本章では、食事場面における保育者と子どもの関係性を明らかにする。そのために、ま ず第1節では、目的と研究設問、分析の視点を整理し、第2節で研究方法について説明す る。第3節では、食事場面における子どもの態度を行為や言葉から分析・考察を行う。そ して第4節で、安定したアタッチメント関係を視点に情緒的利用可能性の概念を用い、第 3章:研究1と第4章:研究2で述べた保育者の援助内容と方法に見られる保育者の態度 と、本章第3節で述べた子どもの態度について考察する。その上で、担当制保育の類型に よる保育者と子どもの関係性はどのようなものかを検討する。
第1節 本章の目的
本章では、食事場面における保育者と子どもの関係性に着目する。第3章:研究1にお いて、保育者の食に関する習慣・技術・マナ-を身につけるための援助や、子どもの心 情・意欲・興味などの内面に働きかける援助、食を通して他児や周囲のモノや事柄とのか かわりを支える援助、食事の方法に関する援助など、多様な内容の援助のありようが明ら かとなった。また、第4章:研究2においては、保育者がどのような方法で子どもを援助 しているかが明らかとなるとともに、第3章:研究1で検証された保育者の様々な援助に 対して、その場面や状況に応じた方法が選択されていることがわかった。これらの結果を 踏まえて本章では、保育者と子どもの関係性を検証するために、アタッチメント関係につ いて重要とされる情緒的利用可能性の概念に注目する。情緒的利用可能性とは、保育者で はなく子どもを主体とし、いつも子どもの状態を気にかけながら、子どもが求めてきたと きに情緒的に利用可能な存在である(遠藤,2017)というものである。
以上のことより本研究の目的は、食事場面における保育者と子どもの関係性について担 当制各類型の特性を明らかにすることを目的とする。研究設問は次の2点とする。まず1 点目は、食事場面において保育者と子どもには、それぞれどのような態度が見られるかで ある。この問いについて、保育者と子どもの二者関係の特質とされる子ども側の要因「応 答的であること」「保育者を相互作用に巻き込むこと」と、保育者側の要因である「敏感 であること」「侵害的でないこと」「情緒的に温かいこと」「環境を構造化すること」(遠 藤,2017;篠原,2018)を、食事場面におけるそれぞれの姿から捉える。2点目は、情緒 的利用可能性の概念を視点に、担当制各類型における保育者と子どもの関係性の特性を捉 える。本章で注目する子どもの態度・保育者の態度・両者の関係性について、分析は二者
113
関係の特質である両者の要因を視点に、情緒的利用可能性の概念を軸に検証するととも に、2点の研究設問に対し、担当制の類型による特性が見られるかについて検討する。
第2節 本研究の方法
研究協力園・研究協力者・観察場面・観察時間・観察期間については、第2章で述べた とおりである。本章での分析は、第3章:研究1において作成したフィ-ルドノ-ツと、
第4章:研究2で作成した分析シ-トを用いる。まず、子どもの態度を検証するにあたっ ては、第3章:研究1において作成したフィ-ルドノ-ツに保育者とかかわる子どもの行 為や言葉も含めての観察記録の記述があるため、これらを抽出して分析の対象とする。そ して保育者の態度については、第4章:研究2において作成した分析シ-トを用い、保育 者の子どもへのかかわり方を、情緒的利用可能性を視点に抽出したカテゴリ-を中心に考 察を行う。そして、以上の子どもの態度に関する分析と、保育者の態度に関する考察の結 果を総合的に捉え、両者の関係性についてさらに考察する。
子どもの態度については、本研究における研究設問に沿って分析し、その結果を分析シ
-トにまとめた。分析シ-トは、第3章:研究1と同様に、オ-プンコ-ド、そこから析 出した軸足コ-ドと概念、そして中核カテゴリ-とその概念、さらに軸足コ-ドごとに事 例数の担当制別割合を示した数値、担当制ごとに軸足コ-ド別割合を示した数値を整理し たものである。
第3節 結果
1.観察対象クラス・観察対象時間の概要
各観察対象クラスと観察対象時間の概要は、第3章:研究1にて述べたとおりである。
2.分析結果と考察-子どもの態度
(1)結果の概要 観察対象である 3保育所6名の保 育者とかかわった 子どもの食事場面 における行為と言
場所担当制 子ども担当制
グル-プ援助型 個別援助型
1歳児 155(71) 111(54) 76(25)
2歳児 163(65) 181(78) 185(45)
合計 318(136・34/回) 292(132・33/回) 261(70・17.5/回)
表5-1子どもの行為と言葉 事例数
( )内は観察総時間(分)・1回あたりの平均時間(分)
114 葉、871事例を分析対象とし
た。抽出された担当制各類型 の事例数を表5-1に示す。観 察時間では場所担当制と子ど も担当制-グル-プ援助型が それぞれ平均34分と33分で あるのに対し、子ども担当制
-個別援助型は17.5分と約半 分である。一方で子どもの行 為や言葉の事例数は、子ども 担当制-個別援助型が261事
