• 検索結果がありません。

1.1 静電気 帯電現象と電荷

ガラス棒を絹の布で擦ると,ガラス棒は正の電気を帯び,エボナイト棒を毛皮で擦る と,エボナイト棒は負の電気を帯びる。このような帯電現象はなぜ起きるのであろうか。

物体は原子(atom)からできており,原子は正の電荷をもつ原子核(atomic nucleus)

と負の電荷をもつ電子(electron)からなる。原子核と電子の電荷がつり合い,電気的に 中性になっていた原子が何らかの作用を受けると,電子を失って正のイオン(ion)にな ったり,逆に電子を受け入れて負のイオンになったりする。2つの物体を擦り合せると,

イオンや電子がもともと中性であった一方の物体から他方の物体に移動し,それぞれの 物体が正または負に帯電する。このように帯電する電気の実体を電荷(electric charge)

という。電荷の単位にはクーロン(記号はC)が用いられる。電荷の流れを電流(electric

current)といい,1A(アンペア)の電流1が1秒間に運ぶ電荷を1Cという。正の電荷ど

うし,あるいは,負の電荷どうしの間には斥力がはたらき,正の電荷と負の電荷の間に は引力が作用する。

導体と絶縁体

電気をよく通す物質を導体(conductor),電気をほとんど通さない物体を絶縁体

(insulator)という。絶縁体は誘電体(dielectric substance)ともよばれる。また,導 体と絶縁体の中間程度に電流を流す物質を半導体(semiconductor)という。導体の多く は金属である。金属内には,自由に動くことのできる電子(これを自由電子(free electron)

という)が多くあり,自由電子が移動することにより電荷を運び,電流が流れる。一方 絶縁体では,原子内の電子は原子から離れて自由に動くことができず,電流を流さない。

静電誘導

図1.1のように,正に帯電した物体Aを導体Bに近づけると,BのAに近い側に負の 電荷が現れ,Aから遠い側に正の電荷が現れる。その結果,導体Bは物体Aに引き付け られる。このように,帯電した物体の影響で,導体の電荷分布に偏りが生じる現象を静 電誘導(electrostatic induction)という。また,導体に限らず,帯電体を絶縁体に近づ けても絶縁体の表面に電荷が現れる。この現象を誘電分極(dielectric polarization)と いう。

1 1Aの定義は,第5章で述べる。

2 現在の日本の高校物理では,磁荷を用いて磁場Hを定義し,真空中では,Hに真空の透磁率

0をか

けた量を磁束密度B

0H)を定義しているが,ここでは,世界の主流の考えに従って,動いている電

78 箔検電器

図1.2のような器具を箔検電器という。はじめ中性に保たれて いた箔検電器の金属板に正に帯電した棒を近づけると,静電誘導 により,金属板には負電荷が現れ,容器内の箔には正電荷が現れ る。その結果,箔どうしの間に斥力が作用して,箔は開く。

例題 1.1 箔検電器の性質

はじめ電荷を蓄えていない電気的に中性の箔検電器の金属板に,

負電荷を帯電させたエボナイト棒を近づけ,エボナイト棒を近づけ

たまま金属板に手を軽く触れた。その後,手を離してからエボナイト棒も金属板から遠ざ けた。

(a) 箔検電器の箔の開きはどのように変化するか,簡単に述べよ。

(b) 前問(a)に続いて,正に帯電させたガラス棒を箔検電器の金属板に近づけた。箔の広が りはどのように変化するか答えよ。

【解答】

(a) 負に帯電させたエボナイト棒を,中性の箔検電器の金属板に近づけると,金属板に正 電荷が引き寄せられ,箔には負電荷が残り,箔は開く(図1.3a)。次に,金属板に手を触 れると,箔の負電荷が手を通して逃げるため,箔は閉じる(図1.3b)。さらに手を離して からエボナイト棒を遠ざけると,金属板に溜まっていた正電荷が金属板と箔全体に広が るので,箔はわずかに開く(図1.3c)。

