本章では、食事場面における保育者の行為と言葉が、子どもの食事をする能力の発達を どのように支えているか、そしてそれらが、子どもの食事が文化的活動として成立するた めにどのような内容の援助となっているかを検証する。その上で、担当制保育の3類型の 実践方法による保育者の援助の特性を明らかにし、保育形態との関連を考察する。
第1節 本研究の目的
本章では、食事場面における保育者が、直接的にあるいは間接的に子どもを援助してい る言葉や行為に注目する。保育者の援助は、その時の場面の状況や子ども個人の発達・状 態・個人的な理由などに対応し、多様な内容や方法で行われていると考えられる。そして それらの援助は、担当制保育の各類型による1度に食事をする子どもの人数、ひとりの保 育者が援助の対象とする子どもの人数、食事時間のクラス全体の流れ、保育者同士の役割 分担、保育者と子どもの関係性などの多面的な違いによって、それぞれの特性が見られる と推察される。さらに、梅田(2016)の指摘にあるように、保育形態の1つである担当制 は外側から見られる子どもの活動形態ではなく、保育者側の保育理念を示すものであるな らば、食事場面において保育者がどのような援助を行うかは、保育者・クラス・園として の保育の意図や目的に依拠していると考えられる。そこで本研究では、それぞれの担当制 保育の食事場面における保育者の行為や言葉から、保育者の援助内容を明らかにすること を目的とする。そして研究設問を次の2点とする。まず1点目は、食事が文化的活動とし て成立することを目指し、子どもが食事をする能力の発達を促すためにどのような援助を 行っているか、2点目は、各担当制保育における保育者の援助内容の特性はどのようなも のかである。
そして、その状況が刻一刻と変化し、援助としても多様な選択肢がある食事場面におい て、食事の生物学的側面と社会的側面(外山,2008)それぞれについて保育者は何を働き かけ、どのような内容で具体的に何を優先し、また意識して援助を行っているのかという ことを分析の視点とする。
45 第2節 本研究の方法
研究協力園・研究協力者・観察場面・観察時間・観察期間については、第2章で述べた とおりである。本章での分析の手続きは、以下のとおりに行った。
1.フィ-ルドノ-ツの作成
第2章で述べた手続きの通りに、観察記録よりフィ-ルドノ-ツを作成した。観察対象 の保育者とその保育者が関わる子どもの、行為と言葉に加え表情や視線・しぐさなどの非 言語コミュニケ-ションの部分も含めて記録した(図3-1)。
2.フィ-ルドノ-ツの分析
第2章で示した手続きに沿って、観察記録から作成したフィ-ルドノ-ツ(図3-1)を 分析し、その結果を分析シ-トにまとめた。分析シ-トは、オ-プンコ-ド、そこから析 出した軸足コ-ドと概念、そして中核カテゴリ-とその概念、さらに軸足コ-ドごとに事 例数の担当制別割合を示した数値、担当制ごとに軸足コ-ド別割合を示した数値を整理し たものである。
第3節 結果
1.観察対象クラス・観察対象時間の概要
(1)場所担当制:そら保育所
●くも組(1歳児クラス)
8の字型の
広い保育室に 二つの空間を 作り、完全に 仕切られては いないが食事 の前から、子 どもを15名 ずつに分けて
それぞれの空 図3-1 フィールドノーツの一例
46
間で保育を行っていた。食事前は、5名の保育者が排泄・着脱・手洗い・配膳・排泄を待 つ子どもや全てが終わった子どもに絵本を読むという配置で、子どもは順次トイレに行 き、そこにいる保育者に援助をされながら次の行為に進んでいた。食事も2か所に分けて 配膳台や食卓をセットし、15名ずつのグル-プで食事をすることになっていた。5名の担 任は2名ずつに分かれて配置され、もう1名は主に一方のグル-プの食事の援助につきな がら、配膳や早く食べ終わった子どもの午睡準備の援助など、臨機応変に動いていた。
●かぜ組(2歳児クラス)
32名のうち9名は、手洗いまで済ませた後にランチル-ムに移動して食事をしていた。
担任保育者への聞き取りによると、ランチル-ムは幼児クラスの子どもたちと同じ空間で もあることから、概ね一定の時間内に落ち着いて食べ終わることができる子どもを選んで 決められているということであった。5名の保育者は、排泄、手洗い、手洗いが終わった 子どもへの絵本の読み聞かせ、配膳、食後の着替えの準備の場所にそれぞれ配置し、そこ にくる子どもを援助した後、次の場所への移動を促していた。また、ランチル-ムには1 名の保育者がついていき、そこでの食事を見守っている。そのため保育室には子ども23 名と4名の保育者が残ることになるが、うち1名の保育者は子どもが食べ始めると同時に 子どもと同じ食卓で自分の食事を済ませ、その後食卓から離れて午睡の準備や清掃にあた る。よってその保育者は、子どもの食事について直接的な援助を行わない形で分担されて おり、23名の子どもを主に3名の保育者で援助するという方法で、食事が進められてい た。
(2)子ども担当制-グル-プ援助型:かもめ保育所
●すずめ組(1歳児クラス)
