リスク概念を小学校社会科授業の内容に変換することにより,子どもにとって身近な素材 が選定された。そして,学習課題を設定し,検証資料も作成した。そこで,本章では,それ らの材料を基に,リスク概念を組み込んだ小学校産業学習を開発する。なお,学習内容と して取り扱う産業は,農業とする。
第1節では,リスク概念を組み込んだ第5学年社会科「高知県のナス作り」の授業モデル を開発する。第2節では,授業実践の結果を分析,検討する。
第1節 第5学年社会科授業モデル「高知県のナス作り」の開発
本節では,設定した学習課題や作成した検証資料を活用し,リスク概念を組み込んだ第 5 学年社会科「高知県県のナス作り」の授業モデルを開発する。なお,本単元は,大単元
「わたしたちの食生活と食料生産」を構成する小単元である。
(1)小単元名 「高知県のナス作り」
(2)小単元の目標
〇 高知県のナス農家は,気候を生かして農業を行い,作り方や売り方を工夫して(*1)
リスクを回避し,もうけを得ていることが分かる。 【社会事象についての知識】
〇 高知県のナス作りにおける社会事象の因果関係を究明するために,資料から必要な情報 を読み取ったり解釈したりすることができる。 【資料活用の技能】
〇 資料から読み取った知識を,比較したり関連付けたりすることで,学習課題に対して 設定した仮説を検証することができる。 【社会的な思考・判断・表現】
〇 高知県の農業に関心をもち,ナス作りの特色(*2)を主体的に探究しようとする。
【主体的に学習に取り組む態度】
・作り方や売り方の工夫(*1),ナス作りの特色(*2)の具体的な内容は,(3)小単元の指導計画に 示す。
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小単元「高知県のナス作り」の指導計画を,表Ⅳ-1-1に示す。なお,リスク概念を 組み込んだ授業は,第 5 時である。また,本小単元では,利潤概念を組み込んだ授業も,
第4時に設定している。
表Ⅳ-1-1 小単元「高知県のナス作り」の指導計画
時 学習課題 【知識】目標
1 ○高知県は,ナスの生産が日本で一番多い県だということを知る(1)。
○「なぜ,高知県はナスの生産量が日本で一番多いのだろう。」という 単元を貫く問いを把握する。
○既習知識を想起し,「売上-費用」の公式によって,もうけが算出で きることを知る。
2 なぜ,ナスの収穫時期 は夏なのに,高知県では 冬に収穫することができ るのだろう。
○ナスの収穫時期は夏なのに,高知県では冬に収穫することができる理由 について,次の3点のことが分かる。
・高知県は,緯度が低いので太陽の光が強く当たり,日中の寒気は和らぐ。
・北西季節風が,中国山地や四国山地をこえると乾いた風になるので,
晴れの日が多くなり,日中の寒気は和らぐ。
・高知県の近海で暖流(黒潮)が流れているので,寒気は和らぐ。
3 な ぜ , 高 知 県 の 冬 の 気温は,ナスの生育適温 よりも低いのに,収穫で きるのだろう。
○高知県の冬の気温がナスの生育適温よりも低いのに収穫できる理由 について,次のことが分かる。
・ビニールハウスを設置し,ハウスの中をヒーターで暖めている。
○ビニールハウスの中をヒーターで暖めるには,10aあたり年間37 万 円の光熱費がかかっており,設備の利用には費用も伴うことを知る(2)。 4 なぜ,高知県の農家は,
露地栽培より費用のかか るハウス栽培をして,ナス を生産するのだろう。
○高知県の農家が,露地栽培より費用のかかるハウス栽培をしてナスを 生産する理由について,次のことが分かる。
・高知県のハウス栽培のもうけは,10aあたり161万円(316万円-155 万円),露地栽培の全国平均のもうけは,10a あたり 122 万円(180 万円-58万円)で,ハウス栽培の方がもうかる。
5 な ぜ , 同 じ 畑 の 面 積
(10a)なのに,露地栽培 よ り ハ ウ ス 栽 培 の 方 が ナスの売上が多いのだろ う。
○同じ畑の面積(10a)なのに,露地栽培よりハウス栽培の方がナスの 売上が多い理由について,次の2点のことが分かる。
・ハウス栽培は温度調節ができ,低温のリスクを防ぐことができるので,
収穫量が増加する。
・ハウス栽培を行う冬は,ナスに高い値段が付く。
【単元を貫く問い】
なぜ,高知県はナス の生産量が日本で一番 多いのだろう。
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時 学習課題 【知識】目標
6 ○高知県のナスの生産量が,日本で一番多い理由について,次のことが 分かる。
・高知県のナス農家は,緯度の低さや北西季節風,暖流(黒潮)の影響 による日中の寒気の和らぎやビニールハウスによる温度調節を利用 し,高い金額で売れてもうかる冬にナスを大量生産している。
