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第4章 分析3 ―三味線協奏曲―

第 1 節  西洋の協奏曲

協奏曲は完全に西洋音楽の概念であり、それぞれの楽器の技法や音色を意図的に区別

田中悠美子、野川美穂子、配川美加編『まるごと三味線の本』青弓社、2009年、50頁。

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シュムコー、コリーン・クリスティナ(2017.第7号)「三味線を用いた現代作品の分析的研究―長澤勝俊作曲 85

《三味線協奏曲》を中心に―」『音楽文化学論集』(東京藝術大学大学院音楽研究科音楽文化学専攻博士後期課程 研究論文集) 85−95頁。

しないことに重きを置いた様式であると言える。西洋音楽史を遡ると、17世紀初頭まで は、その後発展を遂げることになる器楽ではなく、声楽が音楽の中心にあった。そのた め、当時、オーケストラは器楽アンサンブルとしてではなく、主に歌の伴奏として存在 していた。しかし、17世紀以降、器楽が徐々に発展を遂げる中で、オーケストラの概念 自体が変化し始め、単なる伴奏の役割を越える存在となり始めた。オーケストラを主体 としたコンチェルト・グロッソやソロ・コンチェルトといった形式が出現し、多くの作 曲家がそうした形式で作曲を試みる中で、器楽としてのオーケストラは強化され、洗練 されて行った。そして、結果的に、単なる伴奏としての機能と、それを越える新たなオー ケストラの概念とが統合することで、協奏曲という形式は成熟することとなった。

協奏曲の原語であるConcertoという単語は二つの意味を持っている。16世紀初頭、

イタリア語のこの言葉には「繋ぐ、結ぶ」という意味のみがあったが、16世紀末には、

ラテン語の「対戦、コントラスト、拮抗」という意味も加わった。この言葉の持つ二つ の意味は、そのまま今日の協奏曲形式の概念になったと考えられる。

西洋音楽には、全ての楽器のための協奏曲が存在する。例えば、バイオリンをメイン に据えた協奏曲があるように、トライアングルのような打楽器をメインに据えた協奏曲 も存在するのである。オーケストラ音楽では、各楽器の音色の違いを際立たせることな く、全体を調和させる必要があるため、楽器によっては存在感の希薄なものが存在する 事実は否めないが、協奏曲では、ほぼ全ての楽器に中心的な役割を担う可能性があるた め、広く楽器的な価値を示すことのできる形式であると言える。

とは言え、実際のところ、19世紀末にかけて発表された協奏曲の大部分はピアノを独 奏楽器としたピアノ協奏曲だった。ピアノはその他のオーケストラ楽器と比較すると、

音色や特色が異なるため、協奏曲の中で伴奏との差異を顕著にすることが比較的容易で あるのが、その理由と考えられる。言い方を換えると、ピアノ以外の楽器を独奏楽器に 据えるとなると、伴奏楽器との差異を表現するのがピアノほど容易ではないのだが、19 世紀から20世紀にかけて、そうした楽器を主とした協奏曲の方法論も次第に確立されて いった。

協奏曲に於けるソロ楽器とオーケストラの音楽的な関係は主従関係に例えることがで きるが、オーケストラの場合、ソロがつねに主の立場に留まるのではなく、時としてお 互いの立場が入れ替わるという、主客逆転の要素が重要な特徴の一つとなっている 。86 これを実践する上で、楽器主体の協奏曲を作曲する基本的な方法論には以下の6通りが あるとするのが一般的な考え方となっている。

Using Dialogue(対話を使用する)

これは対話形式であり、この場合、独奏と伴奏は完全に区別される。これはバロック のコンチェルト・グロッソから派生した方法論であり、作曲家は先ず独奏楽器の演奏パー トを設けることでその楽器の音色を聴き手に強く印象づけ、その後、伴奏のオーケスト ラを入れることで、音色とテクスチャーの違いを効果的に際立たせる。


!  Assigning Foreground and Background Roles to Solo and Tutti Sections(独奏 楽器とオーケストラとに前方・後方の役割を与える)

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Apel, W. Harvard Dictionary of Music, 2nd ed. Cambridge: 1969. 192.

