3. 高波浪に対して粘り強い海岸堤防の海側構造
3.3 粘り強い海岸堤防の海側構造に関する水理模型実験
39
40 (2) 造波条件
造波条件は,修正 Bretschneider - 光易型の不規則波(2.4.1の 式 (2.4.1) )で波形勾配は0.03 程 度とし,海岸事業の費用便益分析指針40) での外力設定を参考に,越波流量を5 段階の階段形状(現
地換算 2.4 時間× 5 段階= 12 時間)とした.越波流量が最大となる第 3 段階の目標越波流量に
ついては,海岸堤防の一般的な許容越波流量(0.01〜0.05 m3/s/m)よりも大きい現地換算 0.1 〜0.2 m3/s/m 相当で設定した(図-3.3.3,表-3.3.1 参照).
上記指針の考え方をこの実験にあてはめると,朔望平均満潮位に対応する堤前水深は現地換算で
約1.5m となるが, 2016 年における全国 71 地点の朔望の干満差の平均が 1.65 m49) であることか
ら,本実験条件は干潮時に基礎工付近が干出するような海岸堤防を想定している.
図-3.3.3 造波条件(現地換算値)
表-3.3.1 造波条件(現地換算値)
0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25
0 2.4 4.8 7.2 9.6 12
目標越波流量: 0.1 目標越波流量: 0.2
(時間)
越波流量 ( m3/s/m )
(第1 段階) (第2 段階) (第3 段階) (第4 段階) (第5 段階) m3/s/m
m3/s/m
堤前水深 有義波高 周期 越波流量 ( m ) ( m ) ( s ) ( m3/s/m )
第 1,5
1.65 2.40 6.6
0.0091, 0.0103第2,4
1.98 3.30 7.7
0.0453, 0.0499第 3
2.31 4.26 9.3
0.1041第 1,5
1.68 3.60 8.2
0.0337, 0.0372第2,4
2.04 4.80 9.3
0.0760, 0.0823第 3
2.40 6.00 10.4
0.1748目標越波流量 段階
0.1 m3/s/m
0.2 m3/s/m
41 (3) 実験ケース
表法先付近の構造は図-3.3.4 のとおり 8 ケース設定した.基礎工(図-3.3.5 参照)については,
海岸堤防構造の事例 61) から 33 mm × 33 mm の寸法(現地換算 1 m × 1 m 相当)とした.基礎 工,表法被覆工,Case 2.5 の段積みブロック(2.4.1の図-2.4.5の突起付きブロックと同じ)は比重 2.1 のモルタル製である.Case 2.5, 2.6, 2.7 の堤前養浜工は移動床と同じd 50 = 0.2 mm の珪砂を用 い,養浜の断面積はそれぞれ 0.0228 m2, 0.0178 m2, 0.0151 m2 (現地換算 20.5 m2, 16.0 m2, 13.6 m2)で ある.Case 2.3 の矢板工はアルミニウム板 ( JIS 合金番号 A 1050, 純度 99.5 % 以上,厚さ1 mm )を 用い,基礎工と一体化させた.全8ケースの裏法被覆工と天端被覆工は固定し,実験水路側壁との 間をシリコンで止水した.表法被覆工と基礎工は,実験水路の側壁との摩擦による移動の阻害をで きるだけ避けるため,実験水路の側壁との間に 1 mm (現地換算 0.03 m )の隙間を設けた.
図-3.3.4 実験ケース(表法先付近の構造,模型寸法)
Case 2.1: 基礎工 unconnected
Case 2.2: 基礎工 (表法被覆工と連結) connected
Case 2.3: 矢板工 connected
矢板工
Case 2.5: 段積みブロック unconnected connected
Case 2.6: 堤前養浜工 ( type α)
connected Case 2.4: 被覆工根継ぎ
connected
33 mm
connected 0.1 m
Case 2.7: 堤前養浜工 ( type β)
connected 0.05 m
Case 2.8: 堤前養浜工 ( type γ) 133 mm
42
Case 2.1 については,表法被覆工と,基礎工及び実験水路側壁との隙間から,吸出しが不規則に
発生したために実験の再現性が確保できなかった(写真-3.3.1参照).このため,Case 2.1 を除く7 ケースは表法被覆工と基礎工を結合させるとともに,実験水路側壁からの水の浸入を極力減らすた め,堤体盛土(珪砂)の部分と実験水路の側壁との間は遮水シートとワセリンによる止水を行った
(図-3.3.6参照).これにより,吸出しを発生させずに,基礎工前面の洗掘によって堤防が破壊する
現象の再現が可能となった.
