方 法
面接対象者 被面接者は2004年に基督教系私立大学 に入学した教養学部の1年生42名(男子13名, 女子29 名)と4年生24名(男子5名,女子19名)。大学の個 別のメッセージボックスを通して,研究協力者募集を行 い,これに応じた学生である。
面接者 心理学専攻の女子大学院生,社会人学生各1 名。面接の目的や面接の内容と要領を説明し,予備面接 を実施した。特に面接者の言動や態度,倫理が結果に影 響することを周知させ,留意点をフィードバックして事 前指導を行った。
価値領域と補足分析 本研究では生き方の価値意識,
宗教的価値意識, 職業的価値意識,社会・政治的価値意 識を各領域とした一連の半構造的面接を実施したが,本 分析では主領域として生き方の価値意識と宗教的価値意 識の検討をした。具体的には資料1に示した質問項目の
②について回答を多元的に分析したが,本分析では価値 意識とその構造を明らかにすることに一元化した。その 上で,特徴をより明確にするために,ここでは次の2つ の分析を取り上げた。一つは揺らぎの経験(「自分にとっ て一番大切なことについて確信が持てなくなったことが あるか」,「いつ頃,どうして確信が持てなくなったか」,
「それをどのように克服したか」)の回答分析(資料1の
③)である。第2に両親の価値観の認知の分析(資料1
の⑥– i)である。青年期は両親や友人との関係が多様に
変化する時期であるといわれるが,生き方に直接影響を 受けた人物として両親が多くあげられていることから も,親の価値観をどのように認知しているかを取り上げ た。また,無藤(1979)は青年期の自己同一性地位面接 において,職業と宗教,政治の領域のうち,宗教に代わ るものとして価値観の領域を設けているが,本研究の面 接対象者は基督教系大学の学生であるため,宗教的価値 意識についても検討した(資料1の⑨)。
手続き 学内の心理面接室において個別に面接を実施 した。面接の導入部では出身地,所属学科,専攻,入学 の動機,転科や留年及び留学の経験(4年)などを尋ね て,被面接者とのラポールをつけた。個人情報守秘の了 解を得て,録音テープに記録した。面接時間は1年の平 均が44分(レンジ22〜100分),4年の平均が42分(レ ンジ26〜63分),全体で43分であった。面接の全逐語 的スクリプトを面接者が作成した。
分析方法 面接全体を通しての特徴や文脈,発言の意 味を直接理解するようにスクリプトを通読した後,該当 するエピソード部分を抜き出し,価値パターンの概念化 を行った。その抽出と構造化の手順は次の通りである。
はじめに「生きていく上で一番大切だと感じられるこ と,生きていく上でこれだけはしていきたい,こういう 視点は見失いたくない」という質問に該当する回答の部 分を抽出した。確認質問が入るとか応答が発展的に展開 する場合でも,意味的に関連する場合はひとまとまりと した。次いでこのエピソードを区分単位として,その内 容から価値パターンを暫定的に同定した。その際,具体 的な価値パターンを特徴づける指標(例の下線部分)を 抽出して具体的な内容に関連づけられるようにした。た とえば「自分が本当に楽しいと思えることがあるかない か,あることが大切だと思います。趣味であれ,なんで あれ,これをやっているときが自分一番楽しいんだと思 えるものがあることが大切だと思います」(例1:楽し い:暫定的に安楽とした。以下同じ),「物事を客観的に 見ていければいいかな,と思いますね。冷静でない自分 が嫌いなんですよ」(例2:客観的,冷静:理性),「一 人暮らしをしていて,すごく寂しくなることもあるんで,
やっぱり人との関わりとか,仲いい友達とか信頼できる 人がいたらすごくつらいことも乗り越えられると思うん で,一番大切なのは大切な人がいるっていう人との関わ りじゃないかと思います」(例3:人との関わり:人間 関係性)など。一つ以上のエピソードが述べられること もあったので,該当するすべてのエピソードについて順 位を付して記録した。各ケースのエピソードごとに逐次,
既にある価値パターンに該当する場合はその価値パター