本時案については,利潤概念を組み込んだ第4時及びリスク概念を組み込んだ第5時を 示す。
(4)本時案-利潤概念を組み込んだ第 4 時-
① 本時の目標
〇 高知県の農家が,露地栽培より費用のかかるハウス栽培をしてナスを生産する理由に ついて,次のことが分かる。 【社会事象についての知識】
・高知県のハウス栽培のもうけは,10aあたり161万円(316万円―155万円),露地栽 培の全国平均のもうけは,10aあたり122万円(180万円-58万円)で,ハウス栽培 の方がもうかる。
② 本時の授業仮説
③ 本時の展開
学習活動 発問(○)指示(◎)確認(◇)
指導上の留意点(・)
予想される子どもの反応(・) 資料(*)
評価(◎)
1.前時の学習 内容を復習 する。
○前の時間,なぜ高知県の冬の 気温は,ナスの生育適温より も低いのに収穫できるのか を探究しました。なぜだった でしょうか。
・ビニールハウスを設置して いるから。
・ハウス内は,ヒーターで温度 調節をしていた。
〇具体的な数値が示された資料 1「ナスのハウス栽培と露地栽培の費用」と資料2「ナス のハウス栽培と露地栽培の売上」を提示し,それぞれの栽培方法の売上と費用を比較 させる。この手立てにより,子どもは「売上-費用」の公式から,ハウス栽培と露地 栽培のもうけ(利潤)を算出する。そして,算出されたハウス栽培と露地栽培のもう け(利潤)を比較することにより,本時の目標に到達することができるであろう。
【単元を貫く問い】
なぜ,高知県はナス の生産量が日本で一番 多いのだろう。
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指導上の留意点(・) 評価(◎)
2.本時の学習 課題を把握 する。
3.仮説を設定 する。
○高知県のナスのハウス栽培 にかかる光熱費は,10aあた りで1年間いくらかかった でしょうか。
○露地栽培にかかる光熱費は,
10aあたりで1年間いくら かかるでしょうか。
◇実は,1年間で3万円です。
◎さらに,ナスのハウス栽培と 露地栽培全体にかかる費用 も確認しましょう。
・資料1を提示し,ハウス栽 培と露地栽培全体にかかる 費用を比較させる。
○学習課題の答えを予想しま しょう。
・予想を同じカテゴリーに分類 させたり既習知識を活用させ たりすることで,仮説へと高 める。
・1年間で37万円かかる。
・露地栽培はビニールハウスを 使わないから,もう少し安い かもしれない。
・全然ちがう。とても安い。
・全体の費用も,露地栽培より ハウス栽培の方が高い。
・なぜ,高知県のナス農家は,
そこまでお金をかけてハウス 栽培をするのだろう。
・兵庫県南あわじ市のレタスの ように,費用が多くても売上 が高いからもうかる。
・冬は,どの都道府県もナスを 作っていないから,市場で高 い値段で売れる。
*資料1 ナスのハウス
栽培と露地 栽培の費用
なぜ,高知県の農家は,露地栽培より費用のかかるハウス栽培をして,
ナスを生産するのだろう。
栽培方法 費用(1年間)
ハウス[高知県] 155万円 露地[全国平均] 58万円
(10aあたり)
- 148 - 学習活動 発問(○)指示(◎)確認(◇)
指導上の留意点(・)
予想される子どもの反応(・) 資料(*)
評価(◎)
4.資料で検証 する。
4.検証結果を 共有する。
【授業仮説】
5.学習課題の解 をまとめる。
◎資料からの情報を基に,仮説 を確かめてみましょう。
◎資料から分かった学習課題 の答えを発表しましょう。
・板書に,もうけを求める数式 を示し,全体で共有する。
◎資料から読み取った情報を 基にして,学習課題の答えを 書きましょう。
・資料2のハウス栽培と露地栽 培の売上から,資料1のそれ ぞれの栽培方法にかかる費用 を引く。計算すると,ハウス 栽培の方が露地栽培よりもう かることが分かる。
*資料1 ナスのハウス
栽培と露地 栽培の費用
*資料2 ナスのハウス
栽培と露地 栽培の売上
◎評価 栽培方法 費用(1年間)
ハウス[高知県] 155万円 露地[全国平均] 58万円
(10aあたり)
栽培方法 売上(1年間)
ハウス[高知県] 316万円 露地[全国平均] 180万円
(10aあたり)
〇ハウス栽培
売上316万円-費用155万円=もうけ161万円
〇露地栽培
売上180万円-費用58万円=もうけ122万円
◎学習課題の解(=社会事象の経済学的な説明)
がワークシートに記述されているか。
[学習課題の解]
高知県のハウス栽培のもうけは,10a あたり 161万円(316万円-155万円),露地栽培の 全国平均のもうけは,10a あたり 122 万円
(180万円-58万円)で,ハウス栽培の方が もうかる。
[学習課題]
なぜ,高知県の農家は,露地栽培より費用のかか るハウス栽培をして,ナスを生産するのだろう。