第1節 沖縄県の米軍基地過重負担の二つの法律構成の混在
本章では、沖縄県が、上告受理申立理由書において、米軍基地過重負 担の法律構成に関して自治権構成を基本に土地所有権構成が混在してい ることを確認することにする。解釈は裁判官の専権事項であるので、法 律構成に関して対立しているものを混在させることは、裁判においては 本質的な問題ではない。ただし、その主張立証の立証事実に関しては違 いがある場合に、主張事実が立証されていない場合が問題となる。裁判 所による主張自体失当の判断か主張に理由なしの判断がなされるからで ある。米軍基地過重負担の法律構成に関して自治権構成を基本とし土地 所有権構成が混在する上告受理申立理由書でみることにする。
第2節 米軍基地過重負担の土地所有権構成 1 米軍基地過重負担の土地所有権構成の内容
⑴ 土地所有権構成の「静態的面積」
まず土地所有権構成の米軍基地過重負担の「静態的面積」を次のよう に主張する。
「日本の国土面積のわずか0.6パーセントに過ぎない狭い沖縄県に、在 日米専用施設面積の73.8パーセントに及ぶ広大な面積の米軍専用施設が 存在している。米軍基地は、県土面積の約10パーセントを占め、とりわ け人口や産業が集中する沖縄島においては、約18パーセントを米軍基地 が占めている。」(上告受理申立理由書269頁)。米軍基地面積を土地所有 権構成の米軍基地過重負担の「静態的面積」として意識的に捉えている ことは、「とりわけ人口や産業が集中する沖縄島においては、約18パーセ ントを米軍基地が占めている」との指摘に明確に象徴的に示されている。
第三者員会報告では、以下にみるように、この指摘は見られないからで ある。
第三者委員会報告書では「平成24年3月末現在、県下41市町村のうち 市町村にわたって33施設、23,176.3haの米軍基地が所在しており、県土 面積の10.2%を占めている。また、在沖米軍基地は、米軍が常時使用で きる専用施設に限ってみると、実に全国の73.8%が沖縄県に集中してい る。」(米軍基地の面積について、日本全体と沖縄の負担度を比較した場 合、その差は約468倍に上がると指摘されている)。」(同報告書45頁)。
⑵ 土地所有権構成の「動態的機能」の「消極的不利益」
また、土地所有権構成の米軍基地過重負担の「動態的機能」の「消極 的不利益」の主張(法律構成)についても必要最小限の適切な主張となっ ている。
「基地が返還された地域(那覇新都心地域、小禄金城地域、桑江・北前
地域)の跡地利用による経済効果をみると、活動による直接経済効果は 約28倍と試算されており、米軍基地の存在自体が基地用地の利用により 経済効果をあげる機会を喪失させているものであり、米軍基地の存在は 沖縄県における健全な経済振興の最大の阻害要因となっているものであ り、米軍基地の存在により均衡ある発展が阻まれている」(上告受理申立 理由書269頁)。
米軍基地過重負担の莫大な不利益は国民経済の原動力である土地所有 権が広大な米軍基地の土地利用に固定化されていることによるという本 質的な内容は、「米軍基地の存在自体が基地用地の利用により経済効果を あげる機会を喪失させているものであり、米軍基地の存在は沖縄県にお ける健全な経済振興の最大の阻害要因となっているものであり」に法律 構成されている。
その最大の阻害要因である「消極的不利益」の内容は「基地が返還さ れた地域(那覇新都心地域、小禄金城地域、桑江・北前地域)の跡地利 用による経済効果をみると、活動による直接経済効果は約28倍と試算さ れて」いることである。この試算の内容の1つである直接経済効果は、
普天間飛行場を含む8地域13.8㎢で、年間で、返還前590億円、返還後 1兆1359億円で約19倍、差額1兆769億円が沖縄県により推計され、普天 間飛行場(4.8㎢)の推計は、返還前120億円から返還後3866億円の約32 倍で、国が援用し、本判決も「認定事実」とする。このような沖縄県の 推計を踏まえて、過重負担の米軍基地は健全な沖縄経済振興の「最大の 阻害要因」の根拠(証明)としているのである。
