第 4 章 スピン軌道結合格子におけ るスピン緩和長の評価るスピン緩和長の評価
4.5 電気伝導度,および磁気伝導度に対する量子補 正効果正効果
電気伝導度に対する量子補正の効果δσ(0)は図4.5.1(a)は以下で与えられる.
δσ(0)(L) = e2ℏ 2π
∑
k
˜
vαωx (k)˜vξβx (−k)GRα(k)GRβ(−k)GAω(k)GAξ(−k)∑
q
Γαβξω(k,k,q) (4.5.1)
4.5 電気伝導度,および磁気伝導度に対する量子補正効果 73
n’
m’
n m
図4.4.2 Γˆの行列表示.qの角度積分後に有限に残る成分を黒塗りで表した.白塗りの
成分はゼロを表す.
Γ
+
Γ
+
Γ
(a) (b) (c)
α
ω ξ
β
α’
α
ω ξ
β β’
α
ω ξ
β
ξ’
ω’
図4.5.1 電気伝導度の量子補正効果を表すダイアグラム.黒塗りの三角形のダイアグ
ラムはバーテックス補正を表す.(a)最低次のクーペロンによる電気伝導度の量子補正
δσ(0).(b)(c)クーペロンに対する二次の不純物散乱の効果を取り入れたダイアグラム.
それぞれ式(4.5.17),式(4.5.18)に対応する.
以下フェルミエネルギーが伝導帯にかかっているときを考える.EFτ ≫ 1が満たされて いる場合はα, β, ξ, ω ={1,2}以外の成分は無視できる.価電子帯の場合も同様である.グ リーン関数に関する波数積分∑
k =⟨ρ0
∫dEk⟩Fについて,エネルギー積分は先に取ること ができて,
ρ0
∫
dEkGRα(k)GRβ(−k)GAω(k)GAξ(−k) = 4πρ0τ3 (4.5.2) となる.角度積分については式(4.3.3)を考慮に入れると,式(4.5.1)において(α, β, ξ, ω) = (1,1,1,1)および (α, β, ξ, ω) = (1,2,2,1) のときを考えればよい.式 (4.4.3) において,
74 第4章 スピン軌道結合格子におけるスピン緩和長の評価 k1→k,k2→ −k,q→0として,式(4.5.1)に代入すると,
δσ(0)(L) = e2ℏ 2π
∑
k,q
˜
vαωx (k)˜vξβx (−k)GRα(k)GRβ(−k)GAω(k)GAξ(−k)
× ⟨β,−k|n⟩ ⟨ω,k2|n′⟩ ⟨m|α,k⟩ ⟨m′|ξ,−k⟩Γmnm′n′(q) (4.5.3) となる.さらに変形すると
δσ(0)(L) = e2ℏ 2π
∑
q
ρ0
∫ dEk
1 2π
∫
dϕ v˜αωx (k)˜vxξβ(−k)GRα(k)GRβ(−k)GAω(k)GAξ(−k)
× ⟨β,−k|n⟩ ⟨ω,k2|n′⟩ ⟨m|α,k⟩ ⟨m′|ξ,−k⟩Γmnm′n′(q) (4.5.4) となる.式(4.5.2)を用いると以下のようになる.
δσ(0)(L) = e2ℏ
2π 4πρ0τ3∑
q
1 2π
∫
dϕ v˜xαω(k)˜vxξβ(−k)
× ⟨β,−k|n⟩ ⟨ω,k2|n′⟩ ⟨m|α,k⟩ ⟨m′|ξ,−k⟩Γmnm′n′(q). (4.5.5) 次に以下のkの角度ϕに依存する部分の角度積分,Ξについて考える.
Ξαβξω= 1 2π
∫
dϕv˜αωx (k)˜vξβx (−k)⟨β,−k|n⟩ ⟨ω,k2|n′⟩ ⟨m|α,k⟩ ⟨m′|ξ,−k⟩Γmnm′n′(q).