基礎工前面の移動床の勾配は,当初,固定床と同じ 1 : 30 を予定していたが,浮遊砂が堤防前面 で堆積する現象が不規則に発生し,同一の波浪条件でも堆積した砂の量の違いによって基礎工の移 動が左右され,実験の再現性が確保できなかった(写真-3.3.2).このため,できるだけ堆積を減ら す観点から,図-3.3.1 のように堤防前面から沖へ 0.5 m の範囲までの移動床勾配は1 : 10 とし,固 定床との間は1 : 50 の勾配ですりつけた.
図-3.3.5 基礎工の模型寸法(単位 mm)
図-3.3.6 止水方法
基礎工
33 20
33 10
ワセリン
(両面テープ,シリコン で基礎工と結合)
(両面テープで遮水シート と基礎工とを接着)
表法被覆工
遮水シート 遮水シート
遮水 シート
遮水シート
遮水シート
遮水シート
天端
基礎工 ワセリン
43
写真-3.3.1 吸出しの発生状況 写真-3.3.2 浮遊砂の堆積状況
3.3.2 実験結果
実験では,固定している天端被覆工と表法被覆工との接合部間距離(水路の中央部で測定)を図 -3.3.3 に示す造波条件の各段階の造波終了後に測定した.その結果を表-3.3.2 に示す.表-3.3.2 中 の数値 0 は表法被覆工が移動しなかったことを示している.なお,表-3.3.2 中の網掛け部分につい ては実験を行っていない.
Case 2.2(基礎工)は第 2 段階で 0.33 m, 第 3 段階で 0.90 m 表法被覆工が移動した.Case
2.3(矢板工)は目標越波流量 0.1, 0.2 m3/s/m ともに第 5 段階まで表法被覆工は移動しなかった.
Case 2.4(被覆工根継ぎ)は目標越波流量 0.1 m3/s/mで表法被覆工が0.03 m,0.2 m3/s/mで0.05 m 移動した.Case 2.5(段積みブロック)は目標越波流量0.1, 0.2 m3/s/mともに0.06 m 表法被覆工が 移動した.
Case 2.6 〜 2.8(堤前養浜工 Type α 〜 γ )は第 3 段階で表法被覆工が 0.02 〜 0.03 m 移 動した程度であった.
表-3.3.2 天端被覆工と表法被覆工の接合部の間の距離の測定結果(現地換算値)
(単位:m ) 構造 造波条件(目標越波流量)
Case 段階 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5
番号 越波流量
(現地換算計測値)
( m3/s/m)
0.0091 0.0453 0.1041 0.0499 0.0103 0.0337 0.0760 0.1748 0.0823 0.0372 2.2 基礎工 (表法被覆工と連結) 0.02 0.33 0.90
2.3 矢板工 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
2.4 被覆工根継ぎ 0 0.02 0.03 0.03 0.03 0.02 0.03 0.05 0.05 0.05 2.5 段積みブロック 0 0.02 0.05 0.06 0.06 0 0.02 0.05 0.06 0.06 2.6 堤前養浜工 (Type α) 0 0 0.02 0.02 0.02
2.7 堤前養浜工 (Type β) 0 0 0.03 0.03 0.03 2.8 堤前養浜工 (Type γ) 0 0 0.02 0.02 0.02
0.1 m3/s/m 0.2 m3/s/m
44
堤防海側の実験は波の作用を直接受けるため,2.4.2 の表-2.4.2 の堤防陸側の実験に比べて,移 動しないケースはCase 2.3の矢板工のみであり,Case 2.4〜2.8はわずかに表法被覆工が移動する 結果となった.ここで,
1) 海岸堤防と同じ海の構造物である防波堤(混成堤)では,「港湾の技術上の基準・同解説 」50) によると,滑動の許容値の例として,使用限界0.03 m,修復限界0.1 m という数値が示され ていること(使用性,修復性については,2.3.1の表-2.3.2を参照)
2) 縮尺1/30では,天端被覆工と表法被覆工との接合部間の開きが模型スケール1 mmで,現地
換算0.03 m の開きとなる.このため,模型実験の性質上,模型スケール1 mm 前後の精度を
詳細に求めることは難しいこと
から,表-3.3.2の結果については,現地換算で0.1 m 以上の移動を明らかに破壊したものと見なし,
0.1 m 未満の移動については,一定の粘り強さを発揮しているものとして考察することとした.