保育室は0歳児クラスと兼用で、背の低い家具などでクラスごとの空間が仕切られてい た。4名の保育者で24名の園児を6名ずつに分けて担当していたが、観察対象であるみよ 保育者のグル-プには食物アレルギ-を持つ子どもがいるため、クラス担任以外のフリ-
の保育者が加わり食物アレルギ-の子どもを中心に援助をしていた。
食後に行う午睡準備は、その時々で可能な状態の保育者が行っていた。そして子どもの 食事の食べ終わりの様子やその日のクラス全体の時間的流れによって、クラスの保育者が 臨機応変に担当児以外も援助するようになっており、保育者は担当児の食事・排泄・戸外 への出入りを毎日担当し、午睡準備と睡眠については担当保育者以外が援助をする場合も
47 あるという方法であった。
●あひる組(2歳児クラス)
観察対象のさわ保育者の担当児は5名であり、保育者ごとにテ-ブルが配置され、担当 児がまとまって食卓を囲んで食事をしていた。
すずめ組・あひる組ともに、食事場面は保育者ごとに食卓が分かれており、5~6名で1 台の食卓を囲んでいた。食事前はクラス担任の中で役割分担がされており、食卓についた 子どもに対して全体で1名の保育者が絵本の読み聞かせをし、その間に他の保育者が配膳 を済ませるという方法で準備が行われていた。準備が整うと、グル-プごとに担当保育者 と一緒に挨拶をして食べ始めていた。
食後に行う午睡準備や食事以外の活動については、すずめ組(1歳児クラス)と同様の方法 で進められていた。
(3)子ども担当制-個別援助型:りんご保育所
●みのり組(1~2歳児クラス)
観察対象ののり保育者は1歳児5名、とも保育者は2歳児6名を担当し、食事・排泄・
着脱・睡眠・戸外への出入りなど生活に関するすべての場面で担当児を援助していた。長 方形の保育室の中央付近に食卓が置かれ、その両側が午睡用空間となっていた。食事は子 どもの生活リズムに応じて順々に開始していて、クラス全体の食事準備はクラスの中で1 番に食事を始める保育者が行い、そのまま食事援助に入ることになっており、観察当時は のり保育者が担当していた。そして各保育者は、担当児の食事を開始する都度、配膳を行 っていた。
食事は、のり保育者は2名と3名のグル-プの計2回、とも保育者は3名ずつの計2 回、自分の担当児を援助の必要度と個人の生活リズムによってそれぞれの食卓で分けて行 っていた。各グル-プの食事開始時間が異なるため、まだ食事をしていない子どもを保育 する役割については、クラス担任全員それぞれの食事時間と併せてプログラムが組み込ま れていた。
観察対象としたのは、のり保育者の最初に食事をする1歳児グル-プ、とも保育者の2 番目に食事をする2歳児グル-プである。
48 2.分析結果
(1)結果の概要
観察対象である3保育所6名の保育者の食事場面における行為と言葉より、2166事例 を食事場面における保育者の援助内容として分析対象とした。この分析対象とした各保育 所の事例数内訳は表3-1のとおりである。各保育所・クラスによる事例総数の差は、観察 対象とした子どもが食卓についてから保育者がその場を離れるまでにかかる時間の長さに よるものと考えられる。
これらの事例を分析した結果、268種類のオ-プンコ-ドが付された。さらにそれらの オ-プンコ-ドを保育者はどのような内容の援助をしているかという研究設問を軸に集約 し66種類の軸足コ-ドが生成された。そして軸足コ-ド間の関係性を階層化した結果、
13の中核カテゴリ-に整理された(表3-2)。その中核カテゴリ-を、援助の内容によっ て①食に関する習慣・技術・マナ-の習得に関する援助、②食についての意欲や興味に関 する援助、③子どもの心
情に関する援助、④他者 や周囲とのかかわりに関 する援助、⑤食事の方法 に関する援助の5つに分 けて説明する。説明は、
それぞれのオ-プンコ-
ドを根拠とした軸足コ-
ドの内容を中心に、担当 制各類型の事例数を示 し、軸足コ-ドの定義に 従い述べる。以下、中核 カテゴリ-・定義を
場所担当制 子ども担当制
グル-プ援助型 個別援助型
1歳児 478(71) 352(54) 191(25)
2歳児 258(65) 573(78) 314(45)
合計 736(136・34/回) 925(132・33/回) 505(70・17.5/回)
表3-1 保育者の援助内容を示す行為と言葉 事例数
( )内は観察総時間(分)・観察1回あたりの平均時間(分)
表3-2 保育者はどのような援助をしているか
援助内容の種類 中核カテゴリー
①食に関する習慣・技術・マ ナーを身につけることに関 する援助
食に関する習慣形成を支える援助 食に関する技術の獲得を支える援助 食に関するマナーの習得を支える援助
②食についての意欲や興味に 関する援助
食欲を支える援助
子どもにあわせた摂食量の調節
③子どもの心情に関する援助 子どもの心情を支える援助
④他者や周囲とのかかわりに 関する援助
他児とのかかわりを支える援助 他者とのかかわりのマナーを支える援 助
状況把握を支える援助
⑤食事の方法に関する援助
食事環境の整備 食事の準備
クラスやグループ揃っての食事の進行 を支える援助
クラスの子ども全体へ意識を向けた援 助