部の磁束は,三角 波状の波形となる特徴を有する.図4-21 に従来駆動法における全節巻SRM の磁束の 周波数解析結果を示す.従来駆動法による鉄心内部の磁束は,2次以上の高調波を含む.
式(4-1)において鉄損はモータ鉄心内部を通る磁束の高調波成分に相関があることを述 べた.したがって,高調波磁束成分の含有により高調波鉄損が増加する.
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Fig.4-8 Full pitch winding SRM efficiency over the torque speed range
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Fig.4-9 Current map of the full pitch SRM
Fig.4-10 Copper loss map of the full pitch SRM
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Fig.4-11 Iron loss map of the full pitch SRM
Fig.4-12 Loss ratio map of the full pitch SRM
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Fig.4-13 Simulation results of full pitch winding SRM (@20 Nm, 2000 rpm)
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Table. 4-3 Simulation results at low load driving point (@20 Nm, 2000 rpm)
Item Simulation value
Ave. Torque [Nm] 20.1
Speed [rpm] 2000
Power [kW] 4.2
Phase current [Arms] 29.4
Efficiency [%] 88.6
Copper loss [W] 217.8
Iron loss [W] 324.1
Eddy current loss [W] 271.25
Hysteresis loss [W] 52.95
Fig.4-14 Stator iron loss frequency analysis of the full pitch SRM (20 Nm, 2000 rpm)
Fig.4-15 Rotor iron loss frequency analysis of the full pitch SRM (20 Nm, 2000 rpm)
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Fig.4-16 Drive voltage waveform of the full pitch SRM (20Nm 2000rpm)
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Fig.4-17 Drive current waveform of the full pitch SRM (20Nm 2000rpm)
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Fig.4-18 Magnetic flux of the full pitch SRM
(a) Non-overlapping (b) Partial-overlapping (c) Full-overlapping Fig.4-19 Basic operation of the full pitch SRM
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Fig.4-20 Core magnetic flux characteristics with hysteresis control
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Fig.4-21 Frequency analysis of magnetic flux (20 Nm, 2000 rpm)
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4.4 全節巻 SRM の実用駆動域における効率向上手法
前節までに全節巻SRMの実用駆動域である軽負荷トルク領域において,鉄損は高調 波成分を多く含むことを述べた.全節巻SRMにおける鉄心内部磁束の高調波成分の低 減を狙い,電圧の時間積分値が磁束量に一致する原理に着目した鉄心磁束波形制御を提 案する.第2章第4節で,全節巻SRMにおける巻線端子間の電圧方程式は式(2-3)から 式(2-5)で表されることを述べた.全節巻SRMの1相分の電圧方程式は式(4-2)で表され る.
a a a a ab b ac c a a b ab c ac
a
i M i M
i L dt M di dt M di dt L di i R
V (4-2)
式(4-2)において,右辺第1項は巻線抵抗による電圧降下である.第2項は全節巻SRM の自己インダクタンスに基づく電圧である.第3項と第4項は全節巻SRMの相互イン ダクタンスに基づく電圧である.第5項は全節巻SRMの回転速度に比例する誘起電圧 項である.式(4-2)からA相巻線における発生電圧は第1項の電圧降下成分と第2項か ら第5 項の磁束の時間変化に伴う電圧成分に分類できる.全節巻SRM内部の磁束は,
A相自身の励磁に基づく発生磁束と,他相の励磁に基づく干渉磁束が含まれる.これら の磁束が各相の巻線に鎖交する.したがって,式(4-2)はA相巻線に鎖交する磁束をa , コイルの巻数をNとして式(4-3)で表される.
dt N d i R
V
a
a a
a(4-3)
ここで,A相巻線の鎖交磁束aとA相巻線の鎖交磁束数aの関係は式(4-4)で表される.
a
a
N
(4-4)式(4-3),式(4-4)より,A相巻線の鎖交磁束数aは式(4-5)で表される.
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V
aR
ai
a dt
a
(4-5)式(4-5)より,A 相巻線の鎖交磁束数aは,巻線端子間電圧と巻線抵抗による電圧降下 との差分を積分することにより求めることができる.すなわち,全節巻SRMにおいて 制御可能な巻線端子間電圧Vaに対して,相電流iaの検出値を用いて巻線抵抗Raによる 電圧降下分を補償することによりA相巻線の磁束鎖交数aは制御可能である.よって,
任意の電圧波形を与えることにより一意に磁束波形が決定される.この点が電流を操作 量としたSRMの制御方式と決定的に異なる点である.
次に全節巻SRMにおける鉄心内部の磁束の高調波成分を低減する方法について検討 する.本研究では,全節巻SRM内部における鉄心磁束の高調波成分を低減する磁束波 形の一例として正弦波を選択して論述を進める.図 4-22に全節巻 SRM の各磁極にお ける磁束成分の定義を示す.A 相と B 相の巻線にはさまれたステータ磁極における鉄 心磁束をabと定義する.B相とC相の巻線にはさまれたステータ磁極における鉄心磁 束をbcと定義する.C相とA相の巻線にはさまれたステータ磁極における鉄心磁束を
caと定義する.全節巻SRMにおいて制御可能な操作量は,各相の巻線への印加電圧で ある.全節巻SRMにおいて鉄心を通る磁束は,3つの相すべての巻線に鎖交する.各 相の磁束成分から鉄心磁束を表現する方法について説明する.図4-23に鉄心磁束abと 各相の巻線磁束との相関図を示す.図4-24に鉄心磁束bcと各相の巻線磁束との相関図 を示す.図4-25に鉄心磁束caと各相の巻線磁束との相関図を示す.各相巻線に正の電 流を励磁した時に生じる磁束の方向を正方向と定義した時,鉄心磁束ab,bc,caと巻線 磁束a,b,cとの間の関係を以下の式により表現する.
c b a
ab
(4-6)c b a
bc
(4-7)c b a
ca