3.3.3 考察
(1) Case 2.2(基礎工)
図-3.3.7 は,Case 2.2 の第 2 段階終了後の水路中央部の洗掘状況を示したものであり,最大洗掘 深が基礎工の厚さにほぼ達していた.
椹木ら18) は,堤前の洗掘が堤防の表法面からの戻り流れと密接に関係することを指摘している.
戻り流れによる洗掘で基礎工に接する地盤の反力が低下したところに,波浪や戻り流れが基礎工に 作用することで,基礎工が海側に押し出され,堤防が破壊したと推定される.
図-3.3.7 堤前の洗掘状況(Case 2.2, 第 2 段階終了後)
-3 -2 -1 0 1 2
0 10
20 30
実験前 基礎工(第2段階終了後)
地盤高(現地換算値(m) )
表法先からの距離(現地換算値(m) )
45 (2) Case 2.3(矢板工)
図-3.3.8 は,Case 2.3(矢板工)の目標越波流量0.1 m3/s/m における第 3 段階終了時点の水路
中央部の洗掘状況を示したものである.洗掘深よりも根入れが深いため基礎工が移動せず堤防が破 壊しなかったものと考えられる. なお,Case 2.3は目標越波流量0.1 m3/s/mの第3 段階終了後よ りも,波高の小さい第5段階終了後の方が最大洗掘深は若干大きい(図-3.3.9参照).また,目標
越波流量0.2 m3/s/m の場合は,第3段階終了後に比べて第5段階終了後の方が浮遊砂の堆積によ
り最大洗掘深は若干浅くなっているものの,海底地形全体では侵食傾向となっている(図-3.3.10 参照).本実験の造波時間に対して粘り強い構造として矢板工による根入れ確保は効果的であるも のの,さらに長時間の波の作用によって洗掘が更に進行すれば,地盤の反力が低下し,堤防破壊の 危険性が高まる可能性があることを示している.
図-3.3.8 堤前の洗掘状況(Case 2.3, 目標越波流量0.1 m3/s/m 第3段階終了後)
図-3.3.9 堤前の洗掘状況(Case 2.3, 目標越波流量0.1 m3/s/m 第3,5段階終了後)
図-3.3.10 堤前の洗掘状況(Case 2.3, 目標越波流量0.2 m3/s/m 第3,5段階終了後)
-3 -2 -1 0 1 2
0 10
20 30
実験前
矢板工(0.1 m3/s/m 第3段階終了後)
表法先からの距離(現地換算値(m) )
地盤高(現地換算値(m) )
矢板工 m3/s/m
-3 -2 -1 0 1 2
0 10
20 30
実験前
矢板工0.1 m3/s/m 第3 段階終了後 矢板工0.1 m3/s/m 第5 段階終了後
表法先からの距離(現地換算値(m) )
地盤高(現地換算値(m) )
矢板工 m3/s/m
m3/s/m
-3 -2 -1 0 1 2
0 10
20 30
実験前
矢板工0.2 m3/s/m 第3 段階終了後 矢板工0.2 m3/s/m 第5 段階終了後
表法先からの距離(現地換算値(m) )
地盤高(現地換算値(m) )
矢板工 m3/s/m
m3/s/m
46 (3) Case 2.4(被覆工根継ぎ)
図-3.3.11 は,Case 2.4(被覆工根継ぎ)の目標越波流量0.1 m3/s/m における第 3 段階終了時点の
水路中央部の洗掘状況を示したものである.最大洗掘深が基礎工の底面近くまで達しているものの 僅かながら基礎工底面より洗掘深が浅いこともあり,表法被覆工の移動量は0.03m(表-3.3.2)であ った.なお,Case 2.4は目標越波流量0.1 m3/s/mの第3 段階終了後よりも,波高の小さい第5段階 終了後の方が最大洗掘深は大きくなった(図-3.3.12参照).また,目標越波流量0.2 m3/s/m の場合 は,第3段階終了後に比べ第5段階終了後の方が最大洗掘深は若干深くなり基礎工底面の深さに達 しており,表法被覆工の移動量も0.05 m (表-3.3.2)となった.Case 2.3同様,さらに長時間の波 の作用によって洗掘が更に進行すれば,地盤の反力が低下し,堤防破壊の危険性が高まる可能性が あることを示している.
