• 検索結果がありません。

スピン緩和長について

ドキュメント内 スピン軌道結合格子における 弱局在の理論 (ページ 94-116)

第 4 章 スピン軌道結合格子におけ るスピン緩和長の評価るスピン緩和長の評価

4.6 スピン緩和長について

80 4章 スピン軌道結合格子におけるスピン緩和長の評価

-2.5 -2.0 -1.5 -1.0 -0.5 0.0

δσ(Β)− δσ(0) (e

2

/2 π

2

h

_

)

4 2

0 -2

-4

B(T)

l

sf, HLN

=21nm

l

sf, Wolff

=21nm

l

sf, HLN

=10nm

4.6.1 磁気伝導度のWolffHLNの比較.Wolffにおいて,ϕ= 520nm= 15nm EF/∆ = 20とした.HLNに対しては,ϕ= 300nm0= 10nmso= 12nmとした.

4.6 スピン緩和長について 81 ϕ= 300nm0= 10nm so= 12nmとした.スピン緩和時間とスピン軌道緩和時間には 1/τsf 4/(3τso)という関係がある [58].この関係を用いるとスピン軌道長soとHLN スピン緩和長sf,HLN の関係はsf,HLN ∼√

3/(2ℓso)となる.したがってHLNのスピン緩 和長はsf,HLN = 10nmとなる.関数系は同じであるのもののδσW で得られるスピン緩和 長の方がHLNのものよりも2倍程度長くなることがわかる.またHLNのスピン緩和長を

sf,HLN = 21nmとした場合,δσとは明らかに異なるふるまいをする.

4 SOC格子系とHLN理論で得られた緩和長

SOC格子系 HLN公式

位相緩和長ϕ 520nm 300nm 運動量緩和長0 21nm 10nm スピン緩和長sf 21nm 10nm

SOC存在下において,格子欠陥やフォノン散乱のようなスピンに依存しない散乱体による 同バンド内のスピン緩和のメカニズムはElliotto-Yafet機構として知られている[33]. 我々 の結果によると,同バンド内でのスピン緩和はλが増大するほど抑制されることが分かる.

しかしλの増大はバンド間効果によりバンド間のスピン緩和を増大させる.両者の遷移確率 の和は運動量が緩和する確率に等しい.したがって運動量緩和長とスピン緩和長は等しくな る.運動量緩和は不純物濃度によって決まるため,純度の高い試料であればSOCが強い系 においてもスピン緩和長は長くなる.

83

結論

本論文では,SOC格子系における電気伝導度に対する量子補正効果の計算を行った.

第3章ではWolffハミルトニアンに基づき,二次元SOC格子系における磁気伝導度に対 する量子補正効果の解析的表式を導出した.希薄SOC系の量子補正効果の理論であるHLN 理論との差異を明確にした.従来理論におけるWALの機構と本研究の非従来型のWAL 機構の違いを示した.希薄SOC系,SOC格子系によらずスピンフリップを伴う散乱を考 慮しない場合,バンド内一重項とバンド内三重項のクーペロンは縮退し互いに打ち消すため WALは生じない.従来理論ではスピンフリップを伴う散乱を考慮することにより,バンド 内一重項とバンド内三重項のクーペロンの縮退が解け,結果としてWALが生じると理解さ れていた.しかしSOC格子系の場合,SOCのバンド間効果によってバンド間一重項のクー パー不安定性が生じることを示した.その結果バンド間一重項のクーペロンがWALに寄与 することを明らかにした.本研究と従来理論のクーペロンの成分の違いにより磁場依存性に 明確な違いが現れることを示した.HLN理論では伝導度の磁場依存性に明確な極値を生じ る一方で,SOC格子系では明確な極値が生じないことが明らかとなった.これはSOC格子 系であるBiにおいて実験的に観測されている事実と一致する.EF/∆を変化させることに

よりWAL-WLクロスオーバーがSOC格子系で起きることが期待される.このクロスオー

バーはBi1xSbx や圧力下でのPbTeにおいて観測できることを示した.

