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過少申告加算税の「正当な理由」についての判例分析

第 3 章 過少申告加算税における免除規定

第 3 節 過少申告加算税の「正当な理由」についての判例分析

(1) 法令解釈の変更

取り上げた判例は、名古屋地裁昭和 37年 12月 27日判決(名古屋地裁、昭和 37年 12月8日行集13巻12号2229頁、訴月9巻1号100頁)である。本件は昭和27事業 年度に係る、いわゆる株主優待金を法人所得の計算上損金と認めるべきかについて争わ れ、その争点として株主優待金の課税上の取扱いにつき、課税庁の解釈が変更されたこ とについて、納税者が申告当時その変更を知り得たかどうかが争点となった事例であり、

株主優待金の損金計上につき正当な理由が認められた。

従来は、本件優待金は課税対象とされていなかったが、昭和28年 3月 3日付の国税 庁長官の通達により、突如課税されるものとなった。その内容は優待金を配当金として みなすものであり、これは実質上新税を創設したのと同様であると考えられる24。これ に対して原告は、優待金を一遍の通達を持って配当と規定したのは不当であると主張し た。また、その効力についても昭和28年3月3日以降に生じたものであって、本件優 待金はその対象とはならない。万一その効力が遡及するとしても、原告はもちろん税務 当局も本件決算年度の法人税額申告の際には優待金を損金計上するものと解していたの だから、原告には正当な理由があり、過少申告加算税を課すことは不当であると主張し た。

この判決は二つの理由によって「正当な理由」を認めている。それは、株主優待金に ついて課税庁内部においても取扱いが不確定であったこと、そして株主優待金について 一般的に損金に解する傾向にあったことである。その当時においては、課税庁内部にお いても株主優待金を非課税扱いにしていた場合と課税もれとして扱った場合があった25。 また、そもそも納税者が課税庁内部の株主優待金がどのような取扱いをされていたかを 知る術がなく、課税庁内部の取扱いがわからない以上、これまで非課税だろうが課税漏 れだろうが、その扱いに関わらず「課税されていなかった」という事実から判断するほ かない26。そして、株主優待金について一般的に損金に解する傾向にあったという説示

23 (5)故意・過失必要立証説は除く。

24 宮谷[1978]118頁。

25 同上。

26 同上、119頁。

については、何を指して一般的とするかは定かではない。いわゆる株主優待金の取扱い に関して、学説、判例、同一業種の見解、行政慣行等に照らして損金として解するのが 一般的であったとするのなら、税の専門家ではない納税者が株主優待金を損金計上して しまったことについて「正当な理由」があったと考えるべきだろう。

以上のことから、「過少申告加算税の賦課決定については、株主優待金の損金性につい ては等が確定申告の直前まで税務当局としても取扱いが確定せず、一般的にこれを損金 と解する傾向にあったと認められるから、これを損金に計上したことについて正当事由 が認められる」と判示した。よって、課税庁側に帰責事由があったと判断するのが妥当 である27。ゆえに、本件優待金を損金計上し、それに基づく税額を確定申告したことに ついては「正当な理由」があったと認めるのが相当であると考えられる。

(2) 税務職員の誤指導

分析する判例として、那覇地裁平成8年4月2日判決(税資216号1頁)を取り上げ る。これは、納税者が株式売買による収入を所得として申告しなかったのは、原告が故 意にこれを隠したものではなく、各税務署職員がいずれも誤った回答をしたことに原因 があるとして、帰責事由が課税庁側にあるとされた事例である。

事例の内容について見てみると、「本件で原告(納税者)が株式売買による収入を所得 として申告しなかったのは、原告が故意にこれを隠したものではなく、原告の3回にわ たる問い合わせに対して、各税務署職員が、・・・税務官庁の公的見解とはいえないとし ても、いずれも誤った回答をしたことにその原因がある。」とするならば、「過少申告加 算税の趣旨(過少申告加算税が、租税債権確保のために納税者に課せられた税法上の義 務不履行に対する一種の行政上の制裁)からすれば、本件において、原告にこれを課す のは酷に過ぎ、相当ではない。」と判示された28

