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最高裁判決と米軍基地過重負担

ドキュメント内 著者 阿波連 正一 (ページ 147-200)

第1節 序

最高裁裁判所第2小法廷は、12月20日、上告を棄却する沖縄県敗訴の 判決を下した。本章は、最高裁判決は「沖縄の米軍基地過重負担の歴史 的現実」(米軍基地過重負担)をどのように判断したかの観点から考察す る。また、沖縄県の敗訴を踏まえて、最高裁判決後の沖縄県の対応を検 討する。翁長沖縄県知事は自らの本件承認取消しを取り消すべきか、そ して、2月26日に、翁長知事は自ら本件承認取消しを取り消したので、

取消後の、沖縄県はどう対応すべきを検討する。まず、最高裁の捉える 本件事案の内容を述べ、本判決を4論点において考察し、最後に、最高 裁判決後の沖縄県の対応を考察する。

最高裁は、裁判所が当該裁判をどのように捉えているかの法的争点を 示す本件事案に関して、次のように説示する。

「本件は、我が国とアメリカ合衆国(以下「米国」という。)との間で 返還の合意された沖縄県宜野湾市所在の普天間飛行場の代替施設を同県 名護市辺野古沿岸域に建設するための公有水面の埋立て(以下「本件埋 立事業」という。)につき、沖縄防衛局が、仲井眞弘多前沖縄県知事(以 下「前知事」という。)から公有水面の埋立ての承認(以下「本件埋立承 認」という。)受けていたところ、①上告人が本件埋立承認は違法である としてこれを取り消したため(以下「本件埋立承認取消し」という。)、

②被上告人が、沖縄県に対し、本件埋立承認取消しは違法であるとして、

地方自治法245条の7第1項に基づき、本件埋立承認取消しの取消しを求 める是正の指示(以下「本件指示」という。)したものの、③上告人が、

本件承認埋立承認取消しを取り消さず、法定の期間内に同法251条の5第 1項に定める是正の指示の取り消しを求める訴えの提起もしないことか ら、④同法251条の7第1項に基づき、上告人が本件指示に従って本件埋 立承認取消しを取り消さないことが違法であるとの確認を求める事案で ある(①〜④筆者挿入)。」

最高裁は、本件裁判を、本件埋立事業に関する①本件埋立承認に対し て②本件埋立承認取消しがなされたが、③本件指示の取消訴訟が提起さ れなかったので、④本件指示の不作為の違法を確認するものとする。最 高裁は、本件④国による違法確認訴訟は、③沖縄県が取消訴訟をしない ことを前提とした裁判であるので、本件裁判の基本的争点は、①本件埋 立承認の違法性及び②本件取消しの違法性の判断となる。

そこで、本章は、②本件取消しの違法性と①本件埋立承認の違法性と の関連を示す職権取消権の発生要件論を第1論点、また、①本件埋立承 認の違法性の判断枠組みの基本を示す公有水面埋立法(埋立法)の法的 性格論を第2論点とし、その第2論点と相互規定的な埋立承認の法的性 質論を第3論点、第4論点として第1号要件の解釈論、その集約の論点 として「沖縄の米軍基地過重負担の歴史的現実」(米軍基地過重負担)を 最高裁はどう判断したかを考察する。そして、最高裁は、沖縄県の法律 構成の論理的帰結として米軍基地過重負担を判断対象とせず沖縄県の全 面敗訴の判決を下したのである。本章は、最高裁判決が沖縄県の唯一の 勝機である米軍基地過重負担を判断要素とせず沖縄県敗訴としたその必 然性を考察するものでもある。

そして、最高裁判決の考察の結果、最高裁判決の意義を、以下の6点

に纏めることができる76

第1の意義は、授益的処分に対する職権取消権の発生要件を取消処分 の違法性に求める沖縄県取消権説ではなく原処分の違法又は不当にある とする原処分違法等説を取り、さらに原処分が不当でないときの取消処 分は不当ではなく違法であるとして是正指示の対象の法令違反に不当も 当たるとする初判断を示した点である。

第2の意義は、埋立法の法的性格を「環境保全」のための「埋立を規 制する法」とする埋立承認等規制法説ではなく、「国土の適正且つ合理的 利用」のための「土地利用を規制する法」とする土地所有権制限法説を 取ったことである。

第3の意義は、埋立承認及び免許の法的性質を授益的処分の特許(設 権行為)として土地所有権取得権説を取ったことである。

第4の意義は、承認等の基準である埋立法第4条1項の各号の趣旨・

目的は「承認等が都道府県知事の裁量的な判断であること前提に、承認 等をするための最小限の要件を定めたもの」であると定義したことであ る。

第5の意義は、第1号要件の解釈を、「埋立ての目的及び埋立地の用途 に係る必要性及び公共性の有無や程度に加え、埋立てを実施することに より得られる国土利用上の効用、埋立てを実施することにより失われる 国土利用上の効用等の諸般の事情を総合的に考慮すること」として土地