(4.5.6) (α, β, ξ, ω) = (1,1,1,1)のとき,
Ξ1111 =− 1
2N8γ2Y6Γ4444+1
2N8γ2Y6Γ4433+1
2N8γ2Y4Γ1423− 1
2N8γ2Y4Γ4422 + 1
2N8γ2Y4Γ4411−1
2N8γ2Y4Γ1441+1
2N8γ2Y6Γ3344+ 1
2N8γ2Y4Γ2314
− 1
2N8γ2Y6Γ3333−1
2N8γ2Y6Γ3322−1
2N8γ2Y4Γ2332− 1
2N8γ2Y4Γ3311
− 1
2N8γ2Y4Γ2244−1
2N8γ2Y4Γ3223+1
2N8γ2Y4Γ2233− 1
2N8γ2Y2Γ2222 + 1
2N8γ2Y4Γ3241+1
2N8γ2Y2Γ2211−1
2N8γ2Y4Γ4114+ 1
2N8γ2Y4Γ1144
− 1
2N8γ2Y4Γ1133+1
2N8γ2Y4Γ4132+1
2N8γ2Y2Γ1122− 1
2N8γ2Y2Γ1111. (4.5.7)
4.5 電気伝導度,および磁気伝導度に対する量子補正効果 75 (α, β, ξ, ω) = (1,2,2,1)のとき,
Ξ1221=− 1
2N8γ2Y6Γ4444−1
2N8γ2Y6Γ4433−1
2N8γ2Y4Γ1423+ 1
2N8γ2Y4Γ4422 + 1
2N8γ2Y4Γ4411−1
2N8γ2Y4Γ1441−1
2N8γ2Y6Γ3344− 1
2N8γ2Y4Γ2314
− 1
2N8γ2Y6Γ3333+1
2N8γ2Y6Γ3322−1
2N8γ2Y4Γ2332+ 1
2N8γ2Y4Γ3311 + 1
2N8γ2Y4Γ2244−1
2N8γ2Y4Γ107 +1
2N8γ2Y4Γ2233− 1
2N8γ2Y2Γ2222
− 1
2N8γ2Y4Γ3241−1
2N8γ2Y2Γ2211−1
2N8γ2Y4Γ4114+ 1
2N8γ2Y4Γ1144 + 1
2N8γ2Y4Γ1133−1
2N8γ2Y4Γ4132−1
2N8γ2Y2Γ1122− 1
2N8γ2Y2Γ1111. (4.5.8) 式(4.5.7)と式(4.5.8)の和を取ると,
Ξ1111+ Ξ1221 =N8γ2Y4Γ1441+N8γ2Y4Γ4411+N8γ2Y4Γ4114−N8γ2Y6Γ3333 +N8γ2Y4Γ1144−N8γ2Y4Γ3223−N8γ2Y4Γ2332−N8γ2Y6Γ4444
−N8γ2Y2Γ2222−N8γ2Y2Γ1111+N8γ2Y4Γ3322+N8γ2Y4Γ2233
=N8γ2Y2(Γ1111+ Γ2222) +N8γ2Y6(Γ3333+ Γ4444) +N8γ2Y4(Γ1144−Γ1441−Γ4114+ Γ4411)
+N8γ2Y4(Γ2233−Γ2332−Γ3223+ Γ3322) (4.5.9) となる.ここまでの計算で残ってきたΓの成分についてWolffハミルトニアンの基底の表示 (付録B参照)で見ると,
Γ1111+ Γ2222=⟨c↑c↑|Γˆ|c↑c↑⟩+⟨c↓c↓|Γˆ|c↓c↓⟩ (4.5.10) Γ3333+ Γ4444=⟨v↑v↑|Γˆ|v↑v ↑⟩+⟨v↓v↓|Γˆ|v↓v↓⟩ (4.5.11) Γ1144−Γ1441−Γ4114+ Γ4411 =⟨c↑v↓|Γˆ|c↑v↓⟩ − ⟨v↓c↑|Γˆ|c↑v↓⟩
− ⟨c↑v↓|Γˆ|v↓c↑⟩+⟨v↓c↑|Γˆ|v↓c↑⟩
