心の健康問題発生を未然に防ぐ対策として,個別指導の充実を図ることが重要とさ れている.学校では担任教師が生徒一人ひとりの行動・事柄を「観察・把握」し,「理 解」を図り,それに基づいて,指導目標や内容を設定していることが考えられる.し
たがって,日頃から生徒一人ひとりについての「観察・把握」を正しく行うことがき わめて重要になってくる.しかし,生徒一人ひとりについて,担任教師はどのような 行動・事柄を手掛かりにすればよいのかは明確ではないため,「観察・把握」も困難
な状況になっていると考えられる.
著者は,日常の「観察・把握」から少しでも早期に「理解」へ辿ることを願い,エ ゴグラムによるタイプ分けを試み,個別指導に臨んだ.しかし,結果的に,生徒に不 必要な不安感を抱かせてしまった.これは,日常の「観察・把握」で用いる行動・事 柄を見誤ったということである.
そのため,本研究では,担任教師の「観察・把握」を少しでも適切かつ容易になる ことを目的として,1)生徒がサインとして用いる可能性のある行動・事柄について,
2)生徒のタイプ別にみられると考えられる行動・事柄特性と,生徒がサインとして用 いる可能性のある行動・事柄との対応について,3)各生徒をタイプ分けすれば,教師 は「観察・把握」が現在より容易になるか否かについて,それぞれ検討してきた.す なわち,1)においては学校において精神的,社会的不適応症状に陥った生徒.あるい は,その可能性のある生徒は,日頃どのような行動・事柄をサインとして用いている のか検討するため,養護教諭に「観察・把握」に用いた行動・事柄について面接調査 を実施し,2)においては,交流分析のエゴグラムによって生徒をタイプ分けし,各タ イプ毎に得られた行動・事柄特性と,上記養護教諭が用いた行動・事柄を対応させ,
3)においては,上記2で得られた結果に基づいた「観察・把握」の方法と従来の方法 を比べることによって,それぞれ検討した.その結果,以下のような結果が得られた.
1.生徒がサインとして用いる可能性のある行動・事柄の検討
17校17名の養護教諭に対して,41名の生徒の「観察・把握」に用いた行動・事柄の
調査結果として,21個のサインが得られた.これら41名の生徒は訪れてきた生徒では
なく,養護教諭自らが捉えた生徒である.サインを基に,一人ひとりについての「理 解」によって明らかにされた訴えの内容は異なっても,生徒間では同様のサインを用 いたり,また逆の場合も観られた.すなわち,生徒一人ひとりで表出するサインは多 種多様にあり,一人ひとりについて異なることが認められた.つまり,生徒が同じよ
うな不安や悩みを抱いていても,一人ひとりの表し方には違いがあった.
各養護教諭は,一人の生徒について複数の行動・事柄を用いて「観察・把握」し,
これらに基づいて「理解」の必要性を迫られ,面接等により訴えの内容を明らかにで きた.この事実は,生徒には何らかの前兆にサインの存在することを示し,また養護 教諭の用いた21個のについて,サインとしての妥当性を示唆しているものと考えられ た.しかし,各養護教諭が一人ひとりの生徒について用いた複数の行動・事柄の内,
いずれが「観察・把握」に有効であったかは不明確であり,このことからすれば一つ 一つがサインとして妥当性をもつとは断言できなかった.
また,21個以外にサインとして用いる可能性について検討した.得られた21個の行 動・事柄は,41名の高校生の特徴的なものであったことを考えると,これら41名の生 徒が全ての高校生の標本に成り得るとは限らない.つまり,21個以外にもサインとし て用いる行動・事柄が存在する可能性が考えられた.
2.生徒のタイプと,サインとして示す可能性のある行動・事柄の関連性の検討 生徒のタイプ別にみられる行動・事柄特性と,生徒がサインとして用いる可能性の
ある行動・事柄の対応についてみた.生徒を「温厚」「社交」「奔放」「堅実」「几帳面」
の5つのタイプに分け,これらにおける特徴的な行動・事柄として18個が得られた.
