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これまでは,電場や磁場が時間的に変化しない静電場(electrostatic field)や静磁場(static magnetic field)を考えてきたが,ここからは,時間的に変化する場合を考えよう。

5.1 電磁誘導

コイルに対して磁石を近づけたり遠ざけたりすると,コイルに起電力が生じて電流が流 れる。逆に,磁石を固定してコイルを近づけたり遠ざけたりしても,コイルに起電力が生 じて電流が流れ,それらの強さは磁石とコイルの相対的な運動で決まる。このような現象 を電磁誘導(electromagnetic induction),電磁誘導によって生じる起電力を誘導起電力

(induced electromotive force),流れる電流を誘導電流(induced electric current)とい う。

(1) 電磁誘導の法則

面積Sの平面に垂直に,磁束密度の大きさB の一様な磁場がか かっているとき,

BSを磁束(magnetic flux)という。

図 5.1 のように,1 回巻のコイルを貫く磁束

が時間的に変化 するとき,コイルには,誘導起電力V が生じる。このとき,起電 力V は,磁束の向きに進む右ねじの回る向きを正の向きとして,

dt V d

 (5.1)

で与えられる。(5.1)式の右辺に付けられている負号は,コイルに生じた誘導起電力の向 きに流れる電流のつくる磁場が,磁束の変化を妨げる向きであることを示している。誘 導 起 電 力 が(5.1)式 で 与 え ら れ る 法 則 を電 磁 誘 導 の 法 則(law of electromagnetic induction)といい,電磁気学の基本法則の1つと見なされている。

(2) 誘導電場

コイルを貫く磁束が変化してコイルに誘導起電力が生じるとき,コイル内の正電荷に は,起電力の向きに力がはたらく。この力を及ぼす電場を誘導電場(induced electric field)とよぶ。

半径rの円形コイル内に正電荷qがあり,誘導起電力V によって力を受けてコイルを一 周するとき,電荷qqV の仕事をされる。いま,電荷qがコイル内のどこでも,誘導電 場の大きさEが一定で,同じ大きさの力を受けるとすると,Eは,

r qE

qV  2

r E V

 2

と表される。いま,誘導起電力V の向きにコイルを一周すると電位がV だけ上昇する。

よって,誘導電場の大きさEは,電位の傾きの大きさに等しい。この関係は,「電場の大 きさが電位の傾きの大きさに等しい」ことに対応する。ただし,第1章で述べた電場(静 電場)は電位の高いところから低いところへ向かうが,上のように考える誘導電場は,

逆に,電位の低いところから高いところへ向かうことに注意しなければならない。そこ

V

図5.1

S

132

で,静電場を誘導電場と区別して,特に,クーロン電場(Coulomb electric field)とよ ぶこともある。

上の誘導電場は,コイルがなくても任意の閉回路について成り立 つ。すなわち,任意の閉回路Cを貫く磁束が

dt

d

の割合で変化する

と,C には,磁束の向きに進む右ねじの回る向きに,

dt V d

誘導起電力が生じ,誘導起電力の向きに誘導電場が発生する(図 5.2)。

例題 5.1 ベータトロン

図 5.3 のように,一様な磁束密度B0の磁場に垂直に,質量m,正 電荷qの荷電粒子を速さv0で飛び込ませて点 O を中心に半径aの等 速円運動をさせた。その後,磁束密度を増加させたが,その割合を中 心O付近で大きく,粒子の軌道上で小さくしたところ,粒子は半径a の円運動を続けながら次第にその速さを増していった。このとき,半 径aの円軌道内の平均の磁束密度の増加率と,軌道上の磁束密度の増

加率の間にどのような関係が成り立つか求めよ。ただし,円軌道上での誘導電場の大きさ はどこでも等しいとする。このようにして荷電粒子を加速させる装置をベータトロンとい う。

【解答】

半径aの円軌道内の磁束の増加率を dt d

とすると,円軌道上に荷電粒子の運動方向に誘 導電場が生じる。題意より,その大きさEはどこでも等しいから,

dt d

E a

2

 1

となる。いま,円軌道内の平均の磁束密度をBとすると, 2 B a

となるから,

dt B d E a

 2

荷電粒子の円軌道に沿った方向の運動方程式は,

dt B d qE aq

dt mdv

 2

 (5.2) となる。

一方,荷電粒子の円運動の式(中心方向の円運動の運動方程式)は,円軌道上の磁束密 度の大きさをB とすると,

r

E V

図5.2

C

B0

a m

q v0

図5.3

O

133 a qvB

mv2  ∴ mvaqB この式の両辺をtで微分して,

dt aq dB dt

mdv  (5.3) (5.2)式と(5.3)式を比較して,

dt dB dt

B d 2

すなわち,円軌道内の平均の磁束密度の増加率は,軌道上の増加率の2倍である。 ■

【発展】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

(3) 積分形式の電磁誘導の法則

図5.4のように,任意の閉回路Cに生じる誘導起電力V は,

電場を経路に沿って積分すればよい。ただし,誘導電場は静 電場(クーロン電場)と向きが逆であるから,1.3節で考えた 電場の積分とは,負号が逆転する。C上の任意の点Pに生じ る誘導電場をE,点Pから起電力の向きに進む微小ベクトル をdl とすると,Edlは,C上を微小距離dldl だけ進む

