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高裁判決と米軍基地過重負担

ドキュメント内 著者 阿波連 正一 (ページ 107-126)

第1節 高裁判決の考察の視点

本章は、高裁判決が、「沖縄の米軍基地過重負担の歴史的現実」(米軍基 地過重負担)を、埋立て承認基準である公有水面埋立法4条1項1号「国 土利用上適正かつ合理的なること」(第1号要件)の適合性判断において、

どう判断したかを考察する。「米軍基地は沖縄経済発展の最大の阻害要因 であること」(米軍地沖縄経済発展阻害要因論)は、土地所有権構成によ る米軍基地過重負担の本質的要素だからである。

第1号要件の「国土利用上適正かつ合理的なること」の適合性の判断 方法は、埋立てによる「利益」と埋立てにより生ずる「不利益」を比較 衡量する総合的な判断である。そして、何が「利益」か「不利益」かは

「埋立地の用途」としての「米軍基地」が「国土利用上適正かつ合理的」

であるかの判断過程において、「米軍基地」建設のための埋立ての必要性、

公共性が「利益」で、その反面として、埋立てにより生ずるものが「不 利益」で、両者を比較衡量して、「利益」が「不利益」より優越すると判 断されると、「埋立地の用途」としての「米軍基地」が「国土利用上適正 かつ合理的」であると判断され、知事の承認は適法となるのである。そ こで、論点は、高裁判決が、「沖縄の米軍基地過重負担の歴史的現実」(米 軍基地過重負担)のなかで、本件埋立ては、負担軽減として「利益」と して法律構成されるか又は過重負担の固定化して「不利益」のどちらに 法律構成しているかとなる。

高裁判決の米軍基地過重負担に関する判断の評価は、米軍基地過重負 担の法律構成である土地所有権構成か自治権構成かの視点が肝要となる。

米軍基地過重負担の「米軍基地」は陸地(沖縄本島)に存在するが、第

1号要件上の「米軍基地」は「埋立地の用途」としての「米軍基地」で あり、未だ存在しないので、現実存在の「米軍基地」過重負担を、第1 号要件の「埋立地の用途」としての未存在の「米軍基地」の平面で判断 するための法律構成が必要となるからである。つまり、土地所有権構成 か自治権構成かにより、米軍基地過重負担の不利益の捉え方において違 いが生じるのである。

土地所有権構成は、米軍基地過重負担の不利益は国民経済の原動力・

基盤である土地所有権が広大な米軍基地の土地利用に固定化されている ことによるとするものであり、米軍の占有自体が不利益である。土地所 有権の客体の特定地の総面積の国土面積における米軍基地の密度を内在 した「静態的面積」上の不利益と、その特定地面上下の時空間の自由な 基地利用という自由な基地機能を「動態的機能」として区別できる。「動 態的機能」は、土地所有権の米軍基地以外の自由な土地利用により得ら れる利益が得られない「消極的不利益」(直接経済効果・機会費用・機会 喪失)と、自由な基地機能による「積極的不利益」(地域住民への公害等)

に区別される。「米軍基地は沖縄経済発展の最大の阻害要因であること」

は「消極的不利益」(評価障害事由)として法律構成されるのである。

他方、米軍基地過重負担の自治権構成は、陸地の現存の米軍基地過重 負担を、第1要件の判断対象としての「埋立地の用途」としての未存在 の「米軍基地」とは区別し、本件米軍基地建設目的の埋立て承認を米軍 基地に関与する自治権として構成し、陸地の米軍基地過重負担は第1号 要件の判断要素から排除され、「米軍基地」過重負担は自治権の論点とな る。つまり、米軍基地には日米地位協定の排他的管理権等などの米軍の 特権が認められていることから、地方公共団体からすれば、米軍基地の 存在とは自治権の及ばない地域・存在で、自治権が奪われている巨大な 自治権の空白地帯となっているとする法律構成である(「巨大な自治権空 白地帯論」)。したがって、第1号要件適合性の判断要素の「利益」又は

「不利益」となるかは、本件埋立てが巨大な自治権空白地帯を縮減するか 固定化するか否かよって判断され、本質的には、負担軽減は米軍基地面 積の縮小になるか否となり、縮小は負担軽減の「利益」となり、現状維 持は負担の固定化の「不利益」と法律構成されることになる。自治権構 成では米軍基地過重負担自体(土地所有権の「動態的機能」)が第1号要 件適合性判断の「不利益」として法律構成されていないのである。

