第 5 章 重加算税の沿革と法的性格
第 2 節 重加算税の法的性格
重加算税は、学説においては刑罰ではないにしろ、制裁的意義を有するとする見解が ある。田中[1992]は、「この種の加算税の賦課は、基本的には、当初申告における適正な 納税義務の履行を怠ったことに対する制裁たる性格をもつものと考えることができる。」
14と述べている。これについては、重加算税の賦課は、申告期限内における正しい税額 の申告という申告秩序の維持を図るためにあるのか、それとも、もっと広く、当該期限 内申告の適正さを損なう申告期限後の行為までをも抑止することを目的とするのかを考 えた場合、過少申告加算税およびこれに代えて課される重加算税は、通法 68 条の規定 の仕方が示すように、もともと、申告納税制度の適正な運営を確保するために、納税者 に対して、申告期限内に正しい税額を申告するよう、その義務の履行を図ることを目的 としているとの考えに基づいている15。
また、福家[1986]は、「加算税は、申告納税方式を原則とする国税において、この制度 の要を成す正しい申告義務が履行されなかった場合(過少申告加算税、無申告加算税及 び重加算税-通法 65、66、68①・②)と、特に源泉徴収等による国税の納税義務(源
12 政府税制調査会「国税通則法の制定に関する答申」昭和36年7月5日19頁、21頁。
13 石倉[1990]、3頁。
14 田中[1992]、5頁。
15 同上、4頁以下。
泉徴収納付義務)の不履行に対し(不納付加算税及び重加算税-通法67、68③)、上記 延滞税と異なり一種の行政的制裁として課されるものである。」16と述べている。これは、
加算税が、その賦課要件を延滞税の賦課要件と部分的に同じくしつつ、延滞税が原則と して納付すべき国税を法定納期限までに完納しなかったという結果(国税債権の積極的 侵害の発生)に着目した賦課要件であるのに対し、申告義務の不履行や源泉徴収義務の 不履行自体に主として着目した賦課要件となっている。すなわち、延滞税は、どちらか といえば本来の租税に附帯してこれを法定納期限内に実質的に確保することを目的とし ていることから、租税としての性格を失っていないのに対し、加算税はその賦課要件か ら見ても、特定の国税(債権)の確保というより申告義務の実質的不履行や源泉徴収納 付義務の不履行に経済的制裁を加えることを直接の目的として、そのことを通して申告 納税制度及び源泉徴収制度の適正な運営を図ろうとするものといえる。
そして、このような加算税のうち、重加算税は各加算税(過少申告加算税、無申告加 算税、不納付加算税)が課税される場合に、納税者が、その国税の課税標準等又は税額 等の計算の基礎となるべき事実あるいは事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、
その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき、納税申告書を提出したり、法定納期限ま でに提出しなかったり、あるいは法定納期限までにその国税を納付しなかったとき、各 加算税に代えて課税されることになっている。各加算税が租税のように歳入を目的とせ ず、申告納税制度及び源泉徴収制度の適正な運営を図ろうとすることを達成しようとす るための行政的制裁であることから、重加算税は、この目的達成をより困難にし、国税 の確定方式の原則とされている申告納税方式の存在をより危うくする事態に対処するも のであると考えられる17。
吉良[1981]は、「重加算税は事実を『隠ぺい・仮装』し、その『隠ぺい・仮装』にもと づいて『過少申告・源泉徴収税額の不納付』等の行為があった場合に、つまり『申告義 務違反』とか『源泉徴収納付義務違反』等の場合に、税の名をもって課される行政上の 制裁(行政罰)であり、この行政罰を課することによって保護しようとしているものは、
正当な『申告義務・源泉徴収納付義務』そのものであるということができる。」18と述べ ている。
申告納税制度の下においては、納税者が自発的に申告義務と納税義務とを、法令の規 定に従って正しく履行することが基本である。
そこで、国税通則法は、その申告・納税義務の履行を実効あらしめるために、その一 つの手段として、それ等の義務違反者に対する行政上の制裁として、一定要件の下に延 滞税・利子税・各種加算税等を課す場合を規定し、納税者に心理的な圧迫を加えること によって、その保障を行うこととしているのである。そして「各加算税」としては、納
16 福家 [1986]、9頁。
17 福家[1986]、9頁以下。
18 吉良[1981]、77頁。
税者が虚偽過少申告をした場合の過少申告加算税、無申告加算税、源泉徴収税額不納付 の場合不納付加算税等があり、そしてこれ等の各加算税を課することができる事実が存 在する場合において、納税者がその本税たる国税の「課税標準等又は税額等の計算の基 礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装し たところに基づき」、過少の納税申告書・過大の還付請求書等を提出したときは、過少申 告加算税に代え、「100分の35の割合」による重加算税を、また同様の方法を用いて「法 定申告期限までに納税申告書を提出せず、又は、法定申告期限後に納税申告書を提出し たとき」は、無申告加算税に代え、「100分の40の割合」による重加算税を、そしてま た源泉徴収納付義務のある納税者が、やはり「事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮 装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき」その源泉徴収税額を「法定納期限 までに納付しなかったとき」は、不納付加算税に代え、「100分の35の割合」による重 加算税を、それぞれ課することができるものとしている。
