これまでの章では、 双結晶試料を用いて粒界構造、 粒界エネルギーおよび破 壊強度について検討し、 個々の粒界の特性が予測可能であることを述べた。 本 章と次章では、 実際に用いられる多結晶材料で、 結晶方位や粒界性格がどのよ
うに組織制御に影響を及ぼすかについて検討を行った結果について述べる。
陽極高圧下の電解コンデンサ用高純度アルミニウム箔は、 良好なエッチング 特性(89)をもっ立方体集合組織にすることで静電容量を上げて使用されている。
ここで、 立方体集合組織とは圧延方向にく100>、 圧延面に{001}近傍の方位を有 する結晶粒(立方体方位粒)の集合体である。 厚さ約100μm の箔の場合、 再結晶 粒が成長し箔を貫通する現象が起こり、 立方体方位粒の集積度が上昇しないこ とが問題となっていた。 しかし、 アルミニウム合金板の研究(90)において製造工 程の冷問圧延と最終焼鈍の聞に部分的に再結晶させる部分焼鈍と付加的な軽圧 延を施すことによって、 立方体方位粒が優先的に成長し、 その集積度が95%以 上に増大することが明らかとなった。 これらの処理をアルミニウム箔にも適用 することによって立方体集合組織を鮮鋭化させることに成功した。 しかし、 な ぜ立方体方位粒が優先的に成長するのかについては様々な見解(91)があり、 明ら かにされていないのが現状である。
最近、 高純度アルミニウム箔における立方体集合組織の形成過程に関して多 くの報告(92)・(95)がなされているが、 立方体方位粒とその他の方位を有する結晶 粒の方位関係や部分焼鈍、 付加的圧延が及ぼす集合組織形成への効果等、 未だ
ー70
-不明な点が多い。 したがって、 立方体方位粒の成長過程ならびに集合組織の形 成過程における部分焼鈍、 付加的圧延の効果を明らかにすることは重要である。
一般に、 再結晶粒の成長速度は、 その素過程である粒界の移動速度に依存し、
その速度はひずみや粒界エネルギーによる駆動力と粒界の易動度によって決定 される。 銅やアルミニウム合金厚板の立方体方位粒の成長に関しては、 付加的 圧延で生じる粒内のひずみを駆動力とした粒界移動が起こると 報告(90)(91)され ているが、 アルミニウム箔に関しでも同様の現象が起きているかどうかは明ら かにされていない。 また、 粒界を挟む 2つの結晶粒の方位関係によって粒界性 格が決定されるが、 この粒界性格は力学的性質や電気的性質だけでなく、 粒界 の易動度にも大きな影響を与えることが知られている。 一次再結晶における粒 界の易動度は、 小角粒界よりも大角粒界の方が大きい(96)と言われている。 また、
立方体方位粒とその他の方位粒と の粒界がく111>軸を中心に 400の回転関係を 有していれば移動しやすいということも報告(91)されているが、 高純度アルミニ ウム箔について粒界性格を詳細に検討した研究はほとんどない。 箔の再結晶現 象は板等のバルク材とは異なることが予想、され、 特に結晶粒が箔を貫通した場 合などの粒界性格の効果を検討すべきである。 したがって、 再結晶において最 も重要な要因となる粒内に蓄積するひずみと粒界性格を個別に調べることは再 結晶集合組織形成過程を解明する上で重要である。
そこで本研究では、 「粒内のひずみJと「粒界性格」に着目し、 立方体方位 粒の成長における部分焼鈍と付加的圧延が及ぼす効果を明らかにし、 立方体集 合組織形成過程について検討を行った。 なお、「粒内のひずみ」と「粒界性格」
の解析には、 SEM-EBSP法を用いた。
6-2 実験方法
6-2・1 試料
試料は、 電解コンデンサ用高純度アルミニウム(99.99%) 箔 (東洋アルミニウ
ム株式会社製)を用いた。 この箔は、 主な不純物元素として、 鉄:8ppm、 シリコ ン:8ppm、 銅:50ppmを含んでいる。 SEM-EBSP法による結晶方位解析用試料 は、 電解コンデンサ製造工程 の冷問圧延後、 部分焼鈍後、 付加的圧延後の箔を
用いた。 図6・1 に電解コンデンサ用高純度アルミニウム箔 の製造工程を示す。
各工程後に採取した試料をそれぞれ、 冷問圧延材 、 部分焼鈍材および付加的圧
延材と呼ぶ。 冷問圧延材は、 厚さ約6'"'-'7mm の熱間圧延板を約400μmまで冷 間圧延後、 さらに約130μmまで冷問圧延を施している試料である。 ま た、 部 分焼鈍材は冷間圧延材を大気中、 約2t/min の昇温速度で 2300Cまで昇温し、