 第4章では不純物散乱によるすべての状態遷移を含めて量子補正効果の計算を行った.定 性的な議論に留まっていた第3章の結果をより定量的なものにした.具体的にはすべての エネルギー固有状態間の遷移,バーテックス補正,クーペロンに対する二次の補正を考慮し た.すべてのエネルギー固有状態間の遷移を考えるため,解くべきBethe-Salpeter方程式 は16×16の行列となる.このBethe-Salpeter方程式をEFτ 1が満たされる範囲で厳密 に解いた.Bethe-Salpeter方程式の対角要素は16成分あるのでクーペロンは少なくとも16 種類のものが存在しうる.しかし結果は多くの項が相殺し,最終的には第3章と同様にバン ド内三重項とバンド間一重項のみが残ることが示された.第3章との違いとして,価電子帯

84 結論 同士の電子が三重項を組んだクーペロンが量子補正効果に寄与することを明らかにした.表 5に第3章および第4章で得られた,SOC格子系においてクーパー不安定性を与えるΓ 成分をまとめた.

5 SOC格子系におけるクーパー不安定性をもつΓの成分のまとめ.

三重項 一重項

第3 |c↑⟩ ⊗ |c↑⟩|c↓⟩ ⊗ |c↓⟩ |c↑⟩ ⊗ |v↓⟩ − |v↓⟩ ⊗ |c↑⟩ (対角の過程のみ) |c↓⟩ ⊗ |v↑⟩ − |v↑⟩ ⊗ |c↓⟩

第4 |c↑⟩ ⊗ |c↑⟩|c↓⟩ ⊗ |c↓⟩ |c↑⟩ ⊗ |v↓⟩ − |v↓⟩ ⊗ |c↑⟩ (すべての状態遷移を考慮) |v↑⟩ ⊗ |v↑⟩|v↓⟩ ⊗ |v↓⟩ |c↓⟩ ⊗ |v↑⟩ − |v↑⟩ ⊗ |c↓⟩

SOC格子系ではEF/∆が大きくなるほどバンド内スピン緩和長が長くなり,バンド間ス ピン緩和長が短くなることを示した.スピン緩和長についてHLN理論と比較を行なったと ころ,SOC格子系におけるスピン緩和長はHLN公式で得られるものよりも2倍程度長くな ることを明らかにした.SOC格子系ではスピン緩和長は運動量緩和長に等しいことを示し た.運動量緩和長は不純物濃度によって決まるため,純度の高い試料であれば,たとえSOC が強くともスピンは緩和しにくいということが結論付けられる.この事実はスピンホール効 果を用いたスピン電流変換を考える際に重要である.SOC格子系において高いスピン電流 変換効率と長いスピン緩和長を実現するためには外因的なスピンホール効果よりも内因性ス ピンホールが有利であるといえる.

85

付録 A 線形応答理論

付録では久保公式の導出方法について記す.

密度行列と運動方程式

微視的な視点において物理量とは量子力学的な期待値である.一方,我々が目にする物理 量とは粒子一個の期待値ではなく,すべての粒子がもつ物理量の統計平均である.この二つ の確率操作を結びつける演算子が密度行列である.密度行列とは一言で言えば量子力学にお ける期待値の確率分布の和である.この節では密度行列を導入し,運動方程式を導く.観測 量 Aの統計平均は

⟨A⟩ ≡

i

wi⟨αi|A|αi (A.1)

で与えられる.wiは各期待値に対して重みを与える係数である.恒等演算子∑

b|b⟩ ⟨b|を用 いることにより,

⟨A⟩=∑

i

wi

b

b′′

⟨αi|b⟩ ⟨b|A|b′′⟩ ⟨b′′i

=∑

b

b′′

(∑

i

wi⟨b′′i⟩ ⟨αi|b )

⟨b|A|b′′ (A.2) ここで密度演算子ρ

ρ≡

i

wii⟩ ⟨αi| (A.3)

と定義する.こうすると基底|b⟩において行列要素が

⟨b′′|ρ|b=∑

i

wi⟨b′′i⟩ ⟨αi|b (A.4) と表される.これを密度行列と呼ぶ[91].これを用いると式(A.2)

⟨A⟩=∑

b

b′′

⟨b′′|ρ|b⟩ ⟨b|A|b′′

= Tr(ρA) (A.5)

86

となる.次に密度演算子の式(A.3)の時間発展を考える.まず初期時刻t0での状態i, t0 が時間発展し状態i, t⟩なったとする.これは時間発展演算子をU(t)とすると,

i, t⟩=U(t)i, t0 (A.6) と書くことができる.式(A.3)において時間依存性をあらわに書くと,

ρ(t) =

i

wii, t⟩ ⟨αi, t| (A.7) ただし各状態iの分布の割合wiは変化しないと仮定する.i, t⟩はシュレーディンガー 方程式を満たすので,

iℏ∂ρ

∂t =∑

i

wi

(H|αi, t⟩ ⟨αi, t| − |αi, t⟩ ⟨αi, t|H)

=[ρ, H] (A.8)

となる.これが密度行列の運動方程式である.von Neumann方程式とも呼ばれる.

