第 3 章 アーク溶接における金属蒸気の混入現象とアーク姿態の偏向現象の解析 70
3.2 金属蒸気の混入現象とアーク姿態の偏向現象の解析モデル
3.2.1 外周部の金属蒸気量低下モデル
高周波数のパルスアークであるほど,急峻な電流の変化に追従できず,アーク温度と金属蒸 気が過渡応答するため,どちらも外周部に広がらなくなることが考えられる。このため,本章 で明らかにするモデルは,外周部の電流密度が低下し,中心部の電流密度が増加することで,
溶融池内部で働く深さ方向の電磁力が増大するため,溶け込み深さが増大するという仮説に基 づいている。図44に,外周部の金属蒸気量低下モデルを示す(93)。このモデルの各物理量は,
1周期当たりの各タイムステップにその時間を掛けた値の合計から1周期の平均を算出して得 られる。このように各物理量は,時間で重み付けした1周期の平均の値である。これは,1周 期内の電流の増減や過渡応答により変化する金属蒸気やアーク温度を比較することで,周期内 で生じる物理プロセスを解明できるためである。更に,溶け込み深さに及ぼすパルス電流の周 波数の寄与が把握できるためである。
直流定常電流のモデルでは、陰極から陽極に向かって、高い温度勾配によって生じる強いアー クジェットが生じる。陰極近傍から流れるアークジェットは、陽極へ向かって流れ、その後外周 部に流れるため、アーク温度と陽極の中心部で発生している金属蒸気が外周部に吹き流されて 輸送される。このため,直流定常電流は,短い時間で電流が増減するパルス電流に比べてアー ク温度が高く,外周部の金属蒸気量が高い状態となる。したがって,外周部のコンダクタンス が高くなり,中心部と外周部のコンダクタンスの差が小さくなる。これは,鉄の原子の電離電
圧は,7.9 eVとアルゴンの電離電圧に比べて低く,最外殻の電子が容易に電離するため,電子数
が増え,導電率が全温度に対して上昇するためである。特に,アーク外周部の5,000―10,000 K の範囲で導電率が上昇し,導電率に正の相関のあるコンダクタンスが増加する。この結果,外 周部でも電流が流れるため,中心部の電流密度が低下することで,アークの自己磁界による磁 束密度が中心部で低下する。中心部の電流密度と磁束密度が低下することにより,溶融池内部 に対する深さ方向にかかる電磁力が低下するため,深さ方向の対流による熱の輸送が低下する。
このため,溶融池内部に熱が伝わらず,溶け込み深さが低下してしまう。
一方,高周波数のパルスアークのモデルでは,急峻な電流の変化に追従できず,アーク温度 と金属蒸気が過渡応答するため,どちらも外周部に広がらなくなる。アーク温度が低く,アー クジェットによる外周部への金属蒸気の輸送が少ないため,外周部では,金属蒸気量が低い状態 である。このため,外周部のコンダクタンスが低くなり,中心部と外周部のコンダクタンスの 差が大きくなる。つまり,外周部で電流が流れにくくなることにより,相対的に中心部の流れ やすさが増加する。この結果,外周部で流れる電流密度が低下するため,中心部の電流密度が
増加することで,アークの自己磁界による磁束密度が中心部で増加する。中心部の電流密度と 磁束密度が増加することにより,溶融池内部で働く深さ方向の電磁力が増大するため,深さ方 向の対流が活発になり溶け込み深さが増加する。これは,過渡応答が生じるほど顕著に生じる。
以上のモデルに関して,ピークとベース電流時間を変化させ,アーク温度と金属蒸気の過渡応 答を生じさせて,各物理量を検証することにより,溶融池内の電流密度に及ぼすパルスアーク 外周部の金属蒸気量の寄与の解明を行った。
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Current path SUS304 Anode
Cathode
High frequency DC steady
Weld pool depth D (↑)
Iron vapor concentration C Arc temperature T (↓)
Conductance (Axial center - periphery part) G (↑) Current density J
Current path SUS304 Anode
Cathode
Axial center(→) Outside(↓) Iron vapor mass ρiron
Axial center(→) Outside(↓)
Electric field E Axial center(↑) Outside(↓)
Axial center (↑) Weld pool depth D (↓)
Iron vapor concentration C Arc temperature T (→)
Conductance (Axial center - periphery part) G (↓)
Electromagnetic force J×B Current density J
Axial center(→) Outside(↑) Iron vapor mass ρiron
Axial center(→)Outside(↑)
Electric field E Axial center(↓) Outside(↑)
Axial center (↓)
Axial center(↓)
Electromagnetic force J×B Axial center(↑) Weld
pool
Arc Arc
Weld pool
図 44 外周部の金属蒸気量低下モデル(93)
Fig.44 Model of iron vapor mass decrement at periphery part in pulsed arc(93).
3.2.2 横風下におけるアークの軸方向流速が及ぼす対流熱輸送モデル
次に,横風下におけるアークの流速と対流熱輸送との相関を解明するモデルに関して述べる。
図45に,横風吹付け時の陰極近傍の軸方向圧力勾配が及ぼすアークの対流熱輸送モデルを示 す(94)。本章のモデルは,横風流速の増加に伴い,横風の対流によって生じる力が増加すること で,陰極近傍で生じたアークジェットが吹き流されることにより,アーク内の径方向の熱損失 が増大するとの仮説に基づいている。横風を吹き付けていない状態を基準とし,横風流速をパ ラメータとして与えてモデル化を行う。
Model(A)は,横風流速が小さいため,陰極近傍の軸方向の圧力勾配によって生じるアー
クジェットが支配的となる。これにより,外周部へのアーク偏向が抑えられ,陰極近傍で生じ たアークジェットが径方向に広がらず,直下方向に流れる。このため,アーク軸中心部におい て,アークの軸方向流速は変わらなくなる。このアークジェットが直下方向に維持されるため,
アーク内の径方向のエンタルピーフローの増加は小さくなり,径方向の対流熱輸送は小さくな る。これに対して,Model(B)は,横風流速が大きくなることで,横風の対流によって生じる 力が増加する。これにより,陰極近傍で生じたアークジェットが径方向に吹き流される。この ため,陰極近傍で生じたアークジェットが径方向に流れることによって,アークの軸方向流速 が低下する。このため,軸方向のエンタルピーフローは低下し,アーク内の径方向のエンタル ピーフローが増加することで,径方向の対流熱輸送は大きくなる。
以上のモデルを解明するために,横風流速をパラメータとして変化させて解析を行う。各物 理量を検証することによって,硬直性の要因となるアークジェットが変化した際のアークから 母材に与える熱輸送の解明を行う。
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Model (B) Arc deflection model with lateral gas
Anode Cathode
Radial flow velocity vy
ρvyh
ρvzh
Model (A) Arc stability model with lateral gas
Anode Cathode
Axial flow velocity vz
Arc Plasma jet
ρvyh ρvzh Flow velocity vector
vz does not change Convective heat transfer to
axial direction is dominant Plasma jet flows to radial direction
vy increases a bit
ρvyhincreases a bit
Axial pressure gradient of arc near cathode is dominant
ρvzhdoes not change
vz decreases
Convective heat transfer to radial direction occurs
Plasma jet flows to radial direction
vy increases
ρvyhincreases
Convective force caused by lateral gas is dominant
ρvzhdecreases vL low
Lateral gas flow velocity
vL High
vL
Lateral gas flow velocity vL
図 45 横風吹付時の陰極近傍の軸方向圧力勾配が及ぼすアークの対流熱輸送モデル(94) Fig.45 Arc heat transfer model affected by axial pressure gradient near cathode with lateral gas(94).