= (⟨c↑v↓| − ⟨v↓c↑|)ˆΓ(|c↑v↓⟩ − |v↓c↑⟩) (4.5.12) Γ2233−Γ2332−Γ3223+ Γ3322 =⟨c↓v↑|Γˆ|c↓v↑⟩ − ⟨v↑c↓|Γˆ|c↓v↑⟩
− ⟨c↓v↑|Γˆ|v↑c↓⟩+⟨v↑c↓|Γˆ|v↑c↓⟩
= (⟨c↓v↑| − ⟨v↑c↓|)ˆΓ(|c↓v↑⟩ − |v↑c↓⟩) (4.5.13) となる.したがって,式(4.5.10),(4.5.11)がバンド内三重項,式(4.5.12),(4.5.13)がバ ンド間一重項である.表3にクーパー不安定性をもつΓの成分についてまとめた.バンド
76 第4章 スピン軌道結合格子におけるスピン緩和長の評価 内三重項とバンド間一重項のみが残るという点は第3章の結果と定性的に等しい.しかし 式(4.5.11)を見て分かるように,|v↑v↑⟩,|v↓v↓⟩という価電子帯の三重項も発散的な 寄与を与える点が第3章の結果とは異なる (第3章では発散的な寄与を与えないとして無 視していた).ただし価電子帯の三重項の寄与は伝導帯の三重項の寄与(式(4.5.9))と係数 Y4 = (λ−1)2/(λ+ 1)2だけ異なる.Y は式(1.3.41)を見て分かるようにWolffハミルト ニアンのSOC項σ·kによる混成の強度に対応する.EF/∆が1よりも大きくなるとSOC の効果によって価電子帯の三重項のクーパー不安定性が誘起される.EF/∆が1に十分近い ときは伝導帯の三重項が優勢になるため,第3章の節3.4で行った解析に変更は生じない.
本章の計算のようにすべてのエネルギー固有状態間の遷移を考慮した場合でも,バンド内三 重項|c↑c↓⟩+|c↓c↑⟩,およびバンド内一重項|c↑c↓⟩ − |c↓c↑⟩は第3章と同様に現れ ない.このことはkz = 0の系に特有の性質であることが示唆される.また式(4.4.95),式 (4.4.99)で与えられる,Γ1122,Γ2211,Γ3344,Γ4433,Γ1423,Γ2314,Γ3241,Γ4132の8個は励起ギャップが ゼロのクーペロンを与えるが,式(4.5.7)と式(4.5.8)の和を取る過程ですべてキャンセルさ れ最終的には現れない.
表3 クーパー不安定性をもつΓの成分.
三重項 一重項
|c↑⟩ ⊗ |c↑⟩,|c↓⟩ ⊗ |c↓⟩ |c↑⟩ ⊗ |v↓⟩ − |v↓⟩ ⊗ |c↑⟩,
|v↑⟩ ⊗ |v↑⟩,|v↓⟩ ⊗ |v↓⟩ |c↓⟩ ⊗ |v↑⟩ − |v↑⟩ ⊗ |c↓⟩
式(4.5.9)を式(4.5.5)に代入し,q積分を実行すると,電気伝導度に対する量子補正は,
δσ(0)= e2
2π2ℏβilogℓ−02+ℓ−i2
L−2+ℓ−i2 (4.5.14)
となる.ただし
αt =− 2(λ2+ 1)
λ4+λ2+ 2, αs = λ2−1 2(2λ2−1) ℓ−t2= Xt
D0τ, ℓ−s2= Xs
D0τ Xt = 2λ2−2
λ4+λ2+ 2, Xs= 1 2λ2−1
(4.5.15) とおいた.バンド内三重項,バンド間一重項に比例する寄与をそれぞれt,sとおいた.D0
は拡散定数で,
D0= vF2τ
2 = γ2(EF2 −∆2)
2EF2 τ (4.5.16)
4.5 電気伝導度,および磁気伝導度に対する量子補正効果 77 である.クーペロンに対する最低次の補正を加えた,電気伝導度の量子補正効果の表式(図 4.5.1 (b),(c))は以下のように表せる.
