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第3章  分析2 ―複数の種類の三味線合奏曲―

第1節  音楽的な展開方法

ここで重要なのは、どのような音楽的展開方法があり、いかにその音楽的な展開方法 を使用するかという点である。展開方法によって、楽器がいかに表現できるか、そして 聴き手がいかに音楽の意味を解釈するかが変わってくる。それぞれの楽器に最も適した 展開方法を使用することにより、その楽器の表現の幅が広がる可能性があり、延いては、

その楽器自体の価値が高まることが期待できるのである。

先ず、展開方法の概念を理解するため、西洋音楽と日本伝統音楽で使用される基本的 な展開方法の比較を以下に記す。

1-1.西洋音楽における縦>横の図式 ―和声―

西洋音楽では、同じメロディーであっても、そのメロディーの裏側にある音組織や和 声によって展開は変わってくる。つまり、和声によっていかに音楽を解釈するかが異な るのである。和声とは、同時に奏でられる二つ以上のピッチで構成される音である。和 声は、いわば音楽の縦方向を基盤とする図式であり、これに横方向の構成要素が組み合 わされることで音楽的な展開が成立する。

表 3-1

しかし、三味線は、独奏曲の分析結果からも分かる通り、音域が狭く、一挺では和声 を生み出すには限界がある。したがって、合奏音楽の場合、作曲家が西洋的な和声を用 いる上で、二挺以上の種類の違う三味線を扱うことは珍しくない。例えば、三木稔の

《曲》、杵屋正邦の《三味線物語》、藤井凡大(1931〜1994)の《二種の三絃の為のソ ナタ》などがそれに該当するわけだが、ここでは必ずしも各三味線の特性が存分に活か されているわけではない。彼らは、必ずしも三味線の特性を最大限に活用しようとして いたわけではなく、和声を表現するための方法論として、音色や音域の少しずつ異なる 別種類の三味線を同時に使用したという見方ができる。

例えば、 佐藤敏直(1936〜2002)の《序破急〜二棹の三味線のための》(2000年)

を分析すると、音域の低い太棹三味線がベースとなって、和声的に変化する和音を奏で る役割を担い、音域の高い細棹三味線が全体的なメロディーを奏でているのが分かる。

佐藤は「冒頭ファ#・ソ・ラ#・ド#・レ・ラの音列で始まりますが、全体はこの関係 が基本となって、多様に展開されます」と述べており 、このことからも、作品の中で68 作曲者が三味線の特性を生かすことに重きを置いておらず、西洋音楽の理論をベースに、

三味線を単なるピッチを発する一楽器としてのみ捉えていることが窺える。


1-2.日本の伝統音楽の横>縦の図式 ―音色の変化―

日本の伝統音楽では、西洋音楽の縦>横の関係で展開を生み出すのではなく、一つ一 つの音の技法や音色によって音楽に奥行きを持たせる。言い換えれば、日本の伝統的な 音楽はそれぞれの音の音色の違いを強調し、その差異により音楽を展開させ、音の彩り の変化を際立たせるのである。ここで述べる音色の変化は、以下の二つに集約される。

–同一の音の音色を技法により変化させる。

–異なる奏法や楽器構成、リズムにより音色の違いを生み出す。

これらの音色の変化は、音楽の横方向の図式を基盤とし、これに縦方向の構成要素が 組み合わされて作り出される。こうした三味線の本来的な技法は使用する方法の幅が最 も広いため、音色の作り出す響きの差異により音楽を展開させることを得意としている。

縦方向

CD 「三絃:野澤徹也1」SCD-007(2004年)の解説、3頁より。

68

  実際、横>縦の展開で音楽を表現するために発展した三味線は、和声を生み出すこと を得意としていないため、前述した三味線のための独奏曲の分析でも明らかになった通 り、その楽器の本来的な表現方法だけではなく、三味線が担ってきた得意とする演奏方 法、つまり三味線の特性を生かして音楽を表現しないと、作品に奥行きが出にくかった。

しかし、三味線は横>縦の展開で音楽を表現するように発展し、その表現を得意とする と言っても、三味線の種類によって、如何にこの展開を使用するかは、異なるため、複 数の種類の三味線を用いた作品には、ある問題点が存在する。この問題点を明らかにす るため、次に複数の種類の三味線による作品の歴史と概要を見てみよう。

A

音色

B音色 C

音色

小唄

A2音色

長唄 三曲

長唄

ただならぬ緊張感

不安感

次の部分の情感を際立たせ

る下準備

死を連想させる虚無感

横方向の図式

三下り 本調子

表 3-2 中島勝祐作曲《西鶴一代女》