例となっており、場所担当制の318事例、子ども担当制-グル-プ援助型の292事例と比 較し、観察時間と比例して少ないとは言えない。つまり、子ども担当制-個別援助型にお ける事例数が他の担当制と比べて多く確認できた結果となっている。このように、興味深 い結果となった各担当制の事例数について、その要因を内容の分析により明らかにしてい く。
これらの合計871事例を、子どもが保育者とのかかわりの中でどのような態度を持って いるかという研究設問に沿って分析した結果、213種類のオ-プンコ-ドが付され、51種 類の軸足コ-ドに集約、そこから13種類の中核カテゴリ-に整理された。この13種類の 中核カテゴリ-を、①心情に関する態度、②周囲との関係に関する態度、③保育者とのか かわりに関する態度の3つに分類し(表5-2)、順に説明する。
(2)心情に関する態度
食事場面における子どもは、保育者とのかかわりの中で自分の心情に関する態度をもっ ていることが明らかとなった。『感情を表現する』{感情を様々な方法で表現すること}、
『疑問に思ったことを尋ねる』{食事をしながら、食材や食器、食べ方など、疑問に思った ことを保育者に尋ねること}、『自己主張する』{食べることに関して、自分がしているこ とやできたことを主張すること}、『自分の意思を示す』{食べることに関して、タイミン グ・内容・量について自分の意思を示すこと}、『自分の思いを優先して行動する』{保育 者の提案を受け入れず、自分の思いを優先させて行動すること}、『自分の興味に沿って行
表5-2 子どもは保育者とのかかわりのなかで どのような態度をもっているか
子どもの態度の種類 中核カテゴリ-
①心情に関する態度 感情を表現する
疑問に思ったことを尋ねる 自己主張する
自分の意思を示す
自分の思いを優先して行動する 自分の興味に沿って行動する 自ら行動する
②周囲との関係に関する態度 クラス全体での食事のル-ティンに沿 って行動する
他児とのかかわりを持つ
③保育者とのかかわりに関する 態度
保育者と協働で行為する
保育者とコミュニケ-ションをとる 保育者の期待に応えようとする 保育者の教示に従って行動する
115
動する』{周囲の人やモノに対して興味を持ち、それに沿って行動すること}、『自ら行動 する』{自ら次の行動を進めたり、保育者の手助けを自ら要請したりすること}、の7種類 の中核カテゴリ-について説明する。
①『感情を表現する』
『感情を表現する』は、12種類のオ-プンコ-ドから5種類の軸足コ-ドに集約された
(表5-3)。
子どもは食事中に、喜んだり不満に思って反発したり、さまざまな感情をさまざまな方 法で表現していることがわかった。【食べることから気持ちがそれる】事例は、子ども担 当制-グル-プ援助型において軸足コ-ド別割合が90.5%、担当制別割合が79.2%といず れも1番高い数値を示している。これは先にも述べた通り、そのクラスで子どもが食べる 量や内容についての捉え方や、食事に関する保育者のねらいに大きく依拠すると考えられ る。第4章:研究2の保育者の援助方法では、子ども担当制-グループ援助型の『子ども 心情を励ます』カテゴリ-における【子どもの食欲を励ます】【子どもの意欲を励ます】
の事例数の軸足コ-ド別割合は、それぞれ31.8%、61.0%といずれも顕著に高い数値を示 している。この子どもの【食べることから気持ちがそれる】と保育者の『子どもの心情を 励ます』は、食べ物の好みや満腹の度合いに限らず、子どもは食べてしまうことを求めら れるため、集中して食べることに向かうことが難しい状況が生じていることに関連してい ることが示唆された。逆に、この軸足コ-ドの事例生起が認められない子ども担当制-個
カテゴリ-名
『感情を表現する』
定義
感情をさまざまな方法で表現すること
【軸足コ-ド】 定義(説明) [オ-プンコ-ド] 場所担当制 子ども担当制 グル-プ援助型 個別援助型 身 体 の 調 子 に
ついて訴える
自分の身体の調子 を言葉や泣くこと で訴えること
1眠くなって泣く
2自分の身体の状態を言葉で伝える 0 0.0
0.0 1
4.8 50.0
1 100
50.0 食 べ る こ と か
ら 気 持 ち が そ れる
食べることから気 持ちがそれて、食 事に関係のない行 動をとること
3椅子を後ろに下げたり立ち上がっ たりする
4食器や食具で遊ぶ
5 38.5
20.8 19
90.5 79.2
0 0.0
0.0 食 べ る こ と に
つ い て の 喜 び を表現する
おかわりやデザ-
トを喜ぶ気持ちを 表現すること
5おかわりがたくさん入っているこ とを喜ぶ
6デザ-トを手をたたいて喜ぶ
1 7.7
50.0 1
4.8 50.0
0 0.0
0.0 保 育 者 へ の 反
発 の 気 持 ち を 表す
保育者に対する反 発の感情をたたい たりつまんだりし て表現すること
7保育者の腕をつまむ
8保育者をたたく 3 23.1
100 0
0.0 0.0
0 0.0
0.0
保 育 者 に ほ め られて喜ぶ
保育者にほめられ たことを喜んで、
態度や表情などで 表現すること
9保育者に食べ方を肯定された後保 育者を見ながら繰り返す 10保育者に食べたことをほめられ
て、保育者を見る
11保育者にほめられて喜んでしぐさ で応答する
12保育者にほめられて喜んで笑う
4 0 0
30.8 100
0.0 0.0
0.0 0.0
表5-3 感情を表現する