本章では、食事場面における保育者の行為や言葉に、安定したアタッチメント関係の形 成を左右すると言われる子ども個人に対する敏感性と、個人への敏感性を土台とした集団 に対する配慮がどのように見られるかを明らかにし、担当制保育各類型における保育者の 援助方法について検証する。
第1節 本章の目的
本章では、3類型の担当制保育における食事場面での保育者の子どもへの援助方法に着 目する。1~2歳児の食事はその発達段階から、河原(2004)が指摘するように保育者と 子どもとのやりとりや相互交渉が非常に重要となる。そして第3章:研究1で明らかとな ったとおり、保育者は子どもの食事が文化的活動として成立することを目指して非常に多 様な内容の援助を行っている。担当制保育の類型を検証するために、それらの援助におい て保育者と子どもがどのように情緒的絆を結び、安定したアタッチメントを形成していく かを明らかにする必要がある。さらに、そのために不可欠な要素となる、保育者の敏感性 に注目することも重要となる。よって本章では、担当制保育の各類型における食事場面で 保育者が、様々な状況で選択している援助方法を明らかにすることを目的とし、研究設問 は次の3点とする。まず1点目は、各担当制において敏感性を持った保育者の援助はどの ような方法で行われているか、2点目は、各担当制保育における、保育者の援助方法の特 性はどのようなものか、そして3点目は、子ども個人に応じて保育者がいかに敏感に対応 し援助の方法を選択しているかを検証するために、保育者の援助方法と第3章:研究1で 明らかとなった援助内容との関連性はどのようなものかについて検証することとする。分 析は、保育者がどのような二者関係的敏感性と集団的敏感性をもって援助をしているかを 視点として行う。
第2節 本研究の方法
研究協力園・研究協力者・観察場面・観察時間・観察期間については、第2章で述べた とおりである。本章での分析は、第3章:研究1において作成したフィ-ルドノ-ツを使 用した。これは、本研究において保育者の子どもとのかかわりを検証するために必要とな る保育者とその保育者がかかわる子どもの、行為と言葉による直接的なコミュニケ-ショ ンとともに、表情や視線、しぐさなどの非言語コミュニケ-ションも含めて、第3章:研
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表4-1 保育者の援助方法を示す行為と言葉 事例数
( )内は観察総時間(分)・1回あたりの平均時間(分)
場所担当制 子ども担当制
グル-プ援助型 個別援助型
1歳児 582(71) 326(54) 158(25)
2歳児 328(65) 972(78) 327(45)
合計 910(136・34/回) 1298(132・33/回) 485(70・17.5/回)
究1で使用したフィ-ルドノ-ツに記載しているためである。このフィ-ルドノ-ツを、
本研究における研究設問に沿って分析し、その結果を分析シ-トに整理した。分析シ-ト は、第3章:研究1と同様に、オ-プンコ-ド、そこから析出した軸足コ-ドと概念、そ して中核カテゴリ-とその概念、さらに軸足コ-ドごとに事例数の担当制別割合を示した 数値、担当制ごとに軸足コ-ド別割合を示した数値を整理したものである。
第3節 結果
1.観察対象クラス・観察対象時間の概要
各観察対象クラスとその概要は、第3章:研究1にて述べたとおりである。
2.分析結果
(1)結果の概要
観察対象である3保育所6名の保育者の食事場面における行為と言葉より、2693事例 を保育者の援助方法として分析対象
とした。各担当制における事例数に は、類型により大きな差異が見られ た。これは、子どもが食卓について から保育者が食卓を離れるまでの所 要時間の差に加え、他の要因の有無 も併せて検証する(表4-1)。
これらの事例を、保育者はどのよ うな方法で子どもを援助しているか という研究設問に沿って分析した結 果、400種類のオ-プンコ-ドが付 された。さらにそれらを集約した
表4-2保育者はどのような方法で援助をしているか
①応答する 子どもと気持ちのやりとりをする 子どもの気持ちに応答的に対応する 子どもの心情を励ます
子どもの行為を見守る
②確認する 子どもの意向を確認する 子どもの状態を確認する
③伝える 子どもの行為について提案する 子どもの行為について教示する 子どもに見通しを伝える 他児のことを話題にする 保育者の意図を伝える
④手助けする 子どもの行為を手助けする 食事の進行ペ-スを調整する
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66種類の軸足コ-ド、そして13種類の中核カテゴリ-に整理された。この13種類の中 核カテゴリ-を、その内容によって①応答する、②確認する、③伝える、④手助けする、
という4種類に分類し(表4-2)、順に分析結果を説明する。
(2)応答する
食事場面における保育者の多様な方法による援助の中から、子どもに応答するかかわり として生成された『子どもと気持ちのやりとりをする』{子どもの気持ちに共感したり応 答したりすること}、『子どもの気持ちに応答的に対応する』{挨拶ややりとり、ありのま まを受容するなど、子どもと応答的にかかわること}、『子どもの心情を励ます』{子ども の意欲向上や食欲増加のために励ましたり集中するように促したりすること}、『子どもの 行為を見守る』{子どもの行為を見守ること}の4種類の中核カテゴリ-について述べ る。