ただし、税務職員の誤指導があったとしても、その帰責事由が納税者にある場合、つ まり納税者が資料の提出等に非協力的であったがために税務職員が誤った指導をしてし まったといった場合は、正当な理由は認められない。では、税務職員の誤指導にあたる と判断する際に、どういった条件が必要だろうか。この点に関して酒井[2007b]は、以下 の4つの条件を満たしていなければならないと主張している。すなわち、①納税者から 十分な資料提出があったか、②税務職員が納税者に対して誤った指導をしたという事実、

③納税者がその指導に従ったことで過少申告となったこと、④納税者がその指導を信じ

27 1-(1)法令解釈の変更と、後述する 2-(2)公刊物における担当職員の見解と同様に、公刊物の記述が

正当な理由に及ぼす影響が論じられた事例として、最高裁平成181024 日第三小法廷判(ス トックオプション訴訟)がある。この事例は、税法の解釈・適用の変更について、公刊物では早期 にその取扱いの変更を明記していたが、通達にはその変更を明記していなかったという特殊な事例 である。このストックオプション訴訟では、課税庁側が納税者に対してストックオプションの取扱 いを周知させることを怠ったとして、課税庁側に帰責事由があると判断され、「正当な理由」が認め られた。

28 那覇地裁平成842日判決本文より。

たことについて、やむを得ないと認められる事情がある、この4つである。今回の事例 に関して言えば、納税者は前述した判決文のとおり、株式売買による収入について税務 署に問い合わせを行った。そして、その全ての問い合わせに対し、各税務署職員が誤っ た回答をしてしまった。その結果、納税者がその指導に従ったことによって過少申告と なってしまった。さらに、このことに関して、納税者がその指導を信じたことについて、

やむを得ない事情があると認められた。以上のように、酒井[2007b]の提唱する税務職員 の誤指導に当たる条件を全て満たしていると言える。

結局のところ、税務職員に誤指導があれば「正当な理由」は認められる。しかし、税 務職員の誤指導に関してその帰責事由が納税者側にあると判断されれば、「税務職員の誤 指導」とは認められず正当な理由は認められない29。また、税務職員の誤指導について 双方に帰責事由がある場合、「正当な理由」に当たるか否かは納税者と課税庁の帰責事由 の大小を比較したうえで判断される30

2. 「正当な理由」が認められなかった判例

(1) 税法の不知若しくは誤解又は事実の誤認

東京高裁判決昭和51年5月24日の判例(税資88号841頁を取り上げる。これは 譲渡担保提供資産を買い戻すために支出した買い戻し金を取得価格等とした結果、過少 申告となった事例である。税法の不知もしくは誤解の原因が納税者にある場合、正当な 理由が認められるか否かについて言及された判決である。

この判決で大切なのは争われた事実ではなく、判決文の中に正当な理由として認めら れるものが列挙されたことである。該当箇所を抜粋すると、「正当な理由」がある場合と は、「税法の解釈に関して申告当時に公表されていた見解がその後改変されたことに伴い 修正申告し、または更正を受けた場合あるいは災害または盗難等に関し申告当時損失と することを相当としたものがその後予期しなかった保険等の支払いを受けあるいは盗難 品の返還を受けたため修正申告し、また、更正を受けた場合等申告当時適法とみられた 申告がその後の事情の変更により納税者の故意過失に基づかずして当該申告額が過少と なった場合の如く、当該申告が真にやむえない理由によるものであり、かかる納税者に 過少申告加算税を賦課することが不当もしくは酷になる場合を指称するものであって、

納税者の税法の不知もしくは誤解に基づく場合は、これに当たらないというべきである。」

としている31

上記の判示は昭和26年通達に基づいて「正当な理由」が認められる要件を取りまと

29 中野[1998]、73頁においても「税務職員の誤指導があったとしても、事実認定で資料提示不足、申 立事由の非違等の納税者の過失等が判明した場合は、『正当な理由』を認めていない」と述べられ ている。

30 酒井[2007b]

31 東京高裁判決昭和51524日判決本文より。