ンを,該当するパターンがないか,別の価値パターンと して区別しておきたい場合には,新たに指標を付して価 値パターンに加えていくという手順を繰り返した。最後 に全ケースのエピソードを暫定的な価値パターンごとに 一覧表にまとめ,指標を再度対応させて同じ価値概念に まとまっているかを吟味した。また指標を手がかりにし て,頻度数が少ないものは統合する(たとえば博愛と貢 献)など,価値パターン名を的確なものにした。
一致率 4年の24ケースについて,筆者が手順を繰 り返して,暫定的な価値パターンの一覧を作成した。そ の後,改めて1年と4年の各24ケースについて筆者と 大学院生の2名が独立に判定した結果,第1順位につい ては不一致の1ケースと回答内容が抽象的で判別が困難 な4ケースがあった(一致率79.2%)。不一致のケース についてはスクリプトに戻って,個々にエピソードを検 討し,協議の上で決定した。
結 果
価値パターンの抽出とその構造 本研究の1つの目的 は,大学生の価値意識を明らかにすることであった。分 析方法の具体例で示した暫定的に命名された価値パター ンは,最終的に, 積極行動 , 安楽・充足 , 理性 ,
努力・達成 ,自己準拠 , 人間関係 ,博愛・貢献 , 社会規範 の8つの価値パターンとした。さらに価値 パターンの意味付与がどの方向に向けられているかとい う価値の志向性を示す構造上の上位概念を志向モードと したが,これらの8つの各価値パターンの内容から, 理 性 ,努力・達成 ,自己準拠 の自己の内面に意味付 与が向かっているもの, 人間関係 ,博愛・貢献 , 社 会規範 のように他者や社会構造に意味付与が向かって いるもの,さらに現実のありかたに意味付与が向かって いる 積極行動 と 安楽・充足 の3つの志向モード が考えられ,これらを自己志向,社会志向,現実志向と して概念化した。また現実志向は,行動するとか楽しい など,具体的な行動や状態に特徴があり,一方,自己志 向と社会志向は観念上の内容特徴をもつと考えられるこ とから,それぞれ行動性と精神性の2つの価値次元に構 造化を図った。価値パターンの内容と具体例,及びその 構造をTable 1に示した。
価値パターンと志向モードの大学経験の差 大学経験 の差が価値パターンと志向モードにみられるかどうかを 検討するために,Table 2 に1年と4年の学年別価値パ ターンの人数と割合,及び志向モードによる人数と割合 を示した。価値パターンの2位は全体の3分の1で,1 年の 努力・達成 と 人間関係 ,4年の 理性 が 目立つ。3位は両学年とも2名のみであった。そこで以 下では1位の結果について検討した。8つの価値パター ンのうち,1年では 人間関係 が40%で際立っており,
次いで 安楽・充足 (16.7%), 努力・達成 (11.9%)
Table 1 価値パターンの内容と具体例,及びその構造 次元 志向
モード 価値
パターン 内容 具体例
行動性 現実
1 積極行動
現実的で精力的に行動 をすること。不測の事 態にあっても現実を受 け入れ,積極的に生き ること。
(4年) 覚悟を決めてまっすぐに一本気でいくっていう,覚悟を決めるっていうことがと
にかく自分にとって大切かも知れない。自分が決めたことだから,受け入れてやろうっ ていうこと。 (4年) 頼って生きるのではなく自立して生きていきたい。 (追跡)
オリジナルであるということです。やると決めたらガッとやる。奥深くやる。思い切り やる。やり込む。そういうことをやってみたいなと思います。
現実
2 安楽・充足
自分の人生を楽しむこ と,ゆとりをもって今 を充実して生きること。
心地よく,幸せだと思 えるように生きること。
(1年) 自分の人生を楽しむってことですかね。 楽しく生きていくということ。 (1年)
自分が楽しく幸せになれるように。 (4年) 自分を居心地よく保っておいて,あんま りあくせくしないような生き方をしたいっていうのと,うーん,楽しくできればそれで いいです。 (追跡) 生きていく上で,もっとも大切だと感じているのは「安らぎ」で
す。 (追跡) 何かひとつでもいいから幸せなことを見つけるということですね。
(追跡) 健康でいられる生活を送れる状態であることっていうんですか,それが本当に一
番大切だなって思います。
精神性 自己
1 理性
自分の固定観念にとら われず,広い視野に立っ て,柔軟に考えること。
冷静な分析や判断をし ていくこと。客観的に 物事をみていくこと。
