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先行研究と比較:固有受容加重比率と傍脊柱筋 断面積との関連

3-1 目的

第1章では,体幹のマイスネル小体や筋紡錘よりもファーターパチニ小体の感受性低

下が姿勢不安定性を招き,前方推移となる姿勢制御を示すことが認められた. これまでの

報告との違いは,傍脊柱筋の筋紡錘の感受性低下ではなく,ファーターパチニ小体の感受

性低下が姿勢不安定性の危険因子になることである.したがって,傍脊柱筋に存在する固

有感覚の応答周波数に適合させる局所振動刺激は,特定の固有感覚低下に伴う姿勢制御の

方略を評価できる可能性が考えられる.

腰痛の多くは,日常生活の活動低下と体幹機能低下に関連する広範囲の病態である

73,74).Taimelaら 75)は,腰部の筋疲労が腰痛患者と健常者で体幹の固有感覚を低下させ

ると報告している.本研究の事前調査において,腰部脊柱管狭窄症および変形性脊椎症と

診断された高齢者に,傍脊柱筋と腓腹筋に対して局所振動刺激を与えた RPWと傍脊柱筋

断面積との関連を調査した.その結果,L1/L2脊柱起立筋断面積の萎縮している者程,体 幹の筋紡錘の感受性が低下し,腓腹筋の筋紡錘の情報を増加させ,下腿優位になる傾向を

示すことが分かった 76).これらのことから,腰部疾患に罹患した高齢者の固有感覚低下

は,体幹機能の低下に伴い傍脊椎筋の萎縮が影響している可能性が高い.そのため ,体幹

での姿勢保持が不安定となり,下腿に頼らざるをえない姿勢保持となっているのかもしれ

36 ない.

しかしながら,慢性腰痛を有する高齢者における傍脊柱筋の萎縮がRPWと関連があ

り,下腿優位を示す特定の固有感覚が明らかとなっていない.また,傍脊柱筋に与えた局

所振動刺激時の固有感覚の感受性と傍脊柱筋断面積との関連性は,慢性腰痛と非腰痛の患

者では異なる可能性があるが,これらの関連性について も十分明らかとなっていないこと

から,慢性腰痛を有する場合の RPWと傍脊柱筋断面積との関連性を知る必要がある .

このことから,慢性腰痛を有する高齢者の腰部脊柱起立筋および腰部多裂筋のどちら

が固有感覚の感受性低下と関連性があるのかを,慢性腰痛を有さない高齢者での先行研究

の結果と比較して,その傾向を明らかにすることは重要だろう.さらに,慢性腰痛の有無

によって体幹の固有感覚が低下しやすい受容器と筋をそれぞれ特定することができ,体幹

の姿勢不安定性を招く要因を詳細に評価できると考えられる.

本章の目的は,異なる応答周波数による局所振動刺激時のRPWが傍脊柱筋断面積の萎

縮と関連があるのかを先行研究と同様の解析を行い検証した.

3-2 測定方法

対象者には,第1章および先行研究と同様の方法で振動偏位 固定・周波数可変型の振動

デバイスを用いて,左右の腓腹筋および傍脊柱筋に対して機械的振動刺激を与えた.

振動刺激の周波数は30Hz(マイスネル小体),60Hz(筋紡錘),240Hz(ファーターパチニ

小体)とした.振動子部分は,人体に直接ゴムバンドで取り付け,下腿と腹囲の周径か

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ら,振動デバイスの着用バンドの長さを調整し,振動刺激の強さを対象者間で一定となる

ようにした.重心動揺計は, Wii Balance Board(任天堂株式会社)を用いた.

計測の手順は,第1章および,先行研究と同様に振動刺激を腓腹筋と傍脊柱筋に交互

に与え,合計 6セットの計測を行った.計測条件は閉足,閉眼とした.計測時間は(1回

30秒間)を,15 秒ごとの2区間に分けて解析を行った.区間の条件を前半の15秒に対し

て振動刺激なし(Pre),後半の 15秒に対して振動刺激あり(During)とし,Pre-Duringの

間で振動刺激を計測した.各計測後に,60 秒間の座位休息を設けた(図7).

重心動揺の分析で,振動刺激による 前後方向の動揺CoPにおける平均位置の変化量も

第 1章と同様の方法で算出した.

固有受容優位に関する追加情報を得るために,相対的なRPWを次の式により計算し

た.

𝑹𝑷𝑾 = (𝐚𝐛𝐬 𝐝𝐲 𝐆𝐒)

(𝐚𝐛𝐬 𝐝𝐲 𝐆𝐒) + (𝐚𝐛𝐬 𝐝𝐲 𝐋𝐌) ×100[%]

abs dy GS,abs dy LM は,それぞれ腓腹筋刺激,傍脊柱筋刺激時の平均CoPyの偏位

(dy)の絶対値である.この計算式によって,腓腹筋と傍脊柱筋のどちらを優位にして姿勢

制御を行っているかを算出した. RPWが 100%に近づく程,腓腹筋の固有受容器優位の

姿勢制御に相当し,0%に近づく程,傍脊柱筋の固有受容器優位の姿勢制御に相当する

77-79)

画像による評価としてMRIでL1/L2およびL4/L5 高位での脊柱起立筋と腰部多裂筋断

面積の計測を面積計算ソフトウェア(SYNAPSE®,富士フイルムメディカル株式会社)を用

いて行った.