要するに、米軍基地過重負担の法律構成に関する土地所有権構成は、

米軍基地過重負担の不利益を第1号要件適合性の判断要素の「不利益」

(評価障害事由)とする法律構成であるが、自治権構成は、米軍基地過重 負担を第1号要件の適合性判断要素から独立・区別し独自の判断要素と して法律構成する。したがって、自治権構成の米軍基地過重負担は、① 本件埋立承認の違法性、②本件取消処分の違法性、③本件是正指示の違 法性の各争点レベルで独自に判断されることになる。

第2節 米軍基地過重負担に関する高裁判決

高裁判決は、米軍基地過重負担の自治権構成を採るのである。そこで、

まず、高裁の米軍基地過重負担に関する基本的判断を摘出し、その基本 的判断が、①本件承認の違法性、②本件取消処分の違法性、③本件是正 指示の違法性、各争点レベルにおいて、どう機能しているか、どう判断 されているか、を考察することができる。

1 「本件軽減判断の内容

高裁判決は、米軍基地過重負担に関する基本的判断を以下のように判 示した(判決書136頁)。

「①件埋立事業によって設置される予定の本件施設等は、②普天間飛行 場の施設の半分以下の面積であって、③その設置予定地はキャンプ・シュ

ワブの米軍使用水域内であることを考慮すれば、④沖縄の基地負担の軽 減に資するもの(①〜④筆者挿入)」(以下、「本件軽減判断」とする)で ある。以下に各争点レベルにおける「本件軽減判断」の機能・判断(判 示)をみることにする。

2 本件承認処分の違法性と「本件軽減判断」

⑴ 沖縄県の主張

「被告は、埋立ての遂行による不利益として、第2の4⑶ア 記載のと おり、沖縄県の民意に反して、豊かで貴重な自然環境と良好な生活環境 を破壊し、沖縄県や名護市の環境保護等の施策を阻害して新基地を建設 し、過去70年余にわたり背負わされてきた沖縄の過重な基地負担をさら に将来にわたって固定化する不利益(米軍基地の存在による自治権侵害、

健全な経済振興の阻害、米軍基地に起因する環境破壊、米軍基地に起因 する事件事故等、沖縄県民の民意に反すること)を主張する。」(判決書 135頁)

⑵ 本争点の判断

「しかし、認定事実⑶及び⑼並びに弁論の全趣旨によれば、本件埋立事 業によって設置される予定の本件新施設等は、普天間飛行場の施設の半 分以下の面積であって、その設置予定地はキャンプ・シュワブの米軍使 用水域内であることを考慮すれば、沖縄の基地負担の軽減に資するもの であり、そうである以上本件施設等の建設に反対する民意に沿わないと しても、普天間飛行場その他の基地負担の軽減を求める民意(認定事実

⑴イ C⒠ないし⒤)に反するとは言えないし、両者が二者択一の関係 にあることを前提とした民意がいかなるものであるあるかは証拠上明ら かではない。

環境については、後記5のとおり、第2号要件審査において本件承認

処分の判断に誤りがあるとは認められず、水面の陸地化に伴う自然破壊 等に対し適正かつ十分な措置がとられると期待できること、加えて、法 4条1項1号は、当該埋立てが国土利用上公益に合致する適正なもので あることを求めるものであるから、特に本件のような自然海浜の埋立て においては、その価値に着目しそれを保全することにより得られるであ ろう利益をも考慮する必要があるが、その上で、様々な一般的公益を比 較衡量すべきであって、被告が主張するように、法の趣旨が自然環境を 他の公益より重視し、埋立てを否定する方向で判断することを求めてい るものと解すべき根拠はない。

以上によれば、上記被告の主張する事実を考慮したとしても、本件承 認処分の第1号要件の審査が誤りであると認めることはできない。その 他、被告は、上記事情から本埋立事業の実施が憲法92条等に反すると主 張するが、上記のとおり、いずれも採用できない。」(判決書136頁・137頁)。

3 本件取消処分の違法性判断

⑴ 被告の主張

「被告は、本件取消処分をしないことによって本件承認処分に基づき既 に生じた効果をそのまま維持する不利益、すなわち、沖縄県への極端な までの過度の基地集中のために、70年余にわたって沖縄県の自治が侵害 され、更に、沖縄県民の民意に反して、本来埋立地の貴重な自然環境を 破壊し、付近の生活環境を悪化させ、地域振興開発の阻害要因を作出す るものであり、これは、基地負担・基地被害を沖縄県内に移設してさら に将来にわたって固定化するものに他ならないのであって、本件承認処 分を放置することが公共の福祉の要請に照らして著しく不当であると認 められることが明らかであるから、本件取消処分は適法である旨主張する。」

(判決書175頁)。

ドキュメント内 著者 阿波連 正一 (ページ 107-126)

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