本章第1節では、子どもが食事をする能力の発達を促す保育者の援助について、それぞ れの担当制保育の類型による特性を明らかにするという目的において、本研究が採用する 方法論を説明する。そして第2節では、本研究で行った観察の方法について述べる。
第1節 本研究における方法論的立場 1.参与観察
本研究では、食事場面における保育者の援助が子どもの発達をどのように促しているか ということと、保育者のかかわりと担当制保育の各類型との関連を明らかにすることが目 的である。そのために、研究1・研究2・研究3ともに保育者の行為と言葉、研究3では 加えて子どもの行為と言葉も含めて解釈する必要がある。そこで本研究は、観察法を採用 することとする。これは、行為は観察によってのみアクセスできる(ウヴェ・フリック,
2002)ことや、観察法が保育者と子どもの営みのコンテキストをなるべく壊さないような 手続きで研究する手法(箕浦,1999)とされているからである。さらに観察は、何かが実 際にどう作用したり生起したりするのかを明らかにすることができる(ウヴェ・フリッ ク,2002)と言われており、保育者の援助が子どもにどのように働きかけているのかを検 証するに適した方法と考えられる。
また、観察の手続きはウヴェ・フリック(2002)が示したフリ-ドリヒス(1973)によ る5つの分類の次元に従い、本研究の目的に沿って以下の通りとした。まず、被観察者に は観察されていることを知らせて行う「公然の観察」であり、相互作用が生じる自然なフ ィ-ルドにおいて、事象の流れに応じて柔軟に行う「自然的状況における他者の非系統的 観察」である。そして、観察者がフィ-ルドに関わる程度としては、ゴ-ルド(1958)に よる観察者役割の類型論を手がかりとしてウヴェ・フリック(2002)が検討し、整理した 4つの類型「完全な参与者」「観察者としての参与者」「参与者としての観察者」「完全な観 察者」から、本研究においては「観察者としての参与者」として観察者の役割を持ちフィ
-ルドに入ることとした。研究目的を達成するためには、保育者と子どものやりとりを克 明にその場の雰囲気なども含めて、音声や映像を貴重なデ-タとして収集する必要があ る。しかし、観察者がフィ-ルドに立ち入ることによる影響も考えられる。そのため可能 な限り日常と変わらない保育者と子どものかかわりを記録することを目指し、観察者の態 度としてはフィ-ルドにおいて観察者以外の役割を担わずに観察をする立場である「消極
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2.観察記録:ビデオカメラ・筆記・音声
記録の取り方は、観察対象者である保育者と子どもの、他者・空間・モノとの直接的・
間接的な関わりを、言語・非言語コミュニケ-ションの細かい動きやしぐさなども含めて 克明に記録し、観察記録を「厚い記述」(ウヴェ・フェリック,2002)とするため、観察 対象である保育者と周囲の子ども全体が写るように、定点ビデオ撮影を行った。しかし、
保育者や子どもが移動する場合もあり定点カメラにはその視野に限界がある。よって、観 察者は可能な範囲でビデオカメラの角度の微調整を行うと同時に、フィ-ルドメモを取っ た。フィ-ルドメモは、観察時に観察者が現場で五感を通して感受した多様な情報を、記 憶の手がかりとして機能する目的で記録されるもの(エマ-ソン,1998)で、正確な記録 を残すことが可能なAV機器による記録と併用することが効果的(柴山,2007)と言われ ているためである。さらに、観察対象である保育者のポケットに入れたICレコ-ダ-に よって、ビデオカメラやメモで記録できない言語を収集した。これは、フィ-ルドへの影 響を考慮し、ビデオカメラを食卓とある程度の距離を保って設置したことにより、保育者 が子どもにかける言葉を、その内容や口調も含めて詳細に記録をするためである。しか し、観察者がフィ-ルドに入ることや、ビデオカメラの設置、保育者がICレコ-ダ-を 携帯することによるフィ-ルドへの影響は否定できず、それらを最小限に抑えるために、
観察時間帯よりも少し前に保育室に入り、観察者とカメラは棚や壁に沿う場所に位置取っ て、食事が可能な限り自然な形で開始できるように配慮した。
3.ビデオカメラによる記録
ビデオ記録は、文字記録と比較して圧倒的に情報量が多いため、多様な視点からの見直 しが可能となることや、撮影者の意図を超える情報が記録される場合も考えられるため、
撮影者とは異なる視点からの解釈の可能性が開かれやすいことが指摘されている(岸井,
2013)。また、保育は保育者と子どもの表現の交わし合いであることから、保育者の身体 が発するメッセ-ジや声のト-ン・テンポ・呼吸なども含めて、ビデオで捉えることが可 能となる(岸井,2013)。このことは、ビデオを用いることによって人間関係を営む中で のコミュニケ-ションの方法として、言語コミュニケ-ションのみならず、非言語コミュ ニケ-ションも含めて記録することが可能になるということである。この2種のコミュニ