(1年) 物事を客観的にみていければいいかなと思いますね。 (4年) ICUならクリティ
カルシンキングってことだと思うんですけれど,冷静な分析をするっていう… (4年)
いろんな視点を持つっていうことですね。固定観念をもたない。 (4年) 柔軟な思考は 失いたくないですね。 (追跡) 自分の考えや意見を必ずもって,相手と接することです かね。すごい自分の意見は大切にして生きていこう,みたいな価値観が養われました。
自己
2 努力・達成
目的をもって努力し,目 標を達成すること。常に 好奇心や向上心をもっ て成長し続けること。
(1年) 自分に課題というかテーマを与えて生きていることが一番ですね。常に何か今は
これをやりたいなとか,これを頑張ろうとか。 (4年) 好奇心,何か知りたいってい う気持ちとか。 (4年) 常に目的を持って努力すること,ですか。興味を持っている ことを常に学んで成長していきたいです。 (追跡) 何かこう変化しようって思う気持 ちが,前に進むというか生きていく力になると思うし.そういう小さい目標を持って,
小さくても大きくてもいいんですけど,そういう何かこうなりたいっていうものを持 つってこと。 (追跡) 欲とか地位にとらわれずに,自分を成長させて一つでも多くの ことをやりたい。
自己
3 自己準拠
自分の内面に注意が向 けられ,中心化して内 省 し た り, 評 価 し て,
自分をそのように看做 すこと。
(1年) 自分を愛することですかね。自分を愛してはじめて他人を助けることができるん
じゃないのって言ってみたりするんですけど。 (1年) 自分に自信を持っていたいと 思います。 (1年) 自分に正直に生きるという...アバウトですけれど。 (4年) 自 分をごまかしつつ生きていくには限界があるのではないのかなと思いますね。 (追跡)
他の人と同じなのは嫌だみたいなのもあるんですけど。私っていう個性みたいなもの。
(追跡) 自分の気持ちも大事にできてない,相手も大事にしてないっていうのを思ったと
きに自分を大事にするのは難しくて,でも尊い気がするなって思いました。
社会
1 人間関係
人とのかかわり合いや 人とのつながりを持つ こと。支え合い,信頼 し合える家族や友人と の関係を築くこと。
(1年) 仲間というか,友達との信頼関係っていう,そういう信頼できる相手がいることが
一番大事だと思います。 (1年) 自分にとって,生き甲斐と感じるのが友人と接してい るときなので,今の自分にはそれが一番です。 (4年) 人との付き合いだと思います。
人間づきあいが好きなので, いろいろな人と関わっていくことが大事だと思っています。
(追跡) 人との絆を大切にしていきたいというか,家族だったり友人であったりする絆が一
番大事。 (追跡) 誰かのためになる存在としてあり続けたいというか,やっぱり一人ぼっ ちが厭ってことですかね。誰かに求められて生きていきたいと思います。
社会
2
博愛・貢献
すべての人に等しく愛 と友情をもって,信じ ること。いかなる人も 自由が尊重されること。
社会への貢献や援助を すること。
(1年) 人を信じること。信じすぎちゃってだまされることもあるんですけど,信じない
ことには始まらないと思うんで。 (4年) 何らかの形で自分を役立たせたいとか人に 楽しんでもらいたいというふうに思っているので, それは多分続いていくと思います。
(4年) 友情を含めた愛情です。誰もが自由で楽しく生きていける社会であって欲しいと
思うので。 (追跡) キリスト教の信仰を持ってるのでそれは本当にもうゆるがないと ころだと思ってます。
社会
3 社会規範
道徳に基づいた社会的 ルールを遵守し,規範 に 沿 っ て 生 き る こ と。
社会秩序を守り,恩義 に感謝していくこと。
(1年) その道徳価値がどこからくるかわかんないんですけど,自分の中で人間としてやっ
ちゃいけないことだなって思うことがあって,そういうことは生きているうちはやりた くない。 (1年) 他人に対して感謝とかを忘れないこと。 (4年) 自分の中にある やっていい,やっちゃいけないっていうのに沿って,はみ出さないように生きていきたい。
(追跡) 大事にしていきたいと考えるのは,周囲への感謝。 (追跡) 誠実であることっ
て言うと広いんですけど,人に嘘をつかない,自分に嘘をつかない的なこと。