6hr 保持の焼鈍を施した試料である。 付加的圧延材は部分焼鈍後、 約110μm まで軽圧延を施した試料である。
,... 》ー
熱問圧延板 冷問圧延 l部分焼鈍
(板厚6""'-'7mm) (板厚130μm) \ (523K前後)
》ー
》ー 》 ーーーーーーー
付加的圧延 l 最終焼鈍 (板厚110Jllll) J (773""'-'823K・20hr)
》ー
)j_)jイ本方位再結晶集合組織 (表面積の拡大)腐食 酸化膜形成
図6・1 電解コンデンサ用高純度アルミニウム箔 の製造工程
72
-各試料とも、 圧延方向が長手方向になるように約 10 X 5mm2の板状試験片を 切り出した。 立方体方位粒の成長過程を明らかにするために、 部分焼鈍材と付 加的圧延材は約 2 X 10・3Paの真空中、 約300C /min の昇温速度で 3000Cまで昇 温し、 種々の時間保持する熱処理を施した。 その後、 試料表面に電解研磨を施 して方位解析に供した。 なお、 電解研磨液は過塩素酸、 エチレングリコール、
およびエタノールを容積比で 1 : 2 : 7の電解液を使用した。 電解研磨条件は温 度約2"'--'30C、 電圧23Vで液を携梓しながら行った。
6-2-2 EBSPを用いた結晶方位解析と粒界性格解析
本研究では、 電解コンデンサ用高純度アルミニウム箔の立方体集合組織形成 過程の解析に SEM・EBSP法を用いて結晶方位解析と粒界性格解析を行った。
EBSP( 後方電子線回折図形)の形成機構は第2章で述べた。
測定には、 TSL社製のSEM-EBSP解析装置OIM™ を用いた。 SEMの電子 線の走査ステッフ幅を冷間圧延材では1 μm、 部分焼鈍材、 付加的圧延材は2 μm と5μmとして、 スキャン領域を圧延方向に約0.5mm、 その垂直方向に約3 mm とって測定を行った。 走査ステッフ幅 の違いは、 各試料において結晶粒径を考 慮したためである。 結品方位の情報は E uler 角で得ることができるので、 三次 元的な結晶方位と粒界性格を測定できる。 なお、 結晶方位の信頼性の 評価には OIM™で定義されたCI ( C onfidence Index)値を用いた。 CI 値は得られたEBSP と測定する試料 の点群と格子定数から予想されるシミュレーション像との対応 度を評価する値で、 0 から 1 の範囲で与えられる。 一般には0.2 から0.3以上 の CI値があれば、 その方位測定は正確に行われていると考えられる。 また、
データ解析には得られた EBSPの鮮明度で定義したIQ(Im age Quality)イ直を用 いてコ ントラストをつけたIQマップ、 任意の 結晶粒のみを色付けできる
CO(Crystal Orientati on)マッフ、 任意の試料方向でどのような方位の結晶が 配向しているかを表す IPF(Inverse Pole Figure)マップ、 正極点図等を用いた。
粒界性格の解析 は、 第2章で述べた解析法を基に作成したフログラムを用いて 小角粒界、 対応粒界およびラン夕、ム粒界 の分布を調べることにより行った。
6・3 結果および考察
6-3-1 立方体方位粒分布の変化
図 6-2 に冷問圧延後試料の(a)圧延面 IPF マッフ、 (b)IQマップ上に示した立 方体方位粒の CO マッフおよび(c){111}正極点図 を示す。 図中に示したように IPF マップ、 CO マッフではスケールバーと垂直方向が 圧延方向になるように 示した。図6-2(b)中の CO マッフでは赤で塗られた粒は立方体方位粒を示す (以
下、 この様に表示する) 。 また、 立方体方位粒の理想方位({100}く001>)からの ずれが 150以内の方位を有する結晶粒を立方体方位粒と定義した。
この冷問圧延材 は約 95%の強加工を施されている ので、 圧延集合 組織は Bra ss(B)方位({110}<112>)やCu(C)方位({121}<111>)が主方位となる日方位群 の集合組織を形成していた。 これは、 図6・2(c)の{111}極点図にも示されている。
また、 図 6・2(b)に示したように、 この視野では少数の立方体方位粒が確認され た。 冷間圧延材における立方体方位粒の存在は、 これまでの極点図法(92)や微分 干渉顕微鏡(93)等を用いた観察では確認されていない。 これは、 立方体方位粒が 非常に微細な粒として存在するために観察できなかったためだと考えられる。
