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第 4 章 光技術による微細配線形成

4.3 銅錯体インクによる銅薄膜配線の形成

4.3.1 高出力ランプによる光焼成

4.3.1.2 銅錯体インクで作製した配線の諸特性

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図4.3.5 光照射した(a, b)ギ酸銅インク、(c, d)酢酸銅インク、(e, f)オレイン酸銅インクの評価。

(a, c, e) X線回析パターン(挿入図は光学顕微鏡による表面観察)、X線回析パターンに関して、

図中の丸印は左から順に、FCC構造の(111)、(200)、(220)、(311)、(222)由来の回折波を示す。

(b, d, f)表面SEM観察。

配線の抵抗率は、銅イオンの配位子である有機カルボン酸の種類によって大幅に変わる。実際、

ギ酸銅インクと酢酸銅インクは15%–16%の同一の銅イオンを含有している(表4.3.1)。しかし、

ギ酸銅配線が酢酸銅配線に比べて 1000 倍近く低い抵抗率を示した。オレイン酸銅配線にいたっ ては通電していない。理論的には、銅錯体インクへ光焼成した際に、析出した還元銅が均一な金 属膜を形成すれば、どの錯体インクでも同程度の抵抗率が得られるはずである。そこで、光照射 により得られた各配線の表面SEM観察を行った(図4.3.5(b), (d), (f))。ギ酸銅配線は均一にポー ラス構造を形成し、一方、酢酸銅配線の表面は塊状であった。そのため、ギ酸銅配線はこの均一 構造によって高い電気伝導を示すことが可能である。これに対して、酢酸銅配線は、塊と塊を結

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ぶ薄膜部で抵抗値が上昇するため、高い抵抗率を示した。オレイン酸銅配線においては、配線中 に粒状物質が一面に分布している(図4.3.5(f))。その結果、光照射後に析出した還元銅は、互い に接触することなく、配線中の電気伝導を発現しなかった。これら3種類の銅錯体インクで作製 した配線は、配位している有機カルボン酸の長さにより異なる表面形態を示した。図 4.3.6 に、

光照射時における各インクの配線形成過程のイメージを示す。長い鎖を持つオレイン酸銅は、還 元時において、鎖を外側に、銅イオンを内側にして、凝集しながら還元銅粒子を形成する [18]。 炭素数が大きいカルボン酸では、凝集している還元銅粒子同士、長い鎖により接触しづらい。そ のため、光照射後には粒上の物質が配線中に形成されていた。一方、炭素数が短くなると、凝集 している還元銅粒子同士が接触しやすくなる。酢酸銅は、光照射中に還元銅粒子が接触しはじめ、

塊状の物質を形成した。他方、一番短い鎖をもつギ酸銅において、還元銅粒子はネットワークを 形成しやすいため、配線は均一な構造を有して低い抵抗率を示した。以上より、光焼成後の配線 構造は、銅錯体の有機カルボン酸によって異なり、配線の抵抗率に大きく影響を及ぼす。

図 4.3.6 銅錯体インクへ光焼成した際、還元銅粒子が凝集しながら配線を形成する様子。(a)ギ

酸銅インク、(b)酢酸銅インク、(c)オレイン酸銅インクの場合

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