• 検索結果がありません。

類型と時間的展望との関連

ドキュメント内 問題と目的 (ページ 105-110)

考   察

有能感の 4 類型と時間的展望との関連

次に,日潟・齊藤(2007)を参考に時間的展望を過去・

現在・未来の総体的な構造からとらえるべく,時間的展 望体験尺度の4下位尺度得点を標準化した上で,クラス タ分析(K-means法)を行った。その結果,過去・現在・

未来に対する態度から解釈可能であった5つのクラスタ を採用した(Figure 1)。各クラスタの特徴からクラスタ 1を「過去展望低群」(n = 82),クラスタ2を「未来展 望低群」(n = 55),クラスタ3を「展望低群」(n = 53),

クラスタ4を「展望高群」(n = 56),クラスタ5を「過 去展望高群」(n = 93)とする。

続けて,有能感の4類型と時間的展望との関連につ

Table 1 本研究で用いられた各尺度間相関と平均点,標準偏差,α係数

自尊感情 他者軽視 拘束的 イメージ

制度的 イメージ

希望的 イメージ

自立的 イメージ

目標

指向性 希望 現在の 充実感

過去

受容 Mean SD α

自尊感情 – 29.46 7.11 .85

他者軽視 –.01n.s. – 28.95 7.58 .87

就職イメージ

  拘束的イメージ –.26*** .32*** – 3.94 1.02 .86   制度的イメージ –.14* –.10 n.s. .19** – 5.24 .97 .84   希望的イメージ .19*** –.24*** –.37*** .39*** – 5.42 .95 .87   自立的イメージ –.05n.s. –.04n.s. .06n.s. .58*** .42*** – 5.97 .75 .73 時間的展望体験

  目標指向性 .36*** –.10n.s. –.37*** –.01n.s. .45*** .05n.s. – 3.31 .90 .82   希望 .64*** –.13* –.36*** –.05n.s. .37*** –.00n.s. .59*** – 2.97 .82 .74   現在の充実感 .53*** –.31*** –.39*** –.02n.s. .27*** .03n.s. .40*** .51*** – 3.21 .87 .81   過去受容 .48*** –.30*** –.36*** .02n.s. .32*** .13* .32*** .40*** .51*** – 3.40 .85 .71

***p <.001,**p <.01,*p <.05

いて検討するために,コレスポンデンス分析を行った

(Figure 2)。その結果,全能型と過去展望低群(クラス

タ1),萎縮型と未来展望低群(クラスタ2),仮想型と 展望低群(クラスタ3),自尊型と展望高群(クラスタ4)

がそれぞれ近くに付置された。なお,2次元による説明

率は,96.60%であった。

すなわち,仮想型は,過去・現在・未来に対して肯定 的には展望していないクラスタと親和性が高い一方で,

自尊型は,過去・現在・未来に対して肯定的に展望して いるクラスタと親和性が高かった。

考   察

本研究では,仮想的有能感が「働くこと」に対するネ ガティブなイメージに寄与するかについて検討すべく,

2つの目的を設定し検証した。

仮想的有能感と就職イメージ

はじめに,本研究では有能感の類型論的アプローチを 用いて,就職に対するネガティブなイメージに寄与する

要因を検討した。分散分析の結果,自尊型は,就職とは 拘束されるものではなく希望をもてるものとイメージし ているのに対し,仮想型は,就職とは拘束されるもので 希望はそれほどもてるものではないとイメージしている ことが明らかとなった。このことから,就職に対してネ ガティブなイメージを有しているのは,仮想的有能感が 高い典型的な類型の仮想型であることが確認され,仮説 1が支持された。

小塩・西野・速水(2009)では,仮想的有能感と潜 在的な自尊感情との間に正の関連が示され,仮想的有能 感の高い者は非意識的に高い自尊感情を有していること が指摘されている。そのため,意識的には自尊感情が低 い仮想型の場合,非意識的に高い自尊感情との差をうめ

Table 2 有能感の4類型ごとの就職イメージの平均値と標準偏差,および分散分析の結果

萎縮型 仮想型 自尊型 全能型

F値 多重比較

(n = 78) (n = 89) (n = 78) (n = 94) (Tukey HSD法)

拘束的イメージ 3.95 4.39 3.32 4.01 17.92*** 自<全・萎<仮  (.91)  (.88) (1.05)  (.95)

制度的イメージ 5.41 5.31 5.24 5.05 2.20n.s.

 (.81)  (.86) (1.08) (1.09)

希望的イメージ 5.41 5.12 5.75 5.43 6.24*** 仮<自  (.86)  (.92)  (.90) (1.03)

自立的イメージ 6.06 6.00 5.96 5.87 0.94n.s.

