(円)
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図Ⅱ-3-7を検証段階で提示することにより,「冬はナスに高い値段が付く。」という 情報を読み取らせることができる。この情報が,Aの解に直結する。
次に,Bの解に到達させるための資料について論じる。Bの解は,「①ハウス栽培は温度 調節ができ,低温のリスクを防ぐ。」「②ハウス栽培によりナスの収穫量が増加する。」と いう2点の内容から構成されている。そこで,検証資料を2種類作成し,それぞれの資料 から読み取った情報を関連付けて,Bの解を導き出せるようにする。
①の内容を組み込んだ検証資料では,子どもにリスクという用語だけを読み取らせても 無意味である。リスクの意味や対処法についても,検証資料に明記する必要がある。した がって,一つの資料に組み込まれる情報量は多くなる。
そこで,①の内容を,概念地図法を用いて資料に反映させる。本章の第2節第3項で 論じたように,概念地図は,概念を表す「概念ラベル」と各概念を結び付ける命題を表す
「リンクワード」によって構成される。概念ラベルとリンクワードを用いることで,多く の情報や情報間の関係を整理して示すことができる。①の内容を,概念地図法を用いて 検証資料に反映させると,図Ⅱ-3-8のようになる。
図Ⅱ-3-8 概念地図法を用いて低温のリスクの内容を組み込んだ検証資料
②の内容については,露地栽培とハウス栽培の収穫量が比較できる検証資料を提示する。
そして,露地栽培よりもハウス栽培の方がナスの収穫量が多いという事実から,②の内容 を読み取らせる。具体的な検証資料を,表Ⅱ-3-3に示す。
表Ⅱ-3-3 ハウス栽培と露地栽培のナスの収穫量(22) ハウス栽培
(高知県)
露地栽培
(全国平均)
収穫量 15.4kg/1㎡ 7.7kg/1㎡
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【学習課題の解】
ハウス栽培は温度調節ができ,低温のリスクを防ぐことができるので,収穫量が 増加する。また,ハウス栽培を行う冬は,ナスに高い値段が付く。
ハウス栽培
(高知県)
露地栽培
(全国平均)
収穫量 15.4kg/1㎡ 7.7kg/1㎡ を,図Ⅱ-3-9に示す。
【資料① 平成27年 高知県のナスの市場価格】
【資料② 高知県のナス作りとハウス栽培】 【資料③ ハウス栽培と露地栽培のナスの収穫量】
図Ⅱ-3-9 リスク概念を組み込んだ小学校社会科授業における検証資料と学習課題の解
概念地図法を用いた資料②を提示することで,子どもはリスクの意味もふまえてハウス 栽培のメリットを読み取ることができる。また,検証資料②と③の内容を関連付けること で,農業リスク(低温のリスク)に関する学習課題の解を導き出すことができる。
このように,リスク概念を概念地図で表現し,検証資料に組み込むことで,小学校社会科 授業の内容への変換がすべて完了する。
(4)リスク概念を組み込んだ小学校社会科授業の内容構成
(2)~(3)においてリスク概念を変換し,小学校社会科授業の内容を構成してきた。
これまでの論を整理し,本研究におけるリスク概念を組み込んだ小学校社会科授業の内容 構成を,次頁の図Ⅱ-3-10 に示す。
比較 関連付け
平成 27 年(2015 年)のデータ 1月…463円/1kg 7月 …379円 2月…484円 8月 …259円 3月…447円 9月 …426円 4月…392円 10月…360円 5月…385円 11月…353円 6月…358円 12月…479円
図Ⅱ-3-7の折れ線 グラフでは見えないた め,すべて数値に置き 換えて示す。
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【学習課題】
なぜ,同じ畑の面積(10a)なのに,露地栽培より ハウス栽培の方がナスの売上が多いのだろう。
【学習課題の解】
ハウス栽培は温度調節ができ,低温のリスクを防ぐことができるので,収穫量が 増加する。また,ハウス栽培を行う冬は,ナスに高い値段が付く。
ハウス栽培
(高知県)
露地栽培