δσa= e2ℏ 2π
∑
k,k1,q
˜
vαx′ω(k)˜vξβx ′(−k1)GRα′(k)GRα(k1)GRβ(−k)GRβ′(−k1)GAξ(−k1)GAω(k) Γαβξω(q)⟨⟨α,k1|V(r)|α′,k⟩ ⟨β′,−k1|V(r)|β,−k⟩⟩imp (4.5.17)
δσb= e2ℏ 2π
∑
k,k1,q
˜
vαωx ′(k)˜vxξ′β(−k1)GRα(k)GRβ(−k1)GAξ′(−k1)GAξ(−k)GAω(k1)GAω′(k)
×Γαβξω(q)⟨⟨ξ,−k,|V(r)|ξ′,−k1⟩ ⟨ω′,k|V(r)|ω,k1⟩⟩imp (4.5.18) δσ(0)と同様に計算を行うとδσt/s,aは
δσt/s,a= e2
2π2ℏηH,t/sαtD0
∫
dq 1
D0q2+Xt/sτ−1 (4.5.19)
ηH,t = λ4+ 6λ2+ 1
16λ2(λ2+ 1) (4.5.20)
ηH,s= λ2−1
4λ2 (4.5.21)
である.ηH,t,ηH,s はそれぞれバンド内三重項,一重項のクーペロンに対する補正を表す.
またδσt/s,b = δσt/s,a である.ηH,s はλ → ∞ で1/4となりグラフェンの結果を再現す る [10, 81, 100].図 4.5.2,4.5.3,4.5.4にα,ηt/s,ℓt/sそれぞれのEF/∆依存性をプロッ トした.αs,αtは一重項と三重項の強さを特徴付けるパラメーターである.第3章の計算 ではEF/∆∼3で一重項と三重項の強さが等しくなる [53].すべての状態遷移を取り入れ た場合,EF/∆∼2.5となり3からずれる.
最終的に磁気伝導度δσ(B) =δσ(0)(B) +δσ(1a)(B) +δσ(1b)(B)は δσ(B) = e2
2π2ℏ
∑
i
αi(1 +ηH,i)ηv2 [
ψ (
1 2 +ℓ2B
ℓ2 +ℓ2B ℓ2i +ℓ2B
ℓ2ϕ )
−ψ (
1 2 +ℓ2B
ℓ2i +ℓ2B ℓ2ϕ
)]
(4.5.22) となる.図4.5.5に磁場依存性をプロットした.λを変えることによりWL-WALクロス オーバーが起きる.この結果はこれまでのSOC格子系における理論の結果と定性的に一致 する.
78 第4章 スピン軌道結合格子におけるスピン緩和長の評価
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
α
t, - α
s20 15
10 5
E
F/ ∆ - α
sα
t図4.5.2 αtとαsのEF/∆依存性.
0.25
0.20
0.15
0.10
0.05
0.00
η
t, η
s20 15
10 5
E
F/ ∆
η
tη
s図4.5.3 ηのEF/∆依存性.
4.5 電気伝導度,および磁気伝導度に対する量子補正効果 79
30 25 20 15 10 5
| l
t/ l
0|, | l
s/ l
0|
20 15
10 5
E
F/∆
l
tl
s図4.5.4 ℓsとℓtのEF/∆依存性.
-30x10-6 -20 -10 0 10 20
δσ(Β)− δσ(0) (e
2/2 π
2h
_)
1.0 0.5
0.0 -0.5
-1.0
B(T) E
F/ ∆=1.1 2.0
3.0 5.0
10.0
図4.5.5 電気伝導度の量子補正効果の磁場依存性.EF/∆ = 1.1,2.0,3.0,5.0,10.0 としてプロットした.
80 第4章 スピン軌道結合格子におけるスピン緩和長の評価
-2.5 -2.0 -1.5 -1.0 -0.5 0.0
δσ(Β)− δσ(0) (e
2/2 π
2h
_)
4 2
0 -2
-4
B(T)
l
sf, HLN=21nm
l
sf, Wolff=21nm
l
sf, HLN=10nm
図4.6.1 磁気伝導度のWolffとHLNの比較.Wolffにおいて,ℓϕ= 520nm,ℓ= 15nm, EF/∆ = 20とした.HLNに対しては,ℓϕ= 300nm,ℓ0= 10nm,ℓso= 12nmとした.