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これは独奏楽器とオーケストラとの前方・後方の関係性を利用した形式であり、通常、

この形式では前方に位置する楽器が独奏部分を担当し、後方に並ぶオーケストラが伴奏 を行うが、曲の中で部分的に独奏楽器とオーケストラの役割を交換することで、協奏曲 の奥行きを深めることができる。

Exploiting Color Contrast to Distinguish the Soloist from the Orchestra(独奏と オーケストラを区別するため音色の違いを活用する)

この方法論は、先ず独奏楽器を定め、その上でこれと異なる音色を持つ楽器で逆算的 にオーケストラを編成し、両者の音色の違いで協奏曲を成立させるという考え方に基づ いている。

Separating Solo and Tutti (Orchestra・Accompaniment ) by Rhythmic Independence(独奏楽器とオーケストラのリズムをそれぞれ独立させる)

これは、独奏楽器とオーケストラのリズムをそれぞれ独立させる形式である。独奏楽 器とオーケストラの音色が似ている場合、この二つが異なるリズムで演奏するこの形式 を採用することで、協奏曲としての機能性を維持することができる。

Using Spare Accompaniment Textures Advantageously(これは伴奏部分をまばら に配置する)

これは伴奏部分をまばらに配置する形式である。この方法で作曲すると、オーケスト ラの演奏個所を点在させることで、独奏楽器の奏でるメロディーを強調することができ る。

Using Spacing and Registral Placement to Distinguish the Solo Line from the Orchestra(独奏とオーケストラを区別するため異なる音域を強調する)

最後の形式は、独奏楽器とオーケストラの演奏する音域を区別するものであり、独奏 楽器が際立つ音域で演奏することで、オーケストラとの差異を明確にする 。 87

現在の音楽界では、西洋楽器の枠に捉われず、世界の様々な民族楽器を独奏楽器とし て、オーケストラの伴奏で協奏曲を作る試みも、逆に西洋楽器を独奏楽器として民族楽 器の伴奏で協奏曲を作る試みも、増えている。例えば、ヘンリー・カウエル(1897〜

1965)の《Concerto No. 1 for Koto and Orchestra》(1962年)や《Concerto No.2 for Koto and Orchestra》(1965年)は、箏の独奏とオーケストラの伴奏を合わせた協奏曲 であり、ルー・ハリソン(1917〜2003)の《Double Concerto for Gamelan, Violin and Cello》(1983年)は、バイオリンとチェロを独奏楽器とし、ガムラン合奏(インドネ シアの民族楽器からなるアンサンブル)を伴奏とした協奏曲である。西洋音楽に由来し ない楽器を現代作品で使用するにあたり、前述した 通りの協奏曲の方法論、特に

、 、 、 番目の形式に基づいた曲作りを行うと、興味深い作品を創作する 余地が十分にあると考えられる。実際、ハリソンは《Double Concerto for Gamelan,

Violin and Cello》を作曲するにあたり、第一楽章に の方法論を取り入れてお

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Adler, Samuel. The Study of Orchestration. W.W. Norton & Company, Inc. New York: 2002. 612-638.

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り 、カウエルは《Concerto No. 1 for Koto and Orchestra》に於いて 88 の方法論を 使用し、箏とオーケストラの音色の違いを際立たせ、更に一歩踏み込んで音階の違いも 活用している 。独奏楽器としての民族楽器の本質的な表現方法を明確化し、それと合89 奏するオーケストラとを対比してその特質を炙り出すところに民族楽器を使用した協奏 曲特有の価値がある。この観点から、日本においても、伝統楽器をより広い聴衆に向け て紹介する手段として協奏曲が使用されたという事実は、極めて重要である。