4.2.3 「つながり」の活用によって期待される効果
本小節では,オルタナティブメディアとしてアーカイブをソーシャルメディアで発信 することによって期待される効果について検討する.
ソーシャルメディアはコミュニティ同士が速やかに結びつけられて情報伝播がされ るため,偶発的な情報の発見が期待される.さらに,様々なクラスタに所属するユー ザが混在するため,既存のクラスタを横断する情報伝達が行われる.そのため,ユー ザの興味関心に必ずしも合致しない情報についての知覚を促し,新たな知見を提供す る可能性を持つ.これは,前述した資料保有者の要望 i) を補うことができる.
現在,アーカイブ資料の普及を目指したソーシャルメディア活用もされている(詳細
は本稿4.3.2小節を参照).しかし,アーカイブサイトにユーザを導入することをねらい
としているため,アーカイブサイトの見出しやURLといったデータのみが共有されて いる.したがって,本研究で着目するつながりの特性が活かされていない.また,ソー シャルメディアではユーザのコメントが資料に付与された情報伝播が可能である.資 料とユーザの情報伝播の記録が併記されることによって,ユーザの共感を得られやす くなることが期待される.しかし現状では,個々の資料と情報伝播の記録が乖離して 存在することになるため,上述の効果が期待されない.これは,ユーザ間の情報伝播 を抑制する要因のひとつになりえる.
を,(Sympathize/共感する)→ (Identify/確認する)→ (Participate/参加する)
→ (Share & Spread/共有・拡散する)とモデル化し,情報を拡散していくためには 共感させやすい情報発信が必要であると指摘している.井上ら[55]は,Twitterでのつ ながりの構築支援を目的とし,活動時間帯,活動量を用いたつながり構築手法の提案 とシステム構築を行った.その結果,情報を発信するタイミングをユーザの活動時間 帯に合わせることが重要であると報告している.白木ら[56]は,情報を発信するユー ザをターゲティングすることで,発信者が持つ情報へのフィードバックを与える手法 を提案している.ここでは,Twitterの発言中から「なう」 という単語を含む発言を自 然言語処理を用いて分析し,発言者の状況を検出・推定することで,発言者の状況に 即したアプリケーションを推薦するシステムを構築している.
このように,これまでにもTwitterの「つながり」を利用した情報伝播および発信に 関わる研究は多くされている.しかし,本研究で着目する,発信形式の視点からユー ザが資料を共有する機会を向上させることを試みた事例はない.
4.3.2 アーカイブのソーシャルメディア活用事例
アーカイブ活動に携わる組織が独自に運営するウェブサイトの普及を目的としたソー シャルメディアの活用はこれまでにも積極的に行われている[16].前川[59]は,一般市 民の意見を教材開発に活かすことを目的とするアーカイブ指向SNSを提唱している.
稲葉ら[60]は,インターネット上で公開されたアーカイブに対する興味・関心によっ て結びついたオンラインコミュニティの形成と,その構成員による自発的な知識提供 によってアーカイブが自己成長するナレッジブルアーカイブを構築している.しかし,
これらの事例は独自に開発されたネットワークを用いており,一般市民に開かれたソー シャルメディア上に資料を掲載していない.NARA[61]は,一般市民とのネットワー ク構築及び強化を目指し, 研究者や一般市民が常用するTwitterの情報ネットワーク に情報を発信することで,NARA のリソースやサービスをより見つけやすく,共有し やすくする取り組みを行っている.SAVE MLAK[62]は,ソーシャルメディアにメタ タグを用いて活動情報を発信することでアーカイブコミュニティの拡大を図っている.
さらにアーカイブのアカウントを用意し,イベントの告知を行っている.3がつ11 にちをわすれないためにセンター[63]とNHK東日本大震災アーカイブス[64]は,ウェ ブサイト内にソーシャルメディアへの共有ボタンを設置することでアーカイブサイト
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の普及を図っている.しかし,ここでも共有される情報は資料のタイトルとURLであ り,資料を閲覧するためには,アーカイブサイトにアクセスする必要がある.
これらの事例は,災害資料における集合的記憶化を目指し,ソーシャルメディアを用 いたプロモーションを行っているが,いずれの事例も資料とソーシャルメディアが別 個に存在しているため,情報伝播を促すユーザの共感を高める仕組みを備えていない.
4.3.3 本ケーススタディの指針
Twitterの「つながり」では,コミュニティ同士を速やかに結びつける情報伝播が行
われるため,情報の拡散に効果がある.本ケーススタディでは,ソーシャルメディアの
「つながり」の活用におけるリテラシーを支援するために,資料の閲覧性を高め,ユー ザの共感を得やすくし,資料が意識されやすい環境の構築を目指す.
そこで本ケーススタディは,これまでは外部のウェブサイトでのみ公開されていた資
料をTwitterに直接掲載するアカウントの構築と運用を行う.資料の閲覧性を高める
ことで,ユーザの共感が得られやすくなり,情報の拡散を促すことができると考える.
これより,オルタナティブメディアとして以下の効果が期待されると考える.
1. 継続的な情報伝播の発生:一般市民に常用され,且つユーザ間の情報共有を促す 仕組みを備えるソーシャルメディアを応用することで,資料共有におけるユーザの負 荷を軽減させることができる.これにより,継続的な情報伝播の発生と頻繁な資料伝 播が期待される.
2.アーカイブコミュニティの拡大:Twitterでは情報が引用・再発信される際,共有
を行なうユーザのコメントがアーカイブに自動的に付与される.これが,資料に対す るユーザの共感を得ることを促し,コミュニティを拡大する.
3.既存クラスタを利用した情報伝播:Twitterにある既存クラスタを横断する情報
共有によって,多様なクラスタを持つアーカイブコミュニティが形成される.
4.偶発的に資料を閲覧する機会の提供:資料を直接掲載することで,ソーシャルメ ディアとアーカイブ資料の境がなくなり,閲覧される機会が増加する.
5.資料とユーザの情報伝播の記録の併記:他ユーザの資料に対する認識が,ユーザ の資料への理解と共感を促すことが期待される.
図6: Twitterに投稿した証言文のスクリーンショット
本ケーススタディでは,運用するアカウントに関わるユーザの情報伝播を観察する ことで,オルタナティブメディアとしての効果の検証を行う.さらに,資料をTwitter 内に直接掲載する場合と,外部サイトに設置してハイパーリンクを掲載する場合の比 較によって,提案手法が情報伝播に与える影響を分析する.