この立方体方位粒のみが成長して試料全体を埋め尽くすとは考えにくいが、 冷 問圧延材表面にも立方体方位粒が存在すること を S EM-EBSP法を用いて初め て明らかにすることができた。
圃74
-111
001 101
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図6・2 冷間圧延材の SEM・EBSP解析結果
50μm
TD
(a)圧延面IPFマップ(b)立方体方位COマッフ(c){ lll}極点図
図6・3(a)に部分焼鈍材の立方体方位CO マッフを示す。 また、 立方体方位粒 の成長挙動を明らかにするために、 3000C -lmin と 300t・60min の熱処理 を施 した試料の立方体方位CO マッフを図6・3(b)、 (c)にそれぞれ示す。 部分焼鈍に よって部分的に回復、 再結晶が起こり、 その後の熱処理によって各再結晶粒は
約50μm の初期結晶粒径が約200μmまで成長することが確認された。 図6・4 に図6-3と同じ視野の圧延面IPFマッフを示す。 緑系の色で示されるB(Brass) 方位と紫系の色で示されるC(Cu)方位がそれぞれバンド状に存在していること が図6-4(a)から確認された。 また、 図6・4(b)と (c)から再結晶は立方体方位粒だ
けでなく、 他方位粒でも起きて粒成長することが分かった。 以上の結果を各方 位(立方体(W)方位、 B方位、 C方位およびS({123}<634>)方位)粒の占有率と熱 処理保持時間の関係としてまとめると、 図 6-5のようになった。 ここで、 W、
BおよびC方位の占有率は理想方位から15。以内の角度誤差を含めてプロット したが、 S 方位は BやC方位に近いため角度誤差を5。としてプロットした。
また、 立方体方位粒の各点に添えた数字は立方体方位粒の平均粒径を示してい る。 各結晶粒と も熱処理を施すこと によって急激な占有率の変化は起きておら ず、 3000C-60min の熱処理を施しでも立方体方位粒の占有率は 30%程度までし か上がらなかった。 以上のことより、 部分焼鈍のみだけでは BやC方位など の再結晶粒が立方体方位粒と同じように成長してしまうので、 立方体方位粒の 占有率は上昇しないことが明らかになった。
300μm
図6-3 部分焼鈍材の立方体方位coマップ
(a)熱処理なし (b)3000Cー1min熱処理後(c)3000C-60min熱処理後
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300μm 部分焼鈍材の圧延面IPFマップ
(b)300t・lmin熱処理後(c)300t -60min熱処理後 図6-4
(a)熱処理なし
1.0
T=3000C
0.9 0.8 0.7 0.6 0.5
0.2 0.4 0.3
0.1
回。右υω・阿』伺ω』〈
1∞00 1∞ 1∞o
time (sec)
10
部分焼鈍材の各方位の占有率と焼鈍時間の関係 図6-5
図6・6は(a)付加的圧延材と(b)、 (c)その熱処理材の立方体方位 co マップで ある。 図6-3と比較すると付加的圧延のみでは立方体方位粒の大きさは部分焼 鈍のみの試料とそれほど変わらないが、 熱処理を施すことによっ て立方体方位 粒の占有率が急激に上昇することが明らか になった。 立方体方位粒は 3000Cー 3min の熱処理で試料全体をほぼ埋め尽くし、 立方体集合組織が鮮鋭化するこ とが確認された。
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120μm 図6-6 付加的圧延材の立方体方位coマップ
(a)熱処理なし(b)3000C -lmin熱処理後(c)3000C -3min熱処理後
図6-7に図6・5と同様の各結晶方位の占有率の変化をまとめた 図を示す。 こ れより、 1"-' 3min の熱処理で急激に立方体方位粒の占有率が上昇していること が分かる。 また 、 B、 C およびS方位粒は熱処理を施すことで徐々に占有率が
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