加えて,特筆すべきはCase 2.2, 2.3に比べて最大洗掘深が深いことである.沖側に鉛直壁が張り
図-3.3.11 堤前の洗掘状況(Case 2.4, 目標越波流量0.1 m3/s/m 第3段階終了後)
図-3.3.12 堤前の洗掘状況(Case 2.4, 目標越波流量0.1 m3/s/m 第3,5段階終了後)
図-3.3.13 堤前の洗掘状況(Case 2.4, 目標越波流量0.2 m3/s/m 第3,5段階終了後)
-3 -2 -1 0 1 2
0 10
20 30
実験前
被覆工根継ぎ0.1 m3/s/m 第3 段階終了後
表法先からの距離(現地換算値(m) )
地盤高(現地換算値(m) )
m3/s/m
-3 -2 -1 0 1 2
0 10
20 30
実験前
被覆工根継ぎ0.1 m3/s/m 第3 段階終了後 被覆工根継ぎ0.1 m3/s/m 第5 段階終了後
表法先からの距離(現地換算値(m) )
地盤高(現地換算値(m) )
m3/s/m m3/s/m
-3 -2 -1 0 1 2
0 10
20 30
実験前
被覆工根継ぎ0.2 m3/s/m 第3 段階終了後 被覆工根継ぎ0.2 m3/s/m 第5 段階終了後
表法先からの距離(現地換算値(m) )
地盤高(現地換算値(m) )
m3/s/m m3/s/m
47
出した形となったため波の反射の影響で洗掘が進んだことや,根継ぎした分だけ基礎工と堤防天端 との落差が大きくなり表法被覆工からの戻り流れの流速が大きくなったことが原因と考えられる.
(4) Case 2.5(段積みブロック)
図-3.3.14 は,Case 2.5(段積みブロック)の目標越波流量0.1 m3/s/m における第 3 段階終了時点
の水路中央部の洗掘状況を示したものである.洗掘深が上側の段積みブロックよりも深くなってい たことから,上側の段積みブロックと基礎工が移動し,表法被覆工の移動量が0.05m(表-3.3.2)と なったと考えられる.Case 2.3,2.4と同様,目標越波流量0.1〜0.2 m3/s/mの第3 段階終了後よりも,
波高の小さい第 5 段階終了後の方が最大洗掘深は大きくなる傾向が見られた(図-3.3.15, 3.3.16 参 照).さらに長時間の波の作用によって洗掘が更に進行すれば,地盤の反力が低下し,堤防破壊の 危険性が高まる可能性があることを示している.
図-3.3.14 堤前の洗掘状況(Case 2.5, 目標越波流量0.1 m3/s/m 第3段階終了後)
図-3.3.15 堤前の洗掘状況(Case 2.5, 目標越波流量0.1 m3/s/m 第3,5段階終了後)
図-3.3.16 堤前の洗掘状況(Case 2.5, 目標越波流量0.2 m3/s/m 第3,5段階終了後)
-3 -2 -1 0 1 2
0 10
20 30
実験前
段積みブロック0.1 m3/s/m 第3 段階終了後
表法先からの距離(現地換算値(m) )
地盤高(現地換算値(m) )
m3/s/m
-3 -2 -1 0 1 2
0 10
20 30
実験前
段積みブロック0.1 m3/s/m 第3 段階終了後 段積みブロック0.1 m3/s/m 第5 段階終了後
表法先からの距離(現地換算値(m) )
地盤高(現地換算値(m) )
m3/s/m m3/s/m
-3 -2 -1 0 1 2
0 10
20 30
実験前
段積みブロック0.2 m3/s/m 第3 段階終了後 段積みブロック0.2 m3/s/m 第5 段階終了後
表法先からの距離(現地換算値(m) )
地盤高(現地換算値(m) )
m3/s/m m3/s/m