(全国平均)
収穫量 15.4kg/1㎡ 7.7kg/1㎡
【資料② 高知県のナス作りとハウス栽培】 【資料③ ハウス栽培と露地栽培のナスの収穫量】
【資料①平成27年高知県のナスの市場価格】
図Ⅱ-3-10 リスク概念を組み込んだ小学校社会科授業の内容構成
図Ⅱ-3-10 を基に,リスク概念を組み込んだ小学校社会科授業を開発し,実践する ことで,子どもは社会事象(高知県のナス作り)を経済学的に説明できる。なお,単元の 指導計画や本時案については,第Ⅱ部第Ⅳ章「リスク概念を組み込んだ小学校産業学習の 開発」で示す。
図Ⅱ-3-7 の折れ線グラ フでは見えな いため,すべ て数値に置き 換えて示す。
仮 説
検 証
【情報①】
ナスの売上は,ハウス栽培が 316 万円(高知県)で,露地 栽培の 180 万円(全国平均)
よりも高い。
矛盾
認知的 不協和
【情報②】
畑は,露地栽培もハウス栽培も 10aという同じ面積である。
日常用語の使用:
リスク(変換無し)
身近な素材の選定:
高知県のナス作り
比較 関連付け
原因
結果 リスクの意味:
リスクとは,損をする 可能性のことである。
平成 27 年(2015 年)のデータ 1月…463円/1kg 7月 …379円 2月…484円 8月 …259円 3月…447円 9月 …426円 4月…392円 10月…360円 5月…385円 11月…353円 6月…358円 12月…479円
↓
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(1)需要・供給理論を組み込んだ小学校社会科授業の意義
価格理論は,主に家計と企業という二つの経済主体の行動を分析し,市場価格が成立する しくみを明らかにしている。そして,市場価格は,家計の行動から導き出された需要曲線 と企業の行動から導き出された供給曲線の関係により決定する。つまり,需要・供給理論 は,市場価格を決定するという点で,価格理論の中でも重要な位置付けといえる。ここでは,
需要・供給理論についてさらに検討し,小学校社会科授業で取り扱う意義について論じる。
需要とは,「ある時期における,ある財・サービスを人々が購入しようとする欲求で,
購買力に裏付けられたもの」である。また,供給とは,「異なる価格水準に対し各経済主体 もしくはそれら全体が市場取引の対象として提供する財・サービスの数量のこと」である(23)。 需要と供給は,それぞれ需要曲線,供給曲線として表現される。
本章第1節において論じたように,効用の最大化が実現する価格と需要量の組み合わせ
(予算制約線と無差別曲線の接点)の集合体が,一家計の需要曲線となる。そして,各家計 の需要曲線の水平和が,社会的需要曲線となる。また,価格と供給量の組み合わせ(価格 と限界費用曲線の接点)の集合体が一企業の供給曲線となる。そして,各企業の供給曲線 の水平和が,社会的供給曲線となる。
この社会的需要曲線と社会的供給曲線は,市場に参加する需要主体(買手)と供給主体
(売手)が,市場価格に反応して需給量を変化させる行動を表現したものである(24)。需要 主体と供給主体の利害は,市場価格に関して相反している。この利害関係を調整する場が,
市場となる。
さらに,社会的需要曲線と社会的供給曲線によって価格が決まる市場は,完全競争市場 であることが前提となる。完全競争市場の条件は,次の4点である。
(1) 市場で取引される財は同質となる。
(2) 市場には多数の小規模な需要主体(買手)と供給主体(売手)が参加している。
(3) 市場における価格,財の性質,各主体の行動に関する情報は,完全に市場参加者に行き渡っている。
(4) 市場は誰でも自由に参入し,退出することができる。
(2)は,個々の供給主体が価格支配力をもたず,プライステイカー(価格受容者)である ことを意味する。現実の社会において,(1)~(4)の条件をすべて満たす市場は存在しない。
しかし,農作物市場は,4点の条件に比較的近く,完全競争市場に類似した市場といえる。
需要曲線と供給曲線の関係から,市場価格や需給量がどのように決まっているのかを,
図Ⅱ-3-11 に示す。
