物将来 (自然物粁系)
図1集団徴生物学の立場よりみた微生物生態学の位置づけ 注1自然環至削ま物理的,化学的,生物的環境を指す.
注2 微生物生態学に関するレベル的表現はWoods (1953)の微生物代謝 検索図式によるレベルを意味する。点線は新レベルとして提唱しう
るもの。
注3 斜線内は生態学の領域を示す。 (「微生物の生態1」より)
服部 勉111
今日のわたくしたちは,何をどう考えるのか
ところでYさん,分子生物学がさまざまな生命研究の技術を創造 しつつある今日,微生物生態研究について,一体何をどう考えたら よいのでしょうか。先輩の方々の議論を読み直しながら考えさせら れるのは,自然の微生物を解明するということは一体どのようなこ となのかを,真正面から考え,苦悩しておられる点です。微生物研 究に新しい大きな可能性が生まれている現在こそ,こうした基本問 題と正面から向き合い,大きなスケールで新しい研究に挑むことが 必要ではないでしょうか。それは, LPasteurやR.Kochの築いた 峰を越え,微生物認識のさらに高い峰をめざすことでもあると思い
ます。
微生物体を構成する大部分の分子を判別できるまでに至った今日 の技術を駆使して,自然にすむ微生物についての認識をどのように 拡大,深化させていくのか,何か新しい手がかりをうることができ ないか,こうした問題意識が今回のワークショップ企画の背景にあ
りました。 「新しい手がかり」という時,私の脳裏では現在ある試み に物足りなさを感じているわけです。私たちが接する多くの試みに は, PasteurやKochを乗り越えるだけの洞察と系統性(情熱はある のですが)を兄いだすことが困難だからです。研究の多くは,思い つきや過去の仕事の延長的な要素(それほどの場合にもあり,それ 自身非難される理由はありませんが)が色濃く,基本問題への根本 的な問いかけ,探求心が乏しいように思えてなりません。
環境適応の遺伝子的基礎;さらなる問題意識
とは申せ,現在の私にも確たる考えがあるわけでもありません。た だ,今回のテーマである微生物の環境適応の問題は, Winogradsky のところで書きましたように, Pasteur‑Koch的方法を自然の微生 物に適応する時避けて通れない問題です。また, Darwinによって定 式化された現代生物学の基礎概念とも重なります。そういう意味で は,環境適応の遺伝子的基礎は,是非取り上げ解明すべき課題であ
ります。しかし私にはさらに先の課題(そういってよいかどうか疑 問ですが)が,見え隠れします。微生物の遺伝子分子そのものの研 究によって,その微生物が持つであろう能力(人間がまだ確認して いない能力)を推定,察知していく方向です。これは遺伝子分子の 全体像をどの程度深く理解するかとも関連してくるように思われま す。この方向の研究の進展如何によっては,微生物生態に関する私 たちの理解は大きく変わるものと思われ‑ます。とくに自然の中で圧 倒的に多い培養困難な微生物細胞の解明を促進してくれることで
しょう。
もっとも,生命の世界はもっと深く,研究の新しい可能性はもっ と多様でありましょう。少なくとも余り限定的にとらえることは,質 明でないように思います。私自身も,もっといろいろな可能性につ いて考え,試みるつもりです。新しい光を兄いだすこと,それをひ たすらに求めてこれからも歩んでいきたいと思います。つぎにお目 にかかれる日を楽しみにしています。
いずれまた。
1) Yさんへの手紙は,第五信目。
2)第四信は, 「微生物生態入門」改訂版(東大出版, 1990)の「あとがき」。