(b) 正に帯電したガラス棒を金属板に近づけると,金属板に負電荷が誘起され,金属板に 溜まっていた正電荷に加えて金属板の負電荷と等しい大きさの正電荷が箔に加えられる。

その結果,箔は大きく開く(図1.4)。

図1.3a 図1.3b 図1.3c 図1.4 ■

図1.1

物体A 物体B

図1.2

79 1.2 クーロンの法則

1785年,クーロン(C.A.Coulomb)は,ねじり秤を用いて帯電した電荷間に作用する力 を直接に測定することにより,クーロンの法則(Coulomb’s law)とよばれる電磁気学の基 本法則を提案した。

電荷が1点に集中した理想的な電荷を点電荷(point charge)という。真空中で距離

r

け離れている2つの点電荷q1q2の間には,両者を結ぶ直線の方向の力

2 2 1

r q k q

F

(1.1) がはたらく。比例定数kは,k

8.99

109 N

m2/C2 与えられ,F

0のとき斥力,F

0のとき引力である(図 1.5a, b)。これがクーロンの法則である。ここで,

4

0

1

 

k

とおいて,真空の誘電率(permittivity of vacuum)

0

8.85

1012 C2/N

m2を定義し よう。

(1.1)式で与えられる力は,静止している点電荷間にはたらく力であり,静電気力

(electrostatic force)という。この力は,電荷間の距離の2乗に反比例する逆2乗則にし たがい,万有引力と類似の形をしている。

1.3 電場と電位

クーロンの法則にしたがって2つの点電荷間にはたらく力は,はじめ,遠く離れた電荷 間に直接作用する遠隔作用(action at a distance)の力と考えられたが,1つの点電荷の 影 響が その周 囲か ら順次 伝わり もう 1つ の電 荷に伝 わる近接作 用(action through medium)の考えの下に,電場(electric field)が考えられるようになった。

(1) 電場

図1.6のように,点Pに静止している電荷qに力

f

が作用するとき,

点Pの電場Eを,

q

Effq E

(1.2)

で定義する。これより,

 0

q

のとき,電場Eと力

f

は同じ向き

 0

q

のとき,電場Eと力

f

は逆向き となる。

ある点の電場は,その点に単位正電荷(+1C)を置いたときにはたらく力に等しく,向 図1.5a:F 0

図1.5b:F 0

q1 q2

F F

F F

q P

f E

図1.6

80

きと大きさをもつベクトル(vector)であり,その単位は〔N/C〕で与えられる。

点電荷による電場

クーロンの法則(1.1)と電場の定義(1.2)から,点電荷qから距離

r

だけ離れた点にでき

る電場の強さEは,

r

2

k q

E

(1.3) と表され,

 0

q

のとき,電場は電荷qから離れる向き

 0

q

のとき,電場はqに近付く向き であることがわかる(図1.7)。

(2) 電位

電荷に電気的位置エネルギーを与えるもとになるものを電位(electric potential)とい う。ある点Pに置かれた電荷qが位置エネルギーUをもつとき,点Pの電位V を,

q

VU

UqV

で定義する。これより,

 0

q

のとき,電位V と位置エネルギーUは同符号

 0

q

のとき,電位V と位置エネルギーUは逆符号 となる。

ある点の電位は,その点に単位正電荷(+1C)を置いたときにもつ電気的位置エネルギ ーに等しく,任意に定めることのできる電位ゼロの点(これを基準点とする)に対する 相対的な量である。また,電位は向きをもたないスカラー(scalar)であり,その単位は ボルト(記号はV(=J/C))で与えられる。

点電荷による電位

点電荷

Q

から距離

r

だけ離れた点Pの電位V を求めよう。電位は単位電荷(+1C)の 位置エネルギーに等しいので,位置エネルギーの定義にしたがって,まず基準点を無限 遠と定めよう。そうすると,V は,単位電荷を点Pから無限遠まで移動させる間に

