第5章ではアメリカ、中国、韓国、そして日本の道徳教育にかかわる取り組みや、学校の教育 制度等について、各国の特徴や相違点、課題等について考察し、高校生期における道徳教育の独 自性を検討した。本章では、本研究における考察結果を総括し、高校「道徳」を高校生期におけ る道徳教育の中核として位置づけ、それをもとにした道徳学習の指導体制や組織づくりについて 構想し、具体的なモデルとして提案していくことを目的とする。
第1節: 高等学校における「道徳」授業の在り方
「道徳」授業の意義 第1項:
これまでの考察から、高校生期におけるアイデンティティの形成には、個人的倫理 およ び社会的(集団的)道徳について学びながら「良心の覚醒」を目指す良心教育が必要である こと、良心教育を取り入れた道徳学習が必要であることを指摘してきた。
本章では、これまでの考察結果をベースとしながら、高校生期における道徳教育の在り 方についての構想をはかるものとする。そこで、ここではその柱となる「道徳」授業の 教 育課程上の位置づけやその意義について整理した上で、全体構想の具体的な提案へと繋げ ていきたいと考える。
本研究では、これまでの考察結果をもとに「道徳」授業を要とし ながら、高校生期にお ける道徳教育が学校の教育活動全体を通じて行われることを目的として、一つの構想モデ ルを提案する。それは、高校「道徳」の授業が、これまで実施されてきた小・中学校の「道 徳の時間」と教育課程上、同様の位置づけとして捉えるということである。すなわち、高 校「道徳」の授業の時間を、学習カリキュラムの中で明確に位置づけ、必修化することを 目指すものであり、小・中学校で実施が進められている「特別の教科 道徳」のように、教 科化については現段階では提案に入れていないということである。しかしながら、小・中 学校における道徳の教科化と一貫性をもたせるためには、高校「道徳」の教科化について も同時に検討していくことは不可欠であり、それについては終章において提案をしていき たいと考えている。
まず、ここではこれまでの考察を踏まえて高校「道徳」の意義を整理し、その必要性に ついて検討していきたい。現代は情報化が進展することで多様な価値にふれる機会が多く なり、自分にとって本当に必要な価値とは何かということが見極めにくくなって きている。
そうした中で、特に高校生期はアイデンティティ形成を目指しながら、将来の職業や進路 を主体的に選択することが求められている。それを実現させるためには、高校生が真の価 値を見極めるための内的基準をしっかりと育んでいくことが望まれるのである。その内的 基準が「良心」なのであり、「良心の覚醒」を目指 す良心教育を取り入れた道徳学習を行 うための柱となるものが、「道徳」授業なのである。また、それは「人間としての在り方 生き方」についてじっくりと考え、自己内省を深める時間として位置づけられる。
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高校生期に求められるアイデンティティ形成は生徒一人ひとりによって 、大きく変わっ てくることが当然である。したがって、それらを全て学校の道徳教育における学習カリキ ュラムと関連づけていくのは難しい。そこで 本研究では、高校生期の発達段階を踏まえな がらアイデンティティ形成にかかわる観点を焦点化 することで道徳学習をスタートしやす くし、より具体的な提案へと繋げていきたいと考える。
ここでは第1章における考察をもとに、高校生期に求められるアイデンティティ形成に かかわる学習ポイントとして 4観点を以下に示すものとする。
① 自己の役割変化についての認識を促すこと
② 友人関係(人間関係)を通して自己内省を深め、自己受容を促すこと
③ 異なる価値観を受け入れながら、自己の価値観を問い直すこと
(その際、自尊感情を低下させないよう考慮しながら自分自身との対話を深める)
④ 社会的役割の自覚を促す「職業的アイデンティティ」を形成すること
もちろん、この4観点については高校生に対する道徳学習のスタート地点を見やすくす るためのものであり、また、第 2章で示した学習ポイントとの関連についても 本研究にお ける道徳教育の最終目標ではない。あくまで高校生期の道徳教育が目指すものは、良心教 育の実現であることを強調しておきたい。したがって、ここで提案する高校「道徳」の授 業は、教育活動全体を通して学習した様々な価値について振り返りながらそれらを統合し、
また新しい価値意識を形成していくための「自己内省を深める時間」として位置づけられ るものである。
そして次項からは、Figure 6-1に示した高校生期における道徳教育の在り方について、
以下に示すように項目ごとに整理をし、具体的な提案を行っていくものとする。
まず、「道徳」授業を実際に行っていくためには、学習内容や指導方法、教材の選定等 にかかわって学校内における組織づくりからはじめなければならない。第 2項では、その 組織運営にかかわる中心的なスタッフを選出するにあたり、 道徳教育運営スタッフの主な 役割について整理してみる。具体的な内容は、「①道徳教育スーパーバイザー、②道徳教 育推進チーム、③道徳アドバイザー、④スクールカウンセラーやスクールサイコロジスト
(学校心理士)等のコーディネーター」の4項目についてである。
第3項では、「道徳」授業を行うのに必要な道徳学習カリキュラムの作成についてポイ ントを整理しながら、道徳学習の充実をはかるための工夫について提案していきたい 。具 体的な内容としては、「①時間、②内容、③指導、④教材、⑤評価」の 5項目についてで ある。