これら行動・事柄特性と,上記1で得られたサインとして用いる可能性のある21個の
行動・事柄を対応させた結果,18個中3個及び21個中6個は対応し難iいことが認められ
た.すなわち,エゴグラムによるタイプ分けから得られた18個の行動・事柄は生徒が
用いる行動・事柄の21個を包含することはできなかった.このことについては,生徒
が用いる可能性のある21個の行動・事柄すべてに対応できるタイプ分けをする必要性
について示唆しているものと考えられた.したがって,まず,サインとして妥当性の
ある行動・事柄を明らかにし,その明らかになった行動・事柄をすべて包含できるタ
イプ分けを試みる必要性があると考察された.
3.生徒をタイプ分けすれば,教師は「観察・把握」が容易になるか否かの検討 担任教師は,生徒一入ひとりについて,多くの行動・事柄を用いて「観察・把握」
しているとされていることが認められた.このような「観察・把握」に比べて,生徒 のタイプ毎に限定させた行動・事柄を用いる「観察・把握」は容易であるか否かにつ いて検討した結果,限定された行動・事柄を用いる「観察・把握」に対して, 容易 と 不安 の両反応が認められた,教師には,自らの基準に基づいて改めるべき行 動・事柄はないかどうかを「観察・把握」しょうとする揚合と,その行動・事柄の日 々の変化から「観察・把握」しょうとする場合の二種がうかがわれた.前者における 不安 は用いる行動・事柄が減少することに対するものであり,後者におけるそれ は,自らが用いている行動・事柄と一致しないことによるものであった.また,これ
ら二種の「観察・把握」の各々の意義について検討し,量的側面及び質的側面の観察 として,これら二種が一人ひとりの生徒について重要であると考えられた.すなわち,
量的側面の観察は広範囲にわたる行動・事柄の「観察・把握」することが望ましいこ
と,質的側面の「観察・把握」は心の健康問題発生を防ぐうえで有効であることが考
えられた.したがって,適切な観察であるか否かの視点でみると生徒のタイプ毎に限
定された行動・事柄を用いる「観察・把握」の妥当性は質的側面について認められる
と考えられた.さらに質的側面の「観察・把握」を促進させるためには,生徒のサイ
ンとして用いる行動・事柄を明確にし,そのすべてが包含できるタイプ分けを生徒に
ついて実施する必要のこと,また,教師が量的側面,質的側面の「観察・把握」をう
まく使おうとする意識・認識が必要であることが考察された.
第二節 今後の課題
心の健康問題発生を未然に防ぐ対策として,個別指導を充実するために,生徒個人 個人に応じる「観察・把握」をする必要がある.それには何を手掛かりにすればよい のかということが重要になってくる.
そのため,本研究では教師による日常の「観察・把握」を現在より容易にするため,
生徒のタイプに応じて限定された行動・事柄を用いた「観察・把握」を試みた.「観 察・把握」は,悪い行動・事柄をつかむことをねらいとした量的側面についての場合 と,行動・事柄の変化から何かをつかもうとする質的側面についての場合がある.生 徒のタイプに応じて限定された行動・事柄を用いることは,適切な「観察・把握」の 視点からみると,質的側面の「観察・把握」の場合にその妥当性を認め得るものと考
えられた.
しかし,今後においていくつかの大きな課題が明らかにされた.それらについてま
とめてみた.
1).生徒の用いる行動・事柄についてさらに広範囲の生徒,及び広範囲の指導者につ いて検討を加え,これらを明らかにしなければならないと考えられる.
2).上記1)で得られた,生徒がサインとして用いる行動・事柄に応じることのできる タイプ分けを生徒について検討する必要があると考えられる.
3).上記1)2)によって得られる,生徒毎の「観察・把握」が適切であるか否かを実践
の中で確かめることが必要であると考えられる.
引用・参考文献
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ドキュメント内
高校の健康教育における個別指導の充実を図る生徒観察の方法 : 心の健康問題発生を防ぐ観点から
(ページ 54-76)