久保公式の導出

 外場が加わる前の平衡状態を無限の過去(−∞)とし,そこから徐々に摂動を加えて今の 状態が実現した,と仮定する.これは断熱的スイッチングの仮定と呼ばれる.この仮定のも とに外場F(t),および外場と結合する応答をAとし,一粒子ハミルトニアンを以下のよう に定義する.

H =H0−AF(t) (A.9)

ただしAは演算子であり,F(t)は演算子ではないことに注意する.密度行列に対して,一 粒子系のカノニカル集団を考える.

ρ0= eβH0

Z (A.10)

Z = TreβH0 (A.11)

となる.弱い外場下において,密度行列は無摂動部分と外場の一次に比例する項に分けるこ とができ,以下のようになる.

ρ=ρ0+δρ (A.12)

87

式(A.9)と式(A.12)を式(A.8)に代入すると i∂δρ

∂t =0,−AF(t)][δρ, H0][δρ,−AF(t)] (A.13) 右辺第三項は外場の二次の寄与を与えるので無視する.ここで以下の関係で与えらえるg 導入する.

δρ= exp (

−iH0t

) g exp

( iH0t

ℏ )

(A.14) これを式(A.13)に代入する.

i∂g

∂t =exp (

iH0t

)

0,−AF(t)] exp (

−iH0t

)

(A.15) これをtに関して積分すると

iℏ{g(t)−g(−∞)}=

t

−∞dtexp (

iH0t

)

0,−AF(t)]exp (

−iH0t

)

(A.16) となる.g(−∞)は平衡状態にあるので0である.δρの表式に戻すと

δρ=1 i

t

−∞dteiH0(tt)0,−AF(t)]eiH0(tt) (A.17) となる.したがって観測量Bの統計平均は

⟨B⟩= TrρB

= Trρ0B+ TrδρB

=⟨B⟩0 1 i

t

−∞dtTr{eiH0(tt)0,−AF(t)]ei

H0 (tt)

B}

=⟨B⟩0 1 i

t

−∞dtTr{0,−AF(t)]B(t−t)}

=⟨B⟩0 1 i

t

−∞dtTr0[−AF(t), B(t−t)]} (A.18) 第一項は平衡状態での期待値を表しており,第二項が外場に対する線形応答を表す.

電気伝導度の導出

ここから電気伝導度の表式を求めていく.B(t)をベクトルポテンシャルが存在する元で の電流密度演算子jx(t)−N e2Ax/mとし,外場F(t)をベクトルポテンシャルAx(t)とす る.N は全粒子数である.またAは電場方向の電流密度演算子でjx(t = 0)とする.ここ

88

で,空間的に一様な系の場合,jの空間依存性は無視できること,および電場が一様な状況 を仮定している.電流の期待値は

⟨jx=1 i

t

−∞dtTr{ρ0[jx(t−t), jx(t= 0)]}Ax(t)−N e2

m Ax(t) (A.19) となる.Ax(t) =Ax(ω)eiωt+ϵtEx(ω)/iω=Ax(ω)jx(t) =jx(ω)eiωt+ϵt とすると

jx(ω) = 1

0

dt 1

i[jx(t), jx(t= 0)]⟩eiωtϵtEx(ω) N e2

miωEx(ω) (A.20) ここで遅延相関関数Φxx(ω)を以下のように定義する.

Φxx(ω) =1 i

0

dt⟨[jx(t), jx(t= 0)]⟩eiωtϵt (A.21) またΦxx(0)を計算すると

Φxx(0) =1 i

0

dt⟨[jx(t), jx(t= 0)]⟩eϵt

= 1 i

i,j

e2⟨xi(0) ˙xj−x˙jxi(0)

= N e2

m (A.22)

となる.式(A.21)と式(A.22)を用いることにより式(A.20) jx(ω) = 1

xx(ω)Φxx(0)]Ex(ω) (A.23) となる.したがって電気伝導度は

σxx(ω) = 1

xx(ω)Φxx(0)] (A.24) となる.