① 『子どもと気持ちのやりとりをする』
『子どもと気持ちのやりとりをする』は子どもの気持ちに共感したり応答したりするこ とで、41種類のオ-プンコ-ドから5種類の軸足コ-ドに集約された(表4-3)。保育者 は、子どもの食事について、技術の獲得、習慣形成・マナ-の習得など様々な内容の援助 を行っているが、その中に子どもと気持ちのやりとりをするなどの心情的なかかわりをも っていることが明らかとなった。
a)気持ちのやりとりをする方法の多様性
事例数の軸足コ-ド別割合では、いずれの担当制においても【子どもと言葉でやりとり をする】が一番高い数値を示しており、気持ちのやりとりをする方法として、言葉が多く 使われていることがわかった。また事例数の軸足コード別割合では、場所担当制は1.4%
~77.1%、子ども担当制-グル-プ援助型は0%~61.5%と差が顕著であるのに対し、子 ども担当制-個別援助型は8.9%~30.4%であった。この数字は、子ども担当制-個別援 助型では多様な方法を比較的満遍なく用いて、保育者と子どもが気持ちのやりとりをして いるとことを示すものである。
82 b)子どもの気持ちに共感する内容
【子どもの気持ちに共感する】オ-プンコ-ドは10種類であった。そのうち各担当制に おいて事例生起が見られたオ-プンコ-ドは、場所担当制が4種類、子ども担当制-グル
-プ援助型が3種類、子ども担当制-個別援助型が6種類であった。そしてオ-プンコ-
ドの内容は、 [おいしかったと代弁する:4-3-1][子どもからの食べたという報告に返事 をする:4-3-5][子どもが喜んで手をたたき いっしょにたたく:4-3-10]など、子どもの
表4-3 子どもと気持ちのやりとりをする
カテゴリ-名
『子どもと気持ちのやりとりをする』
定義
子どもの気持ちに共感したり応答したりすること
【軸足コ-ド】 定義(説明) [オ-プンコ-ド] 場所担当制
子ども担当制 グル-プ
援助型 個別援助型
子どもの気持 ちに共感する
子どもが喜んだり困 ったりしていること への共感を示すこと
1 おいしかったと代弁する
2 子どもがおいしいと感じたことを言葉にする 3 子どもが驚いたことを言葉にする
4 子どもが自分の要求を表した言葉を復唱する 5 子どもからの食べたという報告に返事をする 6 子どもの言葉を復唱する
7 子どもの好きなものがあったことを一緒に喜んで言 葉にする
8 食べにくい理由を言葉にする 9 子どもの気持ちに共感した言葉を言う 10 子どもが喜んで手をたたきいっしょにたたく
8 15 10 11.4
24.2 19.2
45.5 17.9
30.3
子どもと挨拶 をしたり交わ したりする
子どもと日常的な挨 拶を交わしたりいっ しょにしたりするこ と
11 子どもと 1 対 1 で目を合わせながら食前・食後の挨 をする
12 気軽な挨拶をする
13 午睡に入る子どもに挨拶の言葉をかける 14 保育者の意をくんでくれたことにお礼を言う
5 6 12
7.1 21.7
7.7 26.1
21.4 52.2
子どもと表情 や視線でやり とりをする
子どもと目を合わせ る、ほほえむ、しぐ さをするなど表情や 視線でやりとりする こと
15 子どもが行為しようとして目が合いうなずく 16 他児の様子を見て子どもと一緒に笑う
17 子どもからのアイコンタクトに応答してにっこり笑 う
18 子どもの返答ににっこり笑って応答する 19 子どもの笑いかけに笑って返す 20 目を合わせてほほ笑む
1 9 12
1.4 4.5
11.5 40.9
21.4 54.5
子どもとジェ スチャ-でや りとりをする
子どもの動きに合わ せたジェスチャ-で やりとりする
21 子どもの行為に合わせて同じしぐさをする
22 子どもの行為に反射的に反応する 2 2.9
28.6 0
0.0 0.0
5 8.9
71.4
子どもと言葉 でやりとりを する
子どもとおしゃべり をしたり行為に言葉 を添えたり、言葉の やりとりをすること
23 ちょっと待っててという 24 為しながら別のことを話しかける 25 子どもとおしゃべりをする 26 食事をしていない子どもと会話する 27 保育者自身のことを話題にする 28 保育者自身の失敗を謝る
29 子どもからの質問に逆に質問を返す 30 子どもからの質問に答える 31 子どもに呼ばれて返事をする
32 子どもの行為を手伝いながら話しかける 33 子どもの言葉に対して質問をする 34 子どもの言葉を聞き返す
35 自分の言葉をしっかり聞くように顔を覗き込む 36 自分の質問に対しての子どもの答えを復唱する 37 食材の食感についてこどもに話しかける 38 楽しい表現で子どもと応答する
39「どうぞ」など丁寧な言葉を添えて子どもとも・の の受け渡しをする
40「どうぞ」など丁寧な言葉を添えて子どもに食べる ことを勧める
41 モノに関するかかわりをしながら子どもに話しかけ る
54 77.1 48 17 45.4
61.5 40.3
30.4 14.3
事例 4-1(りんご保育所:子ども担当制―個別援助型)
ち よ:スプーンから麺が落ちそうになり、ボ ウルの反対から口に入れる。
とも保:「難しいねえ。つるって滑るもんね、
うどんは。」