これらの規定から理解できることは、重加算税の課税にあたっては、そのいずれの場 合にも、まず納税者が「事実の全部又は一部を隠ぺい・仮装し」、つまりそのような作為・
不作為の行為をなし(原因)、その「隠ぺい・仮装」に基づいて「過少申告書等の提出・
無申告・源泉徴収税額の不納付」等の結果の発生のあることが、重加算税の賦課要件に なっていることである。そしてその前者(原因)と後者(結果)との間の因果関係は、
いわゆる「相当因果関係」で足りるということのようである19。
三木[1996]は、「『納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき 事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し』たうえで『その隠ぺいし、又は仮装した ところに基づき納税申告書を提出』したり『その隠ぺいし、又は仮装したところに基づ き納税申告書を法定申告期限までに提出しない』場合に課せられる行政上の制裁である」
20と述べている。この考え方は「隠ぺい又は仮装」行為に基づいて納税申告書を提出、
または提出しないことに対する制裁であるという考え方であろう。
佐藤[1992]は、「加算税は一般に本税が納付される時点での正当税額を超えた額の金銭 負担を課するものであり、それは、その負担を避けるべく、加算税の課税要件となって いる過少申告や不申告等の行為がなされなくなることを期待した制度である。したがっ て、それは、まぎれもなく、租税制裁法上の制度である」21と述べている。租税制裁法 とは発覚した脱税に何らかの不利益を加えて、これを罰し、あわせてその他の者による 脱税の予防を図るための制度であり、租税法上の義務違反行為または租税債権への侵害 行為に一定の不利益を課し、それによって、そのような行為を未然に防ごうとする予防 機能を持つものである。この租税制裁法は脱税を代表とする租税法違反行為を特に対象 とするものであり、行政罰としての重加算税と逋脱犯に対する刑罰が属するものと考え
19 同上、72頁以下。
20 三木 [1996]、29頁。
21 佐藤 [1992]、32頁。
ることができる22。つまり、この場合の制裁とは法律によって課せられた義務の違反を 予防するために、それらの義務違反行為を行った者に対して課せられる不利益と定義で きる。
以上のように、重加算税が制裁として課されるとする代表的な見解をみてきた。しか し、すべてにおいて何に対する制裁であるかという点については見解が分かれている。
それは適正な納税義務を怠ったことに対する制裁なのか、また、「隠ぺい又は仮装」行為 に基づいて納税申告書を提出、または提出しないことに対してであるのか、あるいは過 少申告や不申告等の行為がなされなくなることを期待して課される制裁であるのかなど である。
このように制裁の対象が分かれるのは、重加算税を過少申告加算税の延長線上の制度 であると考えるか、それとも重加算税は刑事犯である逋脱犯と同じカテゴリーに属する と考えるのかにある23。つまり、制裁の対象が分かれる理由としては、第一は、重加算 税の賦課要件に故意が必要であるのか否か、あるとすればどのような内容であるのか。
第二は、逋脱犯との関係をどのように解するのか、の二つの点であると考えられる。
第一の重加算税の賦課要件に故意が必要であるか否かは、後述するので、以下におい て、まずは逋脱犯との関係について主に考察することにする。
2.重加算税と逋脱犯の関係性
逋脱犯は、納税義務者が偽りその他不正の行為により、租税を免れ、又は租税の還付 を受けたことを構成要件とする犯罪であり24、法定刑は5年以下の懲役若しくは500万 円以下の罰金となっており、これを併科することもできる(所得税法238条1項、同法 239条1項、法人税法159条1項等)とされている。
「偽りその他不正の行為」の意義につき、判例は、「逋脱の意図をもって、その手段と して税の賦課徴収を不能若しくは著しく困難ならしめるような何らかの偽計その他の工 作を行うことをいう」25ものとしている。したがって、「偽りその他不正の行為」とは、
帳簿書類への虚偽記入、二重帳簿の作成その他社会通念上不正と認められる行為を意味 する26ことになる。
この逋脱犯が成立するためには、租税債権の侵害がなされていなければならない27。 したがって、逋脱の意図をもって、帳簿書類への虚偽記入や二重帳簿の作成その他社会 通念上不正と認められる行為を行うことで、租税債権の侵害があった場合において、逋
22 同上、11頁。
23 成宮[1997]、107頁。
24 金子[2013]、766頁。
25 最高裁昭和42年11月8日判決、・昭和40年(あ)第65号、『最高裁判所刑事判例集』21巻9号 1197頁。
26 金子[2013]、766頁。
27 同上、767頁。