次に遅延相関関数について計算する.ここからの導出はグリーンウッドによる方法に従 う [50].グリーンウッドの方法は一粒子問題であれば遅延相関関数を温度相関関数から解析 接続を経由し求める方法 [2, 44]より簡便である.不純物ポテンシャルを含む一粒子ハミルト ニアンH0+V に対するエネルギー固有状態を|α⟩,エネルギー固有値をEαとすると,遅 延相関関数は

Φxx(ω) = 2e2

α,α

f(Eα)−f(Eα)

Eα−Eα+ℏω+iδ⟨α|jx⟩ ⟨α|jx|α⟩ (A.25)

89

となる.ただしスピン縮重度を考慮して2倍した.ここで 1

Eα−Eα+ℏω+ 1 Eα−Eα

= −ℏω−iδ

(Eα−Eα+ℏω+iδ)(Eα−Eα) (A.26) という関係に注目すれば,

Φxx(ω) = Φxx(0) + 2πiωe2

α,α

f(Eα)−f(Eα)

(Eα−Eα+ℏω+iδ)(Eα−Eα)⟨α|jx⟩ ⟨α|jx|α⟩ (A.27) となる.したがって

σxx(ω) = 2ℏe2

α,α

| ⟨α|jx⟩ |2f(Eα)−f(Eα) Eα−Eα

δ(Eα−Eα+ℏω)

= 2ℏe2

α,α

| ⟨α|jx⟩ |2f(Eαω)−f(Eα) Eαω−Eα

δ(Eα−Eα+ℏω) (A.28)

ω→0を取ると,

σxx(0) = 2ℏe2 m2

α,α

| ⟨α|jx⟩ |2df(Eα) dEα

δ(Eα−Eα) (A.29)

= 2ℏe2 m2

dE

α,α

| ⟨α|jx⟩ |2df(E)

dE δ(E−Eα)δ(E−Eα) (A.30)

= 2ℏe2 m2

dE

α,α

df(E)

dE δ(E−Eα)⟨α|jx⟩δ(E−Eα)⟨α|jx|α⟩ (A.31)

= 2ℏe2 m2

dE

α,α

df(E)

dE ⟨α|δ(E−H0−V)jxδ(E−H0−V)⟩ ⟨α|jx|α⟩ (A.32)

= 2ℏe2 m2

dEdf(E)

dE Tr [δ(E−H0−V)jxδ(E−H0−V)jx] (A.33) ここで

δ(x) = 1 2πi

( 1

x−iδ 1 x+

)

(A.34) という関係を用いると,

σxx(0) = ℏe2 2πm2

dEdf(E) dE Tr

[ ( 1

E−H0−V −iδ 1

E−H0−V + )

jx

×

( 1

E−H0−V −iδ 1

E−H0−V + )

jx

]

(A.35)

90

となる.波数表示の一粒子グリーン関数,

GR/A(k,k, E) =

k

1

E−H0−V ±iδ k

(A.36) を用いれば絶対零度における電気伝導度は,

σxx = ℏe2 π

k,k

2

m2kxkx⟨GR(k,k, EF)GA(k,k, EF)⟩imp (A.37) となる.ただしここで,GRGRGAGAは複素平面の上半面,もしくは下半面に極が偏って いるため,積分によってゼロになることを用いた.絶対零度かつ良い金属が保たれているよ うな輸送係数の計算ではこの式を起点として考えてゆくのが便利である.

91

付録 B 4 章の Γ の成分

Γの成分について,(m, n, m, n)の表示と多重項の基底での表示の対応を記す.対角成分 は,

(m, n, m, n) = (1,1,1,1)(1,1)成分

Γ1111 =⟨c↑c↑|Γˆ|c↑c↑⟩ (B.1) (m, n, m, n) = (1,1,2,2)(2,2)成分

Γ1122 =⟨c↑c↓|Γˆ|c↑c↓⟩ (B.2) (m, n, m, n) = (1,1,3,3)(3,3)成分

Γ1133=⟨c↑v↑|Γˆ|c↑v↑⟩ (B.3) (m, n, m, n) = (1,1,4,4)(4,4)成分

Γ1144=⟨c↑v↓|Γˆ|c↑v↓⟩ (B.4) (m, n, m, n) = (2,2,1,1)(5,5)成分

Γ2211 =⟨c↓c↑|Γˆ|c↓c↑⟩ (B.5) (m, n, m, n) = (2,2,2,2)(6,6)成分

Γ2222 =⟨c↓c↓|Γˆ|c↓c↓⟩ (B.6)

ドキュメント内 スピン軌道結合格子における 弱局在の理論 (ページ 94-116)

関連したドキュメント