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ケ-ションについて、コダ-イ芸術教育研究所(2006)はセチュイ・ヘルミナ指導による 保育者のコミュニケ-ション能力の観察項目を整理し、非言語コミュニケ-ションの種類 として、ジェスチャ-・まなざし・表情・間・姿勢-距離などを挙げている。これは、保 育者と子どものかかわりを精緻に記録するにあたり、コミュニケ-ションの細かな記録が 重要となるため、ビデオによる記録の有効性を示していると言える。
一方で、ビデオ記録の限界として佐川(2018)は次の3点を挙げている。まず、保育の 営みの中のどの部分に焦点を当てて記録をするかということで、観察者による研究上の視 点や理論的枠組みと切り離すことができないため、恣意的な分析・解釈となる危険性があ るという点である。次に、実際に記録されたデ-タから文字記録を作成する際の作業量の 多さと、得られた映像デ-タから研究の課題に沿って一部を選択し、他の部分を削除する 必要がある点である(佐川,2018)。これら、方法論的な限界について砂上(2004)は、
ビデオ映像だけでなく、肉眼での観察の記録や対象者へのインタビュ-記録などと併せて 現象を理解し解釈することによって、危険性を回避することも必要となってくると述べて いる。加えて、他の研究者と記録を共有し分析・解釈の妥当性を確保することも重要とな る(佐川,2018)。
4.フィ-ルドノ-ツの作成
本研究における手続きとして、映像記録と筆記記録による観察記録は、フィ-ルドを知 らない第三者でもそのデ-タの内容が理解できるように、観察記録には直接現れないその 時の特別な背景などのデ-タを、保育室での観察時に筆記した「フィ-ルドメモ」と併せ て補足し、「フィ-ルドノ-ツ」に清書した。
この「フィ-ルドノ-ツ」は、未来の観察者のための緻密な記録(柴山,2007)と言わ れ、質的研究にとって重要な材料であり、過程である。しかし作成にあたって、観察日か ら時間が経過することにより、細かい部分での記憶が不確かとなり、デ-タが半減するこ とも懸念されるため、できるだけ観察した週のうちに作成するようにと心がけた。それが 不可能な時期は、観察直後にフィ-ルドメモを読み返しながら、説明不足の点をメモによ って補っておき、後にフィ-ルドノ-ツに書き起こした。
5.フィ-ルドノ-ツの分析
本研究は、人間行動を人が生きる社会的・文化的文脈に位置づけて理解しようとする、
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解釈的アプロ-チの立場で対象を理解するというスタンスでデ-タを分析していく(箕 浦,2009)こととする。質的デ-タ分析は、デ-タに付したコ-ドを手がかりに、デ-タ を「変換(conversion)」,「縮約(compression)」して「表示(display)」することで、デ
-タに潜在する意味を見出す手法である(大谷,2017)。
まず、上述の「変換」(大谷,2017)の作業としてのオ-プンコ-ディングは、現象を 概念の形で表現するため(ウヴェ・フェリック,2002)の作業である。本研究では、保育 者と子どものかかわりを文脈も含みこんだ上で解釈するため、デ-タを切片化せず、意味 的なまとまりのある保育者の行為や言葉ごとに区切り、コ-ドをつけていく。次に「縮 約」(大谷,2017)の作業として、オ-プンコ-ディングを比較・対比・集成・整理する ことで生成される、より抽象度の高い軸足コ-ディング(箕浦,2009)を行う。つまり、
複数のサブカテゴリ-を1つのカテゴリ-に関係づける手続き(ウヴェ・フリック,
2002)である。この手続きは、オ-プンコ-ドの中から研究設問に最も関連したカテゴリ
-を選択するもので、そこに属する多くのデ-タを探すことによって、それらのデ-タが 軸足コ-ドの根拠となっていく(ウヴェ・フリック,2002)。この軸足コ-ドを得る方法 としては、箕浦(2009)が示すSpradley(1979) による「意味関係分析のスキ-マ」を 参考に、「包摂関係」「部分と全体」「因果関係」「根拠」「機能」などのコ-ド間の関係を 見極め、積み上げ方式でまとめていく(木下,2003)。この作業によって、フィ-ルドノ
-ツの記述が構造化され、コアカテゴリ-を析出することで、理論化した結果を「表示」
(大谷,2017)する。これは、フィ-ルドノ-ツを分析することで得られた知見を理論的 に考察することである(箕浦,2009)。
本研究では、箕浦(2009)による上述のコ-ディングの手法を用い、保育者の子どもと の関わりを質的に分析する。尚、以上の手続きによる分析結果の妥当性を担保するため、
研究者によるチ-ム内で一致度を図った。研究チ-ムのメンバ-は、以下の通りである。
・研究者A:大学教員:保育現場経験歴17年 研究歴13年
・研究者B:大学教員:保育現場経験歴8年 研究歴3年
・研究者C:大学教員:保育現場経験歴7年 研究歴3年
・研究者D:大学院生:保育現場経験歴7年 研究歴2年
第2節 観察の方法
本研究における観察調査の期間および研究協力者とクラスの概要を表2-1に示し、研究