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Q*
Q*
図Ⅱ-3-11 市場価格と需給量の決定
価格がP1のとき,D1からS1の超過供給がおこる。供給量が多く需要量が少ない状態の ため,供給主体間の競争が発生し,価格は下落する。やがて,超過供給が 0 になる価格
水準P*で下落は止まる。また,価格が P2のとき,S2から D2の超過需要がおこる。需要
量が多く供給量が少ない状態のため,需要主体間で取り合いが発生し,価格は上昇する。
やがて,超過需要が0になる価格水準P*で上昇は止まる。すなわち,最適な需要量と供給 量が一致した価格水準P*で,市場価格と需給量が決定する。この働きが市場の調整であり,
P*は均衡価格,Q*は均衡需給量となる。
図Ⅱ-3-11 は,超過需要や超過供給による市場価格の調整であり,あくまでも曲線に 沿った価格変化である。しかし,需要と供給の状態が変わると,需給曲線がシフトし,均衡 価格の変化が起こる。例えば,供給曲線がシフトするケースを,図Ⅱ-3-12 に示す。
図Ⅱ-3-12 天候不良による供給曲線のシフトとりんごの価格
S* S D
超過需要 超過供給 D
S P*
P2
りんごの 価格
P1
S*
D S
P*
需要量,供給量
①天候不良によるりんごの不作
②価格上昇
S1
D1
需要量,供給量 価格
D(需要曲線)
S(供給曲線)
P1
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需給量である。天候不良によるりんごの不作という要因により,供給曲線がSSからS* S*
にシフトすると,需要曲線DDとの交点が左上方に変化する。したがって,りんごの均衡 価格は上昇する。このように,価格の変化には,「超過需要や超過供給により価格が均衡 水準となるよう調整されるもの」と「需要曲線や供給曲線のシフトにより,均衡価格が変化 するもの」があり,明確に峻別することが不可欠である。
これまで論じてきたように,需要と供給は,価格決定の中核となる要素である。そして,
小学校社会科授業でも,財・サービスの価格については数多く取り扱われている。しかし,
現行の平成20年版や令和2年度完全実施の平成29年版小学校学習指導要領[社会]及び それらの解説編では,需要・供給理論に関する内容は示されていない。現在,市場価格の 決定は,中学校社会科公民的分野経済単元において取り扱われている。しかし,小学校社会 科授業でも価格が取り扱われている以上,小学校段階で需要・供給理論に着目することは 有意義といえる。また,需要・供給理論を組み込んだ小学校社会科授業を実践することで,
子どもの社会事象に対する経済学的な説明を促すことができる。
(2)需要・供給理論を組み込んだ教材と子どもとの近接化
ここからは,第2節第3項で示した図Ⅱ-2-5「価格理論を小学校社会科授業の内容に 変換する方法の構造図」を基に,需要・供給理論の小学校社会科授業の内容への変換に ついて論じる。なお,(2)-②以降は,具体的な素材を基にした検討が必要である。そこ で,「大正時代の米価上昇」を素材として論じる。
しかし,大正時代の米価上昇を素材とするならば,あらかじめ需要・供給理論との関係 を明らかにしておくことが不可欠となる。そこで,需要・供給理論を組み込んだ教材と 子どもとの近接化について論じる前に,大正時代の米価上昇を分析,検討する。そして,
需要・供給理論との関係を明らかにする。
大正時代を代表する歴史事象として米騒動がある。騒動が発生した場所は,28 市 153 町178ヵ村に及び,騒動鎮圧のため推定57000人の軍隊が出動した。検挙された者は25000 人以上にのぼる。また,騒動は炭鉱にも波及しており,賃上げの要求から暴動に発展して いる。そして,米騒動を機に,寺内正毅内閣は総辞職に追い込まれることとなる。米騒動 は,「近代日本史上でもっとも大規模な社会運動のひとつ(25)」として位置付けられている。
米騒動の背景には極端な米価の上昇がある。米価上昇の要因について,仲村哲郎,成田 龍一,阿部真琴の論を整理し,表Ⅱ-3-4に示す。