• 検索結果がありません。

骨格筋 in vivo モデルを用いた細胞内 Ca 2+ 測定の 発展的応用(研究課題 3 )

A:  Ca 2+ 結合飽和状態 B:Ca 2+ -free

VI.   骨格筋 in vivo モデルを用いた細胞内 Ca 2+ 測定の 発展的応用(研究課題 3 )

(1)性差によって生じる筋機能の違いと細胞内Ca2+動態の関連について

1.  背景と目的

持続的な筋収縮は発揮張力の低下や筋弛緩時間の低下などの筋疲労を誘発し,

不慣れな激しい運動は筋痛や筋張力の低下,また筋損傷の指標である筋原性タ ンパク質の漏出などを引き起こす(Kendall and Eston. 2002).安静時,疲労や筋 損傷のない筋においては,筋細胞内Ca2+濃度は0.1 µM以下に保たれている.低 く保たれた Ca2+濃度は,筋収縮のような細胞の制御を行う上で重要であるが,

持続的な筋収縮によって細胞内の Ca2+濃度が上昇することが知られている.細 胞内 Ca2+レベルの上昇は,筋収縮後に生じる筋疲労や筋損傷を亢進する要因と なっていると考えられている(Gissel. 2000, Stary and Hogan. 2000).エキセント リック収縮は激しい筋損傷を誘発することで知られているが,研究課題 2 にお いても,エキセントリック収縮を繰り返すことで細胞内に Ca2+が蓄積した状態 になることを,in vivoのラット脊柱僧帽筋を用いて示した.

興味深いことに,筋疲労や筋損傷は,男性と比べて女性において大きく軽減 されることがしばしば報告されている(Clarkson and Hubal. 2002).しかしながら,

筋疲労や損傷の軽減に関連する詳細なメカニズムは未だ明らかになっていない.

これまで女性の生体内において高いレベルで存在する女性ホルモンであるエス トロゲンが,そのような筋細胞の保護に関与していると考えられている(Kendall

and Eston. 2002).エストロゲンは代表的な女性ホルモンで,エストロン(E1),

エストラジオール(E2),エストリオール(E3)の3種が知られている.中でも

17beta-estradiolは高いエストロゲン様の作用を示すことで知られている(Tiidus.

1995).エストロゲンは心筋や平滑筋,そしておそらくは骨格筋においても保護 作用を示し,そのような保護作用はエストロゲンの抗酸化作用や膜の安定化,

もしくは遺伝子発現制御などに起因していると考えられている(Kendall and

Eston. 2002).実際に,正常なメスと比べてオスおよび卵巣摘出手術を施したメ

スラットでは,筋細胞膜損傷の指標が高いことが示されている(Bär et al. 1988). さらに,エストロゲンは細胞膜に存在するイオンチャネルの阻害効果を示すこ とも報告されており,エストラジオールは電位依存性チャネル(Crews and Khalil.

1999, Murphy and Khalil. 1999)や,平滑筋の容量依存性チャネル(Han et al. 1995)

に作用する可能性がある.エストロゲンはこれらのチャネルを阻害することで,

筋細胞内の Ca2+レベルに関与している.心筋や血管平滑筋のイオンチャネルに 対するエストロゲンの効果は報告されているが,これまでにエストロゲンが骨 格筋のイオンチャネルにどのような影響を示すかについては報告がなく,エス トロゲンが骨格筋細胞内の Ca2+恒常性に与える影響については未だ不明である.

そこで,本研究では研究課題1および2において確立したin vivoイメージン グ法を用い,骨格筋損傷過程での重要な因子である細胞内の Ca2+レベルの性差 に着目した.先行研究においてオスラットで示された筋収縮後の Ca2+蓄積がオ スと比べてメスにおいては抑制され,その抑制効果は卵巣摘出によるエストロ ゲンの損失によって消滅するという仮説を立て,これを検証した.

2.  方法

本実験については,研究課題 2(1)における筋プレパレーション法と筋収縮 刺激負荷を用いた.対象動物としてオスラットに加えてメスラット,および卵 巣摘出後のメスラットを用いて,筋収縮負荷後の細胞内Ca2+レベルを測定した.

