4. 高波浪による家屋倒壊危険範囲の推定方法
4.2 高波浪による家屋被災の特徴
潮において安全な避難の観点から,浸水想定や家屋の安全性の周知が行われている現状を整理した 上で,高波浪による家屋倒壊危険範囲の推定の必要性を示す.そして,これらの整理を踏まえて,
4.4 数値計算による家屋倒壊危険範囲の推定では,数値波動水路(CADMAS-SURF/2D)52) を用い て,家屋に作用する波圧の数値計算を行い,高波浪の特性を考慮した家屋倒壊危険範囲の推定方法 の提案53)を行った.
4.2 高波浪による家屋被災の特徴
4.2.1 高波浪による家屋の被災事例 (1) 室戸台風
1934年9月に発生した室戸台風では室戸岬の観測所で911.6 hpa8) を観測し死者2702名9)等の大 きな被害に見舞われた.高知測候所編「颱風調査報告(昭和九年九月廿一日)」54)に掲載されている 高知県内の被害状況写真を写真-4.2.1〜4.2.4 に示す.なお,同報告では高潮・波浪災害を「暴風津 浪」あるいは「津浪」とも表現している.須崎町(現在の高知県須崎市)の被害状況について同報 告では次のように記載されている.
「高浪は忽(たちま)ちにして津波と化したり.時恰(あたか)も午前四時二十分満潮時なりしを 以つて高潮は錦浦湾内に溢れ普通満潮面上四米に上昇し海岸一帯に押し寄せたり(中略)須崎町に 於いて最も烈しかりしは二十一日午前四時過ぎから五時に至る間にして(中略)打ち上げし津浪は 十五六回に及び其の間五六回のもの最も大にして之が完全に破壊したる」
これらの記述や写真-4.2.1〜4.2.4から,室戸台風により高潮だけでなく波浪によって,浸水ある いは家屋の倒壊が発生していたと推定される.
(2) 伊勢湾台風
2.2.1,3.2.1でも引用した土木研究所報告14)によると,
「(写真-4.2.5)は鈴鹿川右岸の石原海岸堤防の背後にある家屋の被害状況を示したものである.
これによれば堤防をこえてかなり波が浸入したことは明瞭である」
として,1959年の伊勢湾台風においても,越波による家屋の被害があったことを指摘している.
ここで注目すべきは,3.2.1 でも引用したように,「堤防自体はいちじるしい被害を受けなかった」
石原堤防の背後の家屋が越波によって被害を受けているという点である.
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写真-4.2.5 石原海岸堤防背後の家屋被災状況
写真-4.2.1 室戸岬町字耳崎(現在の室戸市室戸岬町)
の被災写真(「(暴風)津浪による破壊家屋 の一例」と記載)
写真-4.2.2 津呂港防潮堤(現在の室戸市津呂港)の 被災写真(「(暴風)津浪によって図上に 示す如き石平敷なる」と記載)
写真-4.2.3 須崎港に打ち寄せる波浪の写真
(現在の須崎市須崎港)
写真-4.2.4 吉良川村の浪害及び暴風津浪の到達範囲 の写真(現在の室戸市吉良川町)
52 (3) ハリケーン・カトリーナ
2005 年8月のハリケーン・カトリーナによる高潮・波浪災害では,アメリカで約 1500 名55)が死 亡する被害があった.国土交通省の報告書(2006)56)によると,「ガルフショアからパスカゴーラの海 岸付近では,FEMAの痕跡高調査を上回る痕跡高が観測され,7.5m の高潮に 2〜3m の波浪が乗っ ていたと考えられる」とある.また,沿岸災害対策技術調査団の報告(2005)57)によると,「ロングビ ーチからガルフショアの海岸(延長100km以上)では,3m から7m という非常に大きな高潮とそ れに伴う高波によって,海岸線から 200〜300km 内陸まで建物が破壊され,約 1000kmまで浸水し ている」とある.
(4) ハリケーン・サンディ
2012 年10 月にはハリケーン・サンディによる高潮・波浪災害でアメリカ,カナダ,カリブ諸国 を含め約200名58)が死亡する被害となった.ハリケーン・サンディでは,松﨑ら(2013)59)によると,
「浸水被害は Manhattan のような都市部以外にも,ニューヨーク州,ニュージャージー州の広範囲 な海岸,特にバリアー島において生じた(中略)この辺りは大西洋に面しており,平均満潮位から
4 m の防潮堤が築いてあったが,高潮か高波はそれを乗り越えて浸水被害に至った(中略)高潮,
高波により家屋やボードウォーク等が被災していた」とある.
(5) 台風 1330 号(Haiyan)
Jeremy D. Bricker et al. (2014)13) によると,台風1330号(Haiyan)の災害では,タクロバン都心部 の海岸沿いの建物について,
“Along the coastline of downtown Tacloban, however, the presence of waves atop the wind-driven storm surge caused heavy damage. Fig.5-12 shows the remains of a reinforced concrete building, with only its foundation and damaged columns still remaining. The rubble of its concrete walls is seen around the building’s floor. Fig.5-13 shows scour around the foundation of a building along the coastline. This is probably the result of waves; as such scour did not exist inland.”
とあり,高潮に波浪が重なり襲来したことで,建物のコンクリート壁が破壊され瓦礫となったり,
建物の基礎部分が波浪によって洗掘を受けたりしていたことを報告している.
(6) その他の災害
2000年代は我が国において国外のような大規模な災害ではないものの,
・2004年 9月台風0418号:北海道神恵内村赤石地区での波浪による家屋被害60)
・2004年10月台風0423号:高知県室戸市菜生海岸での波浪による家屋被害61)
・2008年 2月冬季風浪:富山県黒部市・入善町下新川海岸での波浪による家屋被害62)
・2016年 8月台風1610号:北海道白老町胆振海岸での波浪による家屋被害63)
等で,波浪による家屋被害が発生している.なお,2004年の菜生海岸の場合は波返し工が被災して いるが,その他の事例は,堤防や護岸が大きく倒壊しなくても越波水塊の衝突によって背後の家屋 が被災している.
53 4.2.2 高波浪による家屋被災の特徴のまとめ
高波浪による家屋被災の特徴をまとめると以下のとおり.
(1) 国内外で高波浪による家屋倒壊の被害が発生しており,国内では太平洋側,日本海側北海道と 日本各地で発生している.
(2) 特に,堤防自体の被災が無くても,背後家屋への越波によって家屋が被災している例があり,
人命保護の観点から,堤防自体の被災だけでなく背後家屋への被災も併せて考慮する必要がある.