電子記録債権は,事業者の資金調達の円滑化などを図るために,手形とも指名債権とも異なる新しい類型 の金銭債権として新たに創設されたものである。手形と異なり,発行・管理・交換上の不便さと印紙税の負 担等を要せず,また,権利取得の不確実性や権利実現の不確実性を克服するような制度設計がなされており,
下請取引においても,電子記録債権を用いた支払が手形に代わる手段として利用されることが想定されるも のである。
(注) 電子記録債権を用いた下請代金の支払形態は1つに限られるものではないため,以下では一例として 親事業者,下請事業者,金融機関及び電子債権記録機関の4者による場合の概要を記載する。
第1図 電子記録債権を用いた支払の概要
⑤請求確認通知
⑥異議又は承諾の通知
⑨記録完了の通知
⑩現金化申込み
⑨記録完了の通知
⑮下請代金の支払
②下請代金債権の発生
①納品
③電子記録債権の発生記録の請求手続を委託
④発生記録請求の委 託(債権情報通知)
⑤請求確認通知
⑭下請代金相当額 の振込
⑬現金化(譲渡)
電子債権記録機関
⑦発生記録の請求
⑪現金化のため譲渡 記録の請求
⑧発生記録を行う
⑫譲渡記録を行う
親 事 業 者 下
請 事 業 者
金
融
機
関
第2図 手形と電子記録債権を用いた支払の対比
(1) 電子記録債権を用いた下請代金の支払は,手形と実質的に同様の機能を果たすものであり,現金に準ず る支払手段として,認められるものである。電子記録債権を下請代金の支払手段として用いる場合の本法 第3条の書面及び本法第5条の書類の記載事項は,次のとおりである。
(本法第3条の書面)
① 下請代金の支払につき,親事業者及び下請事業者が電子記録債権の発生記録をし又は譲渡記録をする 場合の当該電子記録債権の額(電子記録債権の額)
② 電子記録債権法第 16 条第1項第2号に規定する当該電子記録債権の支払期日(電子記録債権の満期 日)
電子記録債権を支払手段として用いる場合の本法第3条の書面への記載事項を現金払の場合又は手形 払の場合の記載事項と対比すると次のとおりである。
現金払の場合 手形払の場合 電子記録債権を用いた支払の場合 下請代金の支払期日 下請代金の支払期日 下請代金の支払期日
下請代金の額 下請代金の額 下請代金の額
― 手形の金額 電子記録債権の額
― 手形の満期 電子記録債権の満期日
(本法第5条の書類)
① 下請代金の支払につき,親事業者及び下請事業者が電子記録債権の発生記録又は譲渡記録をした場合 の当該電子記録債権の額(電子記録債権の額)
② 下請事業者が下請代金の支払を受けることができることとした期間の始期
③ 電子記録債権法第 16 条第1項第2号に規定する当該電子記録債権の支払期日(電子記録債権の満期 日)
電子記録債権を下請代金の支払手段として用いる場合の本法第5条の書類への記載事項を現金払の場 合又は手形払の場合の記載事項と対比すると次のとおりである。
現金払の場合 手形払の場合 電子記録債権を用いた支払の場合 支払った下請代金の額 支払った下請代金の額 支払った下請代金の額 下請代金を支払った日 下請代金を支払った日 下請代金を支払った日
― 手形の金額 電子記録債権の額
― 手形を交付した日 下請事業者が下請代金の支払を受けることができる こととした期間の始期
― 手形の満期 電子記録債権の満期日
売掛期間 60 日間 手形サイト 120 日(繊維業の場合は 90 日)間 手 形
納品受領 債務確定 手形交付日 下請事業者の手形割引可能期間(現金化可能期間) 手形満期
下請事業者の電子記録債権現金化可能期間
電子記録債権
納品受領 債務確定 発生・譲渡記録 電子記録債権
の満期日
(2) 公正取引委員会では,電子記録債権が下請代金の支払手段として用いられる場合の本法及び独占禁止法 の運用の方針を明らかにしている(平成 21 年6月 19 日付け事務総長通達第12号。149ページ,資料 11 参 照)。
また,電子記録債権が下請代金の支払手段として用いられる場合はその導入のされ方,運用のされ方い かんによっては,下請事業者の取引先金融機関の選択の幅が狭められたり,下請代金の支払条件が下請事 業者にとって不利に変更されたりする等不利益を受けるおそれがあるので,電子記録債権が下請代金の支 払手段として用いられる場合に親事業者が遵守すべき事項を示し,これを基に親事業者を指導している(同 日付け取引部長通知。150ページ,資料 12 参照)。