本実験では,Wistar系ラット(日本SLC)のオス(Male),メス(Female)お よび卵巣摘出手術後のメスラット(ovariectomized female rat: OVX)を用いた.

メスラットの卵巣摘出手術は,日本SLCにて性成熟後の10週齢期に行われ,手 術後の安静期間と体内のエストロゲンが完全に消失する期間を含めて術後 6 週 間以降に実験を行った.メスラットについては同一週齢のもの,オスラットは メスラットとの体重差を考慮して10〜12週齢のものを用いた.

Male,Female および OVXのグループについて,研究課題 2(1)と同様の条

件による筋収縮刺激を用いて実験を行った.

3.  結果

in vivo の脊柱僧帽筋では安静時の Ca2+レベルが変化することはなく,さらに

このCa2+恒常性において性差は見られなかった(data not shown).脊柱僧帽筋は,

少なくとも90分のin vivo安静期間では全ての群において安定したCa2+レベルを 維持していた.脊柱僧帽筋のアイソメトリック収縮後,Male では観察された緩 やかなCa2+がFemale,OVXでは観察されなかった(Fig.18A).アイソメトリッ ク収縮時の発揮張力については,Maleと比べてFemale,OVXでは張力低下が抑 制される傾向にあった(Fig.18B).Figure 19A に示すように,Male と比較して

Female で はエ キセント リ ッ ク収縮 後の筋細胞内 Ca2+蓄積を示 さなかっ た

(Male:42.8%, Female:6.9% v.s. Resting Ca2+ level).また,OVXでは18.4%(v.s.

Resting Ca2+ level)のCa2+蓄積を示した.この値はFemaleよりも高い傾向(n.s.)

にあるが,Male と比較すると有意に低かった.しかしながら,安静時と比較す ると,全体としては Ca2+が緩やかに上昇する傾向にあった.エキセントリック 収縮張力は,Maleと比べてFemale,OVXではセット内・セット間で低下する傾 向にあった(Fig.19B).

0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8

pre 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

Number of set Male

Female OVX

R / R

0

0 20 40 60 80 100 120 140

1 st 1 ed 5 st 5 ed 10 st 10 ed

Relative tension (% of initial)

Female OVX Male

*

**

1~5 46~50 1~5 46~50 1~5 46~50

1 set 5 set 10 set

* *

Fig. 18. (A) Effect of sex difference following isometric (ISO) contractions in spinotrapezius muscles in vivo on [Ca2+]i. Values shown are means ± SE (Male: n = 7, Female: n = 4, OVX: n = 4). Significant difference compared with Male and Female or OVX condition for the same time points: #P < 0.05. (B) Changes of relative tetanic force during contraction protocols. Force normalized to initial denotes the average of first and last 5 contractions of sets 1, 5, and 10 from all contraction protocols. Values shown are means ± SE (Female: n = 4, OVX: n = 4, Male: n = 3). Significance compared with initial value for each condition: *P < 0.05, **P < 0.01.

(A)

(B)

#

0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8

pre 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

Number of set

340/380 ratio

Male ECC (N=7) Female ECC (N=9) Female OVX ECC (N=10)

# # # # # # # # #

# # # # # # #

Male Female OVX

R / R

0

0 20 40 60 80 100 120 140

1 2 3 4 5 6 7 8

Relative tension (%of initial)

Female OVX Male

1~5 46~50 1~5 46~50 1~5 46~50

1 set 5 set 10 set

**

** *

*

Fig. 19. (A) Effect of sex difference following eccentric (ECC) contractions in spinotrapezius muscles in vivo on [Ca2+]i. Values shown are means ± SE (Male: n = 7, Female: n = 9, OVX: n = 10). Significant difference compared with Male and Female or OVX condition for the same time points: #P < 0.05. (B) Changes of relative tetanic force during contraction protocols. Force normalized to initial denotes the average of first and last 5 contractions of sets 1, 5, and 10 from all contraction protocols. Values shown are means ± SE (Female: n = 10, OVX: n = 11, Male: n = 4). Significance compared with initial value for each condition: *P < 0.05.

