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高波浪による海岸堤防海側の被災の特徴

ドキュメント内 竹下, 哲也 (ページ 39-42)

3. 高波浪に対して粘り強い海岸堤防の海側構造

3.2 高波浪による海岸堤防海側の被災の特徴

て海岸堤防表法尻付近が被災する現象に焦点をあてた水理模型実験を実施し,その結果の考察を通 じて高波浪に対して粘り強い海岸堤防の海側構造の提案45)を行った.

3.2 高波浪による海岸堤防海側の被災の特徴

3.2.1 高波浪による海岸堤防海側の被災事例 (1) 伊勢湾台風

土木研究所報告 10)によると,1959

年の伊勢湾台風では,鈴鹿川河口右岸の磯津海岸において図-3.2.1のように被災しているが,

「設計潮位は T.P.2.9 m, 設計波高は明瞭ではないが,だいたい 2m を考えたようで,天ば高は

T.P.5.5 mとなっている.伊勢湾台風では(表-2.2.1)に示すように,潮位T.P.3 m, 波高3.0 mで

波のほうがかなり設計を上回っている.」

「波力のため表のり天端などの弱い部分がしだいに変形し,構造物の水密性が小さくなるととも に,越波などにより堤体中にはいった海水の流動が活発となり,多量の堤土が流出し,ついに 堤防全体が破壊するに至ったのではないかと考えられる.」

と記されており,表のり側についても波力や吸出しによって破壊したことが推定される.

一方,鈴鹿川河口左岸の石原海岸(図-3.2.2参照)については

「潮位,波の状況とも磯津海岸とほぼ同様である.したがって波力も磯津海岸と同じ程度であっ たと考えられるが,堤防自体はいちじるしい被害を受けなかった.しかし(中略)波返しと石 張り被覆との境界にはっきりしたずれがあり,相当な波力を受けたことを示している.」

「石原海岸では捨石下層部の約50kgの石が抜けて飛び出し,花こう岩の張り石に衝突して,その 傷が白いはん点のようになっていた.この付近は湾奥にくらべると,潮位は低く,波は大きい.

したがって,高潮災害においても水理的条件によっては捨石の散乱をまねき.ついには堤防が 基礎から破壊することも起りうるから,十分に注意しなければならない.」

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とあり,被災は小さかったものの,堤防の変状から,設計規模を超える波浪による表のり側 の被災の危険性を指摘している.

図-3.2.1 磯津海岸堤防の標準断面図(左)と被災断面図(右)

(出典:土木研究所報告10

図-3.2.2 石原海岸堤防の標準断面図(出典:土木研究所報告10

(2) 第二室戸台風

1961年9 月に発生した第二室戸台風(台風5915号)では,高知県室戸岬で観測された最低中心

気圧が930.4hpa46)であり,死者194名,浸水面積31 km2 47)等の被害をもたらした.気象庁近畿地方

建設局の「淀川百年史」48)に掲載されている大阪港の潮位を図-3.2.3に示す.大阪湾では,第二室戸

台風でO.P. 4.12m (T.P.2.82m) の潮位を記録していることが分かる.

図-3.2.3 大阪湾における潮位(室戸台風,ジェーン台風,第二室戸台風)48)

(O.P.=T.P.+1.3 m)

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図-3.2.4 淀川河口部堤防の災害復旧護岸断面図(高見地区)48)

また,淀川百年史によると,当時の浸水状況について

「(大阪府)福島区,西区及び北区中之島,堂島地区はジェーン台風,室戸台風のときより浸水地域 と程度は大きくなったが,これは近年地盤沈下がこの地区に波及しO.P.4.00mで作られた堂島川,

土佐堀川の防潮堤は昨年の台風 16 号のとき,既に O.P.3.0m程度に沈下し,今年の台風期までに

O.P.3.5m まで嵩上げされたが,これを越す高潮に溢流したためで,地盤沈下の害を明らかにした

ものといえる」

「その他の地区では室戸,ジェーンの高潮より被害が小さく,特に大正区,此花区の大部分,西淀 川区大野川以南では一部の越波,漏水等のほか高潮を防ぎ得たことは,ジェーン台風以来約 120 億円を投じて作られた防潮堤の効果であるということができる」

「淀川本川の堤防は破堤しなかったものの,淀川を遡上する高潮と波浪のために,十三大橋より下 流の左右岸総延長約15km のうち約5.3km にわたり,表法は激しい破壊を受けた.特に左岸の計 画高水位以上の張芝被覆はほとんど崩壊し,激しいところは天端幅の約 1/3 を削り取られ,破堤 寸前の状況であった.また護岸のある部分もブロック護岸は手痛い破壊を受けている.これに反 し右岸の伝法大橋下流部の方は,高潮対策の完成した部分は何らの被害もなく,高潮対策,特に 三面被覆の必要性を痛感させた」

とある.地盤沈下により堤防天端高が低い箇所では高潮による越流が発生していたこと.海岸では ないが淀川河口部の堤防については高潮だけでなく波浪によって越波や表のりの被災が発生してい たことが分かる.

また,一般に内湾の湾奥では波浪の影響は小さいと言われるが,淀川百年史に掲載されている淀 川河口部堤防(高見地区)の災害復旧護岸の断面図(図-3.2.4 参照)を見ると,大阪湾の第二室戸 台風での実測潮位が O.P. 4.12m であるのに対し,推定波浪高を O.P.6.5m として当該高さを堤防天 端高として復旧がされている.高見地区は淀川河口から約 4km 上流の位置であることを考えれば,

大阪湾のような湾奥であっても波浪の影響は無視できないことが分かる.

3.2.2 高波浪による海岸堤防海側の被災の特徴のまとめ

波浪によって海岸堤防や護岸は,堤防陸側だけでなく堤防海側も被災している.

特に,堤防海側は表法側の被覆工のずれや吸出し,表法先基礎部分の捨石の移動といった現象が 報告されており,高波浪に対しては堤防陸側だけでなく,海側の被災も考慮する必要がある.

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