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●ホームルーム活動:一 人 ひと り の学 び が みん な の学 び へと 繋 がる よ う なク ラ ス運 営 (互 いの 考 えや 意 見を 受 け入 れ 、尊 重し 合 える 雰囲 気 づく り を目 指 す )
・「 自 己成 長 記録 」 発表 会 の 実施
・ 全員 が何 か しら の リー ダ ー 経験 を もつ こ と
●学校行事・生徒会活動:修学 旅 行や 部 活 動等 の 宿泊 合 宿、 文 化祭 、 体 育祭 等 のイ ベ ン トに 主 体的 に 取り 組 む (クラ ス ・学 年 を超 え て多 く の価 値 にふ れ 、人 間 関 係を 深 める )
・ 地 域ボ ラ ンテ ィ アへ の 参加 、 SL プ ロジ ェ クト の 企画 ・ 実施
●キャリア教育:イン タ ー ンシ ッ プの 実 施 (社 会の 一 員と し ての 責 任を 果 たし 、自 己 の役 割を 自 覚す る)
・ キャ リア・デ ザイ ン セミ ナ ーの 実 施 (ゲス トテ ィ ーチ ャ ー、 将 来の 設 計 図を デ ザイ ン す る、 職 業的 ア イデ ン ティ テ ィ の形 成 を促 す )
●専門的知識・スキル:自 分が 何 のた め に 学び 、 それ を 活か し てい く べ きか 、 「人 間 と して の 在り 方 生き 方 」か ら 捉 え直 す
●主体的な学習スタイル:習得 し た知 識 や スキ ル を日 常 生活 や 実践 的 活 動で 活 用し な が ら、 不 十分 な とこ ろ に関 し て は主 体 的に 学 習 する ス タイ ル を確 立 させ る
特別活動 各教科・科目
●小・中学校との連携:「 特 別の 教 科 道 徳」 の 学習 に かか わ る研 究 協 議会 を 開催 、 情報 交 換を 行 う
・ 小 ・中 ・ 高と 連 携し た イベ ント や プロ ジェ ク トの 実 施
●生徒・学校支援:イン タ ーン シ ップ 、 ボラ ン ティ ア 、SL プ ロジ ェ ク ト受 け 入れ
・ 地 域行 事 や学 校 ボラ ン ティ アへ の 参加
・ 表 彰制 度 の設 置
高校生期のアイデンティティ形成にかかわる観点
① 自 己の 役 割変 化 につ い ての 認識 を 促す こ と
② 友 人関 係 (人 間 関係 )を 通 し て自 己 内省 を 深め 、 自己 受 容 を促 す こと
③ 異 なる 価 値観 を 受け 入 れな がら 、 自己 の 価値 観 を問 い 直 すこ と
(そ の際 、自尊 感 情を 低 下さ せ ない よ う考 慮 しな が ら自 分 自 身と の 対話 を 深め る )
④ 社 会的 役 割の 自 覚を 促 す「 職業 的 アイ デ ンテ ィ ティ 」 を 形成 す るこ と
社会的道徳 個人的倫理
●自己探究プロジェクト:日頃 の 様々 な 疑 問や 改 善す べ き点 等 につ い て 長期 的 プロ ジ ェ クト を 企画 し 、そ れ を実 施 し なが ら 自己 探 究 を深 め てい く (商 品開 発 、組 織 体制 づ くり 、 学習 フ ィー ル ドの 拡 大 )
総合的な学習の時間
●共同研究、サポート研修施設:学校 、 地域 、企 業等 と 協力 し なが ら プロ ジ ェク ト や研 究 を進 め る
・ 生徒 及 び教 員 のニ ー ズに 合 わせ た 知識 やス キ ルの 提 供、心 理的 ケ ア 、専 門 的ア ド バイ ス をし な がら サ ポー ト を 行う
●道徳教育スーパーバイザー:「 道 徳」 授 業を 中 核と し た年 間 学 習計 画 の 作成 、 学習 内 容・ 指 導・ 教 材 の選 択 、 教員 研 修
●道徳教育推進チーム:道徳教育スーパ ーバイザーの実務的な補佐を行う(「道徳」
授業の研究・開発)、家庭・地域を繋ぐイベ ントの企画・運営
●道徳アドバイザー:研究協議会等にお いて「道徳」授業に関連する一般的・専門 的アドバイスを行う
●SC・SP等のコーディネ ーター:
教員 と 協力 し なが ら 生徒 の 自 己内 省 に 対し て 心理 的 ケア を 行う 、 教 員へ の サ ポー ト (専 門的 な アド バ イス を する )、
保護 者 に対 す るペ ア レン ツ 教 育の 実 施 道徳教育運営スタッフ
「良心の覚醒」を目指した良心教育
●時間:「道 徳 」授 業 を中 核 とし た 年 間学 習 計画 の 作成 、学 年 別時 間 割の 工 夫
●内容:魅力ある学習内容の探究 (学校ご とのオリジナリティを出す、哲学的思考の 活用)
●指導:授業担当者スケジュールの工夫(内 容や日程、チームごとの振り分け等)
●教材:地域ごとの共通教材、ICT を利用 した映像・画像教材、教科・科目の特性を 活かしたコラボ教材 (データ管理)
・「 自 己内 省 ノー ト 」、「自 己 成長 記 録」
●評価:生徒 が 自己 を 内省 す る力 が ど れだ け 深ま っ てい る かに つ い ての 評 価、
観点 別 に評 価 基準 を 設置 (数 値 によ る 評価 や 相対 評 価は 行 わな い )
道徳学習カリキュラム
自己内省を深める時間: 「道徳」授業
●自立支援:家庭 に おけ る 生 徒の 役 割変 化の 自 覚、 自 立を 促 す支 援
・ 保 護者 教 育 (ペア レ ンツ ・ ナイ ト)
●学校行事:文化 祭 等の 学 校 行事 へ の参 加、保 護者 ボラ ン ティ ア 等へ の 参加 (保 護 者 間の 連 携)
・ 情 報の 共 有
家 庭 サポート機関
地 域
高校生期におけるアイデンティティの形成