76  岡田正則「『政治的司法』と地方自治の危機―辺野古訴訟最高裁判決を読み解く」

(『世界2』(岩波書店、2017年2月号)93頁は、最高裁判決に関して「その内容は、

地方自治制度の中で司法権が果たすべき役割をないがしろにし、政権党の横暴を追 認してしまった点で、重大な問題をはらむものであるといわざるをえない」と総括 する。本稿は、公有水面埋立法の土地所有権構成の立場から、埋立承認は、国土の 合理的利用の形成が具体的に進み、その国土の合理的利用による経済的社会関係が 形成されていく事実の積み重ねの授益的処分であるのに対し、職権取消しは、その 秩序形成を覆滅させるもので、全く行政処分の内容が異なるとともに埋立法は戦後 の日本の国土開発の核心をなし、日本の経済発展の基盤であるという歴史的現実の 観点から最高裁判決を捉えるものである。

所有権構成の定義をしたことである。

第6の意義は、埋立て承認の裁量権の逸脱・濫用の判断枠組みを判示 した点である。すなわち、「承認等が都道府県知事の裁量的な判断である こと前提に、承認等をするための最小限の要件を定めたもの」であるこ とに照らせば、「第1号要件においては当該埋立てや埋立地の用途が当該 公有水面の利用方法として最も適正かつ合理的なものであることまでが 求められるものではないと解される。そうすると、上記のような総合的 な考慮をした上での判断が事実の基礎を欠いたり社会通念に照らし明ら かに妥当性を欠いたりするものでない限り、公有水面の埋立てが第1号 要件に適合するとの判断に瑕疵があるとはいい難いというべきである。」

とした点である。

第2節 最高裁判決は原処分違法等説

1 職権取消権の発生要件論の原処分違法等説と沖縄県取消権説 第1論点の職権取消権の発生要件論は、本件埋立承認と本件埋立承認 取消しの法的関連性を示すものである。職権取消権は原処分である前知 事の埋立承認の違法又は不当に(違法等)より発生するとする見解(原 処分違法等説77)、職権取消権の発生は現知事が「公有水面埋立法上、埋 立承認処分権限を有しているから、既になされている承認処分の違法性

(要件充足性)78」判断により発生するとの見解(沖縄県取消権説)とが 基本的に対立し、辺野古訴訟の本質的争点となるものである。

77  沖縄県は「原判決は、不当の瑕疵による職権取消しを制限したことに関し過去の 最高裁判決等と異なる解釈をする判例違反」を上告受理申立理由書の柱としている が、後述するように、最高裁は、「違法」と「不当」で職権取消権の発生の側面で沖 縄県の主張を受けいれ、逆に、「不当」の場合も取消しの「違法」となり、さらに、

是正指示の「法令違反」に当たるとして「不当」を自治権の象徴とする法律構成は 全面的に否定されている。

78  代執行訴訟・被告第10準備書面12頁。また、「同一行政庁による自庁取消しである から、承認申請の申請時の前沖縄県知事と同じ立場において、公有水面埋立承認出

最高裁は、職権取消しは「行政庁が当該処分に違法等があることを理 由としてこれを職権により取り消すこと」と判示して、沖縄県取消権説 を全面的に否定し、原処分違法等説を判示した。その根拠として以下の ように、授益的処分の原処分の職権取消権の理由を原処分の違法又は不 当とする点に求める。

「一般に、その取消しにより名宛人の権利又は法律上の利益が害される 行政庁の処分につき、当該処分がされた時点における瑕疵があることを 理由に当該行政庁が職権でこれを取り消した場合において、当該処分を 職権で取り消すに足りる瑕疵があるか否かが争われたときは、この点に 関する裁判所の審理判断は、当該処分がされた時点における事情に照ら し、当該処分に違法又は不当(以下「違法等」という。)があると認めら れるか否かとの観点から行われるべきものであり、そのような違法等が あると認められないときには、行政庁が当該処分に違法等があることを 理由としてこれを職権により取り消すことは許されず、その取消しは違 法となるというべきである。」

この判旨は、原処分の「不当」の場合も取消権が発生することを一般 化した上で、法律による行政の原理に含め、その原処分が「不当」でな い場合にも取消処分を「違法」として、行政法のレベルでは、「行政の合 目的性の回復」も「適法性の回復」に内包させ、行政庁を法秩序維持の 主体に組み込んだことになる。自治権も法秩序の枠外にあるのではなく、

法秩序を構成するものとして明示したことになる。この判断は、後述の 法定受託事務の指是正指示の対象の「法令違反」に当たるとする本判決

願が公水法の要件に適合しているか否かを判断できるものであり」、本件において審 査対象となるのは、「現沖縄県知事の判断に裁量権の逸脱・濫用があったか否かであ る」(係争委審査3月23日審査申出書35頁)として本件承認処分と本件取消処分は同じ 裁量つまり「前知事と同じ立場」としている点に特徴がある。後述するように、効 果を発生させる承認と、その効果を取消し無効とする取消しを処分として同じとす る。

ドキュメント内 著者 阿波連 正一 (ページ 147-200)

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