 (.62)  (.69)  (.84)  (.82) 注.括弧内は標準偏差。萎縮型:萎,仮想型:仮,自尊型:自,全能型:全   ***p <.001

Figure 1 時間的展望体験尺度における5クラスタのプ

ロフィール

Figure 2 有能感の4類型と時間的展望のコレスポンデ

ンス分析の結果

自己評価を最低限維持するために,なんらかの防衛手段 が必要となってくる。古くから,自己評価維持モデル

(Tessor, 1988)や社会的比較理論(Festinger, 1954)など,

ポジティブな自己評価を維持する上で本人が価値を置く 領域において他者よりも勝っていることの重要性が指摘 されてきた。とくにWills(1981)によれば,個人の心 理的ウェルビーイングの維持のためには低い達成レベル にある他者を自己評価の比較基準とする下方比較が重要 だとされる。これまで,仮想的有能感の高い個人は下方 比較を行っていることが指摘されてきたが(速水・小平,

2006),進路選択場面においても,仮想型は低い自己評 価を補うため下方比較を行っていると考えられる。下方 比較を行う中で軽視する他者を,就職する他者や就職自 体にまで般化してネガティブにとらえることにより,自 己評価を最低限保持しているのだろう。このように,就 職することをネガティブにとらえることは,仮想型に とって最低限の自己評価を保つ自己防衛的な役割を果た しているのかもしれない。

仮想的有能感と時間的展望

続けて,仮想的有能感と時間的展望との関連について 検討した。コレスポンデンス分析の結果,自尊型は,過 去・現在・未来に対して肯定的に展望している展望高群 の近くに付置されたが,仮想型は,過去・現在・未来に 対して肯定的には展望していない展望低群の近くに付置 された。この結果により,仮想的有能感の最も注目すべ き類型とされる仮想型は,過去・現在・未来に対して肯 定的な展望を抱いていないことが確認され,仮説2も支 持された。なお,他者軽視傾向は過去や現在に対する肯 定的な展望との間に有意な負の相関を示したことから,

仮想的有能感の高い者は,過去・現在・未来の中でもと りわけ過去や現在に対して,肯定的な展望を有していな いといえる。

ところで,日潟・齊藤(2007)は高校生や大学生の時 間的展望について検討した結果,過去・現在・未来に対 してネガティブにとらえている「展望低群」において,

精神的健康度が低いことを確認している。とくに大学生 では,過去のとらえ直しが試みられているものの,過去 をポジティブにとらえられないことにより未来に対する 期待が感じられず,あきらめのような状態がみられるこ とが指摘されている。また,植之原(1993)は,大学 生におけるアイデンティティ地位の達成群は非達成群と は異なり,過去の経験の記憶が忠実な記憶というよりも 現在によく統合された記憶であることを明らかにしてい る。その上で,青年期の同一性達成の過程において,同 一性獲得のためには,過去における事象の記憶を参照し たり,新たに意味づけたりすることが求められることを 示唆している。これらのことから,過去をとらえ直し肯 定的に現在や未来を展望することは,青年期において非

常に重要な要素だといえよう。

しかし,仮想的有能感の高い仮想型は,過去に対して 肯定的な展望をしない,あるいはできない。そもそも仮 想的有能感の高さは,成功経験などの過去のポジティブ な経験との関連が弱いことが指摘されてきた(速水ほか,

2005)。確かに,本人の過去の成功経験をもとに自身の 有能感の感覚を形作っているのであれば,それは仮想的 なものとはいえない(速水・小平,2006)。しかし,仮 想的有能感は本人の過去の成功経験の多少とはあまり関 係なく産出された有能感である。その一方で,仮想的有 能感は対人関係における過去の失敗経験とは正の関連を 示している(Hayamizu et al., 2004)。すなわち,仮想的 有能感の高い仮想型は,過去に失敗経験を抱えており,

過去を肯定的にとらえることができず,肯定的にとらえ 直すこともできていない。そのため,現在の肯定感や未 来に対する展望を抱くことも難しく,肯定的な展望が困 難な特徴を有していると考えられる。

実際,日潟・齊藤(2007)によれば,大学生が想起す る重要なライフイベントにおいて,「展望高群」の場合,

「高校受験,大学受験」など過去や現在において快感情 であった過去のイベントや,現在や未来において快感情 である未来のイベントの想起率が高かった。他方,「展 望低群」の場合,過去や現在において快感情であった過 去のイベントや現在や未来においても快感情である未来 のイベントの想起率が有意に低く,「将来の仕事」など 現在や未来において不快感情である未来のイベントの想 起率が有意に高かった。

進路選択場面においても,自尊型のように肯定的な展 望が可能であれば,過去や未来の自己を通して現実の自 己を肯定的に価値づけることで,高い自己評価を得るこ とも可能であろう。しかし,仮想型のように肯定的な展 望が難しいと,過去や未来の自己を通して現実の自己を 肯定的に価値づけることができず,高い自己評価を得る ことも難しい。そこで,未来に起こりうる就職に対して 拘束的であるとネガティブにとらえること,または批判 的にとらえることで,仮想型は最低限の自己評価を保つ ことができる。潜在的な自尊感情の高い仮想型が低い自 尊感情を補い自己評価を保持するためには,この方法は 非常に有効な防衛手段だといえるだろう。

キャリア教育における仮想的有能感

近年,多くの大学で,大学生の進路選択の困難さに対 応すべく,職業観形成を目的とした講義やインターン シップなどのキャリア教育,および,就職セミナーやガ イダンスなどの就職支援が実施されている。ただし,全 ての学生がこうした教育や支援を有効活用できるとは限 らない。本研究では,仮想的有能感の高い仮想型が,就 職することをネガティブにイメージしていることが確認 された。こうしたネガティブなイメージが,就職して働

ドキュメント内 問題と目的 (ページ 105-110)

関連したドキュメント