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考 察一一………………一…一…一………一一一一一一……一一…一……一一39

 心の健康問題発生を未然に防ぐ対策として,学校では担任教師が生徒一人ひとりの 行動・事柄を「観察・把握」し,「理解」を図り,それに基づいて,指導目標や内容

を設定していると考えられる.したがって,日頃から生徒一人ひとりについての「観 察・把握」を正しく行うことがきわめて重要になってくる.

 しかし,多種多様の生徒一人ひとりについて,適切な「観察・把握」を行うには生 徒の何を手掛かりにすればいいかが不明確であり,現実には教師の経験に委ねられて いる場合が多い.

 そのため,本研究では,日常担任教師の「観察・把握」が少しでも容易になること を目的として,1)生徒がサインとして用いる可能性があると考えられる行動・事柄に ついて検討し,2)生徒をタイプ分けし,タイプ毎の行動・事柄特性と,上記1)で得ら れた行動・事柄の関連性について検討し,さらに,3)生徒のタイプに応じて「観察・

把握」に用いる行動・事柄を限定すれば,「観察・把握」が従来に比べ少しでも容易 になるか否かについて検討した.

 本章では,上記各段階で得られた結果について考察する.

1.生徒がサインとして用いる可能性のある行動・事柄についての検討

 養護教諭に対して,どのようなサインとする行動・事柄を用いて「観察・把握」し たかについて聞き取り調査した結果,前述した21個の種類の行動・事柄が得られた.

ここでは,これら得られた結果の妥当性を中心に考察しようとした.

 妥当性について検討する場合,少なくとも1)21個口行動・事柄の一つひとつに妥当 性があるか,2)21個の一つひとつが妥当性をもつとしても,多種多様の生徒のいずれ

もが,これら21個の内からサインとして用いるか,言い換えるとこれら21個以外にサ インとして用いられる行動・事柄はあるのか否かについて検討しなければならないと 考えられる.そのため,これら2点について検討してみた.

 結果で述べたように,各養護教諭は,一人の生徒について複数の行動・事柄を用い ての「観察・把握」であった.そして,これらによる「観察・把握」から「理解」の 必要性を感じ,「面接」等によって訴えの内容が明らかにされた.これらの事実は,

生徒には,ことの前兆としてこれらのサインが存在し,またそれによって「観察・把

握」できることを示すものである。そうすると,養護教諭が用いた21個の行動・事柄 には,妥当性が認められたと考えることもできる,しかし,結果の項で述べたように,

各生徒の「観察・把握」に用いた複数の行動・事柄のいずれがその生徒の「観察・把 握」,つまり「理解」の必要性を感じさせたかについては,養護教諭自身も必ずしも 明確でなかった.このことからすると,21個の行動・事柄の一つひとつがサインとし ての妥当性をもっか否かは明らかにできず,21個の内には,妥当性をもたない行動・

事柄が含まれている可能性も否定できない.一方で,複数の行動・事柄を用いること によって,はじめて「観察・把握」できたのであり,そのことが養護教諭として ど の行動・事柄が最も有効であったか分からない と言わしめたとも考えることができ る.もし,このように考えれば,21個の行動・事柄はサインとしての妥当性をもつと も言えよう.また,文部省は9),人がらに問題のある生徒の問題の内,非社会的傾向の 考え方として,「内気,臆病,孤独,無口,集団行動不参加,積極性の欠如,強い恐怖心 や劣等感など,およびこれらに裏づけられた行動が顕著に見られる…」と指摘している.

すなわち,非社会的問題傾向の生徒について,これらのサインとする事柄が見られる可能 性のあることを示唆しているものと考えられる.このことを例にしてみれば,養護教諭が

「観察・把握」に用いた行動・事柄21個の種類についても,同様の内容として捉えること のできる事柄が認められ,サインとしての妥当性があると考えられる.すなわち,生徒が 心に不安や悩みのあるときは,何らかのサインとしてこれらを用いていると考えられる.

 いずれにしても,今回の結果からのみでは,21個一つひとつの行動・事柄に妥当性 があるとは言い切れないが,少なくとも21個の内にサインとしての妥当性をもつ行動

・事柄が含まれることは明らかである.

 次に21個以外に,サインとして用いられる可能性があるか否かについて検討した.

各養護教諭による各生徒に用いた行動・事柄には,平素から注意を要求されるような 規律・規範に関わるものは比較的少なかった.すなわち,各生徒の特徴的な行動・事 柄に着目した「観察・把握」であることが認められた.このことは,養護教諭がその 生徒の特徴的な行動・事柄における日常の変化から「観察・把握」していることを示 唆していると考えられる.