Q

ら作用する静電気力のする仕事を求めればよい。図 1.8 のように,単位電荷が

Q

から距

x

だけ離れているときに作用する力は,その点の電場

x

2

k Q x

E ( ) 

に等しいから,電

V は,

r r

x

kQ dx dx x E

V ( )

2

r

kQ

(1.4)

と求められる。

q r E

図1.7:q0のとき

81

(1.4)式より,

 0

Q

のとき,V

0

 0

Q

のとき,V

0 となる。

(3) 電場と電位の関係 微積分の基本定理

a

を定数とすると,

x

の関数

f (x )

に対して,

x

a

f t dt dx

x d

f ( ) ( )

(1.5) が成り立つ。

電場は電位の勾配

点電荷による電位を求める計算と同様に考えて,位置x

x0を基準点とすると,位置

x

での電位

V (x )

は,

x

x x

x E x dx E x dx

x V

0

0 ( ) ( )

) (

と書ける。この式の両辺を

x

で微分し,微積分の基本定理を用いて,電場

E (x )

と電位

)

(x

V

の関係を,

) ( )

( x d x E x

dx E d dx

dV

x

x

   

 

0

dx

x x dV

E ( )   ( )

(1.6) と得ることができる。

(1.6)式より,電場の大きさは電位の傾きの大きさに等し

く,電場は電位の高い位置から低い位置に向かうことが分

かる(図1.9)。

電場と電位の合成

図1.10のように,2つの点電荷q1q2から,

それぞれ距離r1,r2離れた点 P にできる電場 Eは,q1によって点Pにできる電場E1と,q2 によって点 P にできる電場E2のベクトル和 として,

2

1 E

E E

 

で与えられる。

Q P

r

〔C

1

x E(x)

x

図1.8

V

) (x V

0 x x

) (x E

図1.9

q1

q2

r1

r2

E1

E2

E

図1.10

82

2つの点電荷q1q2から,それぞれ距離r1,r2離れた点Pの電位V は,q1によって点 Pに生じる電位V1と,q2によって点Pに生じる電位V2のスカラー和として,

2

1 V

V V

 

で与えられる。合成の電位は,それぞれの符号を含めた和である。

例題 1.2 2つの点電荷による電場と電位

図1.11のように,真空中で,おなじ2つの正の点電荷 qy軸上の点A

( 0 , a )

と点B

( 0 ,  a )

a

0)に固定 されている。このとき,

x

軸上の電場と電位を求め,そ れらのグラフを描け。ただし,クーロンの法則の比例定 数をkとする。

【解答】

x

軸上の点 P

( x , 0 )

の電場

E (x )

と電位

V (x )

を考える。

ただし,2つの点電荷が

x

軸に関して対称に配置されているから,電場は

x

軸方向を向く。

そこで,

x

軸正方向の電場を正とする。

図1.12のように,2つの点電荷は,点Pに,

x

軸 に関して対称な向きに同じ強さE1(x)の電場をつく る。A, P間とB, P間の距離は共に

x

2

a

2 であ り,線分APとBPが

x

軸となす角

は,

2

2 a

x x

 

cos で与えられるから,電場

E (x )

は,

cos ) ( )

(x E x

E 2 1

 

 

2 2 2 2 2

a x

x a

x kq

2 3 2 2

2 )

/

( x a

kqx

電位

V (x )

は,

 

 2

2 2

a x x kq

V ( )

2 2

2 a x

kq

となる。ここで,

V (x )

x

で微分することにより,(1.6)の関係式が成り立っていることが 確かめられる。

) (x

E

V (x )

のグラフは,図1.13a, bのようになり,

E (x )

x

の奇関数であるから,そ のグラフは原点に関して対称であり,

V (x )

x

の偶関数であるから,そのグラフはV 軸に 関して対称である。

y

0 x

q

q ) , (0a A

) , (0a B

図1.11

y

0

q

q ) , (0a A

) , (0a B

図1.12

x P

) (x E1

) (x E1

) (x

E x