間の電位の増加を表すから,Cの一周に生じる起電力V は,4.2節(3)で述べた線積分を用 いて,

CE dl V

と表される。

一方,閉回路で囲まれた曲面 S を貫く磁束

は,S 上の微小曲面dSを貫く微小磁束 S

BdBは,微小曲面上の磁束密度,dSは微小曲面の法線方向の大きさdSのベク トル)のSに関する和,すなわち,Sに関する面積分

SB dS

で与えられる。これより,積分形式の電磁誘導の法則(law of electromagnetic induction of integral form)は,

C SB S l

E d

d t (5.5) と書ける。ここで,閉回路Cは動かない(すなわち,曲面Sは一定である)とし,Bが 空間座標と時間座標の関数であることを考慮して,時間微分を積分の中に入れ,常微分

C

V

l d

E

図5.4

S

P

134 dt

d を偏微分

t

 に書き直した6

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆【発展終】

5.2 ローレンツ力と誘導起電力

前節で述べた電磁誘導と類似の現象に,電荷に磁場からはたらくローレンツ力によって 生じる誘導起電力がある。ここでは,そのような誘導起電力と,そこでも登場する誘導電 場について考えてみよう。

金属棒に生じる誘導起電力

図5.5のように,長さlの導体棒ABを,紙面表から裏の向きの 一様で,磁束密度の大きさBの磁場に垂直に置き,棒の向きを一 定に保ちながら磁場と棒の両方に垂直な方向に一定の速さvで動 かす。導体棒の中には多くの自由電子があり,それに磁場からロ ーレンツ力がはたらく。しかしここでは,符号を簡単化して議論 の本質を見えやすくするために,導体棒の中に,自由に動ける多 くの正電荷qがあり,全体が中性に保たれていると考えて,この ときの誘導起電力を求める。

導体棒ABとともに動く正電荷qには,B→Aの向きにqvB のローレンツ力が作用し,

棒の端Aに正電荷が,反対側の端Bには正電荷が不足して負電荷が現れる。そうすると,

A→B に電場Eができ,残っている導体棒中の正電荷にはローレンツ力qvB と電場から の力qEがつり合う。よって,

qvB

qE EvB となり,端Aの電位は端Bの電位より,

vBl El V  

だけ高くなる。ローレンツ力は,このような電位差を与える力,すなわち,誘導起電力 を引き起こす。誘導起電力の大きさVvBl は,単位時間あたり導体棒の切る磁束に等 しい。また,誘導起電力の向きは,導体棒とともに動く正電荷に作用するローレンツ力 の向きである。

誘導電場

上の現象を,導体棒とともに動く観測者(座標系S)で考えてみよ

う(図5.6)。そうすると,導体棒中の正電荷は静止しているため,正

電荷にローレンツ力は作用しない。しかし,正電荷にはB→Aの向き に大きさqvBの力がはたらき,端Aに正電荷が端 Bに負電荷が溜ま ることに変わりはないはずである。そこで,S系では,元の座標系S

6 時間に関する偏微分は,空間座標を定数とみなして時間で微分することを表す演算子である。

l E q

v qvB

qE B A

B

図5.5

l E

qE A

B

図5.6

S

135

では生じていなかった電場,すなわち,大きさqvB の力を及ぼす大きさEvB の誘導 電場がB→Aの向きに生じているはずである。したがって,S系では,5.1節で考えた電 磁誘導と同様に,誘導電場Eにより誘導起電力VvBlが生じていると考えられる。

例題 5.2 2本レール上の導体棒の運動

図 5.7 のように,水平面上に置かれた間隔dの 2本の平行な導体レールAB, ABが固定され,そ の上に,質量mの導体棒CDが置かれている。ま た,2本レールの左端には,内部抵抗の無視でき る起電力の大きさEの電池と,抵抗値Rの抵抗体 がつながれ,鉛直下向き(紙面表から裏の向き)

に磁束密度の大きさBの一様な磁場がかけられて

いる。導体棒CDは2本レールAB, ABと垂直をなしたまま,レール上を摩擦なしに動く ことができ,レールと導体棒の間の摩擦,および抵抗体以外の部分で電気抵抗は無視でき る。

はじめ,導体棒をレール上で静止させて時刻t0に静かに放したところ,導体棒はレー ル上を右向きに動き出した。時刻tにおける導体棒の速度v を求めてそのvtグラフ描き,

十分に長い時間たったときの速度vを求めよ。

【解答】

導体棒 CDが水平右向きに速さvで動いているとき,導体棒には D→C の向きに大きさ vBdの誘導起電力が生じる。導体棒を C→D の向きに流れる電流の強さをI とすると,回 路方程式は,

RI vBd E 

と書ける。また,導体棒CDには水平右向きに大きさIBdの力がはたらくから,CDの運動 方程式は,

dt IBd mdv

これら2式からIを消去して,

mR k (Bd)2

Bd

v1E とおくと,

) (v1 v dt k

dv  

を得る。ここで,この式の両辺を(v1v)で割ってt に関して積分し,初期条件「t0のとき,v0」 を用いると,

e kt

v

v11

mR k Bd

)2

(

Bd v1E

B R

E

A C B

A D B

図5.7

d

v

v1

0 t

図5.8