このように過重負担の「米軍基地は沖縄経済振興の最大の阻害要因で あること」を第1号要件の判断要素である「不利益」(評価障害事由)と して法律構成することに成功したこと(客観性があること)になると、
沖縄県の勝機がはっきり見えることを意味する。なぜなら、米軍基地過 重負担の「米軍基地は健全な経済振興の最大の阻害要因であること」は、
第1に、第1号要件の「国土利用上適正かつ合理的なること」の評価基 準である埋立法の趣旨が「国民経済の向上に資するもの」(代執行訴訟原 告第1準備書面8頁、第2準備書面71頁)であることに明白に反し、ま た国土利用法制の一環としての埋立法を根拠法規とする埋立て承認が「地 域における国土利用のあり方の総合調整の一環であること」(上告受理申 立理由書481頁)さらに産業法制の側面での埋立法の第1号要件が「どの ように地域の産業を振興していくのかという地域の国土利用のあり方と 整合していなければならない」のに、明白に整合せず、本件承認処分は 強い違法性を有することは明白だからである。
ただし、以上の那覇新都心等の経済効果は内容的には土地所有権の経 済効果で土地所有権構成そのものであるが、沖縄県は、その上位概念を
「米軍基地の存在による地域公益侵害の固定化という不利益」(上告受理 申立理由書268頁)として自治権構成による要件事実としている。また、
国民経済向上の観点からの経済「発展」ではなく、政府及び地方公共団 体の観点からの経済「振興」としていることに留意すべきである。もし、
最高裁判所が、この点に着目すれば、自治権構成による「米軍基地は沖 縄経済振興の最大の阻害要因であること」は主張自体失当となる。
⑶ 土地所有権構成の「積極的不利益」
土地所有権構成の米軍基地過重負担の「積極的不利益」に関しては、
沖縄県の上告受理申立理由書は自治権構成の後に構成しているので、自 治権構成の主張立証となっていると考えられる。
2 土地所有権構成の理論枠組み
土地所有権構成を取る場合の埋立法の理論枠組みとしては次の理論構 成が前提となる。
⑴ 埋立て承認の法的性質
埋立て承認(免許)の法的性質に関して土地所有権取得権説は、埋立 事業計画者に特定の公有水面を埋立てて土地造成の竣功を停止条件とし て埋立地の用途に制限された土地所有権を取得させる権利を設定する処 分であるとする理論構成である。国は、「自然公物である公有水面を埋立 て、これを利用することが、国民共通の財産である公有水面を廃止し、
私的所有権の対象たる陸地とするという特質を有する」(係争委審査国5 月9日回答書11頁)として土地所有権取得権説をとるが、沖縄県も次の ように土地所有権取得権説も採っていると考えることもできる。
「公有水面を埋め立てて陸地を造成するということは、公有水面という 自然公物を公用廃止し、排他的な権利である土地所有権を発生させ、公 衆の自由使用を排することを意味する。公有水面について、古来から行 われてきた公衆の自由使用を排して特定の者に陸地を造成させてその者 に私権(土地所有権)を取得させることの適否、すなわち、公有水面埋 立の免許又は承認(以下、本項において『免許等』という。)を認めるこ とについては、当該公有水面の特質と希少性を十分に配慮したとりわけ 慎重・厳格な判断が要請されるものであり、また、都道府県知事は、権 利化になじまない社会的利益や将来世代の利益を総合的に考慮する責務 があるものというべきである」(上告受理申立理由書149頁)。
「米軍基地は沖縄経済発展の最大の阻害要因であること」の主張立証を 勝機の論点とする沖縄県にとっては必然的な土地所有権取得権説の選択 である。なぜなら、米軍基地過重負担の不利益である「沖縄経済発展の 阻害要因」は国民経済の原動力である土地所有権が広大な米軍基地の土 地利用に固定化されている(土地所有権の制限)ことによるものだから である。
しかしながら、上告受理申立理由書の中には非埋立権説を維持すると みられる指摘もある。すなわち「国のなす埋立てについては、それが公