(A)

(B)

4.  考察

メスの骨格筋においては,疲労耐性や筋損傷に対する保護作用を示すことが 臨床的にもよく知られているにもかかわらず(Clarkson and Hubal. 2002),保護作 用のメカニズムは未だ明らかになっていない.筋の疲労や損傷が生じていると き,筋細胞内の Ca2+恒常性が破綻していると考えられているが,これまでにメ スの骨格筋における筋細胞内の Ca2+制御については報告がない.そこで,メス の骨格筋細胞内においては,疲労や損傷を誘発するような筋収縮後の細胞内 Ca2+蓄積が軽減されるという仮説を立てた.

本研究では,アイソメトリックおよびエキセントリック収縮後,メスの骨格 筋に お いて はオ ス と 比べ て Ca2+制 御 の 能 力 が保た れて いる こ とを示 し た

(Fig.18A,19A).アイソメトリック収縮を繰り返すことで,オスでは有意な発 揮張力の低下が観察されているが,メスや卵巣摘出ラットでは張力低下がオス と比べて低かった(Fig.18B).この結果は,これまでに報告されているようなメ ス骨格筋における疲労耐性を示している.また,オスのアイソメトリック収縮 後に観察された緩やかな Ca2+蓄積がメスおよび卵巣摘出ラットにおいて観察さ れなかったことから(Fig.18A),Ca2+レベルの増加が筋発揮張力の低下を誘発し ていることが示唆された.さらには,オスのエキセントリック収縮後は張力が 維持される傾向にあったものの,細胞内 Ca2+レベルは顕著な増加を示していた 一方で,メスおよび卵巣摘出ラットの張力はセット内・セット間において低下 を示し,細胞内Ca2+レベルは維持されていた(Fig.19A,B).オスにおいてCa2+

レベルが増加したにも関わらず張力の低下が生じなかったことは,慢性的な Ca2+過負荷によって筋拘縮が起こり,筋の受動張力が増加したことに起因すると 考えられた.これらの結果はメスの筋細胞内における Ca2+恒常性が,メスの骨

格筋の保護効果において重要な役割を担っていることを示唆する.一方で,卵 巣摘出によるエストロゲンの損失は,メスにおける Ca2+恒常性を完全には破綻 させなかったことから,これらの Ca2+制御に対するエストロゲンの影響は直接 的な効果ではないことも示唆している.

先行研究において,高強度の運動後に生じる筋細胞内の Ca2+増加は細胞の崩 壊に寄与していることが報告されている(Gissel. 2000).研究課題2においても,

連続的なエキセントリック収縮が細胞内の Ca2+を増加させることを,in vivo の 血流を維持した骨格筋組織において示した(Fig.12).さらに,研究課題 2(2) において,薬理学的な手法を用いてエキセントリック収縮後に生じる細胞内 Ca2+蓄積が,主にストレッチ感受性イオンチャネル(SAC)を介したCa2+流入に よって引き起こされていることを示した(Fig.16).このことから,本研究で観 察されたメス筋細胞におけるCa2+抑制は,SACのCa2+透過率が低下していたた めであると考えられた.そこで,女性ホルモンであるエストロゲンがSACに対 して阻害的に働いている可能性を検討するために,卵巣摘出手術を施したメス ラットを用いて,同様の実験を行った.その結果,Fig.18に示されるように,予 想に反して卵巣摘出ラットにおいてもオスラットに比べて Ca2+蓄積は軽減され る傾向にあり,メスラットと比べてもCa2+増加に顕著な差は生じていなかった.

この結果は,エストロゲンが直接的に SAC に影響を与えているというよりも,

メスの筋細胞膜に存在する Ca2+チャネルの数や,その透過性などが根本的にオ スとは異なっている可能性があるかもしれない.

筋細胞の Ca2+流入に性差が生じるメカニズムについて詳細は明らかになって いないが,平滑筋細胞の細胞膜上に存在する L 型 Ca2+チャネルを通過する電流 がメスと比べてオスにおいては有意に高いことが報告されている(Johnson et al.

1997, Bowles. 2000, Orshal and Khalil. 2004).また,17beta-estradiolはL型Ca2+

関連したドキュメント