38 3-3 統計処理

統計解析は,RPWの結果と,L1/L2脊柱起立筋断面積,L4/L5 脊柱起立筋断面積,

L1/L2 腰部多裂筋断面積,L4/L5腰部多裂筋断面積との関連性を検証するために Pearson

相関係数を用いた.各傍脊柱筋(例:脊柱起立筋断面積[L1/L2,L4/L5],腰部多裂筋断面

積[L1/L2,L4/L5])を従属変数,各RPWを独立変数としたステップワイズ法による重回

帰分析を行った.解析には,IBM SPSS statistics ver. 19 を用いて有意水準は5%とし

た.

3-4 先行研究と比較した結果

各RPW と傍脊柱筋断面積の結果を本章と先行研究,それぞれ図23,24,25,26 に示す.

図 23.慢性腰痛を有する高齢者の各 RPWのグラフ

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図 24.腰部脊椎症の高齢者の各RPW(文献76のデータを引用)

図 25.慢性腰痛を有する高齢者の各傍脊柱筋断面積のグラフ

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図 26.腰部脊椎症の高齢者の各傍脊柱筋断面積のグラフ(文献76 のデータ引用)

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30,60,240Hzの各 RPWは,L1/L2および L4/L5脊柱起立筋断面積,L1/L2およ

び L4/L5腰部多裂筋断面積とは有意な相関関係を示さなかった(表3).また,重回帰分析

は,すべて有意な関連は認められなかった.先行研究では,L1/L2 脊柱起立筋断面積と

RPW60Hzとの間で負の相関関係が認められ(表4),L1/L2脊柱起立筋断面積を従属変数

とした重回帰分析による回帰係数は,RPW60Hz で有意に関連が認められている(β=-0.26,p < 0.05)76)

42 3-5 考察

本章の結果より,先行研究はRPW60HzがL1/L2 脊柱起立筋断面積と関連していたに

も関わらず,本章の結果では全てのケースで関連が認められなかった.先行研究では,傍

脊柱筋断面積の中でも最も大きい L1/L2の脊柱起立筋断面積の萎縮が筋紡錘の感受性低

下に繋がり,体幹の不安定性を招くことを示唆している 76).一方で,女性高齢者は,男

性高齢者よりも傍脊柱筋断面積が萎縮しており,筋紡錘の感受性低下から 下腿優位となる

姿勢制御となり,不安定な場所での活動時に腰部の固有感覚の入力が弱いことが指摘され

ている 80).しかしながら,慢性腰痛を有した場合,マイスネル小体,筋紡錘,ファータ

ーパチニ小体の RPWは,体幹および下腿どちらが優位であっても,傍脊柱筋断面積 の萎

縮と関連して姿勢不安定性に繋がる要因にはならないことが示された.

第1章の結果では,慢性腰痛を有した高齢者は,体幹のファーターパチニ小体の感受

性低下から CoP偏位は前方推移の姿勢制御の方略を示した.

したがって,慢性腰痛を有する場合,体幹の筋紡錘よりもファーターパチニ小体の感

受性低下から姿勢制御が前方推移を示す者程,姿勢が不安定になりやすい と考えられる.

以上のことから,慢性腰痛を有さない高齢者では,L1/L2脊柱起立筋断面積の萎縮と筋 紡錘の感受性低下に伴い,RPWは下腿優位の反応を示す要因にはなるが,慢性腰痛を有 した場合は,L1/L2 脊柱起立筋断面積の萎縮が下腿優位を示す要因にはならないことが示 された.

慢性腰痛を有さない高齢者は,体幹の筋紡錘の感受性低下と体幹の姿勢保持に必要な

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L1/L2 脊柱起立筋断面積が萎縮することにより,体幹の姿勢不安定性に繋がると考えられ

81).しかしながら,L1/L2脊柱起立筋断面積は,慢性腰痛を有する高齢者の場合,す

べてのRPWと相関が認められなかった.このことから,慢性腰痛を有する高齢者は,体

幹の固有感覚低下と L1/L2脊柱起立筋断面積の萎縮が,姿勢不安定性の要因にはならな

いと考えられる.ただし,今回の結果では,詳細な要因を明らかにすることはできず,こ

れらの解明には今後更なる調査が必要である.

本章で得られた新たな知見は,傍脊柱筋と腓腹筋に局所振動刺激を与えた姿勢動揺の評

価において,L1/L2 脊柱起立筋断面積の萎縮と体幹の筋紡錘の感受性低下との関連を,慢

性腰痛の有無によって異なる結果を示すことができたことである.

以上のことから,慢性腰痛を有する高齢者はRPWが傍脊柱筋断面積萎縮とは関連して

おらず,下腿優位の反応を示す一要因とはならないため,姿勢動揺の評価を実施する場合

には,これらの視点を考慮して,CoP偏位を指標に用いることで適切な固有感覚低下に 伴う姿勢制御の知見を得ることができるだろう.

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