 筒井27)らによれば,不登校事例による教師の把握とその対応における「立場」の

分析において,「生徒の[感情抑制]および[教師接近行動]における前兆行動の把

握は,管理職よりも一般教諭の方が,一般教諭よりも養護教諭の方が事例を特徴づけ て把握している」と報告している.すなわち,学校では精神的悩みのある生徒につい ては,養護教諭が最も「理解」に迫る行動・事柄を捉えようとする「観察・把握」を 行っていると考えられる.

 このことは,養護教諭がその生徒の特徴的な行動・事柄について,日常的な変化を 見逃し難いということであり,本研究結果でみられた養護教諭が「観察・把握」に用 いた行動・事柄を,ある程度裏付けるものであろう.

 また,高田ら23)によれば,生徒が負傷や病気以外に保健室に行きたくなる理由と して「保健室は何となく落ち着ける」・「養護教諭の先生に相談したいことがある」な どが多く報告されている.また,期待する養護教諭の先生像について「よく話を聞き 丁寧にみてくれる」・「おしゃべりにつき合ってくれる」などが報告されている.これ

らの報告に基づくならば,生徒は養護教諭の前で行動・事柄の日常的変化を露呈しや すく,養護教諭からすると,日常的変化から「観察・把握」し易いということも考え

ることができる.

 このような,養護教諭の「観察・把握」はサインを見逃し難く,したがって心の健 康問題発生を未然に防ごうとする上では有効であると考えることができる.しかし,

養護教諭は各生徒に特徴的な行動・事柄を用いており,今回結果的に対象になった41 名の各生徒の特徴には一般的な高校生の標本になり得るだけの十分なバリエーション があったか否かは明らかでない.そうすると,21個の行動・事柄以外にもサインとし て生徒に用いられる可能性のある行動・事柄は存在すると考えるのが妥当であるよう に思われる.したがって,これらについては,今後さらに検討を重ねなければならな いと考えられる.

2.生徒のタイプと,サインとして示す可能性のある行動・事柄の関連性についての   検討

 生徒のタイプ毎に観られると考えられている行動・事柄の特性と,生徒がサインと

して示す可能性のある行動・事柄の関連性をみたが,これらの検討のねらいは,次の

ようなことであった.適切な「観察・把握」のためには,何を手掛かりにすればよい

のかが明確でないことから,現実の教師は,多種多様な生徒一人ひとりについて多く

の行動・事柄からの「観察・把握」にならざるを得ない.このような現実にあって,

もし各生徒について,各々「観察・把握」に用いる行動・:事柄を限定することができ るならば,教師の日常における「観察・把握」は比較的容易になると考えられる.そ のため,このような比較的容易な「観察・把握」は学校現場において可能性があるか 否かを探るために,前述の関連性について検討したということである.したがって,

得られた結果についての考察は,適切な「観察・把握」をするに際して,用いる行動

・事柄を限定することの妥当性について検討しておかなければならないと考えられ

る.

 本研究では,便宜上エゴグラムを用いて生徒を5つのタイプに分け,各タイプから 見いだせる行動・事柄特性としては,18個の種類が得られた.これら18個の行動・事 柄特性と,生徒がサインとして用いる可能性のある行動・事柄21個を対応させた.そ の結果,18個内, 何事にも寛容 表現力が豊か 協調性 については,生徒が用 いる可能性のある21個の中に対応するものは認められなかった.逆に,21個の内の 反抗的 他人と比較する 同じ会話の繰り返し 遅刻・欠席が目立つ 喋らない

・無口 一人で居る については,18個の中に対応するものがみられなかった.こ れらの結果について,生徒が用いる可能性がある21個を是として考える限りでは,「観 察・把握」に用いる行動・事柄を限定することは適切な「観察・把握」に対して妥当 性を認められないようにも考えられる.

 しかし,本研究の結果から「観察・把握」に用いる行動・事柄を限定することの妥 当性について検討するためには,1)エゴグラムによるタイプ分けの問題と,2)上記で 考察したが生徒がサインとして用いる可能性のある21個の行動・事柄の問題,につい て検討を加えなければならない.

 本研究では,著者の実践との関連から,エゴグラムによるタイプ分けを実施し,交 流分析理論に基づいて18個の行動・事柄が得られた.しかし,前述したように,これ

ら18個は,生徒が用いる可能性のある21個を包含するものではなかった.この結果は,

生徒が用いる可能性のある21個を含めることができるようなタイプ分けの必要性を示

唆していると考えることができる.反面,生徒が用いる可能性のある21個口一つひと

つについて,サインとしての妥当性を検討することも必要であるかもしれない.この

ことは既に「考察」の項で述べたが,今回は一つひとつについて妥当性を明らかにす