講義資料
起きた地震でも対応は可能で、およそ30分で「推定結果」が得られるという。結果は*
*人、**棟という「数字」の形だけでなく、その面的な広がりや集中度をあらわした「地 図」の形でも出てくる。では、これを、テレビ報道を通じて広く多くの人に一斉に伝える ことは出来ないだろうか?
結論を先に書くと、国土庁の被害推定の結果は、現状では、防災機関には伝えられてい ても、報道を通じて公開される仕組みにはなっていない。その理由は、「一般の人の誤差の 許容度」にあるという。あくまで、コンピューターによる推定結果である以上、実際の数 値と「食い違う」ことは避けられないわけだが、この「食い違い」が被災地での混乱を招 くかどうか? という問題だ。
しかし、「何のための初期被害推定か?」という目的に戻れば、一般に伝えないままの現 状で良いはずがない。コンピューターが出した数字そのままではないにしても、例えば「死 者数の推定では、数百人のレベルではなく、数千人のレベル」など、大づかみの数字の形 でも伝えられる環境整備を、防災機関と報道機関が協議し、早急に整える必要がある。
3 生活情報をどう伝えるか?
5年前の阪神大震災で、もうひとつ大きな問題となったのは、「被災者が求めている身近 な生活情報をどう伝えるか?」という問題だ。阪神大震災後の多くの被災地アンケートの 結果をみてもわかるように、電気やガスの復旧情報などを伝える際、被災地にいる人は、
自分の生活に直結する形での情報提供をテレビに求めている。「**市の一部が復旧しまし た」ではなく、「**市***丁目は復旧しましたが、#丁目はあすの工事になります」と いった具合の情報提供だ。
この「身近な生活情報」をテレビで伝えようとした場合、伝えるべき情報量は膨大にな る。通常の「映像とナレーションで同じ内容を伝える」方法では、時間がいくらあっても 足りない。そこで、阪神大震災のあと、テレビ各局が取り組んでいるのが、通常の放送画 面をやや縮小して、画面の上や下にスペースを作り、そこに独立した文字情報を流すとい う方法だ。すでに最近の台風報道などの際の、路線別の鉄道情報・便名毎の欠航情報など で、大きな力が発揮している。
しかし、この方法も災害の規模が大きくなればなるだけ、限界がある。伝えるべき項目 も、病院名・避難所名・ライフライン情報・交通情報・商店情報・風呂屋情報… と際限な く広がっていくのだ。しかも、被災した人たちには、それぞれの事情に応じた情報ニーズ があり、何かひとつの項目をばっさりと落とすわけにはいかない。もし阪神大震災並みの 地震災害が起きたら、5年前よりはうまく伝えれたとしても、結局は「広く多くの人に一 斉に伝える」というテレビの宿命的な壁に、再びぶつかることになる。
4 テレビは「インデックス」になれるか?
この問題の解決策として、「テレビは全てを伝えるのではなく、目次(インデックス)と しての役割を果たす」という方法は出来ないだろうか。つまり、テレビはテレビの長所を 活かす形で、防災機関やボランティアとの役割分担の中で、被災地の人たちが求める情報 を伝える仕組みを築こうというものだ。一例を挙げると、次のようになる。
防災機関やライフライン企業は、それぞれが管轄している生活情報を「リスト化」して、
インターネットのホームページなどに載せる。その情報ごとのアドレスだけをテレビで伝 える。テレビでアドレスを知った被災地の人たちは、避難所となった学校に置かれたパソ コンを通じて、自分が必要とする情報を引き出す。パソコンに慣れてない人のために、避 難所には手助けをするボランティアを各自治体が派遣する。また、自宅にいる人向けには、
各地域ごとの情報紙を、これも自治体がボランティアの協力を得て発行し、配布する…。
もし、これが実現するなら、「アドレス」だけを伝えれば良いテレビは、量的な束縛から
解放される分だけ、それを「文字」と「音声」の両方で「繰り返し」伝えることが可能と なる。
以上、「情報で命を救えるか?」「情報で被災者の生活が守れるか?」というふたつの点 から、阪神大震災から5年たったテレビの災害報道の現状を考えてみた。まとめに代えて 言えば、次の大きな災害に立ち向かうためには、防災機関にしてもテレビ局にしても、自 分たちだけで「阪神大震災のあと残された課題」が解決出来るとは思えない。それぞれが
「孤高のエース」になるのではなく、「名バッテリー」になることが、防災という意味で必 要だと、この5年間は教えてくれているのだと思う。
2.7 第2日目 3 限 講座 6 分科会2 ラジオ災害放送
講師:東京大学社会情報研究所非常勤講師 中村信郎 アドバイザー:静岡総合研究機構防災情報研究所
研究員 川端信正
プロフィール(講師:中村信郎)
ニッポン放送報道部記者を経て 1980 年より編成部で災害放送・放送倫理な どを担当。災害放送では「地震の時は安心報道」を標榜し、安否情報システ ム「ビル・学校安否情報」を構築。阪神大震災後、初期災害情報収集システ ム「タクシー防災レポーター・理容防災ネットワーク制度」を発足。在京ラ ジオでライフライン情報を共有する「ラジオ・ライフライン・ネットワーク」
作りに参画。
現在 災害情報リテラリスト、日本災害情報学会会員、東京大学社会情報 研究所非常勤講師。
プロフィール(アドバイザー:川端信正)
昭和36年静岡放送入社アナウンサーを経て報道部(放送記者)テレビワイド ニュースのキャスター、テレビ報道編集長などを 経験。のち地震・火山等災害対 策に携わり国内・海外の地震火山災害を取材、「メキシコ地震から学ぶ」「検証東 海地震 その時どうする」「雲仙普賢岳大火砕流」などテレビ・ラジオの防災番組 を多数制作。
平成12年から静岡総合研究機構防災情報研究所研究員、静岡大学非常勤講師 、 常葉学園短期大学非常勤講師 。
論文は「火山噴火の予知と報道」「阪神・淡路大震災とラジオ放送」(東京大学 社会情報研究所)、「地域防災データ総覧−広報案文篇」(共著)など。
講義要旨
1982 年の長崎最豪雨水害のとき地元ラジオ局は、期せずして地元被災住民の災害情報ニ ーズに応えて行った結果、地元住民から「ラジオが神様に思えた」と感謝された。災害時 の地元放送局は、地元住民から自分たちが必要とする情報、安心する情報、地元住民のた めの放送を期待されている。これは阪神大震災でも実証されたことである。
災害放送には、大別して二つの立場がある。報道機関として被害報道に重点を置く立場 と、防災機関として安心報道を重視する立場である。阪神大震災では地元放送局はテレビ もラジオも防災機関に徹することを求められた。こうした災害時の地元住民の要請に応え、
何をすべきか。
以上を踏まえて、ラジオ災害放送のあり様を考察し、意見交換をする。キーフレーズと して、災害時情報とは何か、軽視される行動指針情報、メディアも防災機関、災害情報の 